2007.6.22 |
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不公正で歪んだ「競争」の排除を訴えます 新執行部就任挨拶を兼ねた学長との会見で, 運営費交付金問題についての要望書を提出 |
6月11日、新執行部の就任挨拶を兼ねた学長との会談が行われました。会談において、組合は運営費交付金に競争原理を導入する問題について要望書を提出し、学長の考えを質しました。また、昨年度の団交に学長自身が一度も出席しなかったことを指摘し、とりわけ賃金問題では学長が出席すべきとの見解を述べました。このニュースでは、運営費交付金問題についての組合の考えを述べるとともに、会談で示された学長の見解を紹介します。 運営費交付金に競争原理を導入させないために、学長は具体的行動を まずすでに報道等でご存知の方も多いと思いますが、事実関係を簡単に整理しておきます。 《政府財界の動き》 きっかけは、経済財政諮問会議において民間議員4氏より 「国立大学法人に関して、教職員数などを基に立てられている現行の運営費交付金配分を、2期目の中期計画に向けて「大学の努力と成果に応じ」「大学再編を視野に入れ、選択と集中を促す配分ルール・基準」に転換する」 ことが提案されたことです。これは経済財政諮問会議の提言「成長力加速プログラム」に取り入れられ、財務省も具体的な試算を行うなどの検討を開始しています。財政制度等審議会も同様な内容の建議を行っています。 《世論の動向》 一方、試算結果は地方国立大学の存立に深刻な影響をもたらすものになったため、マスコミはこの方針についての批判的論説を相次いで出しました。競争原理の導入で深刻な影響を受ける地方の新聞ばかりではありません。朝日新聞(5月17日)や財界よりと目される読売新聞(5月28日)も社説で性急な競争原理導入に疑義を述べています。 大学内からも反対の声が上がっています。学長の声明は、山形、弘前、島根、三重、室蘭工大、福井、徳島の7大学(6月10日現在)に及んでおり今後なお増加すると予想されます。鳥取県知事や三重県津市長なども国に反対の意見を伝えています。今、運営費交付金に競争原理を導入しようとする動きとそれに反対する動きがせめぎあっている状態と言えます。 この状況を受け、組合は学長に対しまず「運営費交付金に競争原理を導入させないための具体的行動をとること」を要請しました。撝元学長は「声明も選択肢の一つ」と述べるとともに知事や議員への働きかけについても言及しました。 すでに国立大学には歪められた「競争」が蔓延している しかし、すでに「競争」は強化され続けています。しかもその「競争」は公正な競争ではなくまさに歪められた「競争」です。そもそも法人化前から人・金・物は一部大学に集中されていました。それは法人化後も運営費交付金の形で引き継がれています。まさに地方国立大学は不利な条件下での「競争」を強いられているのです。今年度から科研費の基盤研究には一律3割の間接経費が付けられましたが、これによって科研費の獲得額の大きい大学はより大きな予算を得ることになっています。予算配分において従来の格差がさらに拡大しているのです。 研究面だけではなく教育面でも「競争」は多くの歪みをもたらしています。特別教育研究経費は増額されており、その配分は文部科学省の裁量の比重が大きいものです。そのため大学は、予算獲得という至上命題のもと、内在的な教育改革要求よりも、文部科学省の方針をにらみながら、教育改革に取り組んでいます。しかもこの教育改革はプロジェクトとして行われているため、関係する教職員の業務負担は膨大になっています。予算は獲得できたとしても、教職員の疲弊が進めば大学の活性化は望めません。 根本的要因は国立大学法人の枠組みにある。 この歪められた「競争」の根本的要因は、国立大学法人に、公的サービスの切捨てを狙いとした独立行政法人の枠組みを持ち込んだことにあります。 第一に、運営費交付金削減の枠組みです。まず各大学は当然経営の効率化を図るものとして、毎年運営費交付金(教員人件費を除く)の1%が減額されます。これがいわゆる効率化係数です。さらに附属病院を抱える国立大学には、病院経営の改善により毎年2%収益が増大するという前提で運営費交付金が減額されます。これが経営改善係数です。この二つの係数により毎年億単位の運営費交付金が削減されています。 これを補うには特別教育研究経費を獲得してくるしかありません。そのためには文部科学省の意向に沿った大学改革を行わざるを得ず、文部科学省への従属度をますます高めていく結果になります。 第二に、中期計画期間終了時に業務の評価が行われ、それに基づいて業務の改廃を含めて検討するという独立行政法人の枠組みです。今回の運営費交付金への競争原理導入の考えも、次期中期計画期間の運営費交付金をどう配分するかというものですから、まさにこの独立行政法人の枠組みを利用しているのです。そしてそのための作業として組織評価のための膨大な業務負担が教職員に押し付けられています。 組合は要望書で運営費交付金に競争原理が導入されなくても、総額が削減され競争的資金に振り向けられていけば結局同じ問題が生じると指摘し、「運営費交付金の 効率化係数・経営改善係数の低減・廃止を訴える」よう求めました。学長は、国大協として運営費交付金の効率化係数の低減と病院の経営改善係数の廃止に取り組んでいると述べました。 しかし、根本は国立大学法人という枠組みそのものにあるのです。学長は単に運営費交付金への競争原理導入に反対するだけではなく、国立大学法人法とそこから生まれる歪んだ「競争」によって、大学がいかに疲弊しつつあるのか社会に訴えるとともに、これ以上の「競争」拡大の阻止に努力すべきです。 教職員の賃金格差を放置したまま「競争原理」の強化は許されない さて、この歪んだ「競争」をいっそう歪めているのは、地域給導入で顕著になった大都市圏との賃金格差です。教職員の賃金は東京地区と18%の格差がつけられることになり、優秀な人材の確保において地方は圧倒的に不利な状態に立たされています。これは教員において特に深刻です。例えば東京地区の教授を熊本大学に招くことは、大幅な賃金減額を意味しており、事実上不可能になるでしょう。東京地区の准教授を教授として呼ぶ場合でさえ、異動補償が無くなれば賃金は減るのです。逆に東京地区の大学は高い賃金により熊本大学から教員を引き抜くことが可能になります。こういう状況で行われる「競争」が公正なものとはとても思えません。 教員以外の職員についても同様です。看護師など医療職員の業務はますます増大しており、人不足は相変わらず深刻です。事務・技術の一般職員も国立大学時代の低賃金構造はまったく改善されていません。これにさらに地域給導入による賃金切り下げが追い討ちをかけているのですから、優秀な人材の確保はますます困難になっています。 この問題は地域給導入に関する団体交渉で組合が指摘してきたことです。それに対して、「今だって優秀な人材は熊本から出て行ってしまう」という無責任な理事の発言を思い出します。今回の要望書で、学長に対し改めて大学教員賃金の地域間格差解消のための対策をとるように求めました。しかし、明確な見解は示されませんでした。賃金問題について公務員制度準拠のしがらみから一歩も踏み出そうとしない学長の姿勢を改めて感じました。 組合はこれ以上の競争原理の強化を許さないため、今後とも運動を継続します 世論の動向を見て、今回の「骨太2007」では「運営費交付金の適正な配分」という表現に落ち着きそうです。しかしそれは運営費交付金の競争的資金化を意味しないわけではありません。次期中期計画期間において、運営費交付金をどのような基準で配分するかは、これから議論されることです。組合は競争原理の強化に反対するとともに、不公正な競争の排除を求めて運動を継続します。
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