No.36
2004.2.16
熊本大学教職員組合
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法人化後は教員任期制を無原則に導入か!?
――外国人教師処遇問題をめぐって――

 任期制・年俸制導入など設置者側からの一方的な「改革」によって混乱を極める東京都立大学が新設分野の教員公募(教授・准教授の計9ポスト)を行なったところ,平均倍率6倍という異例の低倍率の応募に止まった(中には応募者が1名のポストもあった)と報じられています(『毎日新聞』2004年2月6日付)。これは,任期制が優秀な教員の確保という観点からも問題のある制度であることを明確に物語っています。
 現在,熊本大学では発生医学研究センターとエイズ学研究センターの計23のポストで教員任期制が導入されています(発生研は2001年4月から導入,エイズ研は2002年4月から導入)が,法人化後,本学では教員任期制の問題をどのように扱っていくのでしょうか。
 法人制度設計委員会『国立大学法人熊本大学の制度設計(三次案)』(2004年1月23日)には,「任期制の導入については,各学部等において検討し,任期制が有効な教育研究組織について導入することができる」(人事労務部会,T-2-(3)教員の任期制,18頁。下線は引用者)とあります。これは,明記されてはいないものの,下線部の記述から,「大学の教員等の任期に関する法律」(以下,「大学教員任期制法」と略す)に基づき,任期制が有効な学問分野であるか否かを各部局・各教育研究組織で慎重に検討したうえで,任期制を導入するかどうか決定していくことを意味すると考えられます。
 しかし,現実にはこれとは異なる形で教員の任期制が導入されようとしています。その動きは,昨年末以来,浮上した法人化後の外国人教師の処遇問題をめぐって明らかとなりました。

昨年12月25日の評議会「決定」
――法人化後,外国人教師は3年任期の任期付教員に――

 外国人教師とは,主に一般教育の外国語科目,専門教育科目の授業を担当する外国人の教員で,現在,本学には7名の方がおり,文学部に英語担当1名・仏語担当1名・独語担当1名・中国語担当1名,法学部に独語担当1名,教育学部に英語担当2名が所属しています。彼らは,一般の教員とは異なり,1年任期(更新あり)で任用されています(外国人教師は,「国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法」に基き任期付任用されている外国人教員=教授・助教授・講師・助手とも異なりますので,ご注意ください)。
 外国人教師の方々は,外国語の一般教育・専門教育に必要不可欠な役割を果たしています。しかし,法人化に伴い外国人教師の制度が廃止されることになった(2004年度は移行措置として前年度と同様に措置されますが,05年度以降は廃止されます)ため,法人化後,外国人教師をどのように処遇するかが全国の各国立大学の課題となっています。
 本学では,昨年12月25日の評議会で法人化後の外国人教師の処遇を「決定」したとされています。その主な内容は次の通りです。

@ 現在の7名の雇用枠は全学で確保し,当面の間,現在外国人教師を配置している部局で運用する。
A 3年任期の有期雇用契約の常勤教員とし,助教授として雇用する。再任は2回に限り可。
B 現職の外国人教師(2004年度限りで退職する2名を除く5名)については,2005年度以降,Aの待遇に切り替える。

 正確を期すために,2003年12月25日の評議会資料「現在の外国人教師等の法人化後における取扱いについて(案)」のうち,待遇に関わる部分を引用しておきます。
2 現に在職する外国人教師が退職した場合の後任については,有期労働契約の常勤教員として外国人を雇用するものとする。
 この場合,給与面等における優遇措置は行わないものとする。
3 現に在職する外国人教師で,平成15年度限り退職する2名を除く外国人教師5名については,平成16年度は引き続き外国人教師として雇用するものとするが,当該外国人教師と早急に協議をした上で,平成17年度以降は有期労働契約の常勤教員に切り替える取扱いとする。
(身分)
4 有期労働契約の常勤教員とし,助教授のポストとする。
(雇用期間)
7 上記4のポストによる雇用は,期間3年の有期労働契約とする。
ただし,期間満了時において部局での審査の結果,雇用を継続することが必要であると判断される場合は,2回に限って再契約できる。

