2009.10.19 |
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明白な労働契約法違反!! ——10月15日団体交渉報告—— |
10月15日、使用者側の求めに応じて人事院勧告への対応についての団体交渉を行ないました。席上、使用者側は0.2%の基本給切り下げと年間0.35月のボーナス削減を正式に提案しました。しかし、このような大幅な賃金削減をしなくてはならない事情についてはまったく説明できず、この賃金切り下げ提案が労働契約法に違反することが明白になりました。このニュースでは使用者側の提案内容を紹介するとともに、それがなぜ労働契約法に違反するかについての組合の見解を紹介します。 使用者側提案の内容 基本的に8月に出された人事院勧告の内容と同じですが、森理事の説明に沿って箇条書きします。 さらに、この措置によって生じる財源は約3億円であるとし、その使途について、新型インフルエンザに係る入試対策経費、新型インフルエンザ対策経費、安全衛生対策福利厚生経費、旧式蛍光灯を省エネ型の新型に切り替えるなどをあげましたが、それぞれの具体的な金額は示しませんでした。 なぜ違法行為なのか(1) 法人経営上、賃金切り下げの必要性は無いことを明言! 労働契約法(最後に条文を掲載しています)によれば、就業規則の不利益変更によって労働条件を切り下げることは原則として許されません。許されるのは就業規則の変更に合理的な理由がある場合だけです。特に賃金切り下げのような労働条件の基本にかかわる事項については高度の必要性に基づいた合理性が求められます(最高裁第四銀行事件判決)。組合が「年度途中に賃金切り下げを行わなければならないような、法人経営上の問題があるのか」質すと、森理事は「無い」と明言しました。製造業を中心にボーナスが大幅に引き下げられたのは、売り上げの極端な減少という事情があったからです。大学ではそのような状況はまったくないことを確認しました。 なお、運営費交付金は人事院勧告によって増減するものではありません。国が賃金切り下げを大学に押し付け、その余剰を国が吸い上げるというシステムはなく、賃金を切り下げればその分が余剰となって大学に残されます。このような余剰を作らなければならない法人経営上の必要性は存在しないわけです。 なぜ違法行為なのか(2) 独立行政法人通則法も人事院勧告を受けた閣議決定も、大学に賃金切り下げを押し付けるものではないという組合の主張に反論できず 通則法63条は法人役職員の給与水準について「社会一般の情勢に適合させる」ことを求めています。また閣議決定(前政権下ではありますが)では国立大学法人に対しても「国家公務員の給与水準を十分考慮して国民の理解が得られる適正な給与水準とするよう要請する」としています。 さて、人事院勧告とは社会一般の情勢すなわち人事院の調査した民間の給与実態に、国家公務員(熊本大学職員は含まれません)の賃金水準を適合させるための具体的方策を述べたものです。熊本大学職員の給与水準は国家公務員よりも低いことは理事も認めており、熊本大学教職員の給与水準を社会一般の情勢に適合させる方策が国家公務員のそれと同じであるということは到底理解し得ないことです。 森理事は「熊本大学職員の給与水準が社会一般の情勢と比較してどうなっているのか、大学として調べることはできない」として、人事院勧告の方式を適用するしかないと述べましたが、熊本大学の給与水準が国家公務員と比べて83.3であることはラスパイレス指数1の形で自ら「熊本大学役職員給与等の水準」で公表しているのです。これと人事院勧告で示している官民格差をあわせて考えれば、熊本大学職員の給与水準と社会一般の情勢との比較は可能なはずです。 組合は通則法は社会一般の情勢への適合を、閣議決定は、国家公務員の給与水準の考慮を求めているのに過ぎず、人事院勧告と同じ内容の賃金切り下げを求めているわけではないと主張しました。それに対し、森理事は根拠のある反論をまったく行えませんでした。 なぜ違法行為なのか(3) お粗末な代償措置の内容。教職員の受ける痛みに対する配慮なし!? 10月1日の労使協議において、組合は仮に賃金切り下げを提案するのであれば、それによって生じる財源の扱いについても提案するように求めました。さらにこの財源は人件費として使うべきとの要望を伝えました。しかし団交で提示された財源の使途についての案はまったくお粗末なものでした。 唯一手当に結びつく可能性のある、新型インフルエンザ入試対策経費についても、現実に業務が増えるのだからそれに伴って手当が増えるのは当たり前と考えます。その他の項目は蛍光灯の省エネタイプへの交換以外具体的な内容はなく、蛍光灯の交換も人件費を削って行うような質のものではありません。 なぜ違法行為なのか(4) 学長も財務担当理事も団交に出席しないという不誠実な交渉態度 労働組合との交渉経緯も不利益変更の合理性を判断する一つの要素です。無論すべての交渉に学長・事務局長が出席すべきとしているわけではありません。しかし、今回の団交は賃金切り下げという教職員に大きな不利益を押し付ける提案です。学長自らが出席し、組合の理解を求めるべく努力するのは法人経営のトップとして当然の態度です。財務担当理事については、人件費を含めた財務管理上の責任者というだけでなく、教職員の給与などを扱う事務局の長も兼ねています。賃金切り下げ交渉に臨むのは職務上当然のことです。組合の強い要望を無視し、出張中でないにもかかわらずあえて出席しなかったことは、誠実交渉義務に違反し組合軽視の不当労働行為に当たると考えます。 賃金切り下げの強行は違法行為であることは明白 以上、お伝えしたように、10月15日の団交での使用者側提案は、明らかに労働契約法に違反します。使用者側が賃金切り下げの合理性を確保したいのであれば、3億円の余剰はすべて人件費に回すような大規模な代償措置、学長・財務担当理事の出席を含め団体交渉への誠実な対応が不可欠です。10月1日の労使協議において、組合が、団交への学長・財務担当理事の出席と、余剰はすべて人件費に当てることを要求したのは、この点を考慮したからです。 これについて森理事は「基本給と一時金を下げれば人件費は減る。それをすべて人件費に当てろというなら具体的に方法を出してほしい」と開き直りました。組合は、「私立大学の中には基本給や一時金は国立大学並みとしつつも、様々な手当で高い賃金水準を実現しているところがある。そんなことも知らないのか。」と追及しました。これに、森理事は、何も答えることができませんでした。 次回の団交は10月23日に行われる予定です。使用者側が団交に臨む姿勢及び提案内容を抜本的に改めない限り合意に至ることはあり得ません。
【資料】労働契約法 (就業規則による労働契約の内容の変更)
【資料】最高裁第四銀行事件判決における不利益変更の合理性の判断要件 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度 |