No.17
2007.11.20
熊本大学教職員組合
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医学薬学研究部で
来年4月から全教授に任期制を導入
しかし,その内容は法律上,幾つも問題あり!!

 さる9月12日開催の医学薬学研究部教授会において,2008年4月からすべての教授ポストに任期制を導入するという驚くべき議案が承認されました。本学では,学内共同教育研究施設等を中心に教員の任期制が少しずつ増えていますが,巨大な教員組織を単位として全教授を対象に任期制を導入するというのは前例のないことです。ここでは,医学薬学研究部で決定された任期制の内容と問題点をお伝えします。

医学薬学研究部の任期制の内容
 9月12日の「医学薬学研究部教授会広報」
(以下,「広報」と略す)によれば,決定された任期制の内容は次の通りです。
1)導入時期: 平成20年4月から
2)導入職種: 教授(新規採用者,在職者で任期制導入の同意を得られた者)
3)任   期: 10年
 導入職種は教授の新規採用者と本人同意が得られた在職者とされていますが,本人同意が得られなかった在職者が退職した後の教授ポストは任期付となりますから,これは将来的に医学薬学研究部のすべての教授ポストを任期制にすることを意味します。
今後は,来年4月からの導入に向けてワーキング・グループ
(研究部長,基礎系2名,臨床系2名,薬学系2名,准教授講師会2名)を立ち上げ,「再任条件(業績評価)等の詳細及び他の職種に対し任期制の導入について」検討するそうです(「広報」)。また,「広報」の中には,「審議の結果,今後,准教授・講師・助教に対しても任期制導入することを前提に,次のとおり教員の任期制を導入することが承認された」(下線は引用者)と記されていますから,9月12日の医学薬学研究部教授会の決定は,全教授への任期制導入を決めただけでなく,准教授・講師・助教を含めた全教員に任期制を導入するための第一歩であったということができます。

決定にあたって教授以外の教員の意見は踏まえられたか?
 「広報」によれば,全教授への任期制導入の決定に際して,8月31日を締め切りとして教授会構成員に対する意見照会が行なわれました。集約された「教員の任期制導入について
(意見一覧)(9月12日,医学薬学研究部教授会資料4。以下,「意見一覧」と略す)には,任期制導入に慎重な意見が一部に見られるものの,賛成する意見が大勢を占め,なかには准教授・講師・助教への任期制導入を積極的に主張する意見も見られます。しかし,この意見照会にはどれくらい准教授以下の職階の教員の意見が反映されたのでしょうか? 教授以外で医学薬学研究部教授会の構成員となっているのは准教授講師会の代表数名のみですから,准教授以下の職階の教員の意見は極少数しか反映されていないはずです。組合が調査したところ,構成員を講師以上とする薬学教育部の教授会では,この件に関する報告が行なわれ,形の上では講師以上の教員の意見は聞いたことになっているそうです。しかし,今回意見が諮られたのは,あくまで教授ポストへの任期制導入についてであり,今後検討されるという准教授以下の教員への任期制については何も具体的に提案されていないのですから,准教授以下の職階の教員の方々には意見を表明しようにも表明しようがないと受けとめた人が多かったのではないでしょうか。
 このように言うと,“教授ポストへの任期制導入なのであるから,教授の意向を踏まえて意志決定すれば十分である”という意見があるかもしれません。仮に,そうした意見があるとすれば,それは極めて傲慢な誤った考えです。なぜなら,教授ポストに任期制を導入するかどうかは,准教授以下の教員の将来の重大な労働条件に関する問題であり,また教育研究組織の将来のあり方を左右する重要問題であるからです。こうした将来を担う方々の労働条件,また将来の組織のあり方にかかわる問題の意志決定にあたっては,将来を担う方々の意見こそが第一に尊重されて当然なはずです。
 今回の医学薬学研究部における全教授への任期制導入の決定は,こうした重大な欠陥を抱えていたといわざるを得ないものです。ともあれ,今後,ワーキング・グループにおいて,どのような再任審査基準が作成されていくか,またどのような形で准教授以下の教員への任期制導入の適否が検討されていくか,これまで以上に組合は注視していきます。