 一口にまとめれば,法人化後も現在の外国人教師の枠を確保するが,3年任期で再任は2回まで可能な任期制(最長9年間)の助教授として扱い,それは現職の外国人教師についても2005年度以降は同様である,というものです。
 法人化後,現在の外国人教師のポストについて任期制を導入するのであれば,当然,そのための規則を定めなければなりません(「大学教員任期制法」の第3条に,任期制を導入する必要が認められる場合は規則を定めなければならないことが明記されています。2001年4月の発生研での教員任期制導入に際して,規則制定以前の段階で教員公募を行ない,現職教員から同意書を得るという法律違反を犯した経験のある熊本大学当局は,その重要性を十分に認識しているはずです)。2003年度限りで退職される方が2名おり,後任人事を行なう必要から,それは急がねばならないはずです。ところが,不思議なことに未だに規則は制定されていません。その理由は,2004年1月28日の文学部教授会の場で明らかになりました。

労働基準法第14条適用に基づく任期制導入の企て
 文学部教授会からの問い合わせに対して人事課は,“現在の外国人教師の任期付教員への切り替えは,「大学教員任期制法」に基づくものではなく,労働基準法第14条を踏まえた法人化後の就業規則案の第7条によるものであることが予定されているため,規則を定める必要はない”旨を回答しました。
 確かに,法人化後の就業規則案の委任規則である「国立大学法人熊本大学職員雇用規則(案)」(2004年1月26日)には,任期付職員について次のようにあります。

(任期付職員)
第7条 学長は,本学の管理運営上又は教育研究上必要と認める場合は,労基法第14条の規定に基づき、任期を定めて職員を採用することができる。
第8条 学長は,大学の教員等の任期に関する法律(平成9年法律第82号)に基づき,任期を定めて教授,助教授,講師,及び助手(以下「教授等」という。)を採用することができる。
2 前項の任期は,国立大学法人熊本大学教員の任期に関する規則の定めるところによる。

 なお,第7条にある労働基準法第14条の規定(2003年7月4日改正,2004年1月1日施行)は次の通りです。
第14条 労働契約は,期間の定めのないものを除き,一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは,3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては,5年)を超える期間について締結してはならない。
(1) 専門的な知識,技術又は経験(以下この号において「専門的知識等」という。)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度のの専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
(2) 60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)

 法人化後の任期付職員について第7条と第8条の二つの規定があり,両者の関係は一般規定と特別規定として,すなわち常勤の教員(教授・助教授・講師・助手)については「大学教員任期制法」に基づく第8条を適用し,教員以外の職員については労基法第14条に基づく第7条を適用すると理解するのが自然です。冒頭に挙げた制度設計委員会『国立大学法人熊本大学の制度設計(三次案)』の記述からも,そのように理解できるでしょう。
 ところが,人事課は,外国人教師の任期付教員への切り替えは第7条を適用するといいます。その理由を“外国人教師という特殊な職務を継承するものであるため”としています。現在の外国人教師が一般の教員と異なる特殊な職務を果たしている面があるのは確かです。しかし,法人化後は常勤教員として,しかも助教授として雇用するというのですから,任期制とする場合は第8条が適用されて然るべきです。人事課の説明は,この点,説得力がありません。

