No.22
2006.10.25
熊本大学教職員組合
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法人の制度設計にも反した
教員組織検討WGの「中間まとめ」
――「助教」への任期制導入問題――

 
「改正」された学校教育法等の施行によって、 2007年4月1日から熊本大学の教員組織のあり方も大きく変わろうとしています。これまで、企画会議教員組織検討ワーキンググループ(座長、森光昭人事労務担当理事)(以下、ワーキンググループと略す)で検討が進められ、 9月15日に「学校教育法等の改正に伴う検討(中間まとめ)」(以下、「中間まとめ」と略す)が提示され、各部局からの意見聴取(10月19日締め切り)が行われました。たしかに、説明会(5月)、全学アンケート(6月)は行われましたが、本学自身の検討内容が示されるのは、今回の「中間まとめ」がはじめてです。しかも、 今回示された「中間まとめ」は、2007年4月1日以降に採用されるすべての「助教」に対する任期制の導入を謳うなど、きわめて重要な問題を孕んだものです。
 ここでは、「中間まとめ」に対して部局等から出された意見・要望を紹介するとともに、「中間まとめ」の問題点の概略を指摘します。

「助教」には研究専念型助手に相当する条件整備が必要不可欠 
 学校教育法等は、2005年の通常国会で「改正」され、来年度から施行されることになります。従来の教授と講師は職名もそのまま移行し、助教授は廃止され准教授が新設されます。ここまでは、その職務内容を規定する文言に若干の変更はあるものの、従来と大きく異なることはありません。重要なのは、現行の助手が新「助手」と「助教」に分かれて編成される点です。
 たしかに、「助教」の新設は、多様な実態を持つ従来の助手の一部の業務と能力を正当に評価することでもあり、助手の一部の待遇改善となり得るものです。ただし、そのためには、「中間まとめ」(1.新しい教員組織についてー(2)助教について)にもあるように、その研究条件・労働条件・責任等を明確にしておく必要があります。
 忘れてならないのは、学校教育法等の「改正」に伴って「大学の教員等の任期に関する法律」(第4条2項)も改正されたことからすれば、「助教」は従来の研究専念型助手に相当するものと考えるべきだということです。
研究専念型助手とは:助手一般ではなく、「職務の主たる内容が自ら研究目標を定めて研究を行う」「独立した研究者として研究に従事する機会が確保される助手」(「大学の教員等の任期に関する法律Q&A」文部省高等教育局『大学資料』134、1997年)のことです。
 文科省も「…今回の法律改正に伴い、「大学の教員等の任期に関する法律」が改正され、同法第4条において、大学が教員を任用する場合に任期を定めることができる事由の一つとして、従来の「助手の職で自ら研究目標を定めて研究を行うことをその職務の主たる内容とするものに就けるとき」に対応するものとして、「助教の職に就けるとき」が規定されている」(文部科学省高等教育局大学振興課「大学の教員組織の見直しに関するQ and A」(2006年5月26日))と説明しており、助教とは従来の研究専念助手にあたることを認めています。
 したがって、現在の助手を「助教」に移行させるためには、その前提として、研究専念型助手に相当する条件を整えなければならないのです。授業を担当させるのであれば授業科目等の範囲のみならず負担できる上限コマ数を明確にし、条件を整備しなければなりません。また、大学運営業務についても、委員会負担を免除するなど、研究条件・職務内容を明確に規定しておくべきです。
 ところが、これらの条件について、「中間まとめ」では「各部局において明確な基準を策定する必要がある」と述べるにとどまっています。もちろん、部局毎に事情は異なるわけですから、部局の判断を尊重するのは当然のことでしょう。しかし、「部局の判断」を口実に、なし崩し的に「助教」の負担が増えることにならないよう、大学としての基準を明確に設定し、前提となる労働条件を確認しておくべきです。
 「中間まとめ」は、若手研究者育成の観点から「助教」を置くというのですから、この観点からも「助教」の研究条件等を整える必要があります。「助教」の研究条件・労働条件を十分に検討していないことが、新制度における「講師」と「助教」との違いを不明瞭にしている大きな原因でもあります。

各部局からも多数の意見・要望
 「中間まとめ」については、10月19日を締め切りに各部局からの意見集約が行われています。現時点で組合が把握している限りでも、多くの意見・要望が出されています。なかでも、医学部保健学科からは、助手一同による意見書が提出されています。以下に、各部局から提出された意見の主な内容を簡単に紹介します。

