熊本大学就業規則等への意見

熊本大学教職員組合


 昨年11月に就業規則本則の案が示されて以来、熊本大学教職員組合は様々な機会を利用して就業規則(案)に対する意見を述べてきた。また黒髪事業場と本荘・大江事業場において組合推薦候補が過半数代表者に選出されたことを受け、過半数組合となった附属病院事業場とあわせて、3つの事業場の労働者代表に組織的支援を行ってきた。幸い京町事業場の労働者代表の方とも連携を取ることができ、労働者代表と使用者側との協議においても様々な意見を述べることができた。
 この様に多くの意見提出機会が与えられたことについては使用者側の組合に対する配慮の姿勢があったと認識しており、法人化後の良好な労使関係を構築していくためにも意義深いことと考えている。また、提出した意見については多くの点が就業規則に取り入れられており、より良い就業規則作りに少しは貢献できたのではないかと自負している。
 しかし、法的な問題を含んだまま改善されなかった事項もある。また、運用上の配慮が必要な項目で、適用の仕方によって混乱が生じる可能性を含む事項もある。就業規則が確定した今、そのような問題点が将来的に改善されることを願って意見を述べることにする。

1.就業規則第22条の再雇用について
 職員の再雇用について「その者の知識、経験等を考慮し、業務の能率的運営を確保するため特に必要があると認めるときは」と限定しているが、高年齢者雇用安定法の趣旨に則れば基本的に再雇用するという形の規定に変更すべきである。なお、今国会に提出されている同法の改正案によれば、希望者全員を対象としない制度のためには過半数組合または過半数代表者との労使協定が必要になる。

2.就業規則第23条2項に基づく解雇について
 これは公務員の欠格条項を引き写す形で作られた規定である。しかし、(1)の「成年被後見人又は非保佐人となった場合」という規定は、裁判所の判断を受ける以前に同条1項(2)の「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに耐えない場合」に該当すると思われる。裁判所の判断に委ねる事項ではない。この際の解雇は大学の判断で勤務に耐えるのか否かによって判断する事項である。
 (2)の禁固以上の刑に処せられた場合は懲戒解雇事由として扱うべきものである。この規定に基づいて懲戒手続を欠いたまま解雇した場合、懲戒解雇には就業規則に定められた手続で行わなければならないので、懲戒解雇としては無効になる可能性がある。解雇は成立したとしても、解雇予告除外認定と退職金の不支給は認められないだろう。  この規定は不必要であり、削除すべきである。削除が間に合わない場合でも解雇についてこの規定を適用しないよう求める。

3.就業規則第38条での勤務時間について
 現行の就業時刻は午後5時でありそれを午後5時30分とすることは実質的に就業規則の不利益変更である。しかし、不利益変更を行う合理的理由は何も示されていない。30分の休憩時間を労基法に基づいて45分間にするためという理由なら、就業時刻は午後5時15分とすれば十分なはずである。なお、使用者側は休息時間は労基法の下では認められないと言う見解を示して、この不利益変更の根拠にあげているが、現在の休息時間は実態として休憩時間として機能していることを考えれば、休息時間を休憩時間とし所定労働時間を7時間30分とするのが当然である。この見解は労働時間を30分延長する根拠にはなりえず、不利益変更は明らかである。
 判例でも就業規則の不利益変更には合理的理由と労働者・労働組合への説明が必要とされている。そのような要件を欠いたまま作られたこの勤務時間に関する規定は無効と考える。

4.雇用規則第9条での試用期間について
 大学教員任期制法に基づいて採用された教員に試用期間を付すことは文部省通達(文高企第149号、平成9年8月22日)にある「学校法人は、任期中は原則として教員を解雇できない」に反している。また労基法第14条に基づいて期間を定めて雇用される職員に試用期間を付すことは、試用期間の性格から好ましくないことと考える。少なくとも期間の長さについての配慮が必要である。

5.雇用規則第13条2項及び第14条の解雇の際の配慮について
 整理解雇の際の解雇の4要件、普通解雇の際の使用者の解雇回避義務について明確に規定されていない。運用上の配慮で対応する考えと思われるが、解雇に対する対応の誤りは裁判で争われる場合も多く、それを防ぐためにも明確な規定が必要である。規定例については労働者代表による修正提案(3-4)および(3-5)が好ましいと考える。

