No.7
2009.8.6
熊本大学教職員組合
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またも学内運営を蔑ろにした予算申請!
-学士課程教育改革に係る予算申請をめぐって-

  さる5月28日(29日),熊本大学長は,文科省が公募していた「平成21年度『大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム』」(以下,「大学教育推進プログラム」と略す)にたいする申請書を提出しました。これは,「学習成果に基づく学士課程教育の体系的構築-創造的知性と実践力というゴールから設計する教育の質保証-」(以下,「申請書」と略す)と題したもので,2009年度から3年間に渡って総額約6,900万円の予算を使って熊大の学士課程の教育をその枠組みから見直すことを謳ったものです。
  この「申請書」は,申請に至る過程・手続き,そしてその内容においても到底看過できない重大な問題を孕んだものです。このニュースでは,その問題点を指摘するとともに,必要な学内審議・手続きを経ず専断的行動をとった学長と安部副学長(教育・学生担当理事)を批判することとします。

学内議論の軽視ここに極まる
  おそらく,こうした公募があったこと,そして,熊本大学が実際に申請していたことを知らない学内構成員も多いのではないでしょうか。その申請内容の詳細を知る人はさらに少ないでしょう。それは無理もないことなのです。というのも,申請内容が学内構成員に開示されたのは,申請締め切りから1ヶ月以上も経った7月に入ってからのことだからです(しかも,学部から情報提供を求められて初めて開示されたのです)。この申請が,学内議論・手続きのルールを完全に無視したものであるか,とりわけ,教育研究評議会や教育会議といった教学に関する権限と責任を持った重要な審議機関をいかに蔑ろにしたものであるかは,この間の経緯に明らかです。以下は,文科省が公募を開始してから申請内容が開示されるまでの主な会議等の流れです(ポイントとなる日付に下線を引いておきます)。

4月17日:文科省が各大学・短期大学・高専にたいして「大学教育推進プログラム」の公募を開始
 4月21日:「大学教育推進プログラム」に関する文科省の説明会(於大阪)
 4月23日:第1回部局長等連絡調整会議
 4月23日:第1回教育研究評議会
 5月 1日:各部局等に「大学教育推進プログラム」への申請依頼
 5月18日:教育会議
5月28日:第2回部局長等連絡調整会議
 5月28日:第2回教育研究評議会
5月28(29日):文科省へ「申請書」を提出
6月12日:第1回学士課程教育推進委員会
 6月25日:第3回部局長等連絡調整会議
 6月25日:第3回教育研究評議会
 7月9日:安部副学長(教育・学生担当理事),提出した「申請書」ついての「お知らせ」を各学部長宛に配付
7月17日:第2回学士課程教育推進委員会

  ここで注目すべきは,5月28(29日)の文科省への申請書提出締め切りまでに,教育会議,部局長等連絡調整会議,そして,教育研究評議会において,この予算申請が,議題として協議されることもなければ,報告すらされなかったということです。国際化推進センター設置を巡って,改組の対象となる組織,改組の影響を受ける部局等の意見を無視し,教育研究評議会で十分な審議を行わず,予算申請ありきで前学長・役員会が強引かつ拙速な大学運営を専断的に行い,学内に大きな混乱を招き強い批判を受けたことは記憶に新しいところです。前学長・役員会の失態とはいえ,現学長・理事もこの問題が残した教訓(繰り返してはならない過ち)を忘れてしまったのでしょうか。
  現学長・理事は,「急な公募であり,議論したくても時間がなかった」,「可能性があるならどんな状況でも予算でも獲りに行くのが経営者の責務」というのでしょうか。しかし,限られていたとはいえ,公募開始から締め切りまで約5週間という時間的猶予はあり,その気になれば,臨時で教育研究評議会を開催し審議することも可能であったはずです。「申請書」が一般教育から学部教育にわたる熊本大学の学士課程全体の枠組みそのものを抜本的に変えることを提唱し,かつ,「申請書」に記載された「取り組み学部等」の欄に「全学」(「学士課程の体系的構築」p.1)と明記したものである以上,時間がなかったなどという言い訳が通用しないことは明白です。さらに,申請書の「取組に係る経費」(「学士課程の体系的構築」p.23)には,2009年度だけでも自己負担額として約1,100万円の経費が予定されているのです。熊本大学の教育の根幹に関わる重要な事項のみならず,全学の予算にも影響を与えかねない申請を,部局等からの意見聴取も行わず,教育会議や教育研究評議会での議を経ずに独断的に行った学長・理事の責任は極めて重いと言わざるを得ません。

