No.28
2003.1.17
熊本大学教職員組合
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「国立大学法人法案の概要(骨子素案)
が明らかに

--許されぬ文科省の隠蔽行為!?--
--非公務員型の時と同じ手口か!?--


「国立大学法人法案の概要(骨子素案)」が明らかに
  『赤煉瓦No.25では、法人化の法案準備作業が文科省の予定通りには進んでおらず、文部科学省調査検討会議「新しい『国立大学法人』像について(最終報告)」(2001年、以下、「最終報告」と略記する)が描くものとも大きく異なった法人化となる--法人化は「民営化」への第一歩となる危険性が高いことを指摘しました。
  この度、法案準備作業の過程で文科省が作成した「国立大学法人法案の概要(骨子素案)」(以下、「概要」と略記する)を入手しました。この「概要」は、いくつかの大学当局に伝わっており、多くのヴァージョンがあるそうですが、入手したのは2002年12月25日付けのものです。

「最終報告」とかけ離れた中身
  この「概要」によれば、赤煉瓦No.25で指摘したように、「最終報告」とはかけ離れた内容の法人化となります。何よりも大きいのは国立大学法人の設置者の問題です。文科省自身や国立大学関係者が強く主張していた国を設置者とするのではなく、国立大学法人を設置者とすることが構想されています(学校教育法の第2条を、「国(国立大学法人を含む)」と改正しようとしています)。また、大学運営の在り方が学外者の意向に大きく左右されるものとなっています(学長選考の在り方、評議会の権限の縮小、強大な「経営協議会」の権限など)。

文科省の隠蔽行為!?
  文科省は、再三にわたって法人化の制度設計は大学にふさわしいものにすると主張してきましたが、実際は、文科省自身の主張、大学関係者の強い要望とかけ離れた法案を準備していたのです。しかも、内閣法制局との調整を行う段階になっても、法案の概要を関係者に示しませんでしたが、これは他の省庁では見られない異例のことです。法案の概要を示さないまま自らの主張とも異なる法案を準備していたのですから、これは意図的な隠蔽行為といわれても仕方のないことです。文科省は、「最終報告」で教職員の身分を突如「非公務員型」とした、卑劣な手口をまたしても使うつもりなのでしょうか。

この法案では、「民営化」の第一歩
  設置者を国ではなく、国立大学法人とするというのは、端的には国が財政責任を負わなくともよくするもので、「民営化」への道を拓くものです。規制改革会議の第2次答申に、国立大学の「民営化」は“各大学が立てる中期目標の実施期間が終わってから検討する”(『朝日新聞』2002年12月13日付)とあることからすれば、法人化の6年後には「民営化」というのは、決して杞憂ではないはずです。
  私たちは、今回入手した「概要」が示す法案をけっして認めることはできません。地元の教員養成学部の存続を求める市民運動の盛り上がり(北海道、山形、群馬など)が示すように、「大学の構造改革方針」の見直しを求める世論は確実に大きくなっています。法人化の法案阻止に向けて頑張りましょう。
  「国立大学法人法案の概要(骨子素案)」の原文を、独立行政法人化反対首都圏ネットワーク事務局の解説と併せて掲載しておきます。詳しくはこちらをご参照ください。

法人化の今後のスケジュール
 1月31日  国大協法人化特別委員会
 2月10日  国立大学長会議
 2月20日  国大協法人化特別委員会
 2月末  法案閣議決定
 4月以降  法案審議
  文科省は5月中の成立を予定しているという。1/20からの通常国会では、法人化法案とともに、高専や日本育英会の独立行政法人化の法案審議、教育基本法の改正なども予定されています。


