No.31
2008.5.15
熊本大学教職員組合
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学長の専断的・恣意的大学運営こそ
教職員の士気を低下させている元凶
−国際化推進センター問題について声明を発表−

 
中期計画期間の終了を目前にし、一部の役職員による発案によって予算請求がなされた事業によって、突然降ってわいたような業務に翻弄される教職員が増えつつあります。また、評価への対応を目的として担当理事達から無秩序に押し付けられる種々の業務により浪費される不要な時間と労力は増加の一途をたどっています。新たな業務についての学内意見聴取は形骸化し、教育研究評議会の審議機関としての役割も軽視されています。トップダウンの名の下に学長の専断的・恣意的大学運営の傾向がますます強くなってきています。
 組合はこのような無軌道な大学運営こそが、本学の教職員の士気を著しく低下させている元凶にほかならないと考えています。その典型例に国際化推進センターの問題があります。組合は声明を発表し、この間の動きを検証するとともに、学長の専断的・恣意的大学運営に対し断固抗議の意思を表明します。

声明:専断的かつ恣意的な大学運営に抗議する
−国際化推進センター問題をめぐって−

2008年5月15日
熊本大学教職員組合

 2007年6月26日開催の政策調整会議は、阪口研究・国際担当理事を座長とする検討ワーキンググループを設置し、熊本大学の国際化戦略の基本方針策定に向けた予備検討を開始することを決定した。その後約4ヶ月の検討期間を経た2007年11月2日の政策調整会議においてワーキンググループによる予備検討報告書が提出され、約1週間後の11月8日には総合企画会議で、同報告書に基づき国際化推進の仕組みづくりのための国際化推進WGの設置が決定されている。
 「全学の国際化推進の仕組みについて(案)」と題された組織案では、国際化推進センターの設置が留学生センターの改組を前提として提案されていた。また、同案が各部局に対して初めて公にされた11月8日開催の第7回部局長等連絡調整会議、11月19日の第4回国際交流推進会議、および11月22日の第7回留学生センター運営委員会では、国際化推進センターの設置のための予算請求を既に行っているため、留学生センターの改組は実質的に決定済みの事項であるとの説明がなされた。
 「全学の国際化推進の仕組みについて(案)」は、学長および役員会による学内ルールの無視という重大な問題をも孕むものである。『国立大学法人熊本大学法人基本規則』は、同規則27条に「法人に、本学の教育研究に関する重要事項を審議する機関として」、教育研究評議会を置くことを定めている。教学に関わる重要事項は必ず学部長等からなる教育研究評議会の議を経て決定されねばならず、学長および役員会による専断は厳に慎むべきであるというのがこの規則の趣旨である。同規則が『国立大学法人法』第21条に倣って設置されていることは敢えて指摘するまでもない事実であるが、法人化以前より、教学に関わる事項について本学が最も尊重するべき審議機関として位置づけてきた会議体は教育研究評議会に他ならず、事実として、同会議の審議なしに学則改正に関わる決定がなされたことは過去に一度もないのである。「全学の国際化推進の仕組みについて(案)」には、前述の国際化推進センターにおける留学生教育、および学生の海外留学支援はもとより、各大学院における教育の「全面英語化」が重要な施策として掲げられている。このことからも、同案が本学の教学に関わる重要事項であることは明らかである。しかしながら、6月の政策調整会議での発議から学長が予算申請を行うまでの間、教育研究評議会の議題はおろか報告連絡事項にさえ同案に関わる事項が取り上げられた事実はない。予備検討報告書および12月5日、20日開催の国際化推進WGによる検討案に至って、人事案件が全て終了し、役員会での最終決定、国際化推進センターの設置を目前に控えた段階になってはじめて教育研究評議会に審議を付託する予定であることが明記されており、各部局等の意見を国際化案に反映させることは実質的に不可能になっている。
 森人事・労務担当理事は、2008年3月17日の団体交渉において、概算要求、学内措置の如何を問わず、改組にあたっては構成員の意見を聞くことを当然であるとし、予算要求のためには教育研究評議会に必ず諮らねばならないことも認めながら、戦略的・迅速な対応が求められる場合はこの限りでなく、学長、副学長、学長特別補佐、所属する組織の長等の代表者のみで改組を決定し、構成員の意見を聞くことも教育研究評議会の議を経ることもなく予算申請を行うことが許されると発言している。
 組合は、法人化後の国立大学には迅速な意志決定が求められる局面があることを認めた上で、これを理由として教学に関わる重要事項を本来必要不可欠な教育研究評議会の審議を割愛して決定することを認める学長裁定、あるいは会議体による学内申し合わせ等、公的な根拠を示すよう求めた。当然のことながら、役員会や一部の代表者による教学・経営に関わる重要事項の専断的な決定を許容するような根拠など大学の内外を問わず存在するはずはなく、2008年4月10日の使用者説明では、交渉での主張を翻し、国際化案に関わるこの度の予算申請は「特別教育研究経費」を要求するものであり、申請書(2007年7月18日提出)中に「留学生センターの改組の検討を始める」との記載はあるものの、決して改組を必然的に伴う予算申請にはあたらず、組合の指摘する問題は存在しないと回答している。このことにより、使用者側は、いかに戦略的に重要で迅速な対応が求められる場合であっても、改組を伴う予算申請を教育研究評議会の審議を経ることなく行うことは許されないことを改めて認めたことになる。従って、留学生センターの改組を含めた熊本大学の国際化案もまた学内合意を得たものではなことが使用者自らによって確認されたと言える。
