2005.8.24 |
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私たちをめぐる情勢 高等教育に対する公的財政支出の国民総生産に占める割合がOECD(経済協力開発機構)加盟国平均値の半分にも満たないこの国で、大学破壊が着々と進行しています。より正確には、高等教育に対する国の責任を軽減しようとする政策が軌道に乗り、国立大学潰しに拍車が掛かっている状況にあると言うべきでしょう。公的財政支出がOECD加盟30国中29位という恥ずべき事実は、2001年、すなわち法人化以前におけるこの国の高等教育の実態を映したものです。政府は法人化に先立ち、教育研究費、施設の整備費等、大学の教育研究機能の維持・改善の基盤をなす予算の縮小、定員削減や俸給水準の引き下げによる人件費の抑制を、国による統制の及ぶ範囲において押し進め、各国立大学の基礎体力を極限まで低下させたのです。行財政改革を実現する上で、扱いやすく、容易に切り捨てることのできるサイズにまで国立大学を圧縮するという行動目標は周到な計画の元に実施され、法人化以前に達成されていたのです。分断化・コンパクト化された国立大学は、既にこの時点で、劣悪な教育研究環境、業務量の増大・偏重に伴う労働条件の悪化、雇用不安といった深刻な問題を抱えていました。 本来、このような教学面、組織財政面の問題を解消し、高等教育を維持・充実させる責任は国が負うべきものです。しかしながら政府は、2004年4月に実現した国立大学の法人化と同時に、中期目標・中期計画という名の制御装置を設けることで各大学への統制を強めつつも、少なくとも制度上は、国民に対する国の責任の放棄を首尾良く成し遂げたのです。これにより、全国89の国立大学は、教育研究の充実という大学本来の使命に加え、組織の経営全般にわたる重責を負うことになりました。権限の一極集中、責任の分散というこの新たな構図を象徴する事例が、授業料標準額の引上げを前提とする17年度運営費交付金の減額に前後し、ほとんどの大学で実施された学費の値上げです。文科省政令によって規定されている授業料標準額はあくまでも標準であり、実際の授業料は標準額の110%を上限として各法人の判断により決定されます。しかしながら、運営費交付金は、算定ルールに従って予め減額された必要経費から、81億円の標準額増額分を水増しした授業料収入等を差し引くことにより算出されます。したがって、授業料改定の見送りは収入減に直結し、中期計画に基づく年度計画の実現を困難にするため、各法人の取りうる選択肢とはなりえません。教育基本法の精神に反し、国民や学生が教育を受ける機会を損なう行為を行った責任は、授業料値上げを決定した各法人に置かれます。各法人は、その説明責任を果たすべく学生や学費負担者に向けた文書を一斉に公開しましたが、標準額改定の理由として文部科学省が提示した「私立大学の授業料等の水準など社会経済情勢等」に根拠を求めるものは皆無です。私学の学生負担金との格差是正のため、また、政府の財政破綻のつけを清算するために国立大学の学生・保護者に更なる学費負担を求めるなどという主張には一片の合理性も妥当性も無いからです。 17年度予算における運営費交付金の減額は98億円、共同利用機関に対する増額分を除いた国立大学全体の削減額は実に124億円にも上ります。また、各法人からのヒアリングを終え、8月末に18年度概算要求を控えた今日現在、「効率化係数」や「経営改善係数」を用いた運営費交付金の算定ルール見直しの意向は示されておらず、国立大学の経営状況の悪化は避けられない状況にあります。法人化により経営上の窮地に立たされた国立大学では、法人化以前から抱えていた様々な問題が一層深刻さを増しています。 競争原理に基づく資産配分への傾斜が法人化以前にも増して強まる一方、日常的な教育研究活動を支える基盤的経費は確実に減少を続けています。この競争原理は大学間のみならず、各大学内での予算配分にも確実に影響を及ぼしています。熊本大学において採用されている科学研究費補助金の申請実績に基づく基盤的経費の配分方法はその一つの典型と言えるでしょう。