No.26
2003.12.11
熊本大学教職員組合
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法人化後の労使関係Q&Aシリーズ 5
「労働時間・休日」

 法人化後,私たちは事業主と対等な立場で労働契約を結んで働くことになります。労働契約による労働者の義務は,一定の時間使用者の命令下におかれて誠実に労働を提供することです。事業主の義務はその労働の対価として賃金を支払うことです。このことから賃金は労働した時間に応じて支払われます。ですから,使用者は労働者が実際にどれだけ働いたかを管理し,それに応じて定められた方式によって賃金を決めなければなりません。今回は法人化後の労働時間の管理のされ方,休日の扱いなどを扱います。
 なお,公務員制度の下では大学教員の労働時間は超法規的に例外的に扱われてきました。勤務時間は8時30分から17時ですが,それに従うように管理はされず,一方で超過勤務手当ても入試などの特殊な場合を除いては支給されませんでした。法人化後,これをどう扱うのかは根本的な問題です。ただし,労基法の下では現行の大学教員の勤務スタイルを許容する制度はありません。来年から大学教員に裁量労働制が適用できるようになりますが,主として研究に関する業務にたずさわる者に限定されており,多くの教員には適用できません。当面,現行の様に超法規的に扱うしかないのではないかと感じています。ですから,このニュースは教員以外の職員向けのものとしてお読みください。

Q.実際の労働時間の管理はどのように行われるのですか。
A.これについては平成13年4月に厚生労働省は労働時間の適正な把握のため使用者に始業・終業時間の確認および記録をすることを求める通達を出しました。自己申告によらざるを得ない場合には,適正な報告を指導し,それを阻害する目的で超過勤務時間の上限設定を行わないよう求めています。ですから出勤簿に印鑑を押し,残業の時間数のみを記入するという今のやり方は通用しません。時間管理の業務負担を考えればタイムカードなどによる電算処理が不可欠です。

Q.時間外手当はどのようにして支給されますか。
A.所定労働時間を越える労働が支給の対象です。そのうち,法定労働時間(労基法の定める1日8時間,週40時間)を越える時間については25%以上の割り増しで賃金を支給しなくてはなりません。また,夜10時以降の深夜に働いた場合はさらに25%の割増賃金が必要になります。なお,法定休日(週1日の休日)が取れない場合には休日における労働時間について35%以上の割増賃金が必要になります。大学は週休2日制で土日が休日ですが,この両方を 働いた場合,少なくとも一方の日における労働時間には35%の割り増しが必要です。

Q.管理職手当がつくようになると時間外手当がもらえないと聞くのですが。
A.誤解です。時間外手当がもらえないということは労基法の労働時間に関する規定が適用されないということですが,それに該当する人は管理監督者(概ね部長以上の役職の人)と機密の事務を取り扱う者および監視または断続的労働に従事する物です(労基法第41条)。課長でもその職責によって管理監督者に該当する場合がありますが,課長補佐以下は該当しません。なおある種の手当てが時間外勤務手当を支給しない代償として出されることもありますが,その場合も手当ての金額に相当する時間を越える分については時間外手当を支給する必要があります。

Q.仕事が多すぎて命令がなくても残業せざるを得ません。この場合超過勤務手当は出るのですか。
A.労働時間の把握の責任は使用者にあるのですから,明示的な命令をしなくても黙認していたら時間外勤務として扱われます。ただし,業務の中止が命じられた場合は別で,支給しなくても適法と判断されることもあります。また,個人の能力を問題にし,時間内に終わるべき仕事が終わらないのだからと労働者の責任にする使用者もいるそうですが,個人の能力に応じて適切な仕事量を与えるのは使用者の責任なので時間外勤務手当を減らす理由にはなりません。

Q.休日振替だと割増賃金が出ないと聞いたのですが。
A.休日振替は文字通り休日を別の日に変更してしまうのですから,その日に働いても休日労働になりません。それどころか,無断で休めば賃金カットを受ける可能性もあります。また,振替日を一週間以内において,週40時間の範囲内に収まれば時間外労働の割増賃金も不要です。このような制度ですから,使用者が恣意的に運用すべきものではありません。振り替える場合の具体的事由の明示とともに,一週間以上前に通告しておくことが必要でしょう。なお,振替日が一週間以上先になる場合は,週40時間を越える部分について割増賃金が必要です。

Q.代休と振替休日の違いは何ですか。
A.振替休日では振替日は事前に特定されていなければなりません。それに対して代休は休日に働いた分の賃金を支払う代わりに事後に休みを与えるという趣旨です。ですから割り増し部分の賃金は別途支給する必要があります。また,代休が賃金計算期間内に取得できなかった場合には,賃金として支払われなければなりません。そもそも,年休も完全に消化できないような状況で,安易に代休を与えて済ませようとするのは労働者の利益になりません。

Q.フレックスタイム制における超過勤務時間はどのように算定するのですか。
A.フレックスタイム制とは一定期間(通常は一ヶ月)に働くべき総所定労働時間(労使協定で決めます)を定めておき,労働者が自らの判断で一日の始業終業の時刻を決める制度です。1日の労働時間が8時間を越えても超過勤務にはならず,一定期間終了後に実労働時間を集計し労使協定による総労働時間との差を精算します。このとき,実労働時間が月の法定労働時間を上回っていれば割増賃金が必要になります。もし,実労働時間が所定労働時間を下回っていれば,その分を翌月の労働時間に上乗せするか,賃金カットを受けるかのいずれかになります。週一日の法定休日が確保できない場合,勤務が10時以降の深夜にかかる場合はそれに応じた割増賃金を支払う必要が生じます。

Q.学外で仕事するときの労働時間はどう決めるのですか。
A.労働時間を管理する者と一緒に働く場合など労働時間管理が可能な場合は,通常と同じく始業終業時刻を決めるという方法をとります。それができない場合は,一定時間働いたとみなす扱いも可能です。これを事業場外みなし労働時間制といいます。この一定時間には所定労働時間としても良いですが,業務の内容によって超過勤務をこめることも可能です。この時間数は労働者代表(過半数組合または過半数代表者)との協定で決めることもできます。

Q.宿日直の場合の労働時間はどう決められるのですか。
A.宿日直の時間は労働時間とはみなされません。建物の見回りをしたり電話の取次ぎをしても労働時間にはならないのです。ですから,時間外勤務手当の対象にはならず,宿日直手当の形で支給されます。ただし,宿日直の際に通常の業務は行えず,通常の業務をした時間は時間外勤務として別途処理しなければなりません。公務員では業務当直という制度がありましたが,これは認められていないのです。なお,宿日直を命じるには労使協定は不要ですが労働基準監督署の許可を得なければなりません。また,回数については原則として宿直は週1回まで,日直は月1回までです。


資料

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について(厚生労働省)
(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
 使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
イ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
 上記(2)の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。
ア 自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
イ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
ウ 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。

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