2010.6.1 |
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ー使用者は再発防止策を明確にせよ! |
ご存知の方も多いと思いますが、4月17日付けの『熊本日日新聞』において、熊本大学医学部附属病院の時間外賃金未払い問題が報じられました。記事によれば、 *看護師526人に対し超過勤務手当総額3560万円が未払いになっていた。とのことです。 もとより、賃金不払い残業解消は組合の最重要課題の一つです。2007年の7月から10月にかけて、5回の労使協議・団体交渉を行い、使用者側に抜本的な改善を求めていただけに、今回の事件は組合としても残念なことです。当時の議論の内容については2007年度『赤煉瓦』(No.15 2007.11.6)をご覧ください(組合ホームページ に掲載しています)。今回のニュースでは2007年度 の交渉を振り返るとともに、熊大使用者に対し賃金不払い問題を引き起こさないための再発防止策を確立するよう求めます。 【原因は組合の要求を無視し続けてきた使用者にある】 2007年度の交渉の中で組合は次の2点を要求しました。 ①についての使用者側の回答は、「タイムカードの記録がすなわち勤務時間になるとは言えない」というものでした。そして、パソコンが少なく勤務時間の入力待ちが生じているという組合の指摘には、パソコンの台数を増やすとの回答にとどまりました。タイムカードは広く社会で使われているものであり、決して高価なものではありません。また、このような電子的記録によって勤務時間管理を行うのが厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について(以下、「適正把握基準」)」でも原則とされています。使用者側は、導入しない理由にタイムカード の記録への疑問をあげたのですが、社会的にはタイムカードによる客観的な労働時間管理が常識なのです。 労基署は、更衣室へのICカードによる入退室記録が実勤務時間を反映するものとみなしました。使用者の「タイムカー ドの記録がすなわち勤務時間とは言えない」という主張が、如何に社会常識からかけ離れたものであるかが浮き彫りになったと言えるでしょう。組合は改めてタイムカードの導入を要求します。 ②については、当時の本田総務部長が「調査は時間管理者を疑うことになるのでできない」という驚くべき回答をしています。これは当時の総務部長個人の責任ではありません。そうした回答を許した学長をはじめとする使用者の責任です。交渉で組合は、具体的な申告時間と実労働時間の乖離の例を提示しました。しかし、使用者側はこれを特殊な例と矮小化し、どこの職場かと尋ねるのみでした。今回の事件で、これが組合の指摘どおり広く看護部全体の問題だったことが明らかになったのです。 たしかに、「適正把握基準」でも「自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合」を認めています。ただし、「自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間に合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること」が条件です。これを「時間管理者を疑ることになるのでできない」としたわけですから、厚生労働省の「適正把握基準」を蔑ろにしたものといえます。今回の不祥事は、このような使用者の態度が生んだものであり、記者会見での通り一遍の謝罪ですむはずはありません。今後の賃金不払い残業の解消に向けて、使用者としてどのような具体的行動をとるのかが求められているのです。 【看護部以外についても早急に実態調査を行うべき!】 さて、今回の労基署の調査は附属病院の看護部に対し行われたものです。しかし、事務職員からのメールが20時以降に送られてくることも稀でなく、他の職場でも長時間労働が行われています。これらの時間はきちんと超過勤務として処理されているのでしょうか。 労働時間の適正な把握の責任は使用者側にありますが、「自己申告制」も例外的に認められています。使用者は職員に対し適正な申告を指導し、そして申告された時間については規則どおりに時間外手当を支給しています。これをもって使用者は自らの責任を否定しようとするかもしれません。しかし、様々な事情で労働時間を少なく申告してしまうことは、 現実に多くの企業で起こっているのです。ですから厚生労働省は賃金不払い残業を許してしまう職場風土に問題があると指摘し、それを変えていくために労使が協力して取り組むことを求めているのです。過日の5月24日にも熊本労働局は、労働時間の適正化、不払い残業解消等について県経営者協議、連合熊本の労使双方の代表に要望書を出しています。(末尾に記事を掲載していますので、ご覧ください)。 この観点から2007年度の交渉の中で組合は、使用者に対し賃金不払い残業解消のために協力して行動することを提起しました。しかし、本田総務部長(当時)は「私のところに聞こえてこないのだから賃金不払い残業は無い」と拒否したのです。ここにも厚生労働省の指針を無視する使用者の経営姿勢が見て取れます。 調査は単に実態を明らかにするだけではありません。使用者が賃金不払い残業の解消に真剣に取り組んでいることを明確にすることで、職員の意識を変えることにつながります。また、正確な労働時間の把握は業務量の偏りを明らかにし、業務や人員配置の見直しの基礎資料となります。実態調査は決して無駄な作業ではないのです。 【現在構想されている事務改革案の危険な内容!?】 組合は賃金不払い残業の解消を求めています。その一方で業務と人員配置を見直し、長時間労働を無くすことも求めています。業務の見直しには教員との連携のあり方の検討も不可欠です。また教員側が委員会等の運営において職員の勤務時間に配慮することも必要です。 ところで、事務職員の業務・人員配置と関連して、4月22日に「事務改革の全体像 プロジェクトチームによる検討結果(2009年度)」なる文書が発表されました。民間の経営コンサルタント会社(株式会社コーポレイトディレクション)に高額の業務委託料を支出してまとめたものだそうです。これが業務量の削減につながれば、高額の委託料にも見合うのかもしれませんが、この文書にはいくつかの重大な疑問があります。第一に、視点が事務改革に集中しているため、教員との連携が具体的に見えてこないことです。第二に、学長・大学執行部の「政策スタッフ」として期待される「経営企画室」が「事務運営に止まらず広く教学の課題まで取り扱う」とされていることです。課題の例には、教育課程やセンターの改廃なども挙げられています。これが具体的に何を意味するのかは、教学事項における教育研究評議会等の役割との関連を含めて、今のところまったく不透明です。いずれにせよ、事務職員を中心とする組織で、このような課題についての問題提起や企画策定が行われたことは、過去に例がなく、慎重な検討が必要なはずです。事務改革ということからか各部局での議論は低調なようですが、事務改革に名を借りて事務主導の大学運営を企図していると受け取ることも可能な内容を含んだものですので、大学構成員は注視していく必要があります。 |