No.38
2001.2.22
熊本大学教職員組合
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迫られているのは、病院経営の方針であって、看護補助者の削減ではありません
−−病棟婦(看護補助者)の大幅削減問題(その3)−−

 2月16日に行われた病院長予備交渉で、組合は病棟婦の大幅削減問題を取り上げました。当局の回答は大要以下の通りでした。
く当局>「病棟婦〔配置を〕どこまで見直しできるか〔看護部に〕相談した。〔病棟婦の外注に〕8,000万円を使っている。中身は看護部で検討してもらっている。一方で14名の看護婦の雇用の持ち出し分はこない。〔来年度増員となる〕23名〔の雇用費]は固定した費用と配分されるが、〔14名分は〕こちらで出さなければならない。」
<組合>「見直しが出てきた理由はお金だけでしょうか。」
<当局>「お金だけでなく、業務の整理もある。他の大学と比べて人数は多い。」
<組合>「他の大学と比べて看護助手は少ない。」「今回の検討で病棟婦を減らすとして、将来看護助手を減らす計画がありますよね。」
<当局>「業務を本来の形に戻すということ。医(三)の定数を使っているということもある。」
<組合>「看護部ではプライマリーナーシングをやっていこうと進めている。補助業務を減らしてほしいと思っている。」
<当局>「配置の見直しとかを考えている。看護婦の業務は増えない。」
<組合>「まだ予算は決まっていないですよね。」
<当局>「予算も来ていないので、〔病棟婦の削減は〕まだ決まったことではない。」
要領を得ないところもありますが、当局の回答は、(1)予算上の問題、(2)「業務の整理」、(3)病棟婦を大幅に削減しても「看護婦の業務は増えない」という3点に要約されます。本号では主に予算問題を、したがって病院の経営方針を扱います。
 当局の回答を敷衍すると、「99年度から定員外看護婦を14人増員している。この14人を見込んで文部省に38人の増員要求を出したが、23人しか配分がなかった。14人分の雇用費については自前で捻出しなければならないため、来年度から予算的に苦しくなる」ということになりますが、まったく不可解な回答です。
 (1)増員数が当局の見込みよりも少なく「当てが外れた」にしても、99年度以降14名の雇用費は自前で捻出されており、決して来年度からこの雇用費が増えるわけではありません。むしろまったく逆に、来年度から、上位看護加算の算定によって1憶1,000万円の、あわせて夜間看護加算の算定によって1億1,400万円の増収が実現する(『経営戦略特集号』、第7号)ため、病院の収入が増えます。
 (2)01年度大学附属病院概算要求によれば、各種の委託費は決して減額にはなっておらず、まったく逆に、これまで文部省が進めてきた政策からすれば当然のことですが、増額になっています。病棟婦の削減によって、委託費を減額にしなければならない根拠はありません。
 (3)来年度から定員外看護婦の雇用に関わる予算制度が変更になります。これまで定員外看護婦の雇用費は、看護業務改善経費および病院長裁量経費−−いずれも「(目)校費」−−によって賄われてきましたが、来年度から「(目)非常勤職員手当」が新設されます。この「(目)非常勤職員手当」によって、増員分の773人が賄われるだけでなく、これまで「(目)校費」−−看護業務改善経費あるいは病院長裁量経費−−で雇用されていた、定員外看護婦の相当数の雇用費が賄われることになります。要するに、相当数の看護婦の雇用費が、文部省から配分される経費に「振り替え」になります。この「振り替え」数について、文部科学省は今後調査・決定するとしています(1月15日「看護婦等非常勤職員の雇用に係る説明会」)。「14名の看護婦の雇用の持ち出し分は来ない〔文部省からの配分がない〕」ことが、すでに決まっているわけではありません。
 (4)これまで病院当局は、稼働率を1%引き上げれば1億の増収になると主張し、稼働率の引き上げを強力に進めてきました(『経営戦略特集号』、No.7号など)。しかし、これは実際には、稼働率を1%引き上げると、患者医療費も5,000万程度増えるという仕組み−−「患者医療費が増えつつも収入をあげる」という仕組み−−に他なりません。重要なことに、来年度の大学附属病院予算でこの手法が否定されます。来年度予算において、おそらく史上はじめて、病院にとって最も基幹的な患者医療費が6憶7,000万円の減額となります。その一方で附属病院収入については前年度比63億円の増収を見込んでいます。このため、患者医療費と附属病院収入の関係では、00年度は100.0円の患者医療費によって160.3円の収入をあげるという関係でしたが、01年度は99.8円の患者医療費によって166.2円の収入をあげるという関係になります。つまり、熊大病院は、これまでの「患者医療費が増えつつも収入をあげる」という方法−−病床稼働率の引き上げ−−から、「患者医療費を減らしつつ収入をあげる」という当局にとっては未知の方法への転換を余儀なくされます。
 減額となるのは患者医療費であって、決して人件費や委託費ではありません。むしろ人件費は773人の増員によって大幅に増えます。来年度予算にしめされているこの前代末間の仕組みが、来年度熊大病院がとるべき方針を指し示しています。「患者医療費を減らしつつ収入をあげる」という方法は、医薬品・医療材料を節約しつつ、患者に対応するということに他なりませんが、このことを可能にするのは、原理的には「看護力」をおいて他にありません。他の医療職員の医療行為とは決定的に異なり、看護には「患者の内部にひそむ“生きる力”を引き出す」(増田れい子『看護』)という特性があります。有名な札幌麻生脳神経外科病院の実践(いわゆる「麻生方式」)は、「看護の特性」の発揮に他なりません。大学病院で意識不明に陥り回復不能と宣告された人、交通事故で脳に重篤な障害を受け意識不明になった人、こうした植物状態の患者を回復させ、言葉と生活を復活させたのは、しかもそれと同時に在院日数を短縮させたのは、当時の常識をこえた大胆で手厚い看護によって「患者の内部にひそむ“生きる力”を引き出す」ことによってであって、決して医薬品・医療材料の投入によってではありませんでした。この実践をリードした紙屋克子氏は、医師と看護婦の対応の違いについて、「褥瘡の対応をみても、医師は、治療としては消毒して、軟膏を塗り、悪化すれば植皮手術をするという」対応をとりますが、他方「看護婦は褥瘡を予防し肺炎を予防〔することができ〕、抗生物質を出さない、入院日数を減らす」ことができます(『週間社会保障』、1908号)と述べています。前者の方法では消毒・軟膏・植皮手術などのコストがかかりますが、後者の方法ではコストが不要です。
 とすれば、「看護力」あるいは「看護の特性」が十全に発揮しうるように、環境・条件を整備することこそが喫緊の課題です。23名の増員がなされるにもかかわらず、看護補助者を大幅に削減しようとする計画は、決して「看護力」「看護の特性」の発揮には繋がりません。

 

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