No.2
1999.7.9

熊本大学教職員組合

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またも杜撰(ずさん)な学内審議か?
——急展開!? 熊大組織運営改革

  周知のように,98年10月の大学審議会答申,今年5月の学校教育法等の一部改正(5月21日成立)によって,国立大学は来年4月までに組織運営体制を改革せざるを得ない状況にありますが,本学では6月22日の臨時部局長会議,6月24日の評議会において改革案と今後のタイム・スケジュール案が示されました。それは,学長特別補佐会議の「中間まとめ−大学改革の議論のために:(1)組織・運営関連−」として報告されています。
 学長特別補佐会議の「中間まとめ」は,改革に向けて学内外の議論が巻き起こる契機となることを意図しており,この秋には(11月までに)特別補佐をコーディネーターとする「熊本大学の未来を探るフォーラム」の開催を計画していると言います。「中間まとめ」が示す組織機構改革案は,全学の運営組織から学部・大学院の運営組織に及んでおり,それぞれの所轄事項・構成員・決裁方法などを提案・例示しています。概略は次の通りです。

 全学運営組織
〈運営諮問会議〉学校教育法等の一部改正によって設置。学外者10名以内。特別補佐・学長が人選。
〈企画会議〉大学の短期・中長期計画を策定。学長,副学長,学長の指名教員。学長が決裁。
〈評議会〉学長の諮問を審議。学長,副学長,部局長,部局選出教員,学長の指名教員・事務職員。
〈大学運営会議(部局長会議)〉実施上の審議・調整。学長,副学長,部局長,学長の指名教員・事務職員。学長が決裁。


 学部・大学院の運営組織
(例示であり,下の三者は学部の必要に応じて設置)
〈学部・大学院研究科教授会〉各学部・大学院の教育課程編成・教育研究の重要事項の審議,代議員会の審議案件の一部の承認。
〈学部(大学院)企画会議〉各学部・大学院の短期・中長期計画を策定。学部長,評議員,学部長の指名教員・事務職員。学部長が決裁。
〈代議員会〉教授会の委託事項を審議。各学部で決められた構成員。
〈学部(大学院)運営会議(学科長(専攻長)会議)〉実施上の審議・調整。学部長,学科長,学部長の指名教員・事務職員。学部長が決裁。


(全学の組織図は下図参照)

 一目して明らかなように,この改革案は,大学審答申,学校教育法等の一部改正に則り,執行機関=学長・学部長と審議機関=評議会・教授会の権限を明確に区分し,執行機関=学長・学部長の権限を著しく強化するものです。学校教育法等の一部が改正された以上,来年4月までに執行機関と審議機関の機能分担など,学内の組織運営体制を整備するのはやむを得ないことです。しかし,「中間まとめ」の組織機構改革案には以下のような問題があります。

学長特別補佐会議「中間まとめ」の問題点
 一つは,新たな評議会の構成員について,構成員の条件が示されるに止まり,学部長・研究科長以外のどの部局長(大学附置の研究所の長)を構成員とするのか,部局選出の教員を何名ずつにするのか,学長指名の教員を何名とするのか,また指名の条件はどのようなものにするのかなど,具体的なメンバー構成は何ら提案されていないことです。評議会のメンバー構成をどのようなものにするかは,学校教育法等の一部改正の国会審議の大きな論点の一つであり,政府も各大学の判断に委ねること(従来と同一にすることも)を認めている(4月14日,衆議院文教委員会)以上,学内で十分に検討しなければなりません。
 二つは,学長の下に企画会議,大学運営会議が設置され,著しく学長・学部長の権限強化が構想される一方で,大学構成員の意見聴取や,評議会・教授会の審議結果を尊重することへの配慮が見られないことです。新たな組織運営体制の下では学長・学部長が意思決定の責任者となるものの,当然,審議機関の決定は尊重しなければならないことは,国会審議で文部大臣が繰り返し強調しており(4月14日,衆議院文教委員会など),また衆議院・参議院の附帯決議にも明記されており(衆院・参院とも第二項),この点の学内ルールをしっかり作っていく必要があります。

