No.16
2009.10.27
熊本大学教職員組合
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我々の給与引き下げ分を
新型蛍光灯にすることは許されない!
組合は具体的な代償措置を要求!
3回目の団体交渉は10月30日に
--10月23日団体交渉報告--

  
10月23日、給与引き下げ問題について二回目の団体交渉を行いました。基本給を0.2%切り下げ、ボーナスを年間0.35月カットするという提案は、一回目の団交で使用者側が示したものとなんら変わらないものでした。一回目の団交で、こうした使用者側の提案は、合理的根拠も「高度の必要性」も一切ない法律違反(労働契約法)であるということが明白になったにも拘わらず、組合の要求に一歩たりとも歩み寄ろうとしない使用者側の姿勢は、断じて容認できるものではありません(『赤煉瓦』№15.2009.10.19)。このニュースでは、人事院勧告に固執し、熊大教職員の献身的な努力と生活を蔑ろにする使用者側の許し難い態度をお伝えします。

使用者側はまたしても賃下げの合理的根拠を示せず!
  団交の冒頭、森理事は、賃金切り下げ提案をする理由として、以下の4点を挙げました(はじめの3点については、一回目の団交時に使用者側が示したものとまったく同じです。これが、一回目の交渉後に開かれた政策調整会議において「再」検討した結果というのですから呆れてしまいます。あらためて触れる価値もないものですが、使用者側の不誠実さを明確にするという意味も込めて紹介します)。
(1) 独立行政法人通則法では、独立行政法人の役職員の給与水準を「社会一般の情勢に適合させる」ことを求めている。
(2) 人事院勧告に関する閣議決定及び官房長官談話等において、国立大学法人に対しても「国家公務員の給与水準を十分考慮する」ことを求めている。
(3) 運営費交付金は国民の税金からなるものであり、役職員の給与について社会的に説明できるものでなければならない。
(4) 熊本大学は、法人化前はもとより、法人化後も一貫して人事院勧告を重要な参考資料として給与を決めてきた。その継続性を考えれば、今回の提案も合理性を持っていると考える。
  (1) から(3)の理由に対する組合の見解(反論)は、『赤煉瓦』No.15でも紹介したように、以下のような、ごくごく当たり前かつ合理的なものです。
  • 熊大使用者側は、「『社会一般の情勢に適合させる』必要があると言いながら、自分たちには民間の給与実態を調べ把握することはできない、したがって、人事院勧告が重要な参考資料となる」と開き直りとも思える主張を繰り返すだけだが、熊本大学職員の給与水準が国家公務員よりも低いことは理事本人も認めている。ならば、国家公務員の給与水準を民間の給与水準に適合させることを目的とした人事院勧告をそのまま熊大職員に当てはめること自体非論理的である。人事院勧告を参考資料とするなら、むしろ、熊大職員の給与水準を国家公務員レベルに引き上げると考える方が論理的である。
  • たしかに運営費交付金は税金から支出されるが、熊大職員の給与水準が国家公務員よりも低く、民間との比較においてもけっして高いものでない(理事も認めている)以上、給与を引き下げないと判断したとして、それは、十分に社会的に説明できるものである。法人化後、多忙化の一途をたどる中で、献身的に働いている職員の努力を社会に説明し理解を求めることこそ経営者としての責務ではないか。
  (4)の理由は、今回の団交で使用者側が新に示した理由ですが、熊大使用者は、過去において、自らの判断で人事院勧告とは異なった対応をしたことがあります(2005年の給与改悪時には、年間支給額が減額にならないように引き下げの実施時期を次年の1月からとするという判断をしています。また、教職員については人事交流職員しか認めていない異動保障手当を、役員については民間からでも認めるという役員厚遇の姿勢を露わにしています)。つまり、熊本大学使用者の人勧への対応はけっして「一貫」したものではないのです。使用者側は、これを失念していたのでしょうか。

