| 医師29人、看護婦31人、医療技術職員15人の不足 第1表99年10月調査時の「国立大学病院の運営状況」は、熊大病院の医療従事者・看護婦不足がさらに深刻化していることを伝えています。今回の調査では、従来からの病床稼働率・平均在院日数などに加えて、新たに「100床当職員数(定員上現員)」も調査されています(第1表参照)。
 
 
      
        |  | 病床 稼働率
 | 100床当職員数(定員上現員) |  
        | 教 (一)
 | 医 (三)
 | 医 (二)
 | 総数 |  
        | 全国平均 | 87.4 | 15.9 | 52.0 | 11.3 | 79.2 |  
        | 熊本大学 | 87.4 | 12.5 | 48.4 | 9.6 | 70.5 |  
        | 不足数(100床当) |  | 3.4 | 3.6 | 1.7 | 8.7 |  
        | 不足数(850床換算) |  | 28.9 | 30.6 | 14.5 | 74.0 |  第2表それによれば、熊大病院の病床稼働率は全国平均と同一です(87.4%)。ところが、全国平均に対して、熊大病院の医療従事者・看護婦不足はきわめて深刻です。医師は3.4人もの不足となっています(ワースト3位)。また、看護婦は3.6人もの不足となっています(ワースト4位)。さらに、医療技術職員では1.7人の不足となっています(ワースト3位)。医療従事者全体では、8.7人もの不足となっています(ワースト2位)。
 これを850床に換算すれば(すなわち熊大病院全体では)、医師では29人もの不足となっています。また、看護婦は31もの不足となっています。さらに、医療技術職員では15人の不足となっています。医療従事者全体では、74人もの不足となっています。
 
 「病床稼働率90%以上」の大学と比較すれば、看護婦40人の不足
 病院当局はこの資料を用いて、熊大の病床稼働率が全国順位26位であり、「病床稼働率90%以上」が熊大病院の目標であるとしています(99年12月22日発行『附属病院だより経営戦略特集号』No.1)。
    また、同じくこの資料を用いて、熊大病院の平均在院日数が全国26位であり、「平均在院日数30日以下」が熊大病院の目標であるとしています(前掲、No.2)。
 ところが、稼働率が90%を越えている11の大学と比較すれば、熊大病院の看護婦の不足数はさらに増えます(第2表参照)。医師数と医療技術者数については、11大学の平均値と全国の平均値との間に大差はありませんが、看護婦については4.7人もの不足となり、850床に換算すれば40人もの不足となります。
 
       
      
        |  | 100床当職員数(定員上現員) |  
        | 教(一) | 医(三) | 医(二) | 総数 |  
        | 11大学平均 | 15.8 | 53.1 | 11.0 | 79.9 |  
        | 熊本大学 | 12.5 | 48.4 | 9.6 | 70.5 |  
        | 不足数(100床当) | 3.3 | 4.7 | 1.4 | 9.4 |  
        | 不足数(850床換算) | 27.7 | 39.7 | 12.3 | 79.7 |  第3表また、平均在院日数が30日を下回る9大学と比較すれば、看護婦数については9大学の平均値と全国平均値との間に大差はありませんが、医師については5.5人もの不足、医療技術職員数については2.3人もの不足となります。病院全体ではそれぞれ47人、20人もの不足となります。
 
       
      
        |  | 100床当職員数(定員上現員) |  
        | 教(一) | 医(三) | 医(二) | 総数 |  
        | 9大学平均 | 18.0 | 52.0 | 11.9 | 82.0 |  
        | 熊本大学 | 12.5 | 48.4 | 9.6 | 70.5 |  
        | 不足数(100床当) | 5.5 | 3.6 | 2.3 | 11.5 |  
        | 不足数(850床換算) | 46.8 | 30.8 | 19.8 | 97.4 |  これらの数値は、病床稼働率の引き上げと在院日数の短縮のためには、少なくとも全国平均並みの医療従事者の増員が不可欠の前提条件であることを示しています。しかし、病院当局は、医療従事者の深刻な不足状態にほおかむりしたまま、一方的に病床稼働率を引き上げようというのです。
 
 「医療事故がいつ起きてもおかしくない環境」
 横浜市立大学の医療事故を契機に、多数の医療有識者・医療関係団体が異口同音に、医療従事者の不足が、医療事故の直接的・根本的原因であることを指摘しました。
 「ここで指摘したいのは、病院における人手不足が、あらゆる面で医療事故の陰に潜んでいるということである。……
 日本の大学病院の病床当たりの看護婦数は米国の3分の1,欧州の2分の1であり、医療事故がいつ起きてもおかしくない環境である。加えて、医師や看護婦を含めた全病院職員数でも、わが国のそれは米国の5分の1,欧州の2分の1にすぎない。今回の事故は、その実態を国民に垣間見させたものといえよう。
 わが国の病院における欧米に比べて長すぎると指摘されているが医療従事者の数が極端に少ないことが、短縮を困難にしていることも忘れてはならない。……
 なぜ、医療従事者が少ないのか。
 心臓外科や肺外科などの先進医療がなかった時代の定員枠を、大幅な増員の無いままに踏襲してきたからである。それは、いわゆる無給医局員や低賃金で働く研修医の存在にあぐらをかいて、その増員を真剣にもとめてこなかった、私を含む大学関係者の怠慢であり、増員要求に対応できなかった文部官僚の責任でもあろう。」(川島康生「医療事故招く病院の職員不足」、99年2月16日付け『朝日新聞』)
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