「大学教員任期法」の理解を欠いた人事課見解
 人事課の説明の背景には,労働基準法が改正されたのであるから,法人化後は,教員についても労基法第14条を適用して任期制を導入することができるという考えがあるのかもしれません。事実,2004年2月6日の「就業規則に関する過半数代表者の意見聴取」の場において人事課長は,“「大学教員任期制法」を適用できない場合に,「雇用規則(案)」第7条に基づいて教員の任期制を導入する”という旨の見解を示しています。
 しかし,これは「大学教員任期制法」の性格を十分に理解していないために生じる見解です。そもそも,「大学教員任期制法」は,「国公私立の大学を通じて,各大学の判断で教員に任期制を導入できるようにする」(1997年5月9日衆議院本会議における趣旨説明)ための特別法としての性格を有しています。特別法としての性格は,期間の定めのない任用を原則とする公務員法制に対する特例,原則として1年を超える期間の労働契約を禁止していた以前の労基法第14条に対する特例という意味だけに止まりません。いうまでもなく,憲法第23条・教育基本法第6条の規定によって,大学教員には教育研究の自由の実現である身分保障の確立が求められていますが,任期制は本来的に大学教員の教育研究の自由を脅かす恐れ=憲法違反の危険性があるものです。「大学教員任期制法」は,この危険性を回避するために,@「先端的,学際的又は総合的な教育研究」など多様な人材が特に求められる職,A研究専念型の助手の職,Bプロジェクト研究の職の三つの場合に限定し,責任をすべて大学の自主的選択=大学の自治に委ねる形で,任期制を導入できるようにした法律です。任期制を導入する場合の大学の責任とは,任期付きとするポストの職務内容が上記の三つの場合に適合するかどうかを検討し,任期制導入の合理的必要性を具体的に明らかにすることです。それには,学問分野の特性によるものである以上,評議会や研究科・学部はもちろんのこと,学科・講座レヴェルにまで及ぶ慎重な検討が不可欠となります(2001年4月の発生研での教員任期制導入に際して,医学部教授会での意志決定を経ないまま導入を決定するという過ちを犯したことのある熊本大学当局は,この手続きの重要性を認識しているはずです)。大学教員の任期制導入は,そうした手続きを経て(憲法違反の恐れを払拭して)はじめて可能になるものです。念のため言えば,「大学教員任期制法」第5条の規定が示す通り,以上の性格は私立大学の場合にも共通します。

「大学の教員等の任期に関する法律」の関係箇所を引用しておきます。
第4条 任命権者は,前条第1項の教員の任期に関する規則が定められている大学について,教育公務員特例法第10条の規定に基づきその教員を任用する場合において,次の各号のいずれかに該当するときは,任期を定めることができる。
1 先端的,学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ,多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき。
2 助手の職で自ら研究目標を定めて研究を行うことをその職務の主たる内容とするものに就けるとき。
3 大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職に就けるとき。
(私立の大学の教員の任期)
第5条 学校法人は,当該学校法人の設置する大学の教員について,前条第1項各号のいずれかに該当するときは、労働契約において任期を定めることができる。
2 学校法人は,前項の規定により教員との労働契約において任期を定めようとするときは,あらかじめ,当該大学に係る教員の任期に関する規則を定めておかなければならない。

 以上確認した「大学教員任期制法」の趣旨,法体系の整合性を踏まえれば,法人化後も(私立大学の場合であっても),大学教員=教授・助教授・講師・助手に対する任期制導入は「大学教員任期制法」に基づいて行なわれるべきものです。人事課長のいう“「大学教員任期制法」を適用できない場合”とは,教員に任期制を導入できないことなのです。人事課長の見解は,“特殊な職務”を口実として恣意的かつ無際限に教員任期制を導入し,教育研究の自由を奪う事態を招く途をひらくものであり,断じて認められません(そもそも,「大学教員任期制法」に基づく場合であっても,任期制に適合する“特殊な職務”のポストだからこそ任期を付けることができるのです)。

