2005.10.7 |
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「人勧に従うことが『社会一般の情勢に適合』させることと信じるしかない」(団交での人事労務担当理事の発言) |
8月15日に出された本年度の人事院勧告は9月28日に閣議決定されました.すでにご存知でしょうが、簡単にその内容を確認しておきます。
今年度の年収ベースでの賃金切り下げは無くなりました これを受けて、熊本大学教職員の賃金についてどのような対応をすべきか、9月26日に団交を開催し使用者側の見解をただしました。使用者側の見解は以下のとおりです.
理事の述べた人勧に従わざるを得ないとする根拠 使用者側は人勧に従わざるを得ない根拠として次の三つを上げました。
人事労務担当理事はこの三つを根拠に、「社会一般の情勢に適合させること」は「大学職員の給与を人勧にそろえること」だと主張したわけです。しかし、熊本大学職員の給与水準は国家公務員の83.4%(事務・技術職員)に過ぎません。人勧準拠だけでは、国家公務員の給与水準を考慮したとは到底言えません。 何故、人勧準拠に根拠が無いのか (1)国立大学が法人化されていなければ、今年度の人事院勧告は+1.50%になったはず。 人事院が官民比較を行う場合、国立大学法人は含まれません。文科省は国立大学法人のラスパイレス指数を86.6と発表していますので、官民比較の官に国立大学を含めれば平均月例給は375,083円になり、「1.50%、5,620円民間が高い」という結論が出たはずです。比較するときは官から外し、賃金を決めるときだけ官に含めるというご都合主義に職員の理解が得られるはずはありません。 (この試算に問題点があればご指摘願います) (2)熊本大学職員の給与水準は地域の民間給与に比べて明らかに低い。 人事院勧告は数字だけが前面に出されますが、その数字が出された理由も含めて勧告されています。その中で、九州・沖縄地区の官民給与の格差を 民間 357,437円 公務員 373,966円 △4.42% としています。これによって2006年度の基本給4.8%切り下げが提案されているわけです。組合は職務の同等性の観点から地域給の導入に反対しています。しかし、仮にこの考えを受け入れたとしても,熊本大学職員の給与と九州地区の民間給与の間に格差はあるのでしょうか。熊本大学の発表した資料によれば、事務・技術職員の平均給与は国家公務員の83.4%ですから、382092×0.834=318,665円です。民間より実に4万9千円低いのです。さらに4.8%減の賃金改定を実施すれば 303,369円にまで減少し、民間との格差は月額5万4千円に開きます。これが通則法第63条の『社会一般の情勢に適合』した水準とはとても考えられません。 (3)大学教員に18%にも及ぶ地域間給与格差を導入すべきではない。 国大協は人勧を形式的に当てはめた教育職の参考給与表を各大学に配布しました。それは、給与構造の見直しにより2005年度に5.5%の賃下げを行うと想定しています。地域手当のことは明記されていませんが、導入を想定しているのは明白です。しかし、東京の大学と熊本大学との18%の賃金格差は正当化できるはずはありません。大学の地域間格差が生まれ、教員の人事の停滞にもつながりかねません。学長は国大協において大学教員の全国一律賃金の必要性(少なくとも格差は生計費格差の範囲に止める)を主張すべきです。 (4)運営費交付金の削減は地域給導入に基づく賃金切り下げの理由にならない。 運営費交付金は、2004年度の額を基準に一定の基準で減額されることになっていますが、公務員に地域給の制度が導入されたからといって、地方の国立大学法人の交付金が余分に減らされることはありません。長崎市には3%の地域手当が支給されます。これを受けて長崎大学が3%の地域手当相当額を支給するのであれば、熊本大学も支給可能なはずです。 無責任極まりない人事労務担当理事の発言 団交での組合の具体的数字を示した上での追及に、使用者側はまともな回答を一切示せませんでした。大迫理事は「人勧に従うことが『社会一般の情勢に適応』させることだと信じるしかない」とまで述べました。大学教員給与について東京との18%の格差の問題についても「今だって12%の格差がある」、またこんなに格差がついたら優秀な人材は熊大から出て行ってしまうという指摘に対しても「今だって優秀な人は出て行っている」と答える始末です。人勧準拠のもたらす影響を何ら考えていないのです。これが大学経営の責任を担う理事の発言とはとても思えません。 総務部長も、国立大学職員の賃金の劣悪さについて「規則に則った昇給制度の中で生まれたものである」と説明し、86.6(熊大では83.4)のラスパイレス指数を正当化しました。しかし、それを維持しなくてはならないのだとしたら、熊大の83.4%のラスパレイス指数はそのまま熊大と民間の給与格差として残ることになります。このままでは、熊大は優秀な職員を確保することができるのでしょうか。 賃金に関する今後の交渉は学長が対応すべきである 国立大学法人の教職員の賃金は法の規定に則って大学が自主的に決めるべきものです。もちろん独自の基本給表を作ることは至難の業でしょう。しかし、公務員の俸給表を準用した上で、地域手当のような手当を別途設定することは可能です。そのようなことも選択肢に含めて、どのような給与水準を確保すべきか、大学の将来を見据えた検討こそが求められています。 今後、給与法の改正を受けて熊大でも就業規則の改正が提案されることになります。就業規則を変更しただけで賃金を切り下げられるわけではありません。それを行うには、変更に「合理性」が必要です。すでに,人勧準拠のみを理由に賃金要求を拒否する姿勢について「誠実交渉義務違反」であるとの判例があります。使用者側は、人勧準拠だけではなく経営状況も含めた賃金切り下げの理由を示す義務があります。組合との交渉は不可欠です。 さて、法人化後の団体交渉は労務人事担当理事が担当しています。労働協約では使用者側交渉委員に「交渉事項に決定権を有する者」を加えることになっていますが、賃金問題は労働条件の基本問題であるだけではなく、経営上の最重要課題の一つです。交渉当事者は役員全員であるべきであり、少なくとも学長自らが対応することを求めます。
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