No.34
2001.1.31
熊本大学教職員組合
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緊急討論集会報告



 昨年12月12日(火)18:00より、くすの木会館レセプションルームにて独法化の現在、および「中間報告」の問題点をめぐる緊急討論集会が開催され、20名以上の参加者を集めて活発な議論が交わされました。また、今回の集会は開催主旨に賛同いただいた2名のWG委員の参加を得て、WGからフィードバックされるべき情報の決定的な不足を補う絶好の機会となりました。

◆ 開催経緯
 運営会議ワーキンググループによる「国立大学の現状と熊本大学の在り方について(中間報告)」が公表されて以来、11月13日の各部局に対する学長の意見聴取依頼に至る間、意見集約の方法はHPを媒体としたパブリックコメントと称する個人的かつ閉鎖的な手段に限定されていました。私たち組合は、赤煉瓦No.22で「中間報告」に対する姿勢を表明すると共に、全学的な議論の場を提供するため討論集会を企画しました。赤煉瓦No.27では、学内意見集約に向けた学科及び部局単位での緊急かつ積極的な審議を呼びかけましたが、12月4日の部局内意見提出締切日における意見集約状況を見る限り、構成員による積極的な審議が行われた部局は残念ながらごく一部に過ぎませんでした。このような学内議論の停滞と運営諮問会議への「中間報告」提出に象徴される事態の異常な展開を背景にして、当初の開催主旨を若干変更し、学外での独法化をめぐる動向と最近の学内情勢についての理解を深める学習討論会としての性格を加味することになりました。

◆ 基調報告
 討論の基調となる全大教中央執行委員伊藤正彦氏(文学部)の「独立行政法人化の現在と学内WG「中間報告」」と題した報告では、各国立大学に検討が求められている緊急課題、すなわち、国立大学の存在意義の明確化、設置形態の検討、および予測される諸問題の整理といった重要な課題と、「中間報告」に集約されたWG内審議の方向性との大きな隔たりが明らかにされました。また、理念的検討を怠った結果「中間報告」を特徴づけることになった安易な独法化・民営化容認論、自己中心的「生き残り」・「大学間競争」原理への異常なまでの執着など、WGの検討内容に内在する諸問題について詳細にわたる厳しい指摘がありました。

▼ 討論
 その後の討論では、伊藤氏の報告に基づき、「中間報告」の検討方針・審議手続きに係わる問題と、その各項目に関わる問題の二部構成で活発な議論が行われました。
◆ 検討方針
 WGの検討事項として発足当初に設定された①「国立大学(熊本大学)をめぐる現状の把握」、②「国立大学(熊本大学)の独立行政法人化に伴う問題点等の整理」といった最重要検討課題に対して、「中間報告」が何ら実質的な回答を提示していない事についてWG委員の説明を求めた結果、「WGでは各大学の意見や資料を参照したのみで、この二点については全く議論を行っていない。」という、検討の放棄を裏付ける発言が得られました。
 この結果、理念的基盤を欠いたまま③「 熊本大学の目指す大学像と今後の改革方策の明確化」という課題についてのみ具体的な方向性が提示され、巻末においてその実行が強く主張されたわけです。しかしながら、参加したWG委員の説明によると、WG内部では、委員の総入れ替えや各部会毎の公開討論会などの必要性が指摘されるなど、全構成員の意見を「最終報告」に反映させる方向で検討が行われるということです。従って、「中間報告」の「...運営会議には、WGの提案した内容を確実に実行に移していただくことを強く求めたい。」という巻末言は、改革案に対する無条件の承認を強要するものではなく、むしろ、無謀な検討方針と審議スケジュールのために犠牲にした時間と労力に対し、提案の実現という形での報酬を求める願望にすぎないということです。すなわち、この巻末言は私信として添えらているということであり、期せずしてこの公式報告書の持つ私的な性格を露呈する結果となりました。
◆ 運営諮問会議
また、運営諮問会議への「中間報告」提出に関わる議論の中では、諮問会議にはWG委員が立ち会い、必要に応じて説明を加えるという場当たり的な発想が明らかになりました。また、提出を予定している資料は「中間報告」の抜粋であり、12月4日付けで集約された各部局の意見を反映させる予定は全くないということでした。この時点で1月中の最終報告取りまとめを想定していたとしても、各部局の意見集約に僅か半月足らずの時間的猶予しか与えなかったことの真意が疑われます。