中教審の「我が国の高等教育の将来像(答申)」では、大学における人材養成の観点から「地域社会のニーズに十分こたえるべき分野(例えば医療・教育等)や,需要は少ないが学術・文化等の面から重要な学問分野については,国として全体的なバランスが図られるよう配慮していかねばならない。」との指摘がなされています。また、先端的な教育・研究の実施と同時に「社会・経済的な観点からの需要は必ずしも多くはないが重要な学問分野の継承・発展」を保証する必要性が強調されています。このような分野における教育研究は、日々の地道な努力の長期的な積み重ねにより初めて実を結ぶものであり、短期的な成果のみに価値を置く現在の競争的資金配分のあり方と全く相容れない性格を持っているのです。基盤的教育研究経費が決定的に不足している現状では、基礎科学をはじめとする重要な学問分野の発展はおろか、継続さえも危ぶまれます。基盤的経費の不足は、短期的なプロジェクト研究に適した学問分野にも長期的な視点からは悪影響を及ぼします。なぜなら、予算配分において既存の施設・設備に対する維持・管理の視点が欠落しているからです。プロジェクト研究において施設や機器を獲得すれば、必ず多くの維持・管理費用が発生します。したがって、十分な基盤経費が与えられない限り、競争的資金の獲得が、維持管理費の増大によって自らの日常的な教育研究資金の圧迫につながるのです。維持・管理の視点の欠如は、教室や研究室の不足、老朽化といった、教育研究の基本的環境の荒廃をも引き起こしています。競争原理に基づいた予算の配分を行うのであれば、インフラの整備を進めるとともに基盤的教育研究費を充実することにより、適正な競争の成立条件を整えることが先決です。 国立大学の持病とも言える教職員の労働条件の悪化、雇用不安の問題も、法人化を機により切実なものになりました。学科予算や部局の管理運営費縮小に起因するパート職員の雇用不安は、雇用時間削減や職員配置数の縮小といった現実の問題として表面化しています。そもそも臨時雇用職員は、単なる学科や部局の勝手な都合によって雇用されていたわけではなく、各大学に割り振られた定員数の不足を補うために業務遂行上の必要に応じて「定員外」に採用されてきた職員なのです。法人化により定員の概念が消失する一方、時間数や配置数の圧縮に反比例する形で臨時雇用職員一人当たりの業務は量的に増大し、質的にも複雑化・高度化しています。もはや業務内容における常勤職員との違いは消失し、雇用形態の違いによる待遇の差だけが浮き彫りになっているのです。法人化により、大学は労基法上の使用者としての責任を負うことになりました。雇用形態の違いにより著しい待遇の差を設けるならば、大学は使用者の果たすべき義務に反する行為を行ったことになります。学科や部局に対応を押し付けるのではなく、大学全体の問題として改善に取り組むべき課題なのです。 業務の増大、煩雑化は、常勤職員をも危機的な状況に追い込んでいます。定員の削減により組織的な見直しを迫られた旧国立大学では、各職場の実情や、業務の特性を十分に考慮することなく、無理な合理化が推進されました。他大学における悪しき前例を顧みることなく熊本大学において実施された事務一元化は、その典型と呼ぶに相応しいものです。人的・財政的投資無き効率化と収入増を意味する「効率化係数」、「経営改善係数」の導入によりさらに増幅された一元化の歪は、事務職員の劣悪な労働条件に末期的な症状をもたらすことになりました。増大した業務量は組織あたり・職員あたりの処理能力を遥かに超え、連日10時・11時に及ぶ残業、休日労働が常態化しています。しかも、労使協定で定められた時間数の制限を超えた時間外労働の対価は支払われていません。このような不払い時間外労働の蔓延に耐えかね、既に幾つもの大学で、労働基準監督署への告発が実行に移されています。労基署の調査の結果、明らかに問題があると認められた場合、使用者は最大過去2年間に遡る不払い賃金の支給を含む是正勧告を受けることになります。これに加え、大学が犯した犯罪行為はマスコミを通して万人の知るところなり、それによって大学が被る風評被害の影響は計り知れません。