No.30
2004.1.13
熊本大学教職員組合
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5年間に全国で1,274億円,熊大で20億円以上の予算削減の恐れ
――最悪の事態か? 「国立大学法人」

 いよいよ2004年――4月から国立大学は「国立大学法人」に移行します。熊本大学では,就業規則案の作成,過半数代表者の選出,法人制度設計委員会『国立大学法人熊本大学の制度設計(二次案)』の説明会など,法人化に向けた準備が進められています。しかし,各国立大学が法人化の準備に努める一方で,「国立大学法人」の前途には大きな暗雲が立ちこめています。それは,2005(平成17)年度から運営費交付金の算定ルールを変更するという問題(以下,運営費交付金算定ルール変更問題と略す)です。すでに『赤煉瓦』27(2003.12.15)で問題の概要をお伝えしましたが,「国立大学法人」の存立基盤を脅かす重大問題ですので,問題の性格・経過を改めて確認しておきます。

運営費交付金の算定ルールの変更
 従来,国立大学の人件費など必要不可欠な予算は,「義務的経費」と呼ばれ,使途が限定されるものの,財政支出が抑制されても一律削減の対象にはならないものでした。ところが,政府は法人化を契機に,各省庁が政策判断で増減できる「裁量的経費」に切り替え,2005年度から前年度比2%削減の対象にしようとしています(前年度比2%削減というのは,財務省が示した2005年度予算の概算要求基準=シーリングによるもので,「裁量的経費」は前年度比2%削減とされています)。さらに,先行の独立行政法人と同様に前年度予算に「効率化係数」をかけて毎年数%ずつ削減できる仕組みを設けようとしています。
 こうした政府の動きは,文部科学省の当初の意向とも異なっており,財務省の強硬な方針を受けてのものです。財務省は,予算配分方法変更の理由を「大学より先に独立行政法人になった組織に配分している予算も同じ性格。国立大学だけ特別扱いはできない」と説明しています(『日本経済新聞』2003年11月11日付)。
 しかし,これは絶対に認められない言い分です。「国立大学法人法案」の国会審議において,“国立大学の法人化の目的は行財政改革ではないか。独立行政法人化と同じではないか”という追及に対し,政府は“教育研究の発展のためであり,行財政改革が目的ではない。独立行政法人とは異なり,教育研究の特性を踏まえたものとする”と繰り返し答弁してきたからです。また,「法人化前の公費投入額を踏まえ,従来以上に各国立大学における教育研究が確実に実施されるに必要な所要額を確保するよう努めること」(参議院文教科学委員会附帯決議,第12項)という国会審議の附帯決議に明らかに違反しており,そもそも「国立大学法人法」第3条に明記された「教育研究の特性への配慮」義務に違反しています。

具体的な削減額――全国で1,274億円,熊大で20億円以上
 では,政府が目論む運営費交付金算定ルールが実現されると,具体的にどのような影響が出るのでしょうか。国立大学協会会長・東京大学学長の佐々木毅氏は,「仮に現在,国立大学に投入されている国費が毎年1%,5年間にわたって削減された場合,その額は規模の小さな大学が20以上消滅する額に達する。この額は全国立大学の工学部全体の半分に達する額であり,医学部の3分の1が消滅する額に相当する」と述べています(『朝日新聞』2003年12月2日付,「国立大法人化――予算削減では失速する」)。
 文部科学省の予算全体にかかるマイナス・シーリングの取り扱い(前年度比2%削減)については,未だ不明であるため,財務省案に見られる「効率化係数」の主要な項目に限って,全国立大学への影響額を試算してみましょう。単年度で計算すると,一般管理費と教育研究費は「効率化係数」がそれぞれ3%・1%とされているので30億円と105億円の削減,病院収入には2%の「経営係数」がかけられるため119億円の削減(「経営係数」とは,病院の経営努力によって毎年度2%の収入増があることを想定したもので,その分の病院の運営費交付金は削減されます),合計244億円の削減となります。5年間の影響額を総計すると,1,274億円(内訳は,一般管理費:140億円,教育研究費:515億円,病院収入:619億円)にのぼります。
 熊本大学について試算すると,単年度で一般管理費・教育研究費が1.8億円,病院収入が2.8億円の削減となり,5年間の総計では20億円以上の額が削減されます。これは熊大の2学部の予算規模に相当する額です。
 念のため確認すれば,これはあくまで「効率化係数」による削減額にすぎず,マイナス・シーリングの取り扱い次第によってはこれ以上の予算が削減されることになります。
 かくも莫大な予算が削減される運営費交付金算定ルールが実現したならば,第1期中期計画期間中に,多くの国立大学,とりわけ単科大学や小規模大学の存立が危うくなってしまうのは確実です。現在,財務省は授業料の標準額を2年ごとに値上げするルールを準備していると伝えられており,国民負担が増大する危険性も同時に高まっています。さらに,内閣府の総合規制改革会議では,「国立大学法人の民営化スケジュール」が問題提起され,教育研究WGで検討が始まっています(2003年11月6日,第6回総合規制改革会議)。こうした政府の目論見を放置すれば,国立大学の独立行政法人化問題が浮上して以来,我われが反対の理由として指摘してきた最悪の事態が現実化してしまいかねません。
 なお,2004(平成16)年度予算については,移行期ということで義務的経費的な扱いで概算要求を出すことができ,2003(平成15)年度と「実質的同水準以上」の予算を確保したと文部科学省は説明しています(2003年11月12日,国立大学長懇談会における高等教育局長の説明)が,法人化に伴う各種保険料など間接費用分は一部しか積算されていない(病院損害保険,法定監査人費用などが積算されたに止まり,雇用保険や銀行手数料などは計上されていない模様)ため,各大学に配分される予算が本当に2003年度と「実質的同水準以上」確保されたのかどうか注視する必要があります。

