No.36
2001.2.21
熊本大学教職員組合
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23人の看護婦の増員は「医療事故防止」に繋がるか
−−病棟婦(看護助手補助者の大幅削減問題(その2)−−

 来年度、全国の国立大学病院では773人の看護婦(定員外)の増員がなされます。文部省はこの増員によって、「勤務体制の改善、医療事故防止への対応、患者サービスの向上等を図る」(00年9月文部省高等教育局医学教育課「平成13年度概算要求の概要」、00年10月27日衆院厚生委員会における清水潔〔大臣官房審議宮〕回答など)としています。
 773人のうち熊大病院には23名が配分されます。ところが、この裏側で、看護補助者(病棟婦と定員内看護助手)を大幅に削減する計画が浮上しています。看護婦が増えても、看護補助者が大幅に削減されようとしているのです。これによって、これまで看護補助者が行っていた業務を看護婦がこなさざるをえないことになり、看護婦の増員が「医療事故防止」にまったく繋がらないことになります。
 「人は過ちを犯すものである。しかし過ちを繰り返し続けるのは悪魔である」。国立大学医学部附属病院長会議「医療事故防止のための安全管理体制の確立について」(00年5月)は、その冒頭にこの言葉を引用しています。確かに、横浜市立大学の医療事故を契機に、また医療法施行規則の改正(00年4月)によって特定機能病院に「安全管理の体制」が義務づけらもしたため、99年度以降全ての国立大学病院で「医療事故防止策」がとられました。にもかかわらず、国立大学病院ではむしろ医療事故が増加しています。京大病院の医療事故(00年3月)以来、これまでに10件を越える医療事故が公表されており、この他に未公表分が多数あるとされています。
 このように医療事故の連鎖が止まらない原因は、全大教「国立大学病院看護職員アンケート」調査結果によって明らかです。(註)調査時期00年9月25日〜10月20日、集計総数21大学4,937人(看護婦総数の28.5%)、熊大病院の集計総数348人(看護婦総数の78.2%)。調査結果のうち医療事故関連の項目について、熊大病院と他の20の国立大学病院を比較すると、第1表から第8表のようになります。

第1表 医療事故についてどう思いますか
誰にでも起こりうる 事故を起こした看護婦個人の資質 分からない 無回答
20大学病院 95.0% 1.0% 2.5% 1.6%
熊大病院 95.1% 1.1% 3.2% 0.6%

第2表 これまでにミスやニアミスを起こしたことがありますか
ある ない 無回答
20大学病院 93.2% 4.9% 1.8%
熊大病院 95.1% 4.6% 0.3%

第3表 毎日の業務量はあなたにとってどうですか〔%〕
繁雑でゆとりがない どちらかといえばゆとりがない ゆとりがある 無回答
20大学病院 51.1% 41.1% 4.3% 1.5%
熊大病院 52.0% 44.0% 2.6% 1.4%

第4表 ナースコールやモニター、レスピレーター等のアラームが鳴った時、ナースステーションに誰もいないことがありますか
よくある 時々ある まれにある ない 無回答
20大学病院 28.3% 39.8% 11.7% 7.6% 12.5%
熊大病院 31.0% 45.7% 9.2% 3.7% 10.3%

第5表 注射を準備・施行する際に複数人でチェックをしていますか
している している場合としていない場合がある していない 無回答
20大学病院 28.8% 45.9% 21.7% 3.6%
熊大病院 18.7% 48.9% 29.9% 2.6%

第6表 注射準備中に、ナースコール等他の用事で作業を中断させられることがありますか
よくある 時々ある まれにある ない 無回答
20大学病院 44.2% 37.4% 8.7% 4.2% 7.8%
熊大病院 44.3% 35.9% 11.2% 8.6% 6.9%

第7表 受け持ち患者の情報を十分に把握しないまま、仕事に入らざるをえないことがありますか
よくある 時々ある まれにある ない 無回答
20大学病院 21.9% 43.9% 22.1% 4.2% 7.8%
熊大病院 13.2% 46.8% 24.4% 8.6% 6.9%

第8表 患者の搬送は医療従事者2人で行っていますか
できている できる時とできない時がある できていない 無回答
20大学病院 17.2% 44.7% 33.5% 4.6%
熊大病院 19.0% 42.8% 35.1% 3.2%

 いずれの項目についても、熊大病院の看護の現場が医療事故と背中合わせの現状にあり、幾つかの項目については他の20の国立大学病院よりも深刻な状況にあることが明らかです。熊大病院の95.1%の看護婦がこれまでにミス・ニアミスを経験しています(第2表)。52.2%の看護婦が毎日の業務量について繁雑でゆとりがないと回答しています(第3表)。ナース・ステーションの不在が頻繁に発生しています(第4表)。注射の準備・施行の際に複数人チェックができていません。注射準備作業がナースコールなどによって頻繁に中断させられています。受け持ち患者の状態を十分に把握できないまま、仕事に入らざるをえません。患者の搬送が2人でできていません。それゆえ、熊大病院の95.1%の看護婦が医療事故は誰にでも起こりうると考えています(第1表)。
 各種の調査が看護業務の危険性を指摘し、対応策を提唱しているにもかかわらず、熊大病院では有効な医療事故防止策がとられていないのです。99年以降熊大病院でも事故防止委員会の設置、インシデントリポートの導入、研修会・学習会の開催などの「医療事故防止策」がとられましたが、実際にはこれらの「防止策」は実効性に乏しかったのです。事故防止委員会や研修会・学習会によって安全意識の高揚が叫ばれても、実際の看護業務の中で安全の確認を可能にするものが、熊大病院には決定的に欠落しているのです。またインシデント事例の分析やマニュアルの作成がなされても、それらの活用を可能にするものが、熊大病院には決定的に欠落しているのです。
 濃沼信夫(東北大学)や川島康生(阪大名誉教授)をはじめとする医療有識者が指摘するように、「医療事故防止への対応」を見直すより他にありません。「病院の基本システムとして安全確保がなされなければならないことは当然であるが、これだけで医療事故の危機管理を行えるとは思えない。夜を日に継ぐ多忙な現場の人手不足は、安全基準のマニュアル化や安全意識の高揚だけでは事故の再発を防止することができないところ(限界)にまできている」(『医療のグローバルスタンダード』)こと、「病院における人手不足が、あらゆる面で医療事故の影に潜んでいる」(99年2月16日「朝日新聞」)ことに改めて着目して、医療事故防止策を講じる必要がありはしないでしようか。
 他ならぬ文部省は、看護婦の大幅増員によって「医療事故防止への対応を図る」としています。また熊大病院の看護婦の80.2%が、最も重要な医療事故防止策として「看護職員の増員」を求めました。ところが、熊大病院当局が計画している看護補助者の大幅な削減は、「医療事故防止への対応」策としての看護婦の増員の効果を消滅させます。日本病院会「医療事故対策に関する活動状況調査集計結果」(00年11月)は、会員病院で過去1年間に発生したアクシデント(2万5,012件)について分析し、82.6%のアクシデントに看護職員が関係しており、これは「看護業務の複雑さと高度医療に伴う多岐に亘る業務内容を反映している」と指摘しています。熊大病院当局が計画している看護補助者の大幅な削減は、医療事故の危機に瀕している熊大病院の「看護業務の複雑さ」や「多岐に亘る業務内容」を決して改善せず、病棟によっては看護業務からさらに「ゆとり」を奪うことになります。「過ちを繰り返し続けるのは……」。

 

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