「国立大学法人法案の概要(骨子素案)」

平成14年12月25日

I 総則
  1. 「国立大学法人」とは、国立大学を設置することを目的として、この法案の定めるところにより設置される法人を言う。
    • 学校教育法第2条を次のように修正(下線部を追加)学校は、国(国立大学法人を含む)、地方公共団体及び学校法人のみが、これを設置することができる。
    • 学校教育法上、法人化後も「国立大学」。独立行政法人通則法に規定する独立行政法人ではなく、国立大学に相応しい「国立大学法人」(独立行政法人通則法の規定は必要に応じ準用)。
  2. 国は、この法律の運用に当たっては、大学反ぴ大学共同利用機関における教育研究の特性に配慮しなければならない。
  3. 国立大学法人(89法人)及び大学共同利用機関法人(4法人)の名称を定める。
  4. 政府からの出資、追加出資及び追加現物出資について定める。
  5. 国立大学法人及び大学共同利用機関法人を評価するための「国立大学法人評価委員会」を置く。
      国立大学法人評価委員会が中期目標期間終了時の評価を行うに当たっては、独立行政法人大学評価・学位授与機構が行う教育研究評価の結果を尊重しなければならない。
II 組織及び業務

    (役員)
  1. 国立大学法人の役員として学長、理事及び監事を置く。

    (役員会)
  2. 学長は、次の事項について決定する際には、役員会(学長及び理事で構成)の議を経なければならない。
    ①中期目標についての意見、中期計画及ひ年度計画
    ②文部科学大臣の認可・承認を受けなければならない事項
    ③予算の編成・執行、決算
    ④その他役員会が定める重要事項

    (学長の任命)
  3. 学長の任命は国立大学法人の申出に基づいて、文部科学大臣が行う。
  4. 8の国立大学法人の申出は、
    ①学長及び役員(経営協議会委員又は評議員である者に限る。)
    ②経営協議会の学外委貝で経営協議会から選出される者
    ③評議会の代表者で構成される「学長選考会議」の選考に基づき行うものとする。
      ②及び③は同数とし、それぞれ学長選考会議の委員の総数の3分の1を超えるものでなければならない。

    (理事及び監事)
  5. 理事は学長が、監事は文部科学人宙が任命する。
    その際、現に当該国立大学法人の役員又は職員ではない者(学外者)が含まれるようにしなけれぱならない。

    (役員の任期)
  6. 学長の任期は、6年を超えない範囲内で、学長選考会議の議に基づき、各国立大学法人が定める。
      理事の任期は、6年を越えない範囲内で、学長が定める(ただし、学長に任期を超えてはならない)。
      監事の任期は、2年とする。

    (役員の解任)
  7. 文部科学大臣は、心身の故障、職務土の義務違反、業績悪化等の場合には、学長選考会議の申出をまって、学長を解任することができる。
      学長は、心身の故障、職務上の義務違反、業績悪化等の場合には、理事を解任することができる。

    (経営協議会)
  8. 国立大字法人の経営に関する重要事項を審議する機関として「経営協議会」を置く。
  9. 経営協議会は、
    ①学長
    ②学長が指名する役員及び職員
    ③評議会の意見を聴いて学長が任命する学外有識者(学外委員)で構成され、③の学外委員が2分の1を超えるものでなければならない。
  10. 経営協議会は、
    ①中期目標についての意見、中期計画及び年度計画のうち経営に関する事項
    ②会計規程、役員報酬基準、職員給与基準その他経営に関する重要な規則の制定・改廃
    ③予算の編成・執行、決算
    ④組織編制、学生定員
    ⑤経営面での自己評価
    ⑥その他国立大学法人の経営に関する重要事項を審議する。
  11. 経営協議会の礒長は学長を充て、議長は経営協議会を主宰する。

    (評議会)
  12. 国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する機関として「評議会」を置く。
  13. 評議会は、
    ①学長
    ②学長が指名する役員
    ③学部長、研究斜長、附置研究所長その他の重要な教育研究組織の長で評議会が定める者
    ④その他評議会が定めるところにより学長か任命する職員で構成される。
  14. 評議会は、
    ①中期目標についての意見、中期計画及び年度計画のうち教学に関する事項
    ②学則その他の教育研究に関する重要な規則の制定・改廃
    ③教育研究組織
    ④教員人事に関する事項
    ⑤教育課程編成の方針
    ⑥学生の厚生・補導
    ⑦学生の入退学や学位授与等の方針
    ⑧教育研究面での自己評価
    ⑨その他国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する。
  15. 評議会の議長は学長を充て、議長は評議会を主宰する。

