No.37
2000.2.28

熊本大学教職員組合

Tel.:096-342-3529 FAX:096-346-1247
E-mail:ku-kyoso@mx7.tiki.ne.jp




突如! 熊大で任期制を導入
——問われる大学の良識

  われわれ熊本大学教職員組合は,大学教員任期制問題について,大学審審議会の中間報告・答申の段階から批判的に検討し,他の大学・学術関係者と幅広く連帯しながら反対運動を展開してきました。「大学教員任期制法」の成立(1997年6月6日)後は,学内審議で活用できる討議資料を直ちに作成して全教員に配布するとともに,任期制導入の可否について学内全体で徹底した議論が行なわれることを学長・評議会に要望しました(1997年7月3日,代議員大会特別決議)。それは,任期制が教員の身分・生活を脅かすものであるからだけではなく,「大学教員任期制法」自体がもつ憲法違反(「学問の自由」の侵害)の恐れを回避するのは,各大学での導入手続き・検討内容の如何にあるからに他なりません。 
 ところが,われわれの要求はまったく無視される結果になってしまいました。さる2月24日の評議会において,突如,「熊本大学発生医学研究センター教員の任期に関する規則(案)」が承認され,来年度の4月1日から本学でも教員の任期制を導入することが決められたのです。任期制の導入が決まった組織は,熊本大学発生医学研究センターです。

導入する組織
 熊本大学発生医学研究センター(以下,発生研と略)とは,初めて耳にした方も多いかと思いますが,現在の医学部附属遺伝発生医学研究施設(以下,遺伝研と略)を改組して来年度4月1日から設置される予定の学内共同教育研究施設で,「分子遺伝学・細胞生物学などを基盤に,哺乳動物等の体の成り立ち,各組織・器官の形成機構等を解明するとともに,組織・器官再建による移植医療創出を目指す」(「熊本大学発生医学研究センター規則(案)」より)研究センターです。このセンターは,現在の遺伝研と同様,時限付きの施設で,時限は10年間とされています。
 その内部は,次に示すように2つの部門,計12の分野から構成され,ポスト数では教授10,助教授8,助手10,客員教授2となり,現在の遺伝研よりも教授4,助教授2,客員教授1が増えます(現在の遺伝研は,教授6,助教授6,助手10,客員教授1)。青字と下線で示すのは,現在の遺伝研の教授以外に新たに教授を必要とする分野です。

胚発生部門 器官形成部門
 初期発生分野
 細胞発生分野
 
転写制御分野
 
細胞識別分野
 形態形成分野
 系統発生分野(客員教授分野)
 神経発生分野
 造血発生分野
 臓器形成分野
 組織制御分野 
 
パターン形成分野
 シグナル制御分野(客員教授分野) 

・平成13年度には,生殖医学分野,幹細胞制御分野,加齢制御分野などを申請する予定。

任期制の内容
 評議会で承認された規則案は2枚目をご覧ください。発生研で任期制が導入されるのは,器官形成部門組織制御分野担当の助手一つを除く,すべての教授,助教授,講師,助手の職です。任期はすべて5年,再任可で,再任の可否は任期中の業績審査に基づき(審査対象は,研究活動のほか,本学の管理運営,社会への貢献)任期満了前の1年前までに行うとされています。
 器官形成部門組織制御分野担当の助手のみが対象とされなかったのは,当該研究分野がオーソドクスな研究分野で任期制には適さないためであると評議会では説明されています。
 また,注意すべきは,再任可能とはいっても,10年の時限が付いている以上,実質,再任は1回限りであること,現在の遺伝研の改組で設置される組織であるため,新たに任用される教員だけでなく,遺伝研の現職教員も任期制の対象となることです。