使用者側は、新たな判例も用意。しかし…
  使用者側は、今回の団交で人勧に倣った労働条件の不利益変更においても、その合理性を認めた判例があるとして、「福岡双葉学園事件」の最高裁判決(2007.12.18)を新たに引き合いに出してきました。その判決文の趣旨は、「増額の場合にのみ遡及的な調整が行われ、減額の場合にはこれが許容されないとするのでは衡平を失する」というものです。たしかに、この趣旨に則れば、使用者側の給与引き下げ提案にも、一見、合理性があるように見えるかもしれません。
  しかし、この判例をそのまま熊本大学に適用することには無理があります。第一に、法人化後、若年層を対象とした増額勧告を唯一の例外として、増額勧告は出ておらず、当然、人勧に倣って増額を継続的に行ってきたという実績がありません。第二に、今年5月に組合と使用者側が締結した「労働協約」第5条に、「甲(国立大学法人熊本大学)は、人事院勧告において、給与の増額勧告がなされた場合には、社会一般の情勢に配慮しつつ、その完全実施に向けて、最大限努力する」という条文があるのはたしかですが、「最大限努力する」とあるだけで、完全実施を確約したわけではありません。つまり、福岡双葉学園の判決は、長期に渡って継続的に人勧に基づいた増額を行ってきた事情を斟酌したものであり、熊大とは明らかに経緯が異なっているのです。
  なお、増額勧告が出れば当然給料が上がるものと期待している方もいるでしょうが、地域手当の新設で実質的給与増額になった地域の大学において、公務員どおりの増額が行われなかった例が幾つもあります。

「個人のレベルでは熊大職員の給与は国家公務員よりも低くない」と発言
  前回の団交で、国家公務員の給与水準と比べて熊大職員の給与水準をどうとらえているかと聞かれ、「公務員に比べて低いと認識している」と明言していた森理事は、今回の団交において、奇妙な論理を展開しました。それは、「国家公務員と同じ給与表を使っているのだから、個人のレベルで見れば公務員と同一と言える」というものです。これは、議論のすり替え以外のなにものでもありません。
  通則法と(前政権による)閣議決定が求めているのは、熊大職員の給与水準を社会一般の情勢に適合させることであり、個々の職員の給与の決め方ではありません。独立行政法人の中にはラスパイレス指数が100を大きく上回っているところも数多くありますが、国家公務員と同じ給与表を使っているのだから問題は無いという説明はできないはずです。なお、森理事は、熊本大学のラスパイレス指数(83.3)の低さについて、上位級の職員が少ないことも影響していると発言しましたが、それはまさに、「自立性」が高くなった(はずの)法人化以降、組合が再三にわたり要求してきたにも拘わらず、使用者側が上位級を増やす努力を怠ってきたことの査証にこそなれ、熊大職員の「給与水準」が低いことの合理的説明にはなり得ません。

使用者側が直視すべきは賃下げどころか「賃上げ」が必要な熊本大学の現状である!
  二回の団交で、使用者側も認めざるを得なかった、以下のような興味深い事実があります。それは、(1)年度途中に賃金切り下げを行わなければならないような、法人経営上の問題はない、(2)教職員の献身的な努力によって、第一期中期計画・中期目標期の評価が5段階中で4という良好なものであった、(3)法人化後、多忙化している、(4)全国の国立大学法人の中で熊本大学の給与水準は最低レベルであるということです。これらの事実を認めながら、なぜ、使用者側は賃下げにこだわり続けるのでしょう。本来であれば、我々の給与は引き下げられるどころか、むしろ引き上げられてしかるべきではないでしょうか。多忙化が進む一方で給与水準は全国最低という、「個性の輝く大学」像からおよそかけ離れた職場環境にありながら、教職員は歯を食いしばって働き続けているのです。そうした現状を直視し、教職員の士気を揚げようと努めるのが経営者としてのあるべき姿ではないでしょうか。
  しかし、残念ながら、現在の熊大使用者の視線は我々には向けられてはいないようです。それどころか、多忙化と全国最低の給与水準によって、優秀な人材確保に支障を来しているという事実からも目を背けようとしているのです。多くの優秀な人材がより良い環境と待遇を求め熊大から流出し、新規人事で教授会における承認が決まった後で給与の安さを知った人が辞退する事例まで起こっているというのに、森理事は、「優秀な人材確保に支障があるとは思わない」と言ってはばからないのですから(前学長が、教授人事で辞退者が相次いだ状況に困惑していたにもかかわらずです)。