あいつぐ国大協・部局長の要望書――結論は1月末に先送り
 運営費交付金算定ルール変更の問題が明るみとなったのは,昨年10月下旬のこと。国立大学協会は,直ちに対応し,11月12日の総会で,「国立大学法人」が一般の独立行政法人と同様に運営費交付金を削減されてはならないことを指摘した「国立大学関係予算の充実について」と題する要望書を決議し,会長名で政界・関係省庁に提出しました。
 この問題の危機感は理系を中心とした大学管理者の間に広がり,11月16日に理学部系の部局長(49名,本学の河野理学部長を含む)が衆議院文部科学委員・参議院文教科学委員へ,17日に農学部系の部局長(42名)が文科相・財務相へ,28日に医学部系の部局長(42名,本学の阪口医学部長を含む)が財務相へ,「国立大学等への運営費交付金についての要望書」を提出しました。
 さらに,国大協理事会は,12月6日,運営費交付金算定ルールの変更を導入・実施するならば,学長「指名の返上をも念頭に置きつつ,重大な決意を持ってこの文書を提出するものです」とした「運営費交付金の取り扱いについての要望」をとりまとめ,8日に文科相へ提出しました。東京大学の部局長たちは,この要望を全面的に支持する意見表明を9日に発表し(「国立大学協会の緊急要望に関する意見表明」),11日の国大協の臨時総会では,理事会の要望書を全会一致で採択しました。
 こうした国大協を中心とした国立大学関係者の努力は一定の効を奏し,当初予定されていた12月24日の閣議決定での結論は,1月末まで先送りとなりました。また,12月18日開催の国立大学長懇談会で,文部科学省は,@削減率を縮減する,A効率化になじまない教育研究の基幹的部分を対象外とするという方針で財務省と折衝中であることが示されました。

12月19日,熊本大学学長懇談
 我われ熊本大学教職員組合は,運営費交付金算定ルール変更問題について,12月19日に本学のア元学長と懇談を行ない(約40分間),12月18日の国立大学長懇談会の議論の内容,今後の学長ならびに国大協の方針などについて説明を求めました。その際,@国大協は,文部科学省のように「効率化係数」の縮減を求めるのではなく,「効率化係数」を適用しないことを求める原則的立場を貫く意向であること,A熊本県内の各方面に積極的に働きかけを行なったが,理解を得るのは難しい感触であることなどの説明を受けるとともに,今後の働きかけのあり方について意見交換を行ないました。

この1月こそが山場!
 以上のように,運営費交付金算定ルール問題の結論は,国大協を中心とする国立大学関係者の努力によって,1月末まで先送りとなりました。文部科学省は1月上旬に各地区ブロックごとに説明会を開催する予定と伝えられています。まさに,この1月が山場です。
 確かに,大学の問題は社会の広い理解が得られず,厳しい眼があるのも事実です。しかし,国大協をはじめとする国立大学関係者の主張はけっして孤立したものではありません。年末には,問題の重要性を認識し,国立大学関係者の主張に理解を示す新聞の社説がいくつか発表されています。一節を紹介しておきましょう。
○ ほかの行政機関の法人化と同一視しないで,大学の教育・研究機能に悪影響を及ぼさないような配慮が欠かせない。国会での法案審議でも再三強調されたことである。財務省の一律削減方針に国立大が反発するのは当然のことだ。教育・研究費も含めて毎年、総枠を削減していくという手法では,やはり乱暴すぎる。文部科学省がこのまま財務省方針を受け入れるとなれば,国立大側から背信行為とみなされても仕方がない。国立大の新生への意欲が一気になえるだけだ。文科省は財務省に再考を迫るべき重い責を負っている。 ……第三者評価の仕組みが動きだしたばかりというのに,一律の減額方針が示されるというのでは,国立大関係者が憤るのも無理はない。「文科省支配」をうんぬんする以前に,新しい評価システムが無視されている。(『河北新報』2003年12月26日付,社説「国立大予算――一律削減では乱暴すぎる」)
○ ……法人化を承認した国会は,大学の教育研究の水準に十分に配慮し,必要な予算はこれまで以上につけるべきだという付帯決議をした。官僚の都合で大学の予算や活動が左右されてはならないからだ。財務,文科両省はそういう国会の意思を余りに軽んじてはいないか。 国際的な大競争を生き抜いていくうえで,基礎研究がいかに大事かは言うまでもない。それを担っているのが国立大学だ。すぐに成果が出ない分野にも安定した予算措置は欠かせない。特殊法人から移行した独立行政法人とは別の法人とするのも,そうした特質を重視したからだ。旧特殊法人が予算の一律削減をしているからといって,同じことを迫るのは無理がある。(『朝日新聞』2003年12月29日付,社説「国立大予算――角を矯めて牛を殺す愚」)

 大学人の責務として,政府の無謀な策動には自信をもって批判と反対の声を挙げていきましょう。

国公労連主催「県国公加盟国立大学教職組交流決起集会」のご案内
  日時:1月31日(土)11:00〜16:00
  場所:農林水産省共済南青山会館

  • 学長懇談の際,大学当局から提供していただいたものをはじめ関連資料は組合事務所に揃っています。組合員に限らず,必要な方は組合事務所までご一報ください。
  • 運営費交付金算定ルール変更問題をはじめ法人化問題の情報・分析は,「新首都圏ネットワーク」のHP(http://www.shutoken-net.jp/)が迅速です。こちらも是非ご覧ください。

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