    (学部、研究科等)
  16. 学部及び研究料並びに附属学校及び附置研究所は文部科学省令で規定する。

    (国立大学法人の業務)
  17. 国立大学法人の業務を定めるとともに、国立大学の研究成果を活用する事業等を実施する者に対して出資できることを定める。
III 中期目標等
  1. 文部科学大臣は、6年を期間とする中期目標を定める。
    中期目標は、
    ①教育研究の質の向上に関する事項
    ②業務運営の改善及び効率化に関する事項
    ③財務内容の改善に関する事項
    ④自己評価や情報発信に関する事項
    ⑤その他の重要事項を定める。
      文部科学大臣は、中期目標を定めるに当たっては、あらかじめ、国立大学法人の意見を聴き、当該意見に配慮しなければならない。
  2. 国立大学法人は、中期目標に基づき、中期計画を作成し、文部科学大臣の認可を受けなければならない。
IV 財務及び会計
  1. 積立金の処分、長期借入金、財産処分収入の独立行政法人国立大学財務・経営センター(仮称)ヘの一部納付等について定める。
V その他
  1. 国立大学法人評価委員会は、平成15年10月1日に設置する。
    国立大学法人は、平成16年4月1日に設置する。
  2. 国立大学法人移行の際の学長は、原則として現在の任期まで引き続き学長となる。
  3. 現在の国立大学の職員は国立大学法人が引き継ぐとともに、権利義務も継承する。
  4. 附属病院の整備や移転整備のための国立大学特別会計の長期借入金は、独立行政法人国立大学財務・経営センター(仮称)が引き継ぐとともに、関係する国立大学法人が分担して負担する。


独立行政法人化反対首都圏ネットワーク事務局
国立大学法人法案の即時公開を求める」(2003年1月16日)より抜粋

「国立大学法人法案の概要(骨子素案)」の本質

  上記のように「国立大学法人法案の概要(骨子素案)」(以下、「概要」)が示された。この「概要」に基づいて既に法案が 完成されていると伝えられている。法案の内容がいかなるものになるかは、言うまでもなく「法人化」そのものの是非に直結する。昨年3月の調査検討会議「最終報告」はひとつの審議機関の答申にすぎなかったが、法案は、それによって国立大学の「法人化」の具体的な内容が確定されると言う意味で、決定的に重要な意味をもっている。その意味で、法案を可及的速やかに公開 させ、それを正確に理解するとともに、これを根本的に批判することが、悪しき「法人化」—われわれは当初から今次の「法人化」構想自体を悪しきものとして批判してきた—を阻止するうえで重要な課題になる。不当なことに現段階で法案が公開されていないので、とり急ぎ「概要」の分析を行う。

1.「国立大学法人」による「国立大学」の設置

  「概要」のおそらく最も重要な特徴は、「国立大学法人」を観念上「国立大学」から分離し、法人組織と大学組織の二重性を 認めた点にある。「概要」の「I 総則」によれば、「国立大学法人とは、国立大学を設置することを目的として、この法律の 定めるところにより設立される法人をいう。」と規定される。これは、私立学校法第3条の規定(「この法律において「学校法人」とは、私立学校の設立を目的として、この法律の定めるところにより設立される法人をいう」)と文言形式はほとんど一致する。つまり、「概要」においては、「国立大学法人」は「国立大学」の設置者であり、「国立大学」は当該法人によって設置 される大学となるのである。さらに言えば、法人化論議のはじめから議論となった直接方式—間接方式、設置者を国とするか否か、という問題は、いくら文科省幹部が「直接方式で決着」と強弁したとしても、「概要」において、少なくとも外形的には、 間接方式、すなわち法人を設置者とする方式に帰着したのである。
  これは、「最終報告」が明確に記した「学校教育法上は国を設置者とする」(最終報告12〜13頁)という命題にも、また 国大協法人化特別委員会法制グループの意見にも反するものと言わなければならない。この間の内閣法制局筋からのクレームとして伝えられてきた設置形態問題で、文部科学省は譲歩を強いられたと言えようか。
  もっとも、国立大学法人の設置する大学は、「国立大学」である。「概要」において学校教育法第2条の修正として記載されているように、国立大学法人は「国」に含まれるものとされ、したがって国立大学法人の設置する大学は、学校教育法上は、国が設置する大学(学教法2条2項)、つまり国立大学とみなされるのである。
  国を直接の設置主体とする場合と、国に含まれる国立大学法人が設置主体となる場合でどのような具体的な差異が生じるか、 慎重に検討する必要があるが、最も重要な問題は、大学の管理運営が「大学」の組織によってではなく、「法人」の組織によってなされることである。

