2004.1.9 |
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「人事異動・解雇・懲戒」 |
法人化によって一番大きく変わるのは人事異動・解雇・懲戒などの労働者の身分に関わる事項でしょう。公務員は「身分保障」があり、それを理由に公務員になったという人も少なくないと思います。しかし、法人化されたからといって身分が一挙に不安定になるという訳ではありません。上司が「君は首だ。明日から来なくて良い」等と言うことは基本的に認められていません。大事なのは労働法や過去の判例を知り、労働者の身分がどのように守られているかを知ることです。 もう一つ注意すべきは、人事異動・解雇・懲戒についての紛争が裁判に持ち込まれやすいことです。使用者には判例をよく理解した上で、そのような紛争を未然に防ぐ責任があります。今回の熊本大学就業規則(案)には、国家公務員法76条の当然失職規定を引き写して「当然解雇」なる概念を規定していますが、判例では禁固以上の判決が確定しただけでの解雇は認められていません。この規定による解雇が裁判に持ち込まれれば大学が敗訴する可能性もあります。 このように、労働者の身分に関する事項は公務員と一般労働者では扱いが大きく異なっています。今回はこの問題を取り上げます。なお、大学教員の人事異動・解雇・懲戒については、教育公務員特例法の趣旨にのっとって、本人の意向とともに教育研究評議会と教授会の議に基づいて行う必要があります。 Q.就業規則(案)では配置換え等について命令を受けたら拒むことができないとなっていますが、本当にそうなのでしょうか。 A.基本的に人事配置は使用者の権限であり、労働契約や就業規則などに根拠があれば労働者は配転命令を拒否できません。しかし、これには二つの制約があります。まず第一は、労働契約による制約です。私たちは労働契約に基づいて働くわけですから、労働契約で労働者の職種が限定されている場合は、職種の変更は一方的命令では行えません。例えば、看護師など特定の資格をもとに採用された者は職種を指定されていたと認められており、職種換えには本人同意が必要です。また、事務職から労務職への職種換えも、労働契約に反するとされています。二つ目は、権利濫用法理による制約です。権利濫用になるかならないかは、配転に関する業務上の必要性と、配転によって労働者が被る不利益とを比較して判断されます。例えば業務上の必要性に比べ労働者に著しい不利益がある場合は権利濫用になります。特に、住居移転や単身赴任が必要な場合なら使用者は本人の事情に配慮する必要があります(ILO156号条約「家族的責任を有する労働者条約」)。なお、配転手続きの妥当性も考慮されます。例えば、労働者への内示や意向聴取を行い、配転の内容や必要性を説明するなど、労働者に必要な情報を時間的余裕を置いて十分に提供する必要があります。 これに対して、企業間の人事異動である出向については労働の提供先が変わるのですから、一般に労働者の受ける不利益は大きくなります。出向を命じる際には、使用者は、一定の時間的余裕を置いて、出向内容や復帰について十分に説明し、労働者に必要な情報を提供する必要があり、それを無視して強行された出向命令は権利濫用になる可能性があります。なお離籍出向は形式的には労働契約の解約と新たな契約の締結ですから本人の同意なしにはできません。 Q.配置換等に不満がある場合にはどうすれば良いのですか。 A.就業規則等で配置換等を命じることがあると明記されている場合には、配置換等の拒否は懲戒の対象になります。しかも、戒告などの軽い処分では配置換等を受け入れることによる不利益より小さい場合もあり、解雇に至ることも多いのです。まず拒否をする前に、配置換等が必要な業務上の理由、人選の理由、配置換後の労働条件などを確認してください。そして納得できない場合は組合に相談してください。なお、組合員の配置換等については組合への事前通告と必要な場合には協議を行うよう求めています。 Q.休職の扱いについて公務員の時とどう変わりますか。 A.休職は病気休職、起訴休職、自己都合休職などの類型に分けられます。このうち公務員の場合と大きく異なるのが起訴休職です。労働契約という性質から在宅起訴など拘束を受けていない状況では労務の提供は可能なので休職にはできません。ですから、身柄の拘束を受け起訴休職になった人が保釈などで釈放されれば公判進行中でも復職の必要が生じます。