我々の賃下げ分で蛍光灯が新型に!?
  今回の団交において、使用者側は、「人件費削減分による実施使用事業(案)」なるものを提示しました。10月1日の労使協議、そして、前回の団交で組合が求めた代償措置のつもりでしょうが、その中身は、以下のような、組合が求めているものからおよそかけ離れたものでした。
「人件費削減分による実施使用事業(案)」の事項
福利厚生:
  • 2009年度新型インフルエンザ対応のための入試対策経費
  • 新型インフルエンザ対策経費
  • 安全衛生対策・福利厚生経費
  • 福利厚生施設の充実
  • 2009年12月28日臨時一斉休業
施設設備:
  • 照明器具(Hf)更新
  すべての事項に関して具体的な予算額の説明があったわけでありませんが、憤りを越え、失笑さえ漏れたのは、最後の項目にある「照明器具(Hf)更新」に賃下げによる余剰金見込額約3億円の半分近く(かそれ以上?)を使いたいと森理事が発言したときでした。理事曰く「未来への投資」とのこと。この提案に団交の場にいた組合側の全員が激怒したのは言うまでもありません。なぜ、我々の賃金を切り下げ、蛍光灯を買わなければならないのでしょう。「これを実現することができたら年間約1,600万円の電気代節約になる」と理事は言いました。より明るく、より経費を節約する蛍光灯のために、私たちの生活がより暗くなり、より経費を切りつめなければならなくなるということを想像できないのでしょうか。たしかに、省エネもCO2削減も大切なことです。しかしそれは、経営者として大学運営を工夫する中で経費を確保してやるべきことですし、それこそが経営者としての腕の見せ所でしょう。事実、熊本大学財務諸表によれば、昨年度までの総利益金は12億円となっています。今回の使用者側の提案事項の多くは、利益金を積み立てたものから出してしかるべきものです。さらに、今回の賃下げによって発生する余剰金をさらに積み増すようなことをした場合、利益金の国への返還や、次期中期計画期間における運営費交付金の減額につながる可能性があります。
  使用者側が提示した案の中で、直接的に人件費として我々に返ってくる可能性があるのは、新型インフルエンザ対応のための入試対策経費のみです。これで不利益変更の合理性を担保できるはずはありません。「人件費を減らして、その分をまた人件費に使うことはできない」と森理事は言います。しかし、そうしてはならないという法律はありませんし、規制や圧力もないはずです(あったとしたら、それこそ大問題です)。大学が独自の判断で使途を決めることができるのです。組合は、あらためて、余剰金全額を人件費に充てるよう強く求めました。

組合は具体的な不利益緩和措置を要求
  基本給・ボーナスの引き下げに断固反対するという組合の姿勢に変わりはありません。ただ、反対を主張し続けるだけでは、建設的な話し合いにはなりません。そこで組合は、かりに引き下げが強行された場合でも、できるだけ多くの(職種の)人が、被った不利益分を人件費という形で取り戻すことができる方策を検討し、不利益緩和措置として以下のような具体的要求を提示しました。
  これらの項目の中には、今年度内での実現が可能なものもあれば、実現までに時間を要するものもあります。そのことを説明した上で、組合は使用者側にたいして、十分に検討し、どの項目を今年度内に実行するのか、また今年度内の実現が困難な項目についてはどういった見通しで実現を図るのか、実現できない場合にはなぜ実現できないのか、次回の団交において具体的に回答するよう要求しました。
  われわれは、熊大使用者に対し、この要求への回答内容が、給与引き下げ提案に対する組合の対応を大きく左右することになるきわめて重要な意味を持つということを真摯に受け止め、誠意ある回答を示すことを強く求めます。
2009年10月23日

