2005.12.22 |
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「就業規則の不利益変更で労働条件を切り下げることは原則としてできない」 |
12月15日、2005年度賃金改定についての4回目の団体交渉が行われました。今回も﨑元学長、大迫人事労務担当理事、佐藤財務担当理事(事務局長)が出席し、交渉申し入れの際に回答を求めた事項について文書をもとに説明が行われました。議論ではまず、国立大学法人には人勧に準拠する法的義務はないことが確認されました。その後、人勧準拠が熊本大学職員と国家公務員の賃金格差を維持することから、83.4(調整手当非支給地との比較では87.7)というラスパイレス指数について合理的な理由があるのかということが議論の焦点になりました。使用者側は、上位級の枠が少ないことを理由にしましたが、上位級が他省庁に比べて大幅に少ないことの理由については、「国家公務員時代から少なかった。文部科学省も様々な努力をしてきたがこれだけの差が残った」という回答にとどまりました。組合は、枠が少ないことについて合理的な理由が示されないのであれば、それは不当な格差だと主張しましたが、その点についてはついに合意に至りませんでした。 熊本大学職員の賃金水準が、社会一般の情勢である民間の賃金水準や国家公務員の賃金水準よりはるかに低いのは明らかです。そしてそれには何の合理的な理由もありません。この認識が今後の熊本大学の賃金水準を考えるにあたって出発点になるはずです。しかし、使用者側はこの認識に同意することはついにありませんでした。組合は2005年度の賃金改定交渉については決裂せざるを得ないと判断しました。 さて、今回の人勧に基づいた賃金改定は12月1日付の就業規則改定に盛り込まれています。組合推薦の過半数代表者は意見書の提出を拒否しましたが、使用者は労基署への就業規則変更の届け出を年内に行う予定です。改訂の内容も追ってホームページ上に掲載され、就業規則変更の法的手続きは完了することになります。しかし、これで私たちの賃金引下げが合法的になるわけではありません。このことは公務員時代との最大の違いなので改めて解説したいと思います。 就業規則の不利益変更で労働条件を切り下げることは許されない 今、Aさんは月300,000円の基本給をもらっているとします。これは形式的にはAさんと熊本大学との間で基本給を月300,000円とする労働契約が結ばれていることを意味します。さて、1月からこれを0.3%切り下げて月299,100円しか支給しなかったとしましょう。Aさんと熊本大学との労働契約は月300,000円なのですから、熊本大学は労働契約違反を行ったことになります。就業規則の変更によってAさんの労働契約内容は就業規則の水準を上回ることになりますが、就業規則にはそれを引き下げる効力はないからです。結果として熊本大学はAさんに月300,000円払わなければなりません。もし1月の賃金が299,100円なら、当然使用者側に不足分の900円を求めることができます。 就業規則の不利益変更で労働条件を切り下げられるためには 以上が労働法の原則です。就業規則は使用者側が一方的に作成できるものなので当然の考え方です。しかし、現実に就業規則の不利益変更はありえます。判例では不利益変更が高度の必要性と合理性を有する場合には就業規則の変更によって労働条件を切り下げることは可能としています。簡単にその判決内容を紹介します。 第四銀行事件・最高裁第二小法廷1997年2月28日判決 「新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」 注意すべきは賃金切り下げのような不利益変更には、「高度の必要性に基づいた合理性」が求められていることです。使用者側は人勧に準拠することに高度の必要性があると主張していますが、人勧に準拠する法的義務が無いことは認めています。閣議決定も国家公務員の賃金水準を考慮せよというものですから、直接人勧への準拠を求めているわけではありません。経営上の観点から見ても基本給切り下げによって浮く経費も1000万円に過ぎないのですから、高度な必要性は考えられません。合理性の有無についても労働組合等との交渉の経緯が判断材料の一つにされていますから、団交が決裂したことは重大です。最高裁判例に照らしても、基本給切り下げには「高度な必要性に基づいた合理的内容」が無いことは明らかです。今回の就業規則変更によって基本給を切り下げることは違法行為であると断言できます。 1月の基本給切り下げ強行は許されない 就業規則の変更は使用者側の権限ですから可能です。しかしそれを理由に基本給を切り下げることはできません。学長にはこのことをよく理解した上、今後の対応を求めます。 |