No.18
2006.9.19
熊本大学教職員組合
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熊大使用者は「五高記念館」助教授の
任期制導入問題について団体交渉を拒否!
組合は熊本県労働委員会にあっせんを申請しました

 『赤煉瓦』№7「相変わらずの安易かつ杜撰な任期制導入!?」(2006.7.13)では,五高記念館配置の助教授ポストへの任期制(任期:5年。再任:可)導入について,その導入手続きが学内の意志決定ルールと「大学の教員等の任期に関する法律」(以下,「大学教員任期制法」と略す)に著しく反したものであること,また五高記念館の助教授の職務は任期制には適合しないことなどをお伝えしました。この問題について,我われ熊本大学教職員組合は,6月28日に団体交渉の開催を学長に申し入れました。
 ところが,信じ難いことに,熊大使用者は団体交渉拒否の姿勢をとり続けています。これに対して組合は,熊本県労働委員会へのあっせん申請に踏み切りました。ここでは,この間の経緯と熊大使用者の主張の問題点をお伝えします。

熊大使用者が示す団体交渉拒否の二つの理由なるもの
 6月28日の団体交渉開催申し入れに対して拒否の回答があったのは,7月13日のことでした。これに対して組合は,7月20日に拒否理由の問題点を指摘しつつ,再度文書で団体交渉の開催を申し入れました。しかし,7月28日に再び交渉拒否の回答を受け,その理由も7月13日と同一のものでした。
 7月13日と7月28日に熊大使用者が示した団体交渉拒否の理由
(7月13日・28日ともに人事課長と人事課職員2名が口頭で説明)とは,次の2点です。
「大学教員任期制法」に基づく教員任期制は,本学ではすでに人事制度として確立しており,五高記念館の助教授の任期制は新たな任期制の導入ではないと考えるため。
団体交渉は組合員の労働条件について行なうものと理解しており,五高記念館の助教授は雇用前の段階であり,組合員の労働条件ではないため。
 熊大使用者が提示した団体交渉拒否の2つの理由は,以下に示すように「大学教員任期制法」と労働組合法の無理解によるものであり,まったく理由にならないものです。

交渉拒否の①の理由について
 熊大使用者が示した①の理由を,より噛み砕いて言えば,"本学ではすでに「大学教員任期制法」に基づく教員任期制を導入しているので,今回の五高記念館の助教授の任期制は新たに任期制を導入するものではない"というものです。紛れもなく本学ではすでに「大学教員任期制法」に基づく任期制を導入しています
(周知のように,研究を主要業務とするエイズ学研究センター,発生医学研究センター等の学内共同教育研究施設のポストで導入されています)。だからといって,五高記念館の助教授の任期制を新たな任期制導入ではないというのは,「大学教員任期制法」の無理解によるものか,詭弁を弄したものと言わざるを得ません。
 「大学教員任期制法」の初歩の初歩ですが,「大学教員任期制法」に基づく任期制は,その第4条が規定した(1)「先端的,学術的又は総合的な教育研究」など多様な人材の確保が特に求められる職,(2)研究専念型の助手の職,(3)プロジェクト研究の職という三つの場合に適合するかどうかを検討し,適合すると判断した職を指定して導入してゆくものです。この手続きは,すでに「大学教員任期制法」に基づく任期制を導入している大学が任期制の職を増やす場合にも,必要不可欠なものです。したがって,すでに「大学教員任期制法」に基づく任期制を導入している大学が任期制の職を増やすということも,新たに職を指定して任期制を導入するということに他なりません。すでに任期制を導入している大学が任期制の職を増やす際,任期制を初めて導入する大学が「教員の任期に関する規則」を制定するのと同様に,「教員の任期に関する規則」を改正しなければならないのは,その反映です
(すでにお伝えしたように,五高記念館の助教授については,熊大使用者は規則改正=正式な導入決定すらしないまま教員公募を行なうという重大な過ちも犯していますが)。以上のことから,"五高記念館の助教授の任期制は新たな任期制の導入ではない"という熊大使用者の主張は,「大学教員任期制法」をまったく理解していないか,詭弁を弄したものか,のどちらかでしかありません。
 また,任期制を導入するかどうかは教員の労働条件にかかわる問題であり,団体交渉事項に該当することは,「大学教員任期制法」の国会審議の場で文部省自身が説明しており,文部省高等教育局監修の「大学の教員等の任期に関する法律Q&A」
(『大学資料』134,1997年10月)にも次のように明記されています。
Q.33 私立大学の教員の場合,任期制を導入するか否かは労働条件にかかわることであるため,労働組合との交渉事項になるのでしょうか。(また交渉事項となる場合には,労働協約を締結する必要があるのでしょうか。)
A. 私立大学において,任期制を導入することは教員の労働条件にかかわる事柄と考えられますので,労働組合との団体交渉事項に該当するものと思われます。なお,労使交渉後に労働協約を締結するかどうかは,労使間で決定すべき問題であると考えられます。
 念のため言えば,この「Q&A」には「私立大学の場合」とありますが,これは1997年の「大学教員任期制法」制定当時のもので,国立大学の法人化に際して「大学教員任期制法」も改正され,国立大学法人は私立大学と同一に位置づけられています。したがって,任期制の導入にあたって団体交渉の申し入れを拒否することは,義務的交渉事項を無視したものです。

