No.32
2005.2.8
熊本大学教職員組合
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学長が陳謝,「見直しを含めて検討する」と明言!!
——外国人教師処遇問題をめぐって(7)——

 『赤煉瓦』№15(2004.10.27)では,外国人教師の退職後のポストを労働基準法第14条適用の任期制とする問題についての団体交渉(2004年9月28日開催)の概要,A学部では再任審査の規則もないまま10月1日に2名の方が労基法14条適用の任期制で採用されることになる問題などをお伝えしました。その後,11月25日開催の教育研究評議会の場で動きがあり,また2005年1月7日開催の臨時職員・就業規則に関する団体交渉で規則案の問題点を追及しましたので,これらの概要などをお伝えします。

11月25日の教育研究評議会—学長が陳謝,「見直しを含めて検討する」と明言
 熊大使用者側は,外国人教師の退職後のポストを労基法14条適用の任期制とする根拠をこれまで三転させてきた(根拠の変遷は下の通り)にもかかわらず,9月28日の団体交渉においては“「大学教員任期制法」の3条件に該当しないため,労基法14条適用の任期制とするという判断は,2003年11月20日の運営会議,同年12月25日の評議会で行なった”と強弁しつづけ,挙句の果てに「記録もない,記憶もない,でも言ったと思う」(総務部長),「評議会で決めたのだから,評議会の責任だ」(人事労務担当理事)と無責任体質を露わにしました(『赤煉瓦』№15№16,2004.10.27)。
熊大使用者側が示した根拠の変遷

①外国人教師という特殊な職務を継承するものであるため(2004年1月28日A学部からの問い合わせに対する人事課の回答)。
②「大学教員任期制法」に基づく任期制は,多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織を単位に導入するものであり,特定の職=ポストごとに導入することはできないため(A学部からの問い合わせに対する人事課の回答,2004年2月26日評議会における学長の発言,2004年3月5日黒髪事業場「就業規則に関する説明会」での人事課長の発言)。
③外国人教師の退職後のポストは「大学教員任期制法」の3条件に該当しないと判断したため(2004年7月1日教職員組合に対する学長の回答文書[2004年6月30日人事課作成の奥付])。
 団体交渉で窮地に追い込まれ,評議会に責任を転嫁することになってしまったからでしょうか(人事労務担当理事や総務部長がいかに強弁しても,使用者側が示した根拠の変遷を確認すれば明らかなように--「大学教員任期制法」の3条件に該当しないためと判断したという根拠を示したのは7月1日が初めて--,評議会が上記の判断を行なった事実はありません),11月25日の教育研究評議会の「国立大学法人熊本大学職員の任期に関する規則の制定について」の議題において,学長自らが「大学教員任期制法」の任期制は教育研究組織の特定の職=ポストの特性に基づいて導入することができることを認めたうえで,外国人教師の退職後のポストの問題については「不明確・不十分な表現あるいは説明者によってニュアンスや表現の違いにより,部局等に混乱を与えたことに対して深くお詫びしたい」と陳謝し,将来は「大学教員任期制法」の任期制に適合する組織化など「見直しを含めて検討する」と明言しました。