2.大学の組織と法人の組織

  調査検討会議の「最終報告」は、「『大学』としての運営組織と別に『法人』としての固有の組織は設けない」(14頁)と 述べていた。国立大学法人と国立大学の組織は一体のものとして観念されていたと言ってよいであろう。いわば、直接方式の論 理的帰結である。しかし、「概要」においては、考え方が逆転している。「概要」の「II 組織及び業務」以下において「国立大学」という言葉が使われているのは評議会に関する17項、19項の2ヶ所にすぎない。その他はすべて「国立大学法人」の 組織・業務として規定されているのである。「概要」のめざす法案は、大学の「経営」組織としての「法人」の組織と権限を明確にすることによって、「大学」つまり研究 教育の組織の権限を極小化する可能性をもっていると言いうる。
  そこで問題は、「法人」の組織がどのように組織されるかということである。「法人」もまた現在の大学における管理運営組 織のように教員をはじめとする大学構成員で構成されるなら、大きな変化は生じないとも言いうるからである。
  結論から言えば、「最終報告」と同様、あるいはそれ以上に、学外者の関与を強めると同時に、学外者の参加する役員会、経営協議会(「最終報告」では運営協議会という名称であった)の権限を強化することによって、大学構成員の代表者で構成する評議会の権限を弱めること、教学に対する経営の優位を確保することに、「概要」の主眼がある。
  ちなみにこれに関連して「最終報告」から変化した点を摘記しておこう。
(1)前述の「経営協議会」のほか「理事」、「学長選考会議」などの用語の変更が見られる。
(2)運営組織の構成について、学長選考会議の構成(第9項1)では、何と学長選考に現職の学長を含めている!)、経営 協議会の学外委員を「2分の1を超えるもの」(第14項)としたこと、経営協議会、評議会に「学長が指名する役員、職員」を加えたこと、などが挙げられる。執行部の権限が強化されるとともに、学長選考会議や経営協議会を通じた学外者の関与を強化するものになっている。
(3)経営協議会の権限(第15項)に、「中期目標についての意見」(国立大学法人から文部科学大臣に提出する意見=原案の意)、「学生定員」が加えられたことが注目される。それは、評議会権限にある「教育研究組織」と密接な関連を有するからである。
(4)学長や役員の解任基準(第12項)に「業績悪化」が挿入されている。

3.中期目標等

  「III 中期目標等」は、「最終報告」の枠組みと変わらない。文部科学大臣が国立大学法人の意見に「配慮しなければならない」とされているとはいえ、全体として国家統制的な仕組みが貫いていることは、すでにわれわれが批判してきたとおりである。
  ただ、これと関連して、「国立大学法人」の基本的な性格が再び問題になりうる。「I 総則」において、「独立行政法人通則法に規定する独立行政法人ではな(い)」と「概要」は主張するが、「独立行政法人通則法の規定は必要に応じて準用」と書 かれているように、基本的な仕組みは独立行政法人通則法に依存したものになっている。

4.身分の継承

  「V その他」の第28項で、国立大学職員の権利義務が国立大学法人に継承されるとされている。この一般的な文章から確 実なことを予測することはむずかしいが、ひとまずは身分の承継を法律に書き込むことで「法人化」への抵抗を和らげようという意図がうかがわれる。しかし、2点だけ指摘しておこう。
  まず、身分の承継問題は、これを規定する具体的な文言が確定するまでは完結しないということである。選別的な継承の余地もこの文章だけでは排除されていない。もうひとつは、「非公務員化」に関する記述がいっさい存在しないことである。「非公務員化」がすでに確定した政策であるとすれば、不思議なことである。

 

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