意味不明かつ無責任な安部理事の発言
  中央審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」(2008年12月24日)を強く意識した熊大の「申請書」にはさらに重大な問題があります。本来,第二期中期目標・中期計画素案(最終稿)に対応する形でこれからの熊大の教育体制の「見直し」を検討するのは,そのために教育会議の下に設置された学士課程教育推進委員会(委員長は「申請書」の実質的担当責任者でもある安部理事)のはずです。ところが,同委員会での実質的な審議が始まる前に,その検討の方向性に影響を与えかねない内容,しかも,基本的考え方に関わる内容が,先取りする形で「申請書」に盛り込まれているのです。これは,明らかに異常なことです。いったい,どういった組織・会議体が「申請書」の内容を検討・作成したのでしょうか。かりに申請が通り,その結果、学士課程教育推進委員会における検討に悪影響を与え,学内に無用な混乱を生じさせるような事態になった場合,申請責任者である学長・安部理事は,当然その責任を問われることになります。
  第1回学士課程教育推進委員会では,これからの学士課程教育のあるべき姿を検討するに際して,その基礎的資料とするために,各部局に対してこれまでのカリキュラム等の自己点検を求めることが議論されましたが,その際に配付された資料「学習成果に基づく学士課程教育の構築に向けたカリキュラム等の自己点検」(資料2-2)とその「自己点検」の方向性を例示した「仕様1」から「仕様3」の内容は,文科省に提出した「申請書」に見事に対応したものでした。具体例を一つ挙げるだけで十分でしょう。キーワードとなる「学士力」を「創造的知性+実践力」と捉え,その「学習成果の大区分」を「専門的要素」・「一般教養的要素」・「特定スキル的要素」・「汎用スキル的要素」・「コンピテンシー的要素」とし,それぞれの大区分の「学習成果の詳細項目」と「教育課程への反映の方針」の内容を箇条書きにまとめた「学士課程教育における学習成果の構造」と題した表が,「申請書」と学士課程教育推進委員会で示された資料において,一語一句違わず,完全に同じものなのです。
  当然,こうした事態に,学士課程教育推進委員会の中でも疑問の声が上がりました。そして,委員から出された質問にたいする安部委員長の答弁は,驚くべきものでした。「申請書」提出に至る経緯・手続きに関する質問に対しては,「本来,会議でまとまれば,それを踏まえて提出するのが筋であるが,締切が早かったので,私の方でとりまとめて申請した。何らかの改革のためにお金の足しになればと思って申請した。これは,一つの参考資料で,書かれた内容にこの会議の審議が縛られるものではない」(7月29日開催,文学部教授会報告資料No.3,「第2回学士課程教育推進委員会報告」),また,「申請書」と委員会における議論の関係に関する質問に対しては,「かりにこのGPが採択されたとしても,その内容が,この委員会の学士課程教育のあり方をめぐる議論を縛るものではない」(同資料)と回答しているのです。こうした安部委員長の回答はまったく理解し難いものです。なぜなら,前述したように,「申請書」では「全学」で取り組むと明記し,さらに,申請内容の「取組について」の項の中では「この取組は,本学独自のこれまでの研究・検討の成果を活かすものであると同時に,中央審議会答申『学士課程教育の構築に向けて』が提起した課題に対し,正面から全面的に,全学部で,教養と専門の壁をも越えて,取り組むものである」(「申請書」,p.7)と声高らかに宣言しているのですから。
  一方で,文科省に提出した「申請書」には「全学部」で「全面的」取り組むと明記しながら,他方,その「申請書」の内容と同じ考え方の枠組みを使った資料を提示した学士課程教育推進委員会委員にたいしては,「申請書」はあくまでも「一つの参考資料」であり「委員会の議論を縛るものではない」と言う安部理事の発言を,いったいどう理解すればよいのでしょうか。自らが委員長を務める委員会の委員に嘘を言っているとは考えたくないものです。仮に、嘘を言っているのではないならば,必要な学内審議・承認を抜きに「全学」で取り組むと明言した「申請書」は,文科省を侮る虚偽の申請ではないでしょうか。

これ以上の暴走は許されない
  法人化以後,学内構成員の意見に耳を傾けず,関係する部局等にたいする十分なフィードバックも行わず,さらには,教学に関わる事項であるにも拘わらず教育研究評議会における審議を経ないままに拙速に予算申請される事例が続いています。たとえ、最終的な判断は役員会の権限としても、その内容に応じて,関係する部局等がある場合にはその部局等に対してきちんとした情報提供と意見聴取を行い,全学的な教学に関する場合には教育研究評議会・教育会議において審議を尽くし承認を得るというのが熊本大学の基本的学内運営ルールだったはずです。
  組合は,これからの熊本大学の学士課程教育を左右しかねない重要な案件にも拘わらず,十分な検討・審議と正当な手続きを経ずに専断的に予算申請した学長と安部理事に強く抗議するとともに,今後,二度と同じ過ちを犯すことのないよう猛省を求めます。


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