 集会の後半では、「中間報告」の内容について項目毎に活発な議論が行われました。
◆ 教育部門
 教育部門に関する議論に先立ち、熊大教職組大学改革検討専門委員から教育プラン全般にわたる問題点の指摘がありました。とりわけ、スキル教育偏重の傾向や、粗悪なカリキュラム改革案の背景にある現状分析の欠如、大学における教育目的の歪んだ認識が指摘され、学生の学力低下等の現状に配慮した教育内容の整備や、実施上の問題点の検討の必要性が強調されました。このような歪曲された教育観を生んだ要因の一つは、大学教育委員会や同専門委員会におけるこれまでの検討の経緯を軽視するWGの姿勢にあります。この点を指摘する意見に対して、WG委員からは、今後も各部局から集約された意見を反映させつつ従来の方針に乗っ取った部会独自の検討を重ねるが、大学教育委員会や同専門委員会の検討内容との摺り合わせは運営会議でのみ行うとの回答がありました。すなわち、これまでの審議手続きを踏襲する限り、「最終報告」は熊本大学の教育の改善に資する提言を殆ど含まない形で集成される可能性が高いということを意味します。
また、教育業績評価および予算配分方法と密接に関係づけられているにも関わらず、具体性を欠く曖昧な表現に留まっている教育組織の在り方についても、細かい議論は依然として行われていないという事実が報告されました。万が一、熊本大学がこのような無謀な改革案を実行しようとするならば、その評価を待たずして教育機関として機能不全に陥ることは明らかです。
◆ 地域連携・国際交流
 多くの問題を孕む「中間報告」ですが、地域連携・国際交流部門の「生き残り」戦略に色濃く現れている利己的・排他的思想については、参加者から特に厳しい指摘がありました。わけても、他大学が既に社会に向けて提供しているサービス及び施設略奪の必要性をを当然のごとく主張し、留学生受け入れ数の倍増を顧客・利潤の倍増と見なす短絡的発想が一大学の将来構想に不可欠な要素として組み込まれていることについては批判が集中しました。これは、決して個々の提案に用いられている文言の問題ではなく、この部門の基本的な検討方針に直結する重大な問題です。「連携」すなわち排他的資金ルートの確保であり、「交流」すなわち顧客の誘致とする思想は根本から改められねばなりません。WG委員からは、熊本大学独自の教育・研究内容を社会に対して明確に説明する必要があり、公共サービスの拡充や受け入れ留学者数の倍増はその意味で重要であるとの説明がありました。確かに、研究・教育内容を提示し、成果を公開することは公の教育機関が果たすべき使命でしょう。その意味で、サービスの種類や具体的な数値は誰にとっても理解しやすい判断材料となるかもしれません。しかし、教育・研究機関が社会に対して持つべきアカウンタビリティとは、各機関が提示する研究プロジェクト、公共サービス、学生教育の内容を比較検討した結果得られる各利用者の自由な選択を前提とするものです。少なくとも、「中間報告」の将来構想を見る限り、熊本大学を自分のニーズに合った機関として選択する利用者の存在を仮定することは非常に困難です。また、実現可能性を度外視し、単純に数値目標の達成を目指すならば、「誘致」した利用者の失望は避けられず、ひいては大学自体の存在意義をも脅かす結果となるでしょう。

◆ おわりに
 この他にも学術研究、組織運営体制に関する議論を交え、討論は2時間以上にも及びました。時間的な制約から、活発な議論を断ち切る形で終了を迎えることになりましたが、閉会に当たって、WG委員を含む全ての参加者が得た共通理解は、上記①、②の検討課題はもちろんのこと、「中間報告」で検討を試みた③の課題においてさえ、一大学としての有効な回答には到底至っていないということでした。この空白を補い、「最終報告」およびその後の大学改革を意義あるものとするためには、熊本大学全構成員の積極的参加を前提とした一層の努力が必要とされます。
 熊本大学教職員組合は、今後も学内外の動向に即応し、情報の周知および学内議論の活性化に向けた活動を展開する予定です。




 

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