審議に瑕疵(かし)のあった評議会「決定」――「決定」は無効とされるべき
 任期制導入の際に求められる正当な学内審議のあり方は,上述の通りです。では,外国人教師の任期付教員への切り替えはどのような形で審議されたのでしょうか。主に一般教育の外国語科目,専門教育科目を担当することからすれば,一般教育の教科集団,所属の学部教授会・学科・講座において,どのような処遇が適切か検討を重ねて当然です。しかし,一部の学部を除き,学部内や一般教育の教科集団での検討は行なわれないまま,運営会議と評議会の審議のみで「決定」されてしまっています。
 しかも,昨年12月25日の評議会の「決定」自体にも重大な問題があります。評議会では,外国人教師の任期付教員への切り替えは労働基準法第14条に基づく「雇用規則(案)」第7条適用のものであることが一切説明されないまま,審議され「決定」に至ったのです。したがって,1月28日の文学部教授会で明らかにされるまで,部局長・評議員でさえ,「雇用規則(案)」第7条適用であることを認識していませんでした。一体,どこの誰が外国人教師を継承したポストは「大学教員任期制法」が適用できない“特殊な職務”のものと判断したのでしょうか。問題の重要な性格を知らされないまま「決定」の責任を負わされる評議会構成員は,このまま事態を放置するつもりでしょうか。昨年12月25日の評議会「決定」は,審議に重大な瑕疵があったものである以上,当然,無効とされ,撤回されるべきです。
 それにしても,なぜ熊大当局は労基法第14条に基づく「雇用規則(案)」第7条適用であることを評議会で説明しなかったのでしょうか。これでは,法人化後,労基法第14条に基づき無際限に教員任期制を導入するための「陰謀」を企て,外国人教師の任期付教員への切り替えをその先鞭としたと見られても仕方ないのではないでしょうか。

当事者への誠実さを欠いた熊大当局の対応
 法人化後も勤務を希望する5名の現職外国人教師の中には,長年に亙って本学の教育に尽力されてきた方々がおられます。運営会議・評議会は,外国人教師の所属の学部教授会・学科・講座,一般教育の教科集団での検討を欠いたまま,一体どのようにしてこれまでの貢献を評価し,3年任期(再任は2回に限り可)の助教授という処遇が適切と判断したのでしょうか。しかも,現職の外国人教師は1年任期の契約を繰り返しており,労働法の下では実質的に期間の定めのない雇用と理解されるものです。こうした職員を更新回数を限定して労働契約することは,労働条件の不利益変更にあたります。
 運営会議・評議会は,昨年12月25日の「決定」以前の段階で,現職の外国人教師に対する説明や意見聴取を行なっていません。12月25日の評議会資料「現在の外国人教師等の法人化後における取扱いについて(案)」には, 法人化後も勤務を希望する外国人教師について「当該外国人教師と早急に協議をした上で」とあります。「協議」とは言いますが,外国人教師は1年任期で任用されていますから,実質は評議会で「決定」した処遇条件に合意するか退職するかを迫るものにすぎません。昨年12月25日の評議会で“学長は自ら現職の外国人教師に説明に赴く”と説明したと聞きます。しかし,未だに学長自らの説明は行なわれていません。また,熊大当局からの説明が行なわれたのも2月3日・4日になってからです。「決定」から1ヶ月以上も放置しておいて,一体,何が「早急に」なのでしょうか。熊大当局は,当事者への誠意さえも失っているとしか見えません。

評議会「決定」を撤回し,早急に審議し直すべき
 以上述べたように,法人化後の外国人教師の任期付教員への切り替えは,任期制導入の手続き,学内審議のあり方,当事者への対応のいずれについても重大な問題があるものです。我われ熊本大学教職員組合は,昨年12月25日の評議会「決定」を撤回し,早急に法人化後の外国人教師の処遇を本来あるべき手続きで審議し直すことを求めます。 

 法人化にあたって任期制に関わる問題として,ほかに現在任期付任用されている外国人教員をどのように処遇するか(外国人教員に任期を付す根拠であった「国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法」は,法人化後は適用されませんが,熊本大学としてどのように処遇するか,まだ正式に決定されていません),法科大学院の実務家教員(法律家の教員)をどのように処遇するかがあります。管理運営の不手際で不利益を被るのは,当事者だけではなく,現場の教職員,そして何よりも学生です。熊本大学当局・関係者が大学人としての責任と良識をもって問題に対処することを求めます。

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