No.48
2000.4.11

熊本大学教職員組合

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全大教シンポジウム報告
 「日本の学術・文化の充実を−国立大学の独立行政法人化を考える−」


 さる3月5日、学士会館(東京都千代田区)において、全大教主催の標記のシンポジウムが開催されました。独法化問題が緊迫した局面を迎えていることから、当日は主催者の予想を大きく上回って他団体からの参加も含めて145名もの教職員、院生の参加があり、パネリストの話題も豊富で、討議の時間も大きく不足してしまうほどの盛会でした(熊大からは3名が参加しました)。パネリストは阿部謹也(共立女子大学学長、前一橋大学学長)、伊藤谷生(千葉大理学部教授)藤森 研(朝日新聞論説委員)、和田 肇(全大教委員長)の各氏で、大学人、民間人と多彩な顔触れでした。シンポジウムは主催者挨拶、山形大学学長のメッセージ披露の後、パネリストの基調報告、フロアーとの質疑応答、討議の順で進められました。以下、印象に残った論点を中心に紹介します。

《パネリストの基調報告》
 4者4様の報告内容でしたが、中心的な議論は次のごとくです。
 第1に独法化のもつ問題点が種々指摘されました。阿部氏は独法化は行革における25%定削問題に直接起因するが、文都省は独法化により25%定削を回避できるかについては分からないと言っているし、「特例措置」による自治の尊重も怪しいもので、独法化に幻想をもつべきではないと主張。伊藤氏は国立32大学理学部長会議声明、日本数学会理事会声明などとくに理科系において独法化への懐疑と反対の声が拡がっており、その背景としてニュージーランド、国立研究所などの先例の現実が詳らかになるにつれ独法化が現実に存在する諸問題を解決しないばかりか、それらを解決不可能な状態にまで悪化させるという認識が広まってきたことを指摘。さらに、藤森氏はマスコミの対応として通則法のそのままの適用は疑問とするのが共通認識である(その先はマチマチだが)と回答。和田氏は独法化は健全な大学発展に逆行するものであり、反対運動も大学紛争以来の盛り上がりを見せ25万人を超える反対署名が集まっていること、文部省も「通則法に基づかない独法化もありうる」と姿勢を変化させていることを指摘。
 第2に独法化反対運動についての国民の関心があまり高くない点が指摘されました。阿部氏は反対運動がかつての大学管理法反対運動に比して低調であるとし、その原因として前述のような大学人の「幻想」があること、そしてより重大な原因として国民が無関心であることを指摘。この国民の無関心を引き起こしたのは大学における学問研究のあり方に問題があり、学問研究が地域・住民・国民の声・課題を反映し、タックスペィヤーとしての国民に応えるものとなりえていないからであるという。同様の指摘は藤森氏からもなされ、権力の大学介入に対し国民が無関心であるのは、「温々した専門家=大学人」に対する厳しい目があるからであり、大学の活性化へ期待に内在的にどれだけ応えているかが問われている、と指摘。
 第3に今後の取り組みのあり方について種々指摘がなされました。伊藤氏は今日の危機を招いた従来の「物取り」的な「大学改革」を真摯に自己批判し、独法化に対する「対抗的変革プログラム」の作成を緊急(1年以内)に行う必要性を指摘。同様に、和田氏も、一方で教養教育解体や大学院重点化の検証をやりつつ、他方で国、公、私立の協働による大学教育の確立、大学の自治の発展、21世紀への学問研究のパラダイム提示、等の大学のあり方をめぐる議論を全国レベルおよび各職場において早急に巻き起こす必要があると主張。藤森氏は大学と市民・学生との連帯こそがキーストーンであり、マスコミも「メディアと市民の協議会」を設置して対応したいと発言。

≪フロアーからの発言》
 各層からの発言がありました。院生代表は院生の現状における研究条件への不満・不安は独法化によって何ら解決されないと主張。日教組代表は大学改革と高校教育改革との連携部分の共同討議の必要性を指摘。私立大学からは独法化との関連は議論されていないが、国・私立を含めた大学のあり方の問題として捉えるべきだと主張。公立大からは国立大の地方移管や公立大の統合(都立4大学一本化、広島県立3大学一本化)の動きについての現状報告。国公労連からは86の研究機関の内59機関の独法化が予定(既に56機関は4月より移行)されており、滅量化、効率化に伴う諸問題について国民に訴えるべくキャラバン行動を提起した旨の報告。その他、各地の取り組みとして、例えば山形大では独法化反対のネットワークを組織し、ニュース配布、県民へのアピール、市議会への反対請願、地方紙への意見広告などの取り組み事例の紹介がありました。
《感想》このシンボジウムでは独法化が大学の発展を阻害するものであるという点ははっきりしましたが、他方、25万人署名にもかかわらず未だ十分に関心を示していない国民を巻き込んだ独法化反対運動をどう展開すべきかという大きな課題が提起されました。先の自民党・麻生グループの「国立大学法人」構想(「赤煉瓦・№.39」参照、尚、3/23に提言案発表)にみられるように、独法化問題は急展開を遂げようとしています。私達は、今こそ、国民の期待に応えうる、学術文化の発展を目指した大学のあり方についての変革プログラムを早急に検討し、広く国民に訴えて行く必要があります。シンポジウム関連資料は組合事務所にありますのでご利用下さい。都合により報告が遅れましたことをお詫びいたします(W&O)。



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