○任期制の導入について
 「中間まとめ」(2.任期制について)では、「現在在職する助手が助教に移行する場合は、任期制を適用しない」とある一方で、2007年4月1日以降に採用するすべての助教について任期制を適用するとなっています。
<「中間まとめ」(2.任期制について(2)新たな任期制の基本的考え方)より>
  • 新たに採用する全ての助教について5年の任期制を適用する。(3から5年の再任可)
  • 任期満了時又は随時に、部局ごとに策定した審査基準に基づき審査を行い、基準を満たした者について、テニュアを付した助教(任期のない教員)に身分異動を行う。
 これに対して、医学部保健学科の助手一同から、新規に採用される助教(および新助手)への任期制導入には絶対反対であるとの意見が出されました。この問題が、たんに、ある個人の労働条件に関わるものではなく、保健学科という組織の将来を大きく左右するきわめて重要な問題だということが分かります。
<保健学科・助手一同の意見より、任期制導入反対の理由を抜粋>
  1. 医学部保健学科は研究者育成機関であることのみならず、ひとの命に関わる専門職を養成する機関です。専門職を養成するためには、実務経験と教育経験が教員に求められており、助教ならびに新助手も学生の教育を担うことになります。質の高い医療従事者等の育成をするためには、任期制の弊害が大きすぎると考えます。
  2. 実務経験者は、先任の勤務先においては任期のない正規職員として働いている場合がほとんどであり、本学科において任期制の導入になれば、採用が非常に困難になることが考えられます。
保健学科以外からも、新規採用の「助教」への一律の任期制導入については、「同一の職務を行うにもかかわらず、ある人には任期が付かず、ある人には任期が付くというように待遇が異なることは、職務遂行の大きな障害になる」というものや「教育業務を担うポストに任期を付けるのは、(教育業務を担うポストから任期制を外すという)近年の熊大の任期制の流れに反するものだ」といったものなど、多くの反対意見が出されています。

○助手から「助教」への移行の際の審査について
 「中間まとめ」(2.任期制について(4)審査基準について)には、「テニュアを取得するための審査基準については、各部局で検討することにするが、例えば病院の助教であれば、診療経験を加味するなど、部局の特性に十分に配慮した基準を設ける必要がある」とあるのみです。各部局・学科・専攻の実情に応じた審査基準を設けるのは当然として、審査にあたっては事前に職務内容や処遇等を明示した上で、いつ、誰が、どのような審査基準で審査をするのかを明確にし、公正性・透明性を確保した審査制度を確立する必要があるという意見が出されています。

○新助手に関連して
 検討課題として、TAやRAを教育研究補助者として活用する可能性が示唆されていますが、それは、TAやRAの安易な活用と言えます。常勤職員と大学院生のアルバイトの立場の違いをしっかりと踏まえるべきだという意見もあります。

○「助教」の処遇について
 「中間まとめ」では、「助教」を従来の助手と同じように教育職(一)2級で処遇するとなっていますが、研究に加えて、教育(上限コマ数を設定して)や運営にも責任を負うとなるのであれば、教育職(一)3級で処遇すべきという意見が出されています。これは、きわめて的を射た意見です。もし、それが困難な場合は、最低でも何らかの調整手当を支給してしかるべきでしょう。 国大協は、「助教」が大学院教育を担う場合に調整額を付けることを提案しています(国大協 経営支援委員会人事・労務小委員会 『学校教育法の改正に伴う共通的事項についてのQ & A』)が、これでは不十分です。大学院教育を担わない場合でも、新たな職務と責任が付与されるのですから、何らかの調整手当が不可欠です。