6.給与規則第15条3項の人事交流職員に対する特別都市手当の支給について
 生計費が特に高い地域から異動してきた人事交流職員について2年間特別都市手当てを支給するとなっているが、この制度は公務員についても社会的批判のある制度であり、法人化された後も引き続きこの措置をとる理由はない。なお、人事交流職員が離籍出向で熊本大学に来るのであれば、熊本大学の基準で給与を受けるのは当然である。在籍出向で来るのであれば、出向による給与減額を補填するのは通常派遣元とされている。
 また、優秀な人材を確保するという目的なら、労働契約において就業規則で定めたものよりも良い労働条件を提示すればよい。

7.給与規則での「基本給月額」と「基本給の月額」の使い分けについて
 「基本給の月額」は基本給月額に基本給の調整額と教職調整額を加えたものとの説明を受けているがこの使い分けは混乱を生じかねない。基本給の月額ではなく基本給月額(調整額・教職調整額を含む)とするほうが望ましい。

8.給与規則第34、35、36条の超過勤務手当等の支給対象について
 規則では超過勤務手当及び夜勤手当の支給対象を「指定職員を除く」とし、休日給の支給対象を「指定職員及び管理職手当を受ける職員を除く」としている。そして管理職手当を受ける職員が休日勤務をする場合は管理職員特別勤務手当を支給する(同第38条)としている。しかし、労基法に基づけば超過勤務手当と休日給の支給対象から除かれるのは労基法41条に該当する労働者のみである。また、労基法41条に該当する労働者も夜勤手当の支給対象には含まれる。この措置に基づけば超過勤務手当と休日給の支給対象は同じで、夜勤手当の支給対象者は全労働者になるはずである。  残念ながら現時点で入手している規則案では管理職手当の支給対象が検討中となっていて示されていないので、管理職手当を受ける職員が労基法41条に該当するか否か判断できないが、この規定は労基法の考え方と明らかに矛盾している。なお、休日給の代わりに管理職員特別勤務手当を支給するとしているが、その支給額が労基法の定める基準(時間給の35%割増)を満たしているか調査が必要である。

9.退職手当規則第14、15、16条の起訴・禁固以上の刑と退職金支給の扱いについて
 この規定の背景には公務員の欠格条項がある。退職金の不支給のためには懲戒に準じた手続きが必要であり、それを欠いたまま形式的に処理をするのは避けるべきである。

10.兼業規則第7条の兼業の承認基準について
 (7)の「職員の勤務時間が、1週間当たり40時間確保できること」は集中講義を行う際に問題になる可能性がある。運用上の配慮で問題ないとのことだが、どう対応するのか具体的に示されないと集中講義を行おうとする教員に不安が生じる可能性がある。

11.宿日直規則第7条の宿日直勤務者の業務について
 医師宿日直勤務者の診療行為、医療技術等宿日直勤務者の緊急の検査、診療の補助は通常の労働に該当する。宿日直の承認の条件として「常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限って許可するものであること」とされているが、宿日直勤務中の上記の業務が長時間に及んだ場合は明らかにこの条件に反する。その場合、時間外労働として扱うことを規則に明記すべきである。なお、この規則には宿日直の回数についての制限が記載されていないが、宿直は週1回、日直は月1回であることが一応の限度とされている。

12.永年勤続者表彰規則第3条(1)の在職20年の表彰について
 この規定では臨時職員が除かれてしまう。臨時職員でも長期にわたって在職している職員がいる以上、表彰対象に含めるのは当然である。

13.懲戒規則第5、6条の懲戒手続きについて
 参考人には審査を受ける者の側に立って発言する人も含めるべきである。この観点から、委員会は審査を受ける者が特定の人を参考人とするよう求めた場合には、正当な理由なしにこれを断らないとする規定が必要である。

14.臨時職員勤務時間等規則、給与規則等にある常勤職員との待遇格差について
 有給休暇の種類、年休の日数、賃金、手当の種類、育児休業の対象年齢など臨時職員と常勤職員の間には様々な待遇格差がある。これらの格差は公務員の現状を引き継いだものだが、労働法に基づく均等待遇の原則に反している。例えば判例では常勤職員の8割に満たない賃金について公序良俗に反し無効との判断が示されている。早期の改善は困難だとしても今後臨時職員の位置づけを含めて抜本的な見直しを行う必要がある。

15.苦情処理規則(素案)第3条の苦情相談員について
 人事に関する苦情が中心なので人事課副課長を苦情相談員にすることは理解する。しかし、それだけでは苦情処理制度はうまく機能しない。組合推薦者(あるいは過半数代表者の推薦者)を苦情相談員に含めるべきである。なお、組合には賃金専門部会があり人事制度上の問題を含めて組合の立場で検討を行っている。