杜撰な「国立大学法人熊本大学職員の任期に関する規則(案)」
 10月1日,A学部が外国人教師の退職後のポストの2名の方を再任審査の規則を提示しないまま採用せざるを得なかった大きな理由は,そもそも再任審査の親規則すら制定されていなかったことにあります。2005年1月7日の団体交渉では,ようやく示されたその親規則の案である「国立大学法人熊本大学職員の任期に関する規則(案)」の問題点を追及しました。この規則案は,労基法14条・「雇用規則」第7条第2項に基づくものとし(第1条),任期付職員の範囲を定めた第2条第1項で次のように記します。
外国語科目又は専門教育科目を担当させるにたる高度の専門的学識又は技能を有し,大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者として採用する外国人の助教授又は講師。
(下線は引用者)
 この規則案には,少なくとも次の三つの問題点があります。第一は,外国人教師の退職後のポストの教員を大学教員として扱っていないことです。この規則案でほかに任期付職員として規定するのは,休職した職員・育児休業を取得した職員・特別有給休暇を取得した職員の代替として採用される職員です(第2条第2項〜第4項)から,外国人教師の退職後のポストの教員はこれらの代替職員と同等に扱っていることになります。この点について,熊大使用者側は,“この規則案で言う「職員」とは教員を含めた全教職員の意味であるから,職員として扱っているのではない”と主張しています。しかし,使用者側が言うようにこの規則案の「職員」が教員を含む全教職員を意味するのであれば,労基法14条適用で任期付採用する者に限定することなく,「大学教員任期制法」に基づく任期付き教員(発生医学研究センターとエイズ学研究センターの教員),個別契約の教員(法曹養成研究科の実務家教員)も含めて規定して然るべきです(念のため言えば,「大学教員任期制法」に基づく任期付き教員・個別契約の教員に関する既存の規則は,この規則案の下位規則とすればよいはずです)。
 第二は,外国人差別と言わざるを得ないことです。上の引用文の下線を付した箇所は,外国人教師の退職後のポストの教員に求められる資質を記した部分ですが,それは日本人の教員の場合に求められるものと同じです。とすれば,任期が付される理由は「外国人」であること以外にはありません。同じ資質を求められながらも,日本国籍の有無を理由に処遇が異なるというのは,差別以外の何ものでもないはずです。
 第三は,この規定では外国人教師の退職後のポストだけに限定することなく,他のポストにも拡大して適用することが可能なことです。上の引用文を文字通り解釈すれば,外国人教師の退職後のポスト以外であっても,「外国語科目又は専門教育科目を担当」するポストで外国人を助教授・講師で採用する場合には,この規定を適用して労基法14条に基づく任期制とすることが可能です。
 1月7日の団体交渉では,これらの問題点を指摘し,第2条第1項を削除することを求めました。しかし,使用者側は問題点を認識しながらも(第三の問題点については,組合が指摘するまで全く気付いていない有様でしたが。詳しくは『赤煉瓦』№29,2005.1.25 を参照),組合の要求を受け入れることはありませんでした。

小手先だけの修正とその場しのぎの通知
 団体交渉の場の使用者側の対応は上記の通りでしたが,その後,事態の重要性を認識したのでしょうか,2005年1月14日に第2条第1項を修正して「国立大学法人熊本大学職員の任期に関する規則」を制定し,また1月21日には学長から各部局長宛てに「国立大学法人熊本大学職員の任期に関する規則の運用について」と題する通知が出されました。修正された第2条第1項の文言と通知の内容は,次の通りです。
○ 外国語科目又は専門教育科目を担当させるにたる高度の専門的学識又は技能を有し,当該科目に係る外国語を母語とする者で,大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者として採用する助教授又は講師
(下線は引用者)
○学長から各部局長への通知「国立大学法人熊本大学職員の任期に関する規則の運用について」
国立大学法人熊本大学職員の任期に関する規則第2条第1項第1号については,別添「現在の外国人教師等の法人化後における取扱いについて」(平成16年2月26日評議会決定)により,従前の外国人教師の後任として採用する場合に適用するものであること。
 規則の修正については,唖然とするばかりです。一体この修正にどのような意義があるというのでしょうか。差別の対象を「外国人」から「当該科目に係る外国語を母語とする者」に改めただけで,差別の構造は従来のままです。学長から各部局長への通知は,適用範囲を外国人教師の退職後のポストに限定することを明示したものですが,こうした通知が出されたこと自体,適用範囲を限定するには通知が必要となる欠陥を抱えた規則であることを物語っています。また今回の通知は,規則の第2条第1項の適用範囲は学長の通知によって定めることができるとする恐れがあるとも受けとめられるものです。
 以上のように,規則の問題点は文言の修正や通知ではけっして拭い去ることはできません。欠陥だらけの規則とならざるを得ない根本的な理由は,大学教員に任期を付すために制定された「大学教員任期制法」ではなく,労基法14条を適用して大学教員に任期を付したことにあります。熊大使用者側は,小手先だけの修正やその場しのぎの通知にかまけるのではなく,このことを肝に銘じるべきです。