熊本大学の制度設計にも反する「中間まとめ」!?
 2007年4月1日以降に採用するすべての「助教」を対象に任期制を導入することについて、強い反対意見が出されていることはすでに触れましたが、そもそもこの提案は、次の2つの点からも案に盛り込まれること自体があり得ないことなのです。
 第1に、「中間まとめ」に示されている「新たな任期制の考え方」は、「任期制法」の趣旨にまったくそぐわないものです。任期制は、あくまでも、その学問分野の特性に応じて検討を行い、適切かつ有効と認められた場合にのみ導入が可能となるものです。「助教」の職について任期制の導入を推奨した中央教育審議会大学分科会「大学教員組織の在り方について(審議のまとめ)」(2005年1月31日)でさえも、「これらの制度(任期制・公募制)を導入するかどうかは……各分野の特性に応じて、適切に判断するものである」と記していますし、文科省も「助教に任期を付けることは、各大学の判断であり、助教は任期付きとする指導はしていない」(全大発101通知75 2006年7月24日「助教等の新たな教員制度に関する文部科学省会見報告」)「…その(任期制の)導入については、あくまでも各大学において、その実情や分野の特性に応じて適切に判断されるものである」(文部科学省高等教育局大学振興課「大学の教員組織の見直しに関するQ and A」(2006年5月26日))と明言しています。新規採用の「助教」全員に任期を付けるという「中間まとめ」の「基本的考え方」に大きな問題があるということは、誰の目にも明らかなはずです。
 第2に、こうした一律の任期制導入は、熊本大学の制度設計そのものにも反するのです。法人化に際して、法人制度設計委員会人事労務部会が法人化後のあるべき姿をまとめた『国立大学熊本大学の制度設計(最終案)』(2004年3月)の「I雇用関係、2教員の雇用、(3)教員の任期制」には、「任期制の導入については、各学部等において検討し、教育研究にとって任期制が有効なものについて導入することができる」(25頁)とあります(これは、上述したように、「任期制法」の趣旨に照らしても妥当なものです)。しかるに、「中間まとめ」では、平然とこれを蔑ろにする提案がなされているのです。ワーキンググループは、『制度設計(最終案)』の存在を忘れていたのでしょうか。それとも、意図的に無視したのでしょうか。
 「中間まとめ」には、「具体的な制度設計に当たっては、学内のコンセンサスに配慮しつつ検討を行う必要がある」(2.任期制について(1)任期制導入の趣旨・目的)とも記してあります。「任期制法」の趣旨にそぐわず、熊本大学としてまとめた制度設計にも反する提案に、学内のコンセンサスが得られるとは到底思えません。
 ワーキンググループは、学内の意見に真摯に耳を傾け、2007年4月1日以降採用の「助教」への一律の任期制導入提案を撤回し、意見聴取などというものではなく、『制度設計(最終案)』に定められたルールに則って、任期制導入の是非そのものの判断を各教育研究組織(研究科、学部、学科、講座、部門等)に委ねるべきです。

新規採用「助教」への一律任期制導入は全国の趨勢ではない!
 学校教育法の変更に伴うわけですから、「新たな教員制度」については、当然、他の国立大学でも検討が進められています。かつては、文部省の「指導」のもと足並みをそろえて動いていた(動かざるを得なかった)国立大学ですが、「新たな教員制度」に関して、それぞれの大学が良識ある判断をしなければなりません。
 たしかに、 2007年4月1日以降採用のすべての「助教」に任期を付けることを提案している大学もあります。しかしその一方で、北海道大学や島根大学のように、任期制を導入するかどうかを部局の判断とする大学もあります。同様に、富山大学では各学部の判断とする方向で検討が進められていますし、静岡大学のように、任期制についてまず学部で検討し、検討結果を全学の企画・調整会議に報告することになっている大学もあります。
 聞くところによると、新規採用の「助教」への一律任期制導入に反対する声が多いにもかかわらず、「全国の趨勢だから仕方がない」という諦めムードが漂いだしている部局もあるようです。不正確な情報や曖昧な雰囲気によって、大学構成員と組織の将来を決めていいはずはありません。

 優れた人材の確保は、なにも医学部保健学科に限られた問題ではありません。他大学が任期制を導入する中で、熊本大学が任期を付けないという判断をすれば、それは、若手の優秀な人材を確保するための戦略として有効に機能する可能性があります(全国の国立大学法人で最低賃金の本学では、人材確保策は至上の課題なのですから)。逆に、任期制導入の適否をもっとも適切に判断できる部局レベルでの検討を抜きにして安易に任期制導入を決定してしまい、有能な人材が十分に確保できず後で後悔しても、取り返しがつかないのです。
 私たち熊本大学教職員組合は、ワーキンググループに対して、2007年4月1日以降採用の「助教」に対する一律任期制導入の提案を撤回し、各部局に判断を委ねることを求めるとともに、各部局から出された意見・要望を踏まえて真摯に検討することを要求します。

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