No.48
2001.4.9
熊本大学教職員組合
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シンポジュウム「高い自律性を有する大学・高等教育像を探る −国立大学等の独立行政法人化への対抗軸−」報告

主   催: 全国大学高専教職員組合
開催日時: 2001年3月3日(土)12:30〜17:00
開催場所: ラポール日教済(東京)
参加者等: 175名(私大教連・マスコミ・一般含む)熊本大(丸山委員長・新井副委員長)
プログラム: 第1部 講演「自ら決め自ら変わるための大学憲章」小林雅彦氏(東京大副学長)
特別報告「名古屋大学における大学法人の検討について」杉浦一孝氏(名大委員長)
第2部 全大教からの問題提起 全大教独法化問題プロジェクト事務局長 立山紘毅氏
日本私大教連からの問題提起 教研部副部長 高橋哲也氏
議論・交流

 開会にあたり全大教委員長より"昨年に引き続き2回目の独法化シンポになる。昨年の教研集会でも石井氏の講演で対案等が報告された。文部科学省検討会が5月には骨子を出してくる。大学にとって厳しいものになるようだ。文部科学省は当初、金は出すが口は出さない方針だったが、口は出すが金は出さない方向になりつつある。現在、検討会では設置形態や学長の選出方法等、管理運営の基本的なものについて検討しているようだ。検討会の議論では国大協の意見書等について取り上げていない。そこで、ここで議論されたものを、今後の取組みに役立ててほしい。"との主催者挨拶があり、その後、講演等に入った。

講演「自ら決め自ら変わるための大学憲章」小林雅彦氏(東京大副学長)
 
 学問の自由が戦後認められた。同時に大学の自治も認められた。しかし、大学の自治は未熟のまま進行して来た。自治とは自分の事を自分で処理するする事。自治の単位は個人であるが、大学では、大学という組織が自治の単位である。自治には階層があり、それぞれが協調しながら運営しなければならない。大学がどれだけ自主的行動を取り得るかが問題。自治には権利と義務がある。それは教育基本法で明記されている。自治と同様に自律もある。自治の構成は、そこに働く構成員でもある。ゆえに、構成員には権利と義務が発生する。
 では、大学の自治とは何か。大学の自治は所与のものではない。自治は自分達で作っていくものである。それをここまで怠ってきた。このため、大学の自治は衰退している。企業も法人としての人格権を持っている。そこに働く個人と組織は利益の追求を目指している。大学は職員と学生で構成されている。両者には共通の目的があるはず。しかし、現在は目的が合致していなく権利・義務を果たしていない。それは大学の構成が複雑、また、学生は一過性のためだろう。両者の共同歩調が合わず、また、立場が学ぶ者と教える者のような立場にある為か。全構成員が共通の憲章を持てば共同歩調も可能か。
 国家自治の場合、三権分立が明確にされている。大学は評議会・教授会(立法)、学長・事務局(行政)、評価・監査組織?(司法)。学問の自由が四権目に入るという話がある。その前に、大学の主権は誰が持っているのか。評議会・教授会か、それは教員代表であって、他の構成員が入ってない。故に、三権分立よって大学の自治は存在しない。各職員が平等な権利を持って三権分立を実施しなければ本来の大学自治はあり得ない。現行はそうなっていないので、本当の大学自治は存在しない。今は学長と事務局が何でも出来る。それが現状であり、見直しの時期に来ている。
 最近、大学評価機関が発足しているが、全て学外者で構成すべきである。内部者で構成してはダメだ。学問の自由は大学人だけのものではない。学外者の一人一人も持っている。また、大学の主権は教官だけで良いのか。主権在教官で良いのか。他の構成員の権利を放棄して良いのか。大学改革の中で教官以外の職種は各種委員会のメンバーに入っていない。
 社会は法律をもとに運営されている。東大では法的なものも含めての改革と、予算・学則の変更を伴わない改革もあると考えている。故に、独法化通則法もしくは大学法人化法に対抗できるのは「大学憲章」であると考える。憲章で教職員も学生も同じ権利・義務を有するものでなければ大学の自治・自律は存在しない。各大学で憲章を作成し、大学の自治・自立を確立する事が本来の姿ではないか。それが独法化に対する対抗軸に成り得る。
 独法化に関する法律が、事細かなことを決めなくても良い。「大学憲章」で明記すれば良い。大学の自主・自立は全構成員で決める事。大学の組合活動が低下しているのは大学の自治にも関連している。独法化後の労使関係も含め、原点に返り組合活動をすべきである。

