No.21
2005.11.18
熊本大学教職員組合
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構成員の信頼を裏切る突然の方針転換!!
——「教員の個人活動評価」の結果が“給与に反映”に——

 すでに各部局などで報告されたことと思いますが,2005年10月6日開催の大学評価会議において「教員の個人活動評価の見直しの考え方」が策定され,前年度に試行された「教員の個人活動評価」のあり方を見直すことが決定されました(同日開催の役員会において決定。10月13日開催の部局長等連絡調整会議で報告)。この決定は,試行段階の「教員の個人活動評価」のあり方を大きく転換するものです。現在は,2006年度からの実施に向け,教員個人活動評価ワーキンググループで具体策の検討が進められています。

方針転換の内容
 大学評価会議「教員の個人活動評価の見直しの考え方」によって,転換の内容を確認すれば次の通りです。まず評価方法を「試行における教育,研究,社会貢献及び管理運営の領域ごとに設定したポイントの積み上げによる評価を見直し,……各教員が設定した目標の達成を評価する方法に改める」といい,その「評価者は各学部長等」とされています。「教員の個人活動評価」の試行に際して,その実施と評価方法について学内から多くの批判や疑問の声があがっていた(ポイントの積み上げ方式に問題が多いことは,岡山大や長崎大など先行大学の経験からも明らかでした。それを指摘された上でも,熊大の使用者は試行を強行したのです)ことからすれば,ポイントの積み上げ方式から各教員が設定した目標の達成度を評価する方法に改めることは,意味あるものなのかもしれません。
 さらに重要な方針転換は,評価結果の活用について,「特に高い評価を受けた者に対するインセンティブの付与(研究費の増,若手研究者の海外研修,サバティカル等)」,「特に低い評価を受けた者に対する改善指導」のほかに,「給与に反映(昇給,勤勉手当等)」を加えたことです。「教員の個人活動評価」の試行にあたっては,「教員個人の活動状況を点検・評価し,その活動の一層の活性化を促すことにより,本学における教育,研究等の向上を図るものである」という目的を強調し,“評価結果を給与に反映させることはしない”と重ねて明言していました。今回の見直しは,それを180度転換するものです。この方針転換は,以下に示すように少なくとも三つの大きな問題があるといわざるを得ません。

手続き問題①——大学評価会議の審議のみで決定
 まず方針転換の意志決定の手続きに二重の意味で問題があります。確かに,形式的には大学評価会議・役員会のみで決定できるのかもしれません。しかし,「教員の個人活動評価」の試行にあたっては,各部局等での審議・意見聴取がなされており,しかも批判や疑問の声が多かったことからすれば,その見直しに際しても,各部局等での審議・意見聴取が行なわれて然るべきです。今回の見直しの前提として,教員個人活動評価ワーキンググループが8月10日に「教員の個人活動評価(試行)の実施結果報告書」を学長に提出しましたが,この報告書はどれだけの部局の構成員に開示されたでしょうか。ほとんどの部局で開示されていないはずです(ある部局では教授会構成員からの請求があってはじめて開示されました)。試行の経緯からして,試行の結果,どのような評価結果が出,どのような問題点があったのか,教員に十分に説明し,仮に試行段階のあり方を見直すのであれば,試行の際と同様に各部局等での審議・意見聴取が行なわれるべきです。しかし,今回の見直しは,試行結果の説明さえ十分に行なわれていないまま決定に至っています。大学評価会議は,“評価は管理運営事項であり,教授会の意見など踏まえなくとも何ら問題ない”というのかもしれませんが,「教員の個人活動評価」は教育研究と密接に関連した問題ですから,部局等の審議・意見聴取が踏まえられて当然なはずです。これらが意志決定手続きの問題点の一つ目です。

手続き問題②——理由は人事院勧告への対応のため
 では,試行の際の方針を抜本的に改め,評価結果を「給与等に反映」するとした理由は何でしょうか。複数の部局での説明によれば,その大きな理由は人事院勧告に対応するためとのことです。教員個人活動評価ワーキンググループの「教員の個人活動評価(試行)の実施結果報告書」は,特段,「給与等に反映」することを求めてはいません。むしろ,ワーキンググループは,報告書を学長に提出するにあたって“評価結果を給与等に反映させるべきではない”(理由は,①異なる分野間の比較ができない,②上位者が団子状態のためにインセンティブの付与ができない,③データは自己申告のものであり内容の確認をしていない,の三点。①・②は試行前の段階でポイント積み上げ方式の問題点として指摘されていた点です)と結論していましたが,学長が人事院勧告への対応を理由に評価結果を「給与等に反映」するよう求め,ワーキンググループが教員個人活動評価の目的を変更する以上は学長の責任で行なうことを求めた結果,大学評価会議で「教員の個人活動評価の見直しの考え方」を策定するに至ったとのことです。しかし,これは重大な問題を抱えた意志決定です。
 周知のように,今年8月15日付の人事院勧告は,2006年度以降の「給与構造の見直し」を打ち出し,その中の一つに従来の昇給制度を改め,「勤務成績に基づく昇給制度の導入」を盛り込んでいます。仮に,本学が2006年度以降についての人事院勧告に従うのであれば,昇給制度のあり方等を改める必要があります。しかし,本学では今年の人事院勧告に準拠するかどうかは,まったく決まっていません。2006年度以降についてはもちろんのこと,2005年度についてさえです。やっと11月8・9日に「平成17年人事院勧告に関する説明会」が開催され,11月14日に2005年度の職員給与の改正案が示された(理事:大迫靖雄「平成17年度の職員給与の改正(案)について」)段階です。2006年度以降についての対応は,来年3月までに検討するとされています。
 いうまでもなく,人事院勧告に従うかどうかは労使関係の中で決定される問題です。それがまったくなされていない段階で,人事院勧告への対応を理由に教員個人活動評価ワーキンググループの当初の結論を圧殺して見直しの決定がなされたのです。本来,労使関係の中で決定すべき人事院勧告への対応問題を,労使関係以外の次元で実質的に決めようとしていること。これが意志決定手続きに関わる問題点の二つ目です。