熊本大学学長
谷口 功 殿

熊本大学教職員組合執行委員長
伊 藤 正 彦

要 求 書

  2009年度に基本給・ボーナスの引き下げを行なう場合には,下記の項目の
不利益緩和措置を要求します。

  1. 休日勤務に対する休日給の支給
    (休日振替ではなく休日給を支給)
  2. 入試手当の増額
  3. 教員のサバティカル制度の確立
  4. 特定有期雇用職員の正職員化に備えた退職金の積み立て
  5. 夜間看護手当の増額
  6. 主任・師長・副師長に対する職務手当の創設
  7. 危険手当の創設(中央手術室勤務、放射線業務勤務に対して)
  8. 技術職員の初任者格付けの正当化
  9. 技術職員の研修制度の確立
  10. パートに対するボーナス支給
  11. 有期雇用職員(フルタイム職員)の月給化

給与規則に則った6月期のボーナス支給等を要求
  確かに民間企業のボーナスは、その年度の業績に基づいて決められており、夏のボーナスの額が支給後に決定することもあります。凍結が結果的に削減につながることはあり得ることです。しかし,私たちは、前述の「労働協約」で6月期の期末・勤勉手当の月数を明確に確認しています(「労働協約」第2条、「甲は平成21年6月期の一般職員の期末手当及び勤勉手当にあっては、期末手当1.4月分、勤勉手当0.75月分であることを確認する」[一部省略])。不意をつかれたのか、組合が、熊本大学の6月期の期末・勤勉手当の月数を問い質したところ,使用者側は返答に窮するありさまでした。組合は「労働協約」での合意に基づいて、凍結額の支給を要求しました。
  また、かりに使用者側が0.2%の基本給切り下げを強行する場合でも、2005年と同様に、切り下げ時期を来年1月からとすることを求めました。森理事は、「給与法公布日の翌月の初日」からという姿勢を変えようとしませんでした。しかし、理事は、「過去にできて今回できないのはなぜか?」というわれわれの単純な質問についぞ答えることができませんでした。国家公務員ではない今、人勧に縛られる必要がないのと同じように、引き下げをいつからにするかも大学が独自に決められるのです。10月1日の労使協議の場で、「引き下げについてはいつも積極的にやりたいというのではない。やむを得ずという姿勢だ」と発言したのが本心なのであれば、法的にもなんら問題ないのですから、かりに引き下げるならば開始時期を来年1月からとすることぐらいは理事自ら積極的に検討して欲しいものです。

学長の団交への出席をあらためて要求
  二度の団体交渉を終えて、使用者側の給与引き下げ提案には、合理的根拠がないことがはっきりしました。そして、二度とも学長が姿を現すことはありませんでした。次の団交は、組合の不利益緩和措置に対して使用者側が回答を示す非常に重要な局面となります。それゆえ、 組合は、谷口学長自らが説明責任を果たすことをあらためて要求しました。

10月30日に3回目の団体交渉、11月5日に臨時大会を開催
  次回の団体交渉は10月30日に予定されています。もちろん、われわれの要望に対する使用者側の回答が不十分なものであった場合は、粘り強く交渉を続けて行くことになりますが、次の団交が大きな山場になることは間違いありません。
  今回の基本給・ボーナスの引き下げ提案への対応は、執行部だけで判断できる事項ではなく、大会の判断を仰ぐ必要があります。臨時大会は30日の団体交渉を経た11月5日に開催します。私たちの生活と熊本大学の将来を左右する重要問題ですので、組合員のみなさん、ぜひ参加して忌憚のないご意見をお聞かせ下さい。

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