No.13
2009.10.7
熊本大学教職員組合
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科研費未申請者への
“ペナルティ”制度の即刻撤廃を求める!
―問題だらけの制度を運用し続ける
熊大使用者の見識を問う―

  
本年9月8日付で全学に配信された「平成22年度科学研究費補助金の公募について(通知)」なる学長名の文書には、中期目標に記載した「競争的外部資金獲得増」という「本学の重要施策」の実現のための方策が、次のように明記されています。
  第二の問題は、申請義務「原則」を適用しない「正当な理由」の範囲が、2009年度から大幅に狭められたことです。従来は、各部局等の長が当該の未申請教員に正当な理由ありと認めた場合、研究推進会議はそれを尊重して“ペナルティ”を課さないという制度運用がなされてきました。ところが、2009年3月16日、研究推進会議は「科学研究費補助金未申請者に係る『正当な理由』の取扱い」なる文書に、「正当な理由に該当すると判断される例」を次の6つに限定して明示するに至りました。
中でも科学研究費補助金の獲得増に当たっては、申請・採択増の方針によって、原則1人1研究課題以上の申請が義務づけられており、研究者各位の積極的な応募が不可欠であります。
  法人化後、本学の研究推進会議がこうした「方針」実現のために「1人1課題以上の申請」を「義務」化し、それを果たさなかった教員には翌年度の研究経費の10%をカットするという、いわば“ペナルティ”を課してきたことは、周知の通りです。しかし、この制度には学部等の教育活動に悪影響を与え、かつ研究者の自律性を侵害し、しかも外部資金獲得上の効果さえ疑わしいという重大な問題点が存在します。

“ペナルティ”制度は学部等の教育活動を阻害する
  第一の問題は、研究費の10%減額という措置が個々の未申請教員に対する“ペナルティ”に止まらず、学部や大学院の教育活動に直接的な悪影響を与えているという事実です。多くの学部では、教員に配当された研究費は教員個人が自由に使用できるものでは決してありません。その殆どは、各学科内の教育コースに設置されている研究室の図書や備品の購入費に充てられています。個別具体的な卒論テーマ等に即した専門書を学生の要望に沿って購入し、PCをはじめとする機器を研究費で更新することで、学部におけるきめ細かな専門教育課程が成り立っているのです。
  しかも、研究推進会議の議長(研究担当副学長)らも、この問題点は認識ずみの筈です。何故なら、本年度第3回の同会議にある学部から上記の事情を説明して制度の撤廃を求めた意見書が提出されているからです(当該学部委員が6月に提出した「回答書」)。にもかかわらず、競争的外部資金の獲得増のためなら学生に少々の不利益を与えても構わない、といわんばかりの制度が、本年度も堂々と運用されているのです。
  去る9月29日、本学使用者は、教養教育のFD研究会分科会の時間に科研費申請説明会を重ねて設定し、教養教育関係者からの申し入れを受けてもこれを変更しないという有様でした。この制度は、末端の教育活動をそのように軽視する熊大使用者の不見識さを象徴するものだと言わざるを得ません。