「名古屋大学における大学法人の検討について」杉浦一孝氏(名古屋大教職組委員長)
 
 名古屋大学組織改革検討会のもとに将来構想小委員会が設置され、法人制度に関するWGが"仮にそうなった場合に備えて、準備する事が必要との判断に基づいて"「名古屋大学の法人化と大学運営について(検討の経緯)」(00.9.7)、「名古屋大学の法人格の取得と大学運営について(検討の経緯)」(00.11.21 資料集p.62)及び「国立大学法人名古屋大学法(仮称)(案)」を公表した。だが、小委員会設置そのものが殆どの教職員に知られてなかった。
 この大学法には理念等は盛り込まれていない。各部局の教授会・組合から意見を提出。修正案が2001.2.16(資料集p.33)に出された。どのような経緯で修正されたか、また、全体的な検討状況も不明のまま形骸化された評議会でいつのまにか承認された。
 内容の問題点として、法人化・法人格の取得で幻想を抱いている。また、財源確保のために通則法に準じて作成された。講演で小林氏は「大学憲章」の必要性を話されたが、名古屋大学の憲章は「名古屋大学学術憲章」であり、学内規則でもなく大学憲章でもない。教育・研究の基本理念を明示しただけである。
 これらを踏まえ組合の対応として、①通則法に基づく大学法に対し、反対運動を進めている、②小委員会の法人化・法人化取得に関する作業に反対、③ただ反対ばかりでなく、通則法でなく特別法による独法化について模索している。④学長選考法の改革に対する反対運動を展開中。
講演・特別報告質疑
Q:名古屋大学の学術憲章と評議会との関わりについて。
A:学術憲章は四項目からなっている。(名古屋大HPで公開)評議会は形骸化しているので何も関わっていない。
Q:大学自治に教職員と学生をどのように参加させて行くか、また、権利の保障の構築は、主権のあり方は。
A:三権さえあれば全て民主主義とは考えていない。どのように教職員・学生を参加させていくかは自分達で考えることが大切。
A:名古屋大学も以前から自治能力はない。
Q:国民のための大学と、父兄から期待される大学との相関は。
A:名古屋大学は市民団体・学校長・父兄会等から意見を聞く場を設けている。
Q:通則法による学長の選出方法が問題視されているが、逆にリコール制について議論すべきでは。
A:余り最初から事細かに決める必要はない。各大学で独法化前に大学憲章を作り、そこに明記すれば良い。
Q:東大ではいつ憲章を制定予定か。各大学でも憲章を作成すべきでは。
A:教育基本法は変えない方が良い。各大学で大学憲章的なものを作る作業を進めるべきだ。
Q:評価によって財政面が厳しくなる。定削でスタッフの減少を余儀なくされる。それでも評価が入ってくる。どのような対処をすれば良いのか。そのような状況で国民のための大学とはどのような中身にすれば良いのか。
A:東大では10年で25%の定削、30%の財政削減は無理と判断。このため独法化に乗る方針を立てた。国は独法化後も人件費等の保障をすべき。
Q:大学自治は財政面で自由度がなければ自治につながらない。
A:名古屋大学で検討しているが、一つの方法として債券を発行したり、地方自治体からの出資等も考えている。

「全大教からの問題提起」立山紘毅氏(全大教独法化問題プロジェクト事務局長) 

