No.59
2001.4.26
熊本大学教職員組合
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「救急外来」問題における熊大当局の嘘とごまかし

 熊大病院では00年6月から「救急外来」が稼働しており、熊大当局は「救急外来もこの1年で増えてくる予測はある」(病院長交渉)としています。
 
最近『朝日新聞』などが報じた「救急救命センター」の実態(3月31日付け、4月6日付けなど)は、わが国の救急医療の現状を垣間見せています。「重体の患者を24時間体制で受け入れる」あるいは「どんな重体の患者も断らずに高度な医療を施す『最後のとりで』」という点については、「救急外来」も「救急救命センター」と変わりありません。しかし、「救急救命センター」には施設基準が設けられていますが、「救急外来」にはありません。そのため熊大当局は、きわめて安易に「救急外来」を稼働しており、深刻な問題が発生しています。
 熊大病院の「救急外来」は、これまで昼間についてはICUが、夜間については手術室が「救急外来」を担当してきました。これまで熊大当局はわずかの増員によって、したがって基本的にICUと手術室からの「持ち出し」によって、「救急外来」を稼働してきました。本年度から、夜間についても(つまり全面的に)ICU(集中治療室)の担当となります。当局は「救急外来」患者数の増加を想定しているにもかかわらず、ICUにわずか3人の増員を行ったにすぎません。

「救急外来」担当者数はわずか0.68人
 いうまでもなく「救急外来」は24時間・365日を通して、「急患」を受け入れます。熊大当局は3人の増員によって「救急外来」を稼働していますが、常に3人の看護婦が「救急外来」を担当できるわけではありません。4週8級・4週間で1日の年休取得を前提とすれば、わずか0.68人が恒常的に「救急外来」を担当できるにすぎません。熊大当局は「救急外来」を開設したにもかかわらず、実際には配置した看護婦数は0.68人にすぎないのです。0.68人は1人未満ですから、「救急外来」はICUからの「持ち出し」に依存するより他にありません。
 (註)28日間の総勤務回数:増員数3人×(28日−週休8日−年休1日)=57
    1日あたり:57÷28=2.04  1勤務帯あたり:2.04÷3=0.68

 わずか0.68人の担当者によって「救急外来」を稼働している病院は、全国をくまなく探しても熊大病院以外にはありえないでしょう。3月現在、サーチエンジンGoogleによって「救急外来」の看護婦配置状況を検索した結果は、第1表の通りです。休日・夜間の人員配置が最も薄くなる時間帯においても、3ないし4人の看護婦を「救急外来」に配置しています。
第1表 救急外来の看護婦配置
病 院 名 看 護 婦 配 置
松江赤十字病院 【休日・時間外】看護婦3〜4人
淀川キリスト教病院 【各勤務帯】看護婦3人
みつわ台総合病院 【当直】救急外来看護婦2名と手術室看護婦1名
トヨタ記念病院 【当直】看護婦3〜4名
水戸済生会 【夜間】婦長と看護婦、各々1名
太田総合病院 【日当直】看護婦3〜4名
北九州総合病院 【詳細不明】看護婦4名
日本赤十字医療センター 【スタッフ数】婦長をはじめ17名の救急専門看護婦

ゆとりがなく慢性疲労の現場
 もとよりICUは呼吸・循環・代謝・中枢神経などの主要機能に重篤な障害をもつ患者に対応しており、看護婦の「ひとつひとつの行動が患者に直接的に影響を及ぼします」。しかも、患者とその症状は流動的であり、病棟の患者の急変によって「いつ患者が入るかわからない」、「患者の状態がいつ急変するかわからない」状態にあります。そのためICUの看護婦は「常に、緊張した精神状態を保っておかなければなりません」。毎日の業務量について、熊大のICU看護婦の65.2%が「繁雑でゆとりがない」状態におかれています(第2表)。
第2表 毎日の業務量はあなたにとってどうですか〔%〕
  繁雑で
ゆとりがない
どちらかといえば
ゆとりがない
ゆとり
がある
無回答
20大学病院 51.1% 41.1% 4.3% 1.5%
熊大病院 52.0% 44.0% 2.6% 1.4%
熊大ICU 65.2% 34.8% 0.0% 0.0%
[典拠] 全大教「国立大学病院看護職員アンケート調査結果報告(00年9〜10月実施)」。

 にもかかわらず、これまでICUの夜勤回数は月平均10回という状況にありました。病棟の夜勤回数は月平均8.7回(3月末現在)でしたから、ICUの夜勤回数は1ヶ月あたり1.3回も多いという状況に置かれてきました。そもそも緊張度の高い職場であり、夜勤回数が多いこともあり、ICU看護婦の約半数が慢性疲労(「いつも疲れている」)の状態におかれています(第3表)。
第3表 疲労度
とくに
感じない
しばらく
疲れが残る
寝ると
回復する
起床後も
疲れが残る
いつも
疲れている
無回答
20大学病院 1.8% 17.1% 25.2% 26.1% 28.7% 1.1%
熊大病院 0.3% 19.0% 22.1% 32.8% 25.9% 0.0%
熊大ICU 0.0% 0.0% 4.3% 43.5% 52.0% 0.0%
[典拠]同上。

