2004.3.12 |
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各職場の実態に即した検討なし、残業時間を減らそうとする意志があるのか |
3月10日の労働者代表と使用者との協議において、労基法第36条に基づく時間外・休日労に関する労使協定書(以下、簡単に36協定と呼びます)の素案が示されました。しかし、その内容はあまりに包括的で問題点も多く、労働時間短縮という労基法の趣旨を逸脱するものです。36協定が結ばれなければ、使用者は時間外労働の命令ができなくなりますから職場に大混乱を与えます。労働者代表は、労基法の趣旨を逸脱する協定に署名するか否かの厳しい選択を迫られたといえます。このニュースでは使用者案の批判を行います。 【注意】36協定が結ばれなければ時間外労働をやっても割増賃金が貰えないのではないかという疑問を時々聞きますが、そんなことはありません。実労働分について賃金を支給するのは使用者の義務です。ただし、協定がなければ時間外労働をさせた使用者は刑事責任を負うことになります。労基法では6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金と定めています。 問題点1 時間外労働をさせる必要のある事由の具体性 36協定では、時間外労働をさせる必要のある具体的事由を示さなければなりません。使用者案第1条では(1)から(5)まで5つの事由をあげていますが、(1)の入試を除いては(2)が期限までの業務(3)が季節的な業務の集中(4)が臨時の業務(5)がその他でいずれも具体性に乏しい事由です。労働基準局が監修した「国立大学法人化に向けた就業規則のポイント」(以下、「ポイント」として引用します)では、臨時の試験業務、月末の決算業務などが例示されていますが、これが具体的事由の本来のあり方です。具体的ですから事由によって対象となる労働者数も変わりますし、延長できる時間数も変わります。使用者案は具体性がないので、対象となる労働者数は(大学教員を除く)全労働者と思われますし(第2条に記載する予定ですが空欄になっています)、時間数も労基法の定める上限時間になっています。 このような案が作られた背景には、どういう場合に時間外労働を命じるのか具体的なレベルでまったく検討されていないということがあります。大学には多様な職場があります。学部の総務係ではどういう場合に時間外勤務が行われその時間数は何時間必要か、教務企画係ならどうか、工学部の技術部はどうかなど、それぞれの実情に即して具体的に検討しなければならないはずですがその作業を一切行っていないのです。 今後、実労働時間の短縮とサービス残業の全廃は法人経営上の最重要課題の一つです。それを行うためにも各職場でどのような事情で残業が行われているのか、それはどうすれば削減できるのかを具体的に検討し、なお恒常的な残業が無くせないという場合は業務量に見合った人員が配置されていないということですから、パート職員を採用するなどの措置を行わなければなりません。公務員での「必要な人は定員で配置してある」という建前のもと人は雇えないと思っている人もいるかもしれませんが、割増賃金を支払うよりもパート職員を雇ったほうが経営上も有利であり、かつ雇用の確保という社会的責任を果たすのにも有効だということを忘れないでください。 問題点2 時間外労働の限度時間 36協定では延長することができる時間を1日、1ヶ月、1年で定めることになっています。使用者案の第3条1項では1ヶ月と1年の数字に労基法の定める限度いっぱいの数字を書き込んでいます。これは具体的な検討をまったく行っていないのですから限度いっぱいに書かざるを得ないためです。しかし、驚くべきは1日の限度時間を6時間としていることです。確かに労基法は1日の上限時間を明記していません。有害業務の場合に2時間という規定があるだけです。しかし、この6時間という規定は異常です。現状はそれだけやることがあるのだからという理由で大雑把に入れたものでしょうが、時間外労働を縮減しようとする意思が見受けられません。 時間外労働の上限設定は職場の実態に即した検討がなされなければなりません。その結果が6時間になったというのなら理解できますが、その数字も示さずに6時間といわれても理解できるはずがありません。なお、上限設定を短くしてしまったらその分しか時間外手当が出ないと思われる方がいるかもしれませんが、それは誤解です。時間外手当は払わなければなりませんし、払ったとしても使用者が刑事責任を負うということです。 もう一つ問題なのは年間変形労働時間を適用される職員についての記載がないことです。この場合1年間の限度時間は320時間ですので、このままでは労基法に違反します。 問題点3 限度時間の例外規定(エスケープ協定) 使用者案の第3条2項では「臨時に業務が集中するなどの理由により本学の運営に支障をきたすとき」は労働者代表との協議を経て限度時間を1日8時間一ヶ月72時間まで延長できるとしています。このような規定は「特別条項つき協定(通称エスケープ協定)」と呼ばれていますが、一部企業で無原則な運用がなされたため、今年4月から臨時的な場合に限るよう徹底するとされています。 エスケープ協定にはいくつかの条件があります。適用される特別な事情をできるだけ具体的に定めること、限度時間を越える一定の時間を定めること、限度時間を越えることのできる回数を定めることなどです。しかし、「臨時に業務が集中」というような理由は特別な事情とは認められていません。また限度回数についての記載がなくエスケープ条項の要件を満たしていません。そのつど労使協議を行えば良いという発想でしょうが、現時点で具体的事由を示せないのであればこの条項は撤回すべきです。 そもそも一日の限度時間を6時間としておいてさらにそれを越える8時間という例外規定を置くなどということが許されるはずはありません。 問題点4 大学教員の時間外労働の問題 皆さんもご存知のように大学教員には入試業務を除いて時間外手当は支給されません。使用者案でも大学教員に対し時間外労働を命じるのは入試業務に限るとしています。しかし、これには重大な問題があります。労使協議で使用者側が述べたように入試業務が正規の勤務時間内に行われたら時間外手当は出なくなります。日曜日の試験監督なら手当が出るかもしれませんが、これも振替休日の対象事由になるので時間外勤務になる保証はありません。 そもそも、入試手当という制度がないために時間外手当で措置していたのですから、法人化を機に新しく手当をつけるべきです。大学院の入試に合わせて制度化を求めます。間に合わない場合には額を決め形式的に時間外労働の時間を割り振ることにより対応することを求めます。 なお、大学教員の労働時間の問題は教員の業務の特性、従来の慣習を踏まえて総合的に検討する必要があります。学外における自主的な勤務形態や、勤務時間外の施設利用を制度化するのが望ましいと考えていますが、組合としても教員の皆さんの意見を聞きながら具体的提言を行っていきたいと思います。 |