交渉拒否の②の理由について
 熊大使用者が示した②の理由の「団体交渉は組合員の労働条件について行なうものと理解」するという根拠は,労働協約であると言います。確かに,熊大使用者と組合が締結した「労使関係に関する労働協約」第2章 団体交渉は,次のように記しています。
 第4条 団体交渉事項は以下のとおりとする。
 (1)組合員の労働条件及び団体的労使関係の運営に関する事項
 (2)その他組合と大学が認めた事項
 熊大使用者が根拠とするのは第4条の(1)です。しかし,労働協約はそれだけでなく同条(2)として「その他組合と大学が認めた事項」も規定しています。組合は,上述の理由から「大学教員任期制法」に基づく任期制導入は義務的交渉事項であると判断し,この労働協約第4条(2)に該当するものとして団体交渉の開催を申し入れているのです。
 また,熊大使用者が②の理由を挙げる背景には,五高記念館の助教授は新設のポストであるから,現在の組合員の労働条件に影響を及ぼすものではないと考えていることがあります。しかし,この考えもまったくの誤りです。先の『赤煉瓦』№7でお伝えしたように,五高記念館の助教授の主要な職務には,学芸員教育課程の教育と企画・運営が入っています。いうまでもなく,学芸員教育課程は多くの教員の共同によって行なわれており,五高記念館の助教授の労働条件をどのようにするか
(任期制か否かを含む)は,学芸員教育課程を担っている多くの教員の労働条件に大きく影響せざるを得ません。念のため言えば,現在,学芸員教育課程を担っている教員には組合員が何名もいます。
 たとえ組合員以外の労働条件であっても,それが組合員の労働条件に大きな影響を与える場合に,労働組合が団体交渉を要求すれば,義務的交渉事項になるというのは,労働組合法の常識です。因みに,労働組合法の解説書の一つは次のように述べています。
非組合員の労働条件
 労働組合は,原則として組合員の労働条件について団体交渉をするものであり,合意事項が協約化された場合も,それは直接的には組合員にだけ適用される。しかし,パートタイム労働者や派遣労働者などの非組合員の労働条件も,間接的には組合員の労働条件に重要な影響を及ぼす。また,日本の企業では,組合員が将来非組合員の管理職に昇進していく場合が多く,管理職の労働条件に対して組合としても関心をもたざるをえない理由がある。したがって,労働組合がこうした関心から非組合員の労働条件に団体交渉を要求した場合,これらの問題も義務的交渉事項となると解すべきである。

(西谷 敏『法律学体系 労働組合法』有斐閣,1998年,284頁)

 以上のように,熊大使用者が団体交渉拒否の理由とした2つの理由はまったく理由にならないものであり,熊大使用者は二重の意味で義務的交渉事項を無視し,不当労働行為を犯しています。

良識だけでなく誠実性もない!? 熊大使用者
 7月28日に団体交渉拒否の回答を受けた際,組合は拒否の回答とその理由を文書で示すよう要望し,使用者も"口頭で説明したことを文章化するだけになる"と断わりながら文書での回答を約束しました。文書での回答が示されたのは8月11日のことです。驚くことに,学長名で示されたその文書の内容は次の通りでした。
 

交渉申し入れへの回答

 平成18年6月28日及び同年7月20付けで、五高記念館の助教授の任期制及び同労働条件について交渉の申し入れがあった件について回答します。
 交渉は、組合員の労働条件に関する事項について行うものと理解しております。同館の助教授ポストは、新設のポストであり、現在の組合員の労働条件に何ら影響を与えるものではないということから、交渉には馴染まないと判断します。
 なお、今回の助教授ポストの新設に伴う公募の内容等につきましては、質問等があれば説明したいと考えています。
 自ら7月13日と28日に"口頭で説明したことを文章化するだけになる"と言っておきながら,拒否の①の理由はまったく記されていないのです。"これは,7月28日の約束と反するではないか。拒否の①の理由は撤回したということか"と組合が問い質すと,"拒否の①の理由はこの文章に含意されている"と言います。しかし,誰がどこをどう読んでも,この文面に拒否の①の理由が含意されているとは読みとれないはずです。組合は,拒否の①の理由を明記して改めて文書で回答するよう要望しました。
 その回答が届いたのは8月31日のことです。しかも,その文書による回答は8月11日のものとまったく同一のものでした
(日付さえも8月11日のままでした)。組合は再度,"拒否の①の理由は撤回したのか"と問い質しましたが,その答えは"この文章に拒否の①の理由は含まれている"というものでした。さらに,"どこをどう読んでもそのような意味にはとれない。このような判断したのはどこか"と再三,問い質した結果の答えは,「大学として然るべく判断した」=「人事労務担当理事が判断した」というものでした。
 熊大使用者は,自ら二度に亙って口頭で説明した内容を文章化すると約束しておきながらも,それを破って平然としているのです。もはや,熊大使用者は良識だけでなく誠実性さえも完全に失っているようです。

9月12日,熊本県労働委員会にあっせんを申請!!
 ともあれ,熊大使用者の団体交渉拒否は,二重の意味で義務的交渉事項を無視した不当労働行為ですので,断じて認めることはできません。しかも,組合は再三そのことを使用者に指摘して,問題を大学の自助努力で解決するように説得を試み,団体交渉の開催を要求してきました。それを熊大使用者は拒み続けるのです。組合は,労働問題に詳しい弁護士に相談のうえ,9月12日に団体交渉成立のあっせんを熊本県労働委員会に申請しました。
 熊本大学教職員組合は,熊大使用者が「大学教員任期制法」と労働組合法の無理解と,不誠実な姿勢を真摯に反省し,早急に団体交渉を開催するよう改めて要求します。

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