夜勤は月12回にも
 ICU(病床数8床)は夜間の「救急外来」を担当するために、夜勤体制をこれまでの「準夜4・深夜4」あるいは「準夜5・深夜5」に強化する必要に迫られています。「準夜5・深夜5」の場合に、夜勤回数は月平均11.1回にもなります。すなわち相当数の看護婦の夜勤回数が12回という途方もない状態になります。他方、「準夜5・深夜4」の場合の夜勤回数は、これまでと同一の月平均10回で変化が無く、夜勤回負担は全く軽減されません。この月平均10回は、1965年に人事院が「ニッパチ判定」を下した時の夜勤回数と同一であり、「準夜5・深夜5」の場合の夜勤回数はそれをはるかに上回ります。当時の国立病院(厚生省)の夜勤回数は9.4回、群馬大・東京大・新潟大・九州大のそれは10.7回でした(1963、64年人事院調査による)。
 夜勤回数について、熊大当局は「ICUで考えなければならない。実績で判断しないといけない。実績をつくってほしい」と回答しました(病院長交渉)。つまり「救急外来」で実績が上がらなければ、夜勤回数は減らせないというのです。しかし、これは本末を転倒させた回答であり、熊大当局は法規を完全に無視しています。
 「看護婦確保法」が定めるように、月8日以内夜勤は、病院が実施しなければならない最低限の基準です。ここに「実績」云々が介在する余地はありません。しかも、「看護婦確保法」に基づいて制定された行政規則(92年12月25日「看護婦の確保を促進するための措置に関する基本的な指針について」、健政発834/職発886/文高医299)は、月8日以内夜勤の実施を「平成12年を一応のめどとすること」と定めています。文部科学省は、本年度の増員によって「13年度中に全体として月8日に改善できる」と回答しており〔10月27日衆院厚生委員会〕、要するに「平成12年度を一応のめど」と定めた行政規則を遵守したとしています。さらに、「看護職員需給見通し」(00年6月28日)において、厚生省は「1人月8回以内を基本とする」ことを基準としており、月8回を越える夜勤回数は認められていません。

増加が想定されている病院内外の「急患」に対応できるのか、現場はどう対応すればよいのか
 ICUの施設基準(厚生省告示第67号)は、「当該治療室における看護婦の数は、常時、当該治療室の入院患者の数が2又はその端数を増すごとに1以上であること」と定めています。重篤な患者に対しては、医師1人と看護婦1人が張りついたり、患者の入室がある(夜間にも入室があります)と、各種の処置に看護婦1人が張りつきます。また、循環・呼吸が安定しない患者から目を離すことができません。こうした現状からして、「常時2対1」を定める厚生省の基準は決して十分な基準ではありませが、この最低限の基準でさえ危うい状況にあります。

 「救急外来」に患者が来院すると、ICU(2病棟3階)から救急外来(入退院棟1階)に、看護婦が降りて行きます。「当該治療室における看護婦の数」が減ることになります。他方、ICUと「救急外来」が受け入れる「急患」数は流動的です(したがって、事前に予測できません)。これまでにも病棟に入院している患者の急変によって、夜間に2人の患者がICUに入室することもありました。
 熊大当局は、「救急外来もこの1年で増えてくる予測はある」ことを認めつつ、他方で「医療法〔ICUの施設基準〕には触れないように婦長には言っている」、あるいは「医療法〔ICUの施設基準〕に触れることはない。応援体制を取ってもらうように婦長には言ってある」と回答しています。ここでもまた熊大当局は、その場しのぎの嘘とごまかしを口にしています。
 「ICUの施設基準に触れない」「触れることはない」というのは、事前に予測不可能な病院内外の「急患」数に対して、現場にどのような対応を求めているのでしょうか。「急患」数が増えて「常時2対1」の基準が守れなくなれば、「急患」を放置すると言うことでしょうか。このような状況を想定して、熊大当局は「応援体制を取ってもらう」と口にしたのでしょうが、夜間にいったいどこから「応援」がくるのでしょうか。病棟以外にあり得ないはずですが、大半の病棟の夜勤は2人夜勤ですから、1人の「応援」を出した病棟では「1人夜勤」の状態になります。「1人夜勤」が違法であることはいうまでもありませんが、熊大当局は「1人夜勤」で当該病棟内の患者に対処しろとでもいうのでしょうか。

 

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