導入までの経過
 組合が知り得た限りですが,発生研で任期制導入に至るこの間の経過は次の通りです。
 2月9日 医学部教授会 「学内共同教育研究施設と医学部とのかかわりについて」の議題で,相澤慎一遺伝研施設長から「熊本大学発生医学研究センター規則(案)」と「熊本大学発生医学研究センター教員の任期に関する規則(案)」を配布のうえ説明があり,また現在,事務局と案の詰めの作業を行なっていると報告され,意見が聴取された。
 2月17日 部局長会議 「熊本大学発生医学研究センター教員の任期に関する規則(案)」が提示され,2月24日の評議会で議題とすることが了解された。
 2月23日 医学部教授会 発生研の任期制については,一切,審議・報告なし。
 2月24日 評議会 「熊本大学発生医学研究センター教員の任期に関する規則(案)について」の協議題で,審議のうえ同案が承認された。
 その他,看過できない動きとして,新たに教授が必要となる初期発生分野,転写制御分野,細胞識別分野,パターン形成分野の4分野を担当する教授について,「本センターは,任期制の導入など流動的組織運営を行う予定で,若手研究者の応募も歓迎します」(ゴシック体で示した部分は赤字)と明記したポスターが公示され,2月15日締切で公募が行われました。

拙速きわまりない異常な導入手続き
 現在,「大学教員任期制法」に基づく任期制を導入した大学は,全国で37機関あります(2000年2月1日現在,国立大学30機関,公立大学3機関,大学共同利用機関等4機関)が,お伝えした本学における任期制導入のあり方は,全国でも類を見ない拙速なものです。
 「大学教員任期制法」が成立して2年半以上たちますが,これまで本学では「大学教員任期制法」に基づく任期制を導入するかどうかを全学的に正式に検討したことは一度もありませんでした。昨年6月の学長特別補佐会議「中間まとめ—大学改革の議論のために:(1)組織・運営関連−」の中で,特に教授は個別に任期を定めること,5年間の試用任期を導入することなどの構想が示されましたが,これはあくまで学長の諮問機関の中間報告であり,正式な場で全学的に検討したものではありません(11月に開催予定の「熊本大学の未来を探るフォーラム」は開催されず,その後の検討は立ち消えとなっているように窺えます)。しかも,示された任期制導入の構想は,「大学教員任期制法」を正確に理解しているのかどうか,甚だ疑わしいお粗末なものでした(『赤煉瓦』No.2,1999年7月2日号)。部局によっては,独自の検討委員会や組織委員会において検討したところが幾つかありますが,そうした部局の検討結果を集約して全学的に検討したことは全くないのです。
 本来,「大学教員任期制」に基づく任期制は,導入の可否を各大学の自主的判断に委ねる「選択的任期制」であり,導入にあたって,どのような教育研究組織にどのような任期制が適当であるかを学内で十分に検討し,その検討結果が対外的にも説得力のあるものであることが必要です。また,教育研究の専門性に応じて導入するものですから,その決定には各部局での検討・承認(当然,学科・講座での検討も含む)を経ることがが不可欠です。憲法違反の恐れは,これらの手続きを踏むことによってかろうじて回避されます。
 ところが,本学では十分な学内審議が行なわれることなく,たった一度の評議会で即決されてしまったのです。欠けているのは,全学的検討だけではありません。発生研の任期制の規則案は,医学部教授会での承認を欠いており(2月9日の医学部教授会では意見が聴取されたに止まります),二重の意味で検討不足です。
 こうした導入手続きの杜撰さは,「熊本大学発生医研究センター教員の任期に関する規則(案)」という規則案のタイトルにも如実に示されています。「大学教員任期制法」に基づく任期制を導入する場合の学内規則は,「○○大学における教員の任期に関する規則」とした上で,導入する組織・職・任期のあり方などを定めるのが一般的です。文部省が作成した規則例でもそのように示されており,先行の37機関でも一つを除いてそのようになっています(岡山大学のみ,学内共同利用施設とされていますが,本学のように,個別の組織に限定したものは皆無です)。それは,導入にあたって上記の全学的検討の手続きを踏む反映であり,本学で発生研に限定した規則案となるのは全学的検討を欠いたからに他なりません。
 この点の不備については,評議会でも同様の指摘があり,学長は"大学には自由度が必要であり,全学の包括的規則から決めるのは好ましくない",また"発生研の人事選考を進めるためには本規則を先に決める必要がある"という見解を示しました。これには説得力がありません。このような説明で承認してしまう評議会は,学内最高意思決定機関・全学的審議機関としての見識を疑わざるを得ません。全学的な包括的規則を定めるのは大学の自由を阻害するという学長の見解は,「大学教員任期制法」の性格をまったく理解できていないものです。人事を進める必要から不備な点には目を瞑るというのは,管理者としての能力を疑います。人事選考が必要となるのは,概算要求が通った時点で明らかなのですから,なぜもっと事前に全学的検討を組織しなかったのでしょう。怠慢ではないでしょうか。皆さん想起してください。現在の学長の体制になってからというもの,本学での改革は非民主的な手続きのためにドタバタつづきです。事務機構の一元化,学務情報システムの導入,組織運営体制の改革……。こうしたままでは,「学長のリーダーシップの強化」とは,能力に乏しい学長の専横を許すばかりの体制となってしまうのではないでしょうか。迷惑をうけるのは教職員・学生ばかりです。