 一方、この間の交渉を通じて二つの矛盾点が新たに浮上する結果となった。一つは、2007年11月8日の部局長等連絡調整会議における阪口研究・国際担当理事の国際化推進センターの設置に伴う留学生センター改組の必然性の根拠を概算要求に求めた発言は全て虚偽であったことになること。もう一つは、改組の対象とされている留学生センターの構成員への情報提供および意見聴取に関わるものである。
 前述の通り、森理事は3月17日の団体交渉で、組織の構成員の意見を聞くことが改組を行う上での必要事項であることを原則として認めておりながら、大谷留学生センター長自らが国際化推進ワーキンググループの委員として国際化推進センター設置構想の検討に携わっていることから、留学生センターの構成員の意見は十分に吸い上げられているだろうと発言している。このこと自体、自らの責任を転嫁する無責任極まりない発言であるが、留学生センターの構成員が初めて改組案の報告を受けたのは、2007年11月22日の第7回留学生センター運営委員会の席上であり、2007年6月28日の提案以来5ヶ月もの間、7月18日の「特別教育研究経費」の申請、予備計画書の策定等、構成員への意見聴取の機会がありながらも、意見聴取はおろか、情報提供さえ行われなかったというのが偽りのない事実である。国際化推進センター設置案は、所属教員に対し本学の学生の「海外留学のための外国語試験への支援」を求めるものであり、留学生の日本語・日本文化教育を主とした職務とする留学生センター教員の専門性を全く無視したものである。従って、国際化推進センターの設置に、大学の運営に寄与する点が仮に認められたとしても、当該教員の被る不利益は通常甘受すべき程度を著しく越えるものであり、実質的に配転命令権の濫用に相当するものであるともいえるだろう。また、同案には多数の兼務教員および外国人教員の配置が必然的であるかのように記されていたが、これらの教員が現在所属している教育単位に対しても事前の相談すらなされていない。
 構成員の意向を蔑ろにする改組計画、学問領域の多様性を全く無視した「全面英語化」戦略、学内ルールを踏み外した意志決定のあり方等、いずれの点においても使用者としての責任と大学人としての見識を見失った国際化推進案に対する学内の批判が高まる中、学長は2008年1月10日の部局長等連絡調整会議において年末の概算要求内示を踏まえた年頭所感として「予算の獲得は逃したが、留学生センターの改組は学内措置として本年度中に実施する」という趣旨の発言を行っている。大学の長が「国際化推進」の必要性を唱え、その実現を目標として陣頭指揮を執ること自体に全く問題はない。しかし、そのための具体的な施策を当事者の意向を汲むことなく独断で決定することは学長の権限の範囲を逸脱しており、わけても教職員の教育研究業務の内容に著しい影響を及ぼすことが必至である組織改組の敢行を学内ルールに則った審議を踏まえずして表明することなど個人の所感としてさえ許されるはずがない。
 第1期中期目標・計画期間の終了を目前にし、学長・理事、学長特別補佐等、一部の役職による発案によって予算請求がなされ、認可された事業の実施の責任を負わされた教職員が、突然降ってわいた業務に翻弄されて本来の業務に支障を来す事態が徐々に増えつつある。また、評価への対応を目的として担当理事達から無秩序に押し付けられる種々の業務により浪費される不要な時間と労力は増加の一途をたどっている。続出する拙速なスタンドプレーに役員会は足並みを乱し、学長もまた全体を見渡し調整する力を失っている悲惨な実態は、阪口研究・国際担当理事による唐突な国際化推進案の決定通知に対し、西山教育・学生担当理事から向けられた強い抗議にも象徴的に反映されている。
 今ここで使用者達が改めて自覚すべきことは、このように無軌道な大学運営こそが、本学の教職員の士気を著しく低下させている元凶にほかならないということである。使用者による場当たり的な事業の典型である「科研費申請義務化」、「熊本大学基金」等への反発感や、「報奨金制度」に対する不公平感など、教職員全体が学長および役員会に対して抱いている不信感は既に限界を越えている。使用者側が今後も虚言を弄し続け、無責任な姿勢を改めないのであれば、一方的な賃金切り下げ、教員任期制の濫用等、度重なる労働条件の改悪で既に失墜している使用者としての信用をさらに低下させ、本学が掲げる目的・目標の達成を一層危うくすることになるだろう。
 組合は、改組を伴う予算申請を行う場合には、関係部局等の構成員の合意を得た上で行うよう引き続き要求するとともに、雇用不安を増大させ学内規律と法秩序を蔑ろにする学長はじめ熊本大学使用者の専断的かつ恣意的な大学運営に断固抗議する。

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