1999年11月15日
緊急アピール 「独立法人化=国立大学の廃止に反対する」
文部省は9月20日の国立大学長会議において「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」を発表しました。独立行政法人制度とは、中期目標・計画の策定等を通じて、直轄の大臣や各省の評価委員会が法人を統制し、さらに企業会計原則が導入されるなど、官庁統制の下に効率性を追求する制度です。
私たち九州地方の国公立大学・高専の教職員組合でつくる「全大教九州」は、国立大学の独立行政法人化=国立大学の廃止が、大学の自治と教育、文化・科学の多様な発展を根本から揺るがすと考え、以下に示すような理由から反対するものです。
高等教育は、人類の知的資産を継承・発展させ、豊かで平和な社会を担う次世代を養成する役割を果たしてきました。ことに、今日人類社会は、人権・環境・人口問題など、地球的規模の深刻な課題を抱えており、これらの課題を解決する糸口を見いだすことは、多様な学問分野に及ぶ高等教育機関における真理探求と人材養成によってこそ可能となります。歴史的にも高等教育は社会発展の基礎でありましたし、そうした認識に立って、高等教育機関への公的財政支援が行われてきました。
日本における高等教育機関への公的支援は、国立大学を中心として整備されてきました。国民共通の知的資産としての国立大学は、日本社会における文化・科学の創造と人材養成を担ってきました。その際に国立大学は国民の高等教育への期待に応え、以下のような役割を果たしてきました。第一に、短期的経済効率だけを目標とせず、また、特定産業の利害に偏らない、長期的・大局的見地に立つ教育研究をおこなってきました。第二に、全国に配置されることにより、居住地域にかかわらない教育の機会均等を保障してきました。第三に、比較的に低廉な学費で高等教育を提供することにより、所得水準にかかわらない教育の機会均等を保障してきました。独立行政法人化=国立大学の廃止は、日本における国立大学の歴史的意義を否定し、高等教育への公的責任の放棄を意味しています。
国立大学の高等教育・研究に果たした役割を無視して、独立行政法人化を強行するならば、以下のような問題が生じると考えられます。
独立行政法人制度は行政改革の一環として、もっぱら行政のスリム化・国家公務員の削減の観点から構想されたため、経済的効率性のみが重視されています。公的支出の縮減と効率性の追求は授業料の高騰を引き起こし、学生・国民への直接的負担が増大すると考えられます。さらには、現在でさえ立ち遅れている日本の高等教育に対する公的支出状況が悪化し、教育に力を入れている先進諸国に大きくひけをとることになります。また、現在既にある大学間格差が拡大し、差別化が一層進行することになります。ことに、人口・産業の集中する中央と比較して社会的基盤の脆弱な九州地方では、公的財政支援の縮小は大学の民営化、廃止問題に直結し、この結果、居住地域にかかわらず保障されてきた教育の機会均等性が損なわれることになります。また、大学病院では、採算がとれない部門の閉鎖や切り捨てが進むことが危惧され、大学病院の担ってきた医療の公共性が失われることになります。
独立行政法人化=国立大学の廃止は日本の高等教育・研究の根幹を揺るがし、また、日本の文化・科学の進展と地域社会の将来を左右する重大な問題です。それゆえに広く国民的な論議の中で政策決定がなされねばなりません。しかし、政府文部省は独立行政法人化を来春にも決定しようとしています。学生・国民は議論の埒外に置かれており、ほとんど何も知らされていません。国民に正確な情報を公開し、十分な議論をつくす必要があります。
10月4日に開かれた臨時九州地区国立大学学長会議は、独立行政法人化がせまられた状況で、「国立大学は、総体として、存在の意義、貢献度、改革の現状などを分かりやすく広報する必要がある」として、国立大学協会に対して国民への広報を要請しています。私たち九州地方の国公立大学・高専教職員組合は、日本の高等教育・研究の将来を危うくする国立大学行政法人化に多くの大学人と共に断固反対します。この問題についての広く国民的な議論がなされることを求めます。
全国大学高専教職員組合九州地区協議会(全大教九州)
議 長 松尾 祐作
九州工業大学教職員組合 |
委員長 西垣 敏 |
福岡教育大学教職員組合 |
委員長 石黒正紀 |
福岡女子大学教員組合 |
委員長 小泉 修 |
九州大学教職員組合 |
委員長 酒匂一郎 |
佐賀大学教職員組合 |
委員長 富田義典 |
熊本大学教職員組合 |
委員長 樺島祥平 |
大分大学教職員組合 |
委員長 大嶋 誠 |
宮崎大学教職員組合 |
委員長 高橋るみ子 |
鹿児島大学教職員組合 |
委員長 清原 浩 |
有明高専教職員組合 |
委員長 新谷肇一 |
琉球大学病院職員労働組合 |
委員長 上江洲幸雄 |
大分高専教職員組合 |
委員長 梅津清二 |
都城高専教職員組合 |
委員長 河野行雄 |
長崎大学教職員組合 |
委員長 菅原 民生 |
長崎大学医学系教職員組合 |
委員長 松本逸郎 |
長崎県立大学教員組合 |
委員長 綾木 歳一 |
鹿児島県立短大教員組合 |
委員長 橋口 晋作 |
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