幾重にも法律に抵触した決定
 9月12日の医学薬学研究部の決定は,審議のあり方に問題があっただけでなく,法律的にも幾つもの問題を抱えています。
「広報」には,全教授への任期制導入が「大学の教員等の任期に関する法律」
(以下,「大学教員任期制法」と略す)に基づくものであるのか,労働基準法第14条に基づくものであるのかは明記されていませんが,任期が10年とされている点からすれば,「大学教員任期制法」に基づくものと考えられます。
 いうまでもなく,「大学教員任期制法」第4条は,@「先端的,学際的又は総合的な教育研究」など「多様な人材の確保が特に求められる」職,A助教の職,Bプロジェクト研究の職という三つの場合に任期制を導入できることを規定しており,医学薬学研究部の全教授の任期制は三つの場合の@に該当すると考えられます。しかし,驚くことに,医学薬学研究部教授会では,何を目的とした任期制であるのかがまったく決定されていません。
 「意見一覧」のなかには,「他大学の状況を見ますと,任期制導入もやむないかと思います」,「社会の流れがすでに任期制は当然という環境にあるなか,この流れに従うべきだと思います」といった意見が見られます。しかし,いくら「他大学の状況」や「社会の流れ」をあげたとしても,それは「大学教員任期制法」に基づく任期制導入の根拠にはなりません。医学薬学研究部の全教授に任期制を導入する場合に必要なのは,研究・教育の専門性の面から検討し,医学薬学研究部の全教授ポストを「大学教員任期制法」第4条が規定する@の「多様な人材の確保が特に求められる」職として運用するという判断です。この判断を欠いた医学薬学研究部の決定は,「大学教員任期制法」の趣旨に反したものと言わざるを得ません
(もしも,医学薬学研究部の全教授の任期制は「大学教員任期制法」に基づくものではなく,労基法第14条に基づくものであるというのであれば,医学薬学研究部教授会は「大学教員任期制法」ではなく労基法第14条を適用する理由を説明する必要があります。後述するように,医学薬学研究部の全教授の任期制は労基法第14条を絶対に適用できない内容のものですが)
 医学薬学研究部教授会の決定が法律に抵触しているのは,これだけにとどまりません。第二の問題点は,再任の上限が決められていないことです。再任の上限が定められていませんから,任期ごとの再任審査をクリアし続ければ,定年まで在職することが可能です。これは,今回の医学薬学研究部の全教授の任期制だけではなく,本学の既存の多くの任期制にも共通しています
(本学使用者は,これを“定年まで無限につづく任期制”と称しています)。しかし,再任に上限を設けず,定年まで無制限に再任を繰り返すという事態は,これまでも組合が指摘してきたように,明らかに「大学教員任期制法」の趣旨に反したものであり,文部省高等教育局自身が不可能としたものです。文部省高等教育局の「大学の教員等の任期に関する法律Q&A」(『大学資料』134,1997年10月)は,次のように明記しています。
Q18 再任を妨げない任期制とする場合,何回くらい再任できるのですか。
A. 今回の法律では,再任の可否については各大学の判断に委ねられています。しかしながら,教員の流動性向上による教育研究の活性化という本法律の趣旨や,第4条第1項各号で定められている任期を定めることのできる場合から考えると,無制限に再任を繰り返すようなことはできません
 何回までというような上限が法令上定められているわけではありませんが,各大学において適切な運用を行う必要があります。
(下線は引用者)
 第三の問題点は,任期を10年としていることです。法人化前の国立大学では「大学教員任期制法」に基づき10年の任期を定めることが可能でした。しかし,法人化後は労働基準法の対象となったため,「大学教員任期制法」に基づく任期制についても労働基準法との整合性が求められています。それゆえ,法人化後の任期制の任期は5年以内としなければなりません。10年の任期は労働基準法に違反しています。

本学の任期制導入の流れにも逆行した決定
 以上,指摘したように,9月12日の医学薬学研究部教授会の決定は,審議のあり方,また法律的にも重大な問題を抱えています。来年4月の導入に向けて,また准教授以下の職階の教員への任期制導入について,ワーキング・グループで検討が進められますが,医学薬学研究部には最低限,上述した問題点を踏まえて9月12日の決定を見直すことが求められています。
 医学薬学研究部というものが教員組織だからでしょうか,今回の医学薬学研究部教授会の審議では,学生・院生教育に与える影響の面から任期制の適否を検討する姿勢が極めて希薄です。一般に任期制導入の適否をめぐって大きな論点となるのは,学問研究の専門性と並んで学生・院生教育に与える影響です。それゆえ,本学においても任期制のポストは学内共同教育研究施設等の研究業務を主要な職務とするものを中心とし,教育業務を主要な職務とするポストには任期を設けない流れになっています。医学薬学研究部所属の教授とはいえ,その多くの方は院生教育や学生教育を担っていますから,医学薬学研究部教授会の決定は本学の任期制導入の流れにも逆行したものと言わざるを得ません。

任期制はけっして「社会の流れ」ではない
 「意見一覧」のなかに「他大学の状況」や「社会の流れ」から任期制導入はやむを得ないという意見が見られたのは,7月26日開催の教育研究評議会で配布された「他大学での教育研究組織単位における任期制導入状況一覧」
(7月26日,教育研究評議会,資料6)などが影響したのかもしれません。確かに,これによれば,いわゆる旧帝大(北大・東大を除く)や千葉大・神戸大・長崎大の医学・薬学関係の教育研究組織では任期制が導入されています。しかし,冷静に全体を見れば,これらは少数にとどまっており,けっして任期制導入やむなしという状況ではありません。
 全国の国立大学法人のなかで最低の賃金である本学では,いかにして優秀な人材を確保するかが深刻な課題になっています。この状況において優秀な人材の確保を図るには,任期制を導入しないことが有効策になると考えることも可能なはずです。

他部局にも影響か!?
 組合が調査したところ,医学薬学研究部教授会のメンバーのなかには,“自分は同意しないので,
(教授に任期制を導入しても)かまわない”と言われている方が複数います。唖然とする発言です。自分は同意しないにもかかわらず,准教授以下の職階の教員の将来のポストを任期制にするというのは,あまりにも無責任ではないでしょうか。医学薬学研究部教授会のメンバーのなかには,任期が10年であり,再任も定年まで無制限であるから承認したという方も多いのかもしれません(また任期を10年,定年まで無制限に再任を可としたのは,教育面への影響を考慮したものなのかもしれません)。しかし,それは上述の通り明らかに法律に違反したものです。このような方が多いのであれば,自分の処遇だけでなく,学問研究の専門性,学生・院生教育への影響,組織の将来に責任をもって,9月12日の教授会決定を見直すことが必要でしょう。
 なお,10月26日開催の自然科学研究科代議員会でも「学内での任期制の導入に向けた検討状況」が報告され,自然科学研究科においても今後検討していくこととしたい」とされたそうです。これを見ると,9月12日の医学薬学研究部教授会の決定は,当該部局だけでなく,他の部局にも影響を及ぼしているようです。本学構成員は,今後の動向を注意深く見守っていく必要があります

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