2006.1.13 |
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労働法違反行為(基本給・扶養手当等の一方的切り下げ措置)強行へ |
1月6日、学長より「国立大学法人熊本大学職員給与規則の改正について」という文書が発表されました。すでに各職員に対してもメールあるいは文書の形で配布されていることと思います。この文書で学長は、就業規則の改正によって基本給の切り下げが可能だと主張していますが、赤煉瓦第25号(2005.12.22)でも指摘したようにこの主張は誤りであり、基本給の切り下げは違法行為です。 なお、労働条件は個々の労働者と大学の間の個別労働契約で決定されるというのが労働法の建前ですから、個々の労働者が改正に同意すれば労働契約内容の変更は可能です。受け入れられないのであれば、大学に基本給を切り下げないよう要求する必要があります。黙っていれば暗黙の合意を与えたとされる可能性があります。職員の皆さんには学長の主張を受け入れるのか否か、このニュースを読んでもう一度考えていただきたいと思います。 使用者側は、2006年度からの公務員給与制度見直しを受けて大幅な基本給の削減(平均4.8%)を提案してくる可能性があります。学長・理事など経営者の目を、政府・文科省ではなく職員の置かれている現状に向けさせるために、これまで以上に職員一人一人が声をあげていく必要があります。
基本給を切り下げなくてはならない「高度の必要性」は存在しない 学長文書では第四銀行事件判決を引用し、「不利益変更は合理性を有する場合には認められる」「合理性の有無は、変更の必要性と変更による労働者が被る不利益の程度との比較とされる」としています。今回の不利益の程度は低いのだから、必要性も低くても構わないと主張しているように思えます。しかしこの文書には判決の次の文章は触れられていません。 特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。今回の提案は基本給・扶養手当等の切り下げですから、単なる必要性ではなく高度の必要性を求められています。さて、学長の上げる合理性の根拠を吟味します。
熊本大学事務・技術職員の給与水準は国家公務員の83.4%、調整手当非支給地で比較しても87.7%です。また、人事院勧告は国立大学法人職員を比較対象に含めていません。組合は国立大学が法人化されていなければ今年度の勧告は+1.5%になるはずとの試算を出しており、−0.36%の人事院勧告に大学が従わなくてはならない理由はありません。
本学の経営状況について示された数字は、2004年度と2005年度の予算額の推移でしかありません。今年度の経営状況については明確な説明はほとんどなされていないのです。人件費が7億円超過しているとの説明も、2004年度運営費交付金の配分の際に2003年度末の定員数を基準に人件費の算定が行われたことを考えれば、非常勤職員の分は不足していて当然です。また、運営費交付金は物件費と人件費に分けて交付されているわけではありません。2004年度の人件費算定分を根拠に7億円足りないと主張されても納得できるはずがありません。なお、0.3%の基本給切り下げで浮く経費はわずか1000万円に過ぎません。基本給引き下げの経営上の高度の必要性は認められません。
これは法人化前に決められた一つの方針に過ぎません。法人化後の労働条件は労使の合意の下に決められるべきものであり、法人化前に定められた方針に必ずしも拘束されません。法人化前の委員会に法人化後の労働条件事項を決定する法的権限は無いのです。無論、学長がこの方針にそって政策判断を行うことを否定するわけではありませんが、基本給切り下げの必要性の理由にはあたりません。 他にも3つの理由をあげていますが、高度の必要性があるか否かの判断材料にはならないので省略します。 組合との合意を追求しない使用者側に責任がある 多数組合との合意は就業規則不利益変更の合理性の重要な判断要素になります。組合は、基本的には大学に賃金の自主決定権があるとの認識ですが、退職金が国家公務員制度に基づいて国から措置される制度になっていることもあり、公務員の給与制度を参考に大学職員の賃金を決めていく必要があることも認めています。 ですから、12月22日の団交に向けて執行委員会内で妥結の可能性についての討議も行いました。そして、現在の熊大職員の置かれている賃金水準の劣悪さを使用者側が認めれば、若干の不利益緩和措置をもって妥結に応じようとの判断に至りました。しかし、使用者側は大学職員も国家公務員と同じ昇格基準で運用しているのだから賃金水準が劣悪だと一概には言えないという立場に終始しました。提示した給与改定案の内容もまったく変更されず、妥協によって組合との合意を得ようとする姿勢は見られませんでした。 今後、1月の賃金支給をめぐって、改正内容に合意しない職員との間で混乱が生じたならば、その責任は、組合との合意を軽視し一方的に基本給切り下げを押し付ける使用者側にあります。 資料 第四銀行事件・最高裁第二小法廷1997年2月28日判決 「新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」 |