今後は評議会第一部会で検討することに
 ともあれ,評議会での審議の結果,今後直ちに,任期制導入に関する全学規則の検討を第一部会に付託して行なうことになりました。評議会第一部会での検討は,単に規則案を検討するだけに止まってはなりません。各部局に入念にフィードバックして各部局の意思を踏まえ,どのような教育研究組織に任期制が適当か,あるいは不要なのかを入念に審議したうえで,規則案を検討しなければなりません。評議会第一部会での検討は2月29日から始まります。今後,評議会での審議が本学の良識を発揮するものになることを切に望みます。

問題は山積み
 発生研での任期制導入には,まだまだ問題があります。①任期制の規則が決定される以前の段階で新設4分野の教授の公募が行なわれたこと(規則が定まる以前に,一体どのような条件提示がなされたのでしょうか),②遺伝研の現職教員にはどのような説明がなされ,どのように同意を得ているのか,③任期制の運用細則の問題(細則はいかなる場で決定するのか。再任手続きの細則はいつ作られ,いつ本人に提示されるのか,など),④任期付き教員の移動先の面倒をみる工夫をどのようにするのか,⑤女性の場合の配慮(たとえば産休の期間を任期にカウントするのか),⑥助手の場合,自らの研究に専念できる環境を整備しているか,などなど。
 組合は,もちろん任期制問題を緊要課題の一つとして今年度の学長懇談・交渉に臨むとともに,ひきつづき発生研での任期制導入について調査を行なっていきます。




熊本大学発生医学研究センター教員の任期に関する規則(案)

(趣旨)
第1条 この規則は、熊本大学発生医学研究センター(以下「センター」という。)が、先端的、学際的な研究を推進するため、多様な人材を確保し、もって研究の活性化を図ることを目的として、大学の教員等の任期に関する法律(平成9年法律第82号。以下「法」という。)第3条第1項の規定に基づき、センター教員の任期に関し必要な事項を定めるものとする。

(職、任期及び再任)
第2条 法第4条第1項第1号に掲げる任期を定めて任用する教員の教育研究組織、職及び任期等については、次のとおりとする,
(1)教育研究組織 胚発生部門、器官形成部門
(2)職  前号の組織に所属する選任の教授、助教授、講師及び助手(器官形成部門組織制御分野担当の助手を除く。)
(3)任期 5年 再任可

(任用される者の同意)
第3条 任期を定めて教員を任用する場合には、別紙様式により任用される者の同意を得なけれぱならない。

(業績審査)
第4条 教員の再任の可否は、当該教員の任期中の業績審査に基づき、任期満了の1年前までに決定するものとする。
2 前項の業績審査は、次の各号に掲げる事項について行うものとする。
(1)研究活動に関する事項
(2)その他本学の管理運営、社会への貢献等に関する事項

(規則の公表)
第5条 この規則を制定又は改正したときは、定期刊行物等、広く周知できる方法により公表するものとする。

附 則
この規則は、平成12年 月 日から施行し、同日以隆に任用される者について適用する。



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