2005年1月19日,A学部で再任審査の内規を制定
 なお,2005年1月19日,A学部は問題点を抱えたままの規則に基づいて,外国人教師の退職後のポストの任期付教員の再任審査に関する内規(「A学部における有期労働契約の常勤教員の再任審査及び再任手続等に関する内規」)を制定しました。この内規は,再任を希望する場合,任期満了の1年2ケ月前までに再任審査の資料と申出書を提出するよう定めています。10月1日に採用された2名の方の任期は2年半ですから,実績が問われる再任審査までの期間はわずか1年3ケ月のみです。これは任期制の過酷さを雄弁に物語っています。また,この内規は「2004年10月1日から適用する」と規定しています。しかし,10月1日採用の2名の方は労働契約時にこの内規を提示されていません。したがって,いかに「2004年10月1日から適用する」と規定したとしても,2名の方が内規の内容によって労働条件の不利益変更が生じたと受けとめ,同意しない場合は,よほどの不祥事でもない限り2回再任される(合計8年半となる)ことをA学部構成員は認識しておかねばなりません。

労基法14条適用の最後の砦!?
 学長が「見直しを含めて検討する」と明言したものの,熊大使用者側が依然として労基法14条適用を改めないのはなぜでしょうか。その理由は,2005年1月7日の団体交渉で明示されました。使用者側の見解を確認しましょう。
〈使用者側〉今回のこの外国人については学長預かりの全学ポストなので任期制法の3条件に合わない。そのため削除するつもりはない。全学センターとして組織化しようという話もあった。任期制法の規定に該当する制度設計になれば,任期制法で雇用することも可能になる。
〈使用者側〉今後、可能な制度設計になれば任期制法適用も可能になるということだ。
 つまりは,“外国人教師のポストは学長預かりの全学ポストであり,教育研究組織に属すものではない。「大学教員任期制法」の任期制は教育研究組織のポストを対象としており,教育研究組織に属さない外国人教師のポストに適用することはできない。そのために労基法14条適用とした。将来,外国人教師のポストを全学センターなどに組織化すれば,「大学教員任期制法」が適用可能になる”というのです(因みに,この見解の萌芽は2004年9月28日の団体交渉の際に事務局長から示されたもので,使用者側が当初から持っていたものではありません。詳しくは『赤煉瓦』№16,2004.10.27を参照)。しかし,この見解は詭弁を弄したものです。
 外国人教師のポストが学長預かりの全学ポストであるのは確かですが,なぜ教育研究組織に属していないと言えるでしょうか。外国人教師は,必要な学部・学科・講座に配置され,当該教育研究組織の教育機能を担っているのですから(当該教育研究組織のカリキュラムに基づいた授業や卒論指導等を行なっています),学長預かりの全学ポストを教育研究組織に配属して運用しているものに他なりません。だからこそ,人事選考の権限は配属された学部に委ねられているのです(外国人教師の退職後のポストも,人事選考や再任審査の権限は学部にあります)。使用者側は組織化の例として全学センターを口にしますが,学長預かりのポストを教育研究組織に配属して運用する性格は全学センターの場合も現在と何ら変わらないはずです(異なるのは,所属する教育研究組織が学部か全学センターかだけです)。人事選考の権限が配属された学部に委ねられている外国人教師は,人事選考が全学の委員会で行なわれる学内共同教育研究施設の教員の場合よりも,強固に教育研究組織に属しています。
 そもそも,学長預かりの全学ポストとはいえ,教育研究組織に属していない教員ポストなど,一体どこにあるのでしょうか(すべてのポストは何らかの教育研究組織に属して運用されているはずです)。この問いに対して,使用者側は何と答えるのでしょうか?
 使用者側は,いつまでに「見直しを含めて検討する」のか,明らかにしていません。これまで指摘してきた通り,数々の問題点を抱えているですから,最低でも10月1日に採用された2名の方の任期が満了する2007年3月末までには見直して然るべきでしょう。熊大教職員組合は,一刻も早く労基法14条適用の任期制を改めることを強く要望します。

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