No.3
2000.6.16
熊本大学教職員組合
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続・何をどう間違えれば30日になるのか?

 熊大病院ではこの数年間に、それなりの稼働率を維持しつつ、在院日数は大幅に短縮されて33日を切るまでになりました。したがって、2対1看護の実施を阻むものをは何一つ残されていないはずです。前号で述べたように、4月1日に看護婦の増員がなされてさえいれば、5月から2対1看護を「算定」できたはずです。
 右表は、熊大病院の一般病棟の稼働率と在院日数、退院患者数の推移を示しています。稼働率は88ないし89%を維持しつつ、在院日数は約9日間も短縮しています。これによって退院患者数は5,965人から7,765人へと1.3倍加しています。つまり、わずか3年間に労働生産性が30%も上昇したわけです。これは尋常な上昇率ではありません。
 医療は典型的な労働集約的産業です。濃沼信夫(東北大学)氏によれば、「医療は人手をかけることがその本質であり、一般には医学が進歩すれば必然的に多くの人手が必要となる。医療においても機械化が進みつつあるが、一般には診療が高度化・複雑化すればするほど日常の業務量は増加し、機械による省力化の効果は他分野ほど期待できないのが実状である。機械化が新たな高度診療機器の導入を意味する場合には、これまで以上に人手が必要となることが多い。しかも、患者の癒しや満足や安心は、最終的にはヒトが手厚い看護をすることによってしか得られない。これは医療が労働集約的サービス産業の一つであることを物語るもので、ロボット化やOSの整備によって人手を大幅に減らすことができる製造業などと同列には論じられない」(「医療のグローバル・スタンダード」、『社会保険旬報』)。
 医療が労働集約的産業であるとすれば、労働生産性を上昇させる方法は、「多くの人手をかける」すなわち増員以外にありません。ところが熊大病院では、97年度から99年度にほとんど増員がなされず、逆に一般病棟では減員となりました。減員にもかかわらず労働生産性が30%も上昇したわけですから、この3年間に熊大病院では「人手不足・多忙・疲労」が、より深刻化したはずです。これが何を結果するのかはすでに明らかです。
 医療事故の連鎖が止まりません。東京医療関係労働組合協議会が約5,300人の看護婦に行った調査(00年4月実施)では、この1年間に、91%の職場で「医療事故防止対策」が取られたものの、73%の看護婦が「ミスやニヤミスは減っていない」と感じています。「事故が減らない一番の理由は?」に対して、66%が「人手不足・多忙・疲労」などの労働環境を挙げ、「慣れ・思いこみ・確認不足」の15%、「知識不足・自覚不足」の8%を大きく引き離しています。濃沼信夫氏は、「事故の間接的な原因として深刻な人員不足がある」、「夜を日に継ぐ多忙な現場の人手不足は、安全基準のマニュアル化や安全意識の高揚だけでは事故の再発を防止できない限界にまできている」と述べています(同上)。
 厚生省の資料によれば、横浜市立大学の医療事故以来これまで(00年5月20日現在)に、36件の医療事故が「報告」されています。このうち9件が特定機能病院で発生しています。病院総数の0.01%にも満たない特定機能病院で、医療事故の25%が発生しているわけです。東海大学附属病院の医療事故によって愛嬢を失った遺族は語っています。医療事故の連鎖にもかかわらず、「何の手立ても打たなかった大学病院の甘さこそ許したくない」(『読売』4月21日)と。
 しかし「取り組みは既に始まっている。神奈川県平塚市の共済病院では、4月から看護婦を10人増員し、全病棟で3人夜勤体制とした。“費用は数千万膨らむが、患者の安全には代えられない”(佐藤昭枝看護部長)」(『日経』5月27日)。熊大病院では、一方的に「費用が数千万膨らむ」わけではないことは、繰り返し述べてきたとおりです(『赤煉瓦』45号, 4月6日など)




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