ただし、犯罪行為が企業の業務と密接に関係していて、被疑者を勤務させることが企業の対外的信用、社内秩序の維持に支障をきたす場合は、身柄の拘束を受けていない場合でも休職にすることができます。 Q.解雇はどのような条件で行われるのですか。 A.解雇は使用者からの労働契約解約です。期限の定めのない労働契約の場合には30日前の予告で契約の解約ができます。30日の予告期間が取れない場合には、30日に不足する期間の賃金に相当する金額を支給することによって解雇できます。ただし、労働者に非がない場合の使用者側の都合による解雇は制限されています。例えば整理解雇(人員削減のための解雇)には、人員削減の十分な必要性があること、解雇回避の努力義務を尽くしたこと、解雇対象者の選び方が公正・妥当であること、労働者・労働組合へ説明・協議手続きを尽くしたことの4つの条件(解雇4要件)を満たす必要があります。 労働者側に非のある場合でも、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められなければ、解雇権の濫用として無効になります。就業規則(案)では(1)勤務実績が良くない場合、(2)心身の故障のため職務の遂行に支障があり、またはこれに堪えない場合、(3)その他職員として必要な適格性を欠く場合の三つを上げていますが、使用者側には教育・訓練や配置転換を通じて解雇を避けるための義務があります。この努力をせずに一方的に解雇することは、解雇権の濫用とされています。 Q.有期雇用職員の雇い止めは、使用者の判断で自由に行えるのですか。 A.有期雇用職員の労働契約は期限を定めた契約なので、期間満了によって解約されます。ただし、契約の更新が期待できる状況がある場合には、雇い止めといっても解雇と同様の手続が必要です。特に1年を越えて雇用されている職員については、期間満了が明示されている場合を除き,雇い止めには30日前の予告期間と、契約期間満了以外の雇い止め理由の明示が義務付けられています。(厚生労働省「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」)なお、契約の更新が繰り返されている場合には実質的に期限の定めのない雇用とみなされ、解雇4要件などに即した扱いが必要になります。 Q.裁判で禁固以上の刑が確定すると解雇になるのですか。 A.そういうわけではありません。公務員においては国家公務員法第38条で欠格条項が規定されており、それに該当すれば当然失職するという仕組みになっています。就業規則(案)でも当然解雇という名称で同じ規定がなされています。しかし、労働法下に当然解雇という概念はありません。禁固以上の刑が確定しても、執行が猶予されていれば労務の提供には支障がないので、そのことのみで解雇することはできません。ただし、有罪が確定したということは違法行為の事実があったと法的に決まったわけですから、懲戒処分の対象になることはありえます。もっとも、犯罪行為について懲戒が許されるのは、その「行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」に限られます。 Q.業務外の私的な行為も懲戒の対象になるのですか。 A.その行為が企業の対外的信用を傷つけたり、企業の円滑な運営に支障をきたしたりする場合は懲戒の対象になります。ただしどのような行為がこの二つの場合に相当するのかについては判例は概ね厳格な扱いをしています。また、労働者の企業内における地位・職務も考慮されており、同じ行為であっても地位・職務によって懲戒の有効性の判断が分かれることもあります。 Q.懲戒解雇だと退職金は支給されないのですか。 A.就業規則(案)ではそのように規定されていますが、これも問題のある規定です。判例では懲戒解雇を認めた上で、退職金不支給を無効としているものも多くあります。懲戒解雇すべきか否か、退職金を支給(減額支給も含めて)するべきか否かは別の基準で検討する必要があります。 今回をもって「法人化後の労使関係Q&Aシリーズ」は終了します。分かりづらい部分も多々あったと思いますが、疑問については個別にお答えしますので組合にお尋ねください。今後とも組合活動へのご理解ご協力をお願いします。
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