“ペナルティ”制度は研究者の自主性を侵害し、税金の無駄づかいにつながる
  第二の問題は、申請義務「原則」を適用しない「正当な理由」の範囲が、2009年度から大幅に狭められたことです。従来は、各部局等の長が当該の未申請教員に正当な理由ありと認めた場合、研究推進会議はそれを尊重して“ペナルティ”を課さないという制度運用がなされてきました。ところが、2009年3月16日、研究推進会議は「科学研究費補助金未申請者に係る『正当な理由』の取扱い」なる文書に、「正当な理由に該当すると判断される例」を次の6つに限定して明示するに至りました。
(1)部局長等の管理職 (2)病気、出産・育児等の者 (3)長期の海外渡航者
(4)任期付外国人教員 (5)定年退職が近い者 (6)研究補助の専従助手
  これによって、いわば物理的な理由によって本学における中期の研究活動が不可能な教員と、研究代表者として獲得した科研費の執行年限中にある教員以外は、すべての教員が研究代表者として申請する義務を負う制度とされたのです。
  例えば、研究代表者とはなっていないが、大規模な科研費を取得した研究プロジェクトの分担研究者となっており、そこでの研究活動に研究時間の大部分を充てたい、あるいはどうしても充てねばならないという年度であっても、自分が研究代表者として異なった研究テーマで新規申請しないと、“ペナルティ”の対象だというわけです。
  こうした制度は、本学教員の研究者としての自主的・自律的な活動を阻害し、個々の教員を競争的外部資金獲得のコマとしてしか位置づけておらず、真の研究発展とは無縁のものと言うほかありません。科研費獲得者に間接経費から賞金を与える“報償制度”も、教員の研究者としての存在価値に対する熊大使用者の極めて貧困な認識を象徴するものです。
  さらに、研究者の自主性の侵害は、熊本大学の内部に止まる問題ではありません。科学研究費補助金は、国民の税金から捻出されているからです。外部資金の獲得如何にかかわらず、研究者には自身の中期・長期にわたる研究計画に基づいた研究のサイクルがあります。蓄積した研究成果を著作等に総括するために集中的な作業を必要とする期間、収集ずみの資料文献群を新たな研究テーマの基礎固めのために精査したい期間などには、多額の研究資金は必要ではありません。これらの営みにじっくりと時間をかけることは、研究者としての良心に基づく活動であって、絶対に軽視されてはならないものです。
  ところが、本学の“ペナルティ”制度は、こうした自律的研究者の仕事のサイクルを無視して、新規課題の申請を強制します。そうした場合、研究計画調書には当該の教員がその時点では一次的には求めていない研究課題が書き込まれ、その時点では本当には必要としない経費が書き上げられることになるでしょう。そのような科研費の獲得行為は、税金の無駄づかい以外の何物でもありません。
  熊大使用者は、競争主義に基づく税金のバラマキに国民が如何に厳しい目を向けているか、本年8月の衆議院選挙の結果を見るまでもなく、心底自覚すべきです。多額の研究費の執行混乱に起因する不正使用事件の続発を通じて、いまや大学も広く国民の批判を浴びているのであり、本学の申請強制制度は、そうした民意に照らせば旧来型の予算バラマキ迎合策としか映らないでしょう。
  熊大使用者には、教員=研究者の活動の自主性をどのように尊重しながら新しい中期目標・計画を策定するか、知恵をしぼって一から考え直すことを要求します(それが使用者たる者の責任にほかなりません)。

“ペナルティ”制度はいまや外部資金獲得増に効果なし
  学生教育を重視し、教員の研究者としての自主性・自律性を尊重せよといっても、法人化後の国立大学は競争的外部資金の獲得額によって評価が決まるのだ――これが自民党政権・文科官僚が構築した大学政策のもとで自己を形成した熊大使用者の哀しき本音かもしれません。しかし、“ペナルティ”制度は、評価のための資金獲得という彼らにとっての「重要施策」実現のための効果さえ疑わしいものとなっているのが実情です。これが第三の問題点です。
  科研費全予算額に占める熊本大学採択額の経年推移を見ると、この制度導入直後の平成17年度こそ0.73%で前年比0.09%アップでしたが、18年度には0.66%に落ち、19年度は0.60%、20年度は0.61%、21年度も前年度とほぼ同額、つまり0.6%程度で横ばいの状況です。ちなみに、“ペナルティ”制度が導入される以前に教員の自主性に任せて申請していた平成12年度は0.78%、13年度は0.64%、14年度が0.72%でした(「平成21年度第3回研究推進会議資料5-1」)。
  データを直視すれば、科研費申請の強制が申請者の自主性を殺ぎ、未熟な研究計画調書が濫造される結果に陥っているのではないかという疑念を、誰もが抱くでしょう。しかし残念なことに、本学使用者はこの点を検証しようという姿勢さえみせないどころか、この制度について、「種々の取り組みを行って一定の成果をあげてきたところです」などと自画自賛し(研究推進会議議長「平成21年度第2回研究推進会議(書面会議)の開催について」、2009年6月2日)、前述のように強制を強化したのです。

悪しき“ペナルティ”制度の即刻撤廃を求める!
  以上、この制度が本学の教育活動や自主的・自律的な研究活動を圧迫し、使用者の最優先する外部資金獲得増という目標実現のためにも有効ではないことを示しました。それどころか、国民からも批判されるような代物なのですから、当然、熊本大学教職員組合は、この“ペナルティ”制度の即刻撤廃を要求します。
  そもそもこの悪しき制度は、徹底した競争主義による国立大学の淘汰・再編をめざした前政権・財界の大学政策に熊本大学の使用者がある意味異常に追従した結果の産物です。谷口学長がこうした状況に少しでも問題を感じる感覚をそなえているならば、国大協等を通じて大学政策の一定の転換を新政権に要求するべく行動を起こされることを、併せて強く求めるものです。決して遅すぎてはなりません。

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