No.15
2007.11.6
熊本大学教職員組合
Tel.:096-342-3529 FAX:096-346-1247
E-mail:ku-kyoso@union.kumamoto-u.ac.jp
PDF版はこちら


労働時間に対する自己申告内容についての
厚生労働省適正把握基準に基づく実態調査を拒否
「時間管理者を疑うことになるので調査は行わない」


 
賃金不払い残業の問題は法人化前から重大な問題でした。しかし当時は予算の枠があり、枠を超えて時間外勤務手当を支給することは不可能でした。その本来の趣旨は予算の枠を超えて時間外労働を命じないということにあったのですが、定員削減と業務量の増加で賃金不払い残業は常態化していました。
法人化後はこの「予算の枠」は制度的な意味を失い、時間外手当の不支給は労基法違反行為になりました。しかし長年の労働慣行は一朝一夕で変わるものではなく、多くの職場で賃金不払い残業が蔓延していました。
 最近は使用者側も指導を強化しており、この状況も少しは改善してきたようです。特に休日振替の運用では、振替日の事前特定が厳密になされるようになっており、振替日が取れずに結果的に賃金不払い残業になるという状態は改善されています。ただ、振替日に仕事をせざるを得ない場合もあり、それが休日労働として処理されていないという話も聞きます。また看護師の職場などでは、労働時間の適正な申告が行われていないケースがあります。今回のニュースではこの問題に関する労使の協議の状況を含め、組合の見解を述べます。

使用者側と組合側の論点
 この問題は7月26日の労使協議、8月28日の団交、10月2日の労使協議、10月10日・23日の団交と協議を重ねてきました。まずこの間の組合の要求内容を箇条書きします。
(1) 厚生労働省指針に基づき、学長と組合委員長による「賃金不払い残業撲滅」の共同宣言を行う。
(2) 賃金不払い残業の相談窓口を事務局と組合に設置する。
(3) 上記内容について各職場に掲示文を出す。
(4) 自己申告による労働時間が実際の労働時間に合致しているかどうか調査を行う。
(5) 看護部においてはタイムカードによる始業終業時刻の把握を求める。
これらの要求は厚生労働省の通達を根拠にしており、その内容については後述します。

 さて、(1)(2)(3)については「賃金不払い残業が行われたとの声は私(総務部長)のところには上がってない。賃金不払い残業は存在しない。」という理由で拒否しました。(4)については賃金不払い残業の具体例を示しながら追求しましたが、10月2日の労使協議では「調査は時間管理者を疑うことになるのでできない。」、10月23日に「各部署の時間管理者により、適正な勤務時間管理ができるよう周知徹底している」との回答がありました。(5)の問題には十分議論が行えたとは言えませんが、タイムカードで記録された時間がすなわち労働時間になるとはいえないと述べ、導入に消極的な姿勢は変えませんでした。結局、組合の要求はすべて拒否したままです。

労働者の始業終業時刻の把握は使用者の責任
賃金不払い残業を無くすにはまずは個々の労働者の始業終業時刻を適正に把握することが必要です。厚生労働省は通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」の中で始業終業時刻の確認のための原則的な方法として、使用者が自ら直接、あるいはタイムカード等による客観的な記録に基づいて行うことをあげています。その上で「自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合」に講ずべき措置を三つ上げています。その一つに
自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
があります。組合の要求の(4)(5)はこの基準を根拠にしたものです。原則的な把握方法はタイムカードなどによる客観的な方法と述べられています。しかも看護師の自己申告は医師などと共用のパソコンで行われるので、入力のために待たされるという事態も生じています。タイムカードの導入は手続きを大幅に簡略化させるはずです。
 (4)の要求に関連して、使用者側に賃金不払い残業の具体事例を示しましたが「対応に苦慮している」と述べただけで、「個別具体的な部署への指導で対応したい。調査は時間管理者を疑ることになるのでできない」と答えたのです。厚生労働省の適正把握基準を蔑ろにしているとしか思えません。

厚生労働省は職場風土の改善に労使が協力して取り組むよう求めています
 厚生労働省は使用者側の適正把握の努力だけで賃金不払い残業が解消されるとは考えていません。それを具体的に述べたのが「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」です。その中で賃金不払い残業がなくならない要因として職場風土の問題を取り上げ、その改善のために労使が協力して取り組むように求めています。
 法人化当時、組合に「組合は賃金不払い残業の解消というできもしないことを言っているから職員の支持が受けられない」という趣旨の意見が寄せられたことがあります。厚生労働省の指針にある職場風土とはまさにこの発言に表れています。使用者も、職場の時間管理者も、労働者も、賃金不払い残業を必要悪として受け入れてしまう、それが職場風土の問題なのです。

 組合はこの指針にある具体的取り組みの例示を参考に (1)(2)(3) の要求を出しました。しかし、使用者側は明確な根拠も無いまま頑なに拒否を続けています。今後、熊大において賃金不払い残業が明るみになったとき、使用者側はそれを無くすために十分な努力を行ったという資格はありません。学長自ら社会的・道義的責任を問われるのは必至です。

団交・労使協議に見る使用者側の官僚体質
 法人化から3年半が経過しました。この間組合は、労働法の適用を踏まえた組合の組織作りや要求内容の見直しを行ってきました。公務員の職員団体から真の労働組合へと脱皮を遂げつつあります。しかし、使用者側の対応は公務員時代と殆ど変わりません。この問題にみる「賃金不払い残業があるとの声が上がってこないので、賃金不払い残業は存在しない」「調査は管理者を疑うことになるのでできない」という発言はまさに官僚体質そのものです。
 最近社会の関心を集めている公的年金の問題にしても、末端の事務では事実として認識されてきたにもかかわらず、トップは「自分のところに聞こえてこない」と無視し続けてきたのではないでしょうか。少々の不正が明らかになっても、全般的な調査は「担当者を疑うことになる」のでしてこなかったのではないでしょうか。
 組合はこのような使用者側の姿勢を強く批判します。そして官僚体質を無くしていく為にも、文部科学省からの渡り鳥官僚受け入れ拒否、渡り鳥官僚優遇の異動保障制度の廃止を求めます。

赤煉瓦目次へ