しかしながら、事務職員の労働条件に関わる問題の本質は、不払い賃金そのものよりもむしろ、不払い労働を生み出す粗悪な業務管理システムと時間外労働を黙認する職場風土にあるのです。使用者は全ての職員の労働実態を適正に把握し、不払い時間外労働の撤廃に向けて、具体的かつ抜本的な対策を早急に打ち出さなければなりません。労働組合もまた、事務職員に限らず、全ての教職員の労働時間とそれに付随して生じるコストに対する意識を高めていかなければなりません。不払い労働は、裁量労働制が導入された教員を含め、全職員の労働条件に関わる重要な問題だからです。 法人化により国立大学を窮地に陥れた政府は、その攻撃の手を緩めるどころか、国家公務員の給与構造の基本的見直しを強行に推し進めることにより更なる締め付けを実行に移そうとしています。人事院が5月に公表した措置案は、上位級や本府省手当等の新設によるキャリヤ優遇を加速させる一方で、民間給与との格差是正を名目とした一律5%もの俸給水準の引き下げに加え、中高年を対象とする最大2%の更なる引き下げ、女性職員をはじめとした昇級の遅れている職員の給与を圧縮する枠外昇級制度の廃止など、ほぼ全ての職員を対象とした近年に類を見ない待遇改悪の方針を明らかにしています。今回の見直しは、国家公務員の行政職俸給表(一)を対象にするものではありますが、非公務員化された国立大学の教職員の給与と決して無関係ではないのです。国立大学の職員の俸給表は、法人化移行時の国家公務員の俸給表に準じて作成されています。これは、法人法が準用している独立行政法人通則法が、職員の給与の基準を「当該独立行政法人の業務の実績を考慮し、かつ、社会一般の情勢に適合したものとなるよう」配慮して定めるよう規定しているからです。文科省は、この規定が人事院勧告を国立大学法人の待遇に直接反映させる合理的な根拠にはなり得ないことを、6月に行われた学長等会議において明言しています。しかしながら、ほとんどの国立大学が昨年度の人事院勧告に準じて寒冷地手当の廃止ないし減額を実施した実績や、各国立大学が給与表改定を検討する際の参考資料として、国大協が「法人化移行直前に適用されていた教育職俸給表(一)等に平成17年度の人事院勧告を反映した場合における給与表」の作成を委託し、本格的に検討を開始した事実からも、今回の見直しが今後の教職員の待遇に悪影響を及ぼす可能性は決して否定できません。また、仮に人事院勧告に準じた法人職員の待遇切り下げが実施されないとしても、給与構造の見直しは熊本大学を含む地方大学の将来に暗い影を落とすことに変わりはありません。なぜなら、いわゆる三位一体改革による地方切捨ての政策が今回の見直し案にも色濃く投影されているからです。措置案では、従来の調整手当てに代えて、人口五万人以上の地域を単位に最大18%の割合で支給される地域手当の新設を提案しています。しかしながら、全国平均に対する民間賃金指数が96.5以上であることが地域手当の支給要件となっており、熊本を含む民間賃金の低い地域では、最悪の場合、地域手当が得られないまま、7%にも及ぶ俸給水準の引き下げが実施されることになります。現在の年収を800万と仮定した場合、減額される給与の金額は、単純計算で56万円になります。因みに、17年度の熊本大学の授業料は535,800円です。また、国家公務員の俸給水準の引き下げは、地方公務員の給与に直接影響します。総務省は、地方公務員の賃金決定にあたり民間準拠をさらに徹底させる姿勢を見せており、国家公務員にも増して大幅な給与削減が予想されます。その結果、地方の消費は縮小し、民間賃金水準の更なる低下という悪循環を生み出すことになるのです。高等教育に対する公財政投資の充実と共に、地方切捨て政策の撤回を政府に対して強く求めていかなければ、地方の国立大学はさらなる苦境に立たされることになります。 法人化後1年を経て、組合活動もまた、岐路に立たされているといえます。これまで長年にわたり組合活動を支えてきて下さった団塊世代の組合員の方々がやがて定年を迎え、徐々にこの職場を去って行かれます。