またも杜撰な学内審議?
 さらに重要なのは,改革に向けての学内審議のあり方です。現在,「中間まとめ」の改革案について各部局の意見を聴取する段階にありますが,これは6月24日の評議会で学内意見のボトム・アップを図る必要があるという意見が出された結果であり,当初,6月22日の臨時部局長会議において学長は"周知徹底してご理解いただきたい"と述べるに止まっていたそうです。また,「中間まとめ」の配布状況は各部局でバラツキがあり(配布資料の多い部局と少ない部局があります),意見を聴取する教授会・教官会が設定されていない部局があります。しかも,各部局の意見をどのような形で集約していくかは未だ不透明であり,その一方でタイム・スケジュール案では9月には改革の大枠が決定するように計画されています(タイム・スケジュール案は裏面,参照)。
 こうした状況を見ると,学内の意見聴取を本気で行うつもりがあるのかどうか,甚だ疑問です。代議員会・副学長設置の学則改正,事務機構の一元化などに続き,大学の意思決定・組織運営機構の大改編までも,杜撰な学内審議で済ましてしまうつもりなのでしょうか。学長特別補佐がイギリスの大学改革・大学評価の現状を調査した報告書にある次の一節を目にすると,意図的に学内審議の形骸化を図っているようにさえ映ります。

    熊本大学の改革が成功するか失敗に終わるのかの分かれ目は、強靭なリーダーシップのもとに正しい意思決定を迅速に行えるかということにかかっている、と言えそうである。しかし、こうした発言内容に対して、多数の大学人が反発したり不快を露わに示したりするかも知れない。そして、「民主的」という神聖にして侵すべからざる観念を振り回して非現実的な対応をし、結果として改革の推進を妨害する人々も出てくるだろう。だが、そうした振る舞いは自らの墓穴を掘るに等しいものだということをを、英国の大学改革は我々に教えている。(熊本大学学長特別補佐 吉川登・山中至「英国高等教育調査報告書−大学改革/大学評価をめぐって−」17頁より引用)

 一般に,一部の小人数による政策策定には誤りを犯したり,大きな禍根を残したりする恐れが伴うものです。学長特別補佐会議の「中間まとめ」の中にもそれに類するのではないかと思われるものがあります。それは,「教官人事・選考過程のガイドラインの作製」の案です。そこでは,特に教授については外部評価の結果によって個別に任期を導入すること,5年間の教育研究業績を評価した上で再任の可否を決める試用任期を導入することなどが提案されています。ここで提案されている任期制が「大学の教員等の任期に関する法律」に基くものであるのか,いわゆる紳士協定によるものであるかは定かではありませんが,仮に「大学教員任期制法」に基くものを構想しているとすれば,それは法律をまったく理解していないのではないかと言わざるを得ません。「大学教員任期制法」に基く任期制は,職(ポスト)を対象とするものであり,教員個人を対象にするものではないからです。また,職を対象としても,任用手続きを伴う場合でなければ導入することはできません。なお,紳士協定によるものであったとしても,新たな任用に際するものでなければ紳士協定とは言えないはずです。念のため付言すれば,学校教育法等の一部改正の後においても,「大学教員任期制法」に基く任期制導入の可否を最終的に決めるのは各部局です。

 以上のように,本学の組織運営改革の動きは大きな問題を抱えています。現在,学校教育法等の一部改正に伴う大学改革は,文部省令も公表されていない段階であり,しっかりと学内審議を行う時間は十分あるはずです。他の国立大学では,評議会の下に検討委員会を置き,各部局の代表委員によって審議を始めた大学もあります(山口大学など)。本学も,トップ・ダウン方式ではなく,こうした学内審議のシステムに学ぶべきではないでしょうか。現行法の下では,これが本来あるべき審議のあり方のはずです。改革に向けて「構成員全てに対して正確な情報の提供と構成員相互の意見交換が不可欠である」と学長特別補佐の「中間まとめ」も主張しています。いまの学内審議のあり方では,学長特別補佐が秋に計画するフォーラムも本来の意図に反して単なるセレモニーと化してしまうのではないでしょうか。





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