果して部局長等の力量で実現可能なのか?
 第三の問題点は,新たに打ち出された評価方法が有効に機能するかどうかです。前述のように,各教員が設定した目標の達成度を部局長等が評価する新たな評価方法は,教員の専門性や職務の多様性に対応することが可能で,ポイントの積み上げ方式よりも有効なのかもしれません。しかし,新たな方法は評価にあたる部局長等が莫大な労力を求められることは確実です。それは,本当に可能なのでしょうか。教員個人活動評価ワーキンググループの「教員の個人活動評価(試行)の実施結果報告書」を見ると,危惧の念を抱かざるを得ません。「報告書」には,「学部長等(部局の長)の評価者が今回のシステムの最も基本的なところを理解していない事例が見られた。……多くの評価者にとって所見を書くということは,従来の業務にないことでもあったので,大変な負担になったようである。学科長の書いた所見が,そのまま評価者である学部長等の所見となる場合もあったのではないだろうか」といった指摘がなされているからです。
 新たな評価方法は,部局長等による恣意的な評価を招く危険性を本来的に孕んでいるものでもあります。しかし,大学評価会議「教員の個人活動評価の見直しの考え方」には,それをどのようにして防止するかは,まったく示されていません。管理者の評価についても,「理事および学部長等の評価については,組織マネジメントを主眼においた方法を検討する」とされているだけです。
 新たな評価の結果を「給与に反映」させようとするならば,新たな評価方法が有効に機能するかどうかを十分に検証した上で検討されるべきでしょう。給与は人の一生に関わる問題なのですから,慎重を期して当然です。

熊大使用者が不誠実な態度を取り続ける根源!?
 今年の人事院勧告への対応をめぐって,熊大教職員組合は9月26日につづき11月14日に団体交渉を行ないましたが,熊大使用者側は相変わらず不誠実な態度をとり続けています(詳しくは,『赤煉瓦』№22,2005.11.21をご覧ください)。11月14日の交渉では,組合の要望にまったく応えることなく交渉に臨み,2005年度については人事院勧告に準拠する方針を繰り返すだけでその合理性や高度な必要性を何ら示すことはありませんでした。“それでは,団交拒否・不誠実交渉にあたります。我々としては,県の労働委員会に斡旋の申し立てをせざるを得ませんよ”という組合の指摘に対して,大迫人事労務担当理事は「行ってもいい。しょうがない」と平然と答える有様でした。管理者として信じられないほど無責任な発言です。
 文部科学省が国立大学法人からの問い合わせに対して配布した文書「国立大学法人等における平成17年度人事院勧告(給与構造の基本的見直し)に伴う役職員の給与等の取扱いに関する基本的考え方」にも,「まずは,各法人における人件費等に関する情報等を職員に対して明白にした上で,今回の給与水準の公表における数値の詳細な分析を基に,各法人における人件費に関する今後の計画等を職員に説明し理解を得ることが必須」と明記されていますが,熊大使用者側はこれにも反する態度をとり続けているのです。
 「教員の個人評価活動」の見直しをめぐる問題点を踏まえるならば,人事院勧告への対応について熊大使用者側が不誠実な態度をとり続けるのは,交渉に臨んだ人間の資質の問題ではなく,学長を含めた確信犯なのかもしれません。8月10日の段階で2006年度以降の人事院勧告への対応を口にし,「教員の個人評価活動」の方針を転換したのですから,そう思われても仕方がないはずです。これでは,“2006年度以降についての対応は来年3月までに検討する”と公言しても,まったく信用できません。

 周知のように,国立大学法人評価委員会による2004年度の業務実績評価で本学は「特筆すべき」「計画通り」など高い評価を得ました。その大きな原動力は教職員一人ひとりの日々の尽力にあったはずです。その尽力に対して,本学の管理者は不誠実な態度をもって応えようとしています(「教員の個人活動評価」の見直しの問題で付け加えれば,部局長の中には,自ら大学評価会議のメンバーでありながらも,それを明かすことなく“大学評価会議と役員会で決定し,部局長等連絡調整会議で報告された”と教授会で説明して平然としている人さえいます)。管理者への不信感こそは,職場の活力を奪う元凶です。本学にいま必要なのは,いたずらに評価結果を「給与に反映」させることではなく,管理者が教職員に対する自らの向き合い方を反省し,誠実性を恢復することです。
 熊本大学教職員組合は,早急に大学評価会議・役員会が「教員の個人活動評価の見直しの考え方」の決定を再検討すること,ならびに教員個人活動評価ワーキンググループが本来あるべき良識を発揮することを強く要望します。

 なお,大学評価会議のメンバー構成を示せば,次の通りです。
  国立大学法人熊本大学評価会議
 撝元達郎(学長) 足立啓二(理事) 安仁屋勝(学長特別補佐)
 井之上純孝(総務部長) 小野友道(理事) 河野實彦(理学部長)
 佐藤 隆(事務局長) 志賀 潔(医学教育部長) 平山忠一(理事)
 森 正人(文学部長)

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