このため、組合組織の拡大は、これまでにも増して重要な課題なのです。組織財政の根本的な見直しに着手するとともに、加入率拡大に向けた具体的な取り組みを展開していく必要があります。法人化とそれに伴う運営費交付金の削減、競争的資金の拡充、授業料標準額の値上げ、国家公務員の給与構造の見直しといった現政権の繰り出す様々な政策は全て社会を富により階層化し、かつ、集団から個へと分断化を進めようとするものです。残念なことに、大学においても同様傾向が強まっています。職種間の繋がりは希薄になり、各職種内でも個人のノルマ消化に追われるあまり職場の連帯が薄れています。その結果、共通して抱えているはずの慢性化した労働問題、あるいは大学全体の組織・運営の問題に対して無感覚になりつつある、または、問題を感じながらも無関心を装う風土が形成されつつあると言えるでしょう。分断された個を再び結びつけ、職場・職種間の連携を強めていくことは組合にしかできない仕事です。今後の熊本大学の明暗も組合の活動如何にかかっていると言っても過言ではないでしょう。なぜなら、金と物を閉ざされた現状で、政府の不当な支配に服することなく国立大学本来の使命を果たしていくためには、全教職員の意欲と知恵を最大限に生かしていく他に道は無いからです。硬直した局面の打開の鍵になる、独創的で革新的な発想は個々の教職員の心のゆとりから芽生えるものです。組合は、雇用不安の解消、労働条件の改善を実現することで、熊本大学の全ての教職員が心のゆとりを持ちながら安心して働くことのできる明るく活力に溢れた職場作りに取り組んでいきます。 組合活動の基本方針 2004年4月1日の就業規則施行により、熊本大学に働く教職員および非常勤職員の労働条件の最低線が示されました。しかしながら、使用者は、それから僅か一年後に退職時特別昇級の廃止という就業規則の不利益変更を人事院規則の改正を理由として一方的に決定、施行しました。人事院勧告に準ずる給与表改定の実施が懸念される状況において、このような使用者側の合理性を欠いた不利益変更を繰り返させないためにも、組合は広く情報を収集し、定期的な協議の場を持つことによって労働者側の意見を取り入れるよう強く要求していきます。また、就業規則は、あくまでも最低基準であり、労働者の待遇を決定付けるものではありません。法人化以前から国立大学の教職員は不当に抑制された労働条件の元に置かれていました。したがって、就業規則が定める最低基準を超えた労働条件の確保は正当な要求であるとともに、労使契約を締結することによりこれを実現することは労働者に与えられた当然の権利なのです。組合は、昨年度中に獲得された労働条件を、2005年度における活動のスタートラインとして捉えなおし、教職員一人一人の声が職場環境・労働条件の改善に反映されるようきめ細かな取り組みを行い、要求の実現に向けてより一層努力していきます。そのためには、各職種別部会の活動を活性化し、あらゆる職種・職場の声を汲み取りより具体的な要求に結び付けるよう努めなければなりません。また、他大学との交流を通じて、先進的な取り組みを積極的に取り入れるとともに熊本大学の取り組みと活動の成果を発信することも必要です。このような運動を通じて、職場の勤務条件の目に見える形での改善を目指し、組合運動が着実に前進していることを実感できる運動をしていきます。 1. 明るく働きやすい職場を作るために
2. 大学の自治を守り、真の大学改革を民主的に実現して行くために
3. 安心して暮らせる平和な社会を実現するために 下記項目について、他団体との協力を含め、幅広い活動を展開する。
4. 一人ひとりの願いや要求をかなえる組合活動のために
<<専門部会>> 1. 賃金部会
2. 教育文化部会
3. 組織財政部会
4. レクリェーション部会
5. 青年部会
6. 女性部会
<<職種別部会>> 1. 事務職員部会
2. 技術職員部会
3. 現業職員部会
4. 有期雇用職員部会
5. 看護師部会
6. 教員部会
7. 医療技術職員部会
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