 都合により、このセクションは途中参加の為、資料の全大教独法化問題プロジェクト作成の「国立大学等の独立行政法人化問題に関する政策的論点整理」(骨子)を参照。

「日本私大教連からの問題提起」高橋哲也氏(教研部副部長)

 現在、私立大学では入学者の定員割れが深刻な問題。4年制大学の学部で30%、短期大学の学科で50以上が定員割れを起こしている。バブル崩壊後の不良債権による景気低迷も重なり、教育環境が経済環境に左右された。私学は経済政策の影響を受けやすい。また、小子化の進行も含め、定員割れが進行し私立大学の存続に影響している。
 教育危機のファクターとして、私大の経営危機、大学の大衆化、大学進学率50%による完成教育の廃止、小中学校での学習内容の低下、大学の学生へのサービス向上が逆に大学経営等を圧迫。
 また、大学民主主義の危機として、文部省からの指導強化による教授会の形骸化等、文部省施策による誘導化の対応で、補助金の配分に影響が出ている。国立大学の独法化は、管理すれど支援せず。民主化にはならない。そのような中で自主・自立をどうするか。
 私学の場合の大学危機は財政危機のみではないが、公的助成がなければ改革も不可能。自己改革も必要だが国公立も私立も協調した連携が不可欠ではないだろうか。

議論・交流

・ どこに独法化の問題があるか明確にするべき。私大では理事長と学長が同じの場合、大学の自治がなくなる。経営者は教学に立ち入らないのが本来の姿ではないのか。
・総定員法による25%削減を撤回させることは出来ないのか。通則法は独法化を全ての省庁に適用させる為に出来た。通則法を撤回させることは出来ないのか。全大教は労働組合なのだから、労働者の立場を守る運動の実施を目指した取組みすれべきではないか。
・労働組合としての方針を示さないと議論が進まない。(全大教委員長より二つの意見に対し、"この場は一定の方針を出すための集会ではない。自由に討議する場なので運動の方針は別の場で議論したい。")
・全大教の政策論点は独法化を想定したものになっている。反対ならば、それなりの運動を展開すべき。国立大学が私立化しても経営そのものは可能である。
・全大教プロジェクトは独法化問題の根本的な取組みになっていない。
・今回の独法化問題は大学制度をどうするかの問題であり、国立か私立かの問題ではない。閣議決定でも、その通りしなくても良い事になっている。しかし、文部科学省の考えは、あくまでも通則法に基づくものとされ、それを崩すには相当の努力が必要。大学の自治を売り渡して財政的支援を受ける方法もある。

森田書記長閉会挨拶:講演していただいた二人の共通点は、始めに独法化ありきではない。いかに大学の自治を進めていくかで、独法化問題で国立・私立に関係なくグランドデザインの問題点を出された。運動論として労働組合としての取り組みが出された。明日の大会で方針を議論する。独法化問題で教育・研究条件を守る事は、労働条件を守る事にもなる。看護婦増員運動もその一つとして捉えている。組合組織の過半数確保の取組みも進めて行く。これだけの議論を交わしたのは初めてであり、今回のシンポジュウムはそれなりに意義があった。

(参加しての感想)
 東大の小林氏は大学の自治の必要性を強調されたが、今までこれが大学の自治だと感じた事もなく、ましてや、是なくして大学の自治はあり得ないとの場面に遭遇した事もない。ただ、大学憲章の必要性を協調された点については共感する部分もある。各私立大学は建学の精神があるが、国立にはない。大学憲章がそれに相当すると考えられる。名古屋大学のもしも独法化された場合を想定した「国立大学法人名古屋大学法(案)」については、いつも先行く名古屋大学の象徴との感じがする。
 また、今回のシンポジュウムで全大教のプロジェクトチームからの問題提起(骨子)が出されたが、問題提起したあと、この提起をどのように独法化問題へ結びつけていくのかわからない。それよりも議論で出された労働組合としての対応策に重点を置いた取組みを進めてもらいたい。               
(文責 丸山 繁)


 

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