No.33
2005.2.8
熊本大学教職員組合
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これでは賃金不払い残業合法化のためだけの裁量なき裁量労働制だ!
裁量労働制労使協定書使用者案問題点

 大学教員の働きやすい労働条件作りのために裁量の拡大は欠かせません。昨年12月に裁量労働制に対する意見聴取が行われましたが、この制度に裁量の拡大を期待する教員の方も少なくないと思います。しかし、1月18日に組合に提示された裁量労働制労使協定書の使用者案は、その期待をまったく裏切るものです。使用者側の意向では、2月と3月に過半数代表者との協議を行い、4月1日から施行したいということですが、その協議のたたき台にすらなり得ない案です。
 このニュースでは先日の団体交渉報告会での報告に沿って、裁量労働制の枠組み、使用者案の問題点、労働者側から要求すべき事項について解説します。

【1】裁量労働制の制度的枠組み
 裁量労働制とは、労働者の裁量を拡大するための制度ではありません。業務の遂行方法と時間配分を労働者の裁量に委ねるのと引き替えに、使用者の労働時間管理の責任を緩和し、「みなし労働時間」を適用するための制度なのです。「みなし労働時間」を8時間と設定すれば、実労度時間が9時間であっても10時間であっても8時間労働したとしかみなされません。本来「みなし労働時間」は実労働時間に即して定めるべきですが、実際には実労働時間を下回る時間数しか設定されず、長時間労働をさせても時間外手当を支給しなくて良い制度として悪用されることが多いのです。熊大での使用者側の期待もまさにその点にあるようです。さて、裁量労働制の制度的枠組みを簡単に紹介します(詳しくは赤煉瓦23号をご覧ください)。

1.裁量労働制導入の基本的要件
(1) 業務の遂行方法および時間配分を労働者の裁量にゆだねること
(2) 業務が厚生労働省令等で示されたものであること
(3) 過半数組合・過半数代表者との労使協定に基づくこと
 大学教員は講義等の関係で時間配分の裁量があるとは認められず,対象業務になっていませんでした.しかし,法人化を前にして国大協の要請のもとに 「主に研究を行う」という条件付で対象業務に加えられたのです.なお,通達では助手については「専ら研究を行う」場合に適用できるとしています.

2.裁量労働制の効果
 労使協定では「みなし労働時間」を定めます。そして、所定労働日に労働した場合の労働時間については、実労働時間ではなく「みなし労働時間」を働いたものと扱われます。ただし、休日労働については「みなし労働時間」は適用できません。深夜(午後10時〜午前5時)の労働も割増賃金の対象になります。緩和されてはいますが、使用者の労働時間管理の責任は残ります。

3.裁量労働制運用の条件
(1) 苦情処理制度 (2) 健康福祉確保措置
 裁量労働制は長時間労働の歯止めをなくし過労死さえ生みました。このような裁量労働制の濫用に対する歯止めとして、2003年の労基法改正の際に盛り込まれたものです。このとき、個別同意についても議論されましたが、附帯決議に検討の必要が盛り込まれたに止まりました。

【2】裁量労働制労使協定書使用者案の問題点
 上記の制度枠組みを念頭において、使用者案を検討すると以下のような問題が浮かび上がります。

1.労働者の裁量の範囲について
 使用者案は、「業務遂行に係る時間配分」を裁量として述べていますが、これは法の定める最低限の要件に過ぎません。しかも但書きとして「業務内容、職場規律及び勤務管理上必要な指示」については「理由を説明して、具体的指示を与える」としています。理由を説明されても納得できない場合の扱いはまったく触れられていません。これでは裁量を与えたことにはならず、法の基本的要件を満たしません。

2.職務専念義務について
 裁量労働制を適用される労働者も、就業規則により一般的な職務専念義務は適用されています。労使協定に盛り込む必要はありません。なお、使用者が裁量労働制を適用されている労働者に、職務に専念しなさいと指示したとしても、労働者から「今は休憩時間だ」と言われればそれまでです。休憩の取り方は時間配分の裁量に含まれるからです。

3.適用職員の範囲について
 使用者案では、附属学校教員であっても「主として研究に従事する」者であれば適用できるように読みとれます。これは厚生労働省の通達に明確に違反します。また、助手については「専ら研究に専念する」者にしか適用できないにもかかわらず、使用者案では講師以上の教員とまったく区別されていません。

4.「みなし労働時間」について  使用者案では8時間が提案されています。しかし、「みなし労働時間」は実態を踏まえて定めなくてはなりません。赤煉瓦23号で文部科学省による全国的な教員の勤務実態の調査結果を紹介し、教員一人当たりの労働時間は年間約2700時間とお伝えしました。労基法の求める時間外労働の制限を大きく越えて労働しているのは明らかです。なお、「みなし労働時間」と実労働時間の乖離は労基署の指導対象になります。

5.個別同意を必要とするとの規定が無い。
 教員の労働形態は多様です。@主に研究に従事するか否か、A講義や会議などの研究以外の業務が増大する中でどこまで時間配分の裁量を持っているのかという二つの基本的要件について、個別に判断する必要があります。しかもこの判断は本人にしかできないものです。個別同意は導入要件にはなっていませんが、このような教員労働の特殊性を考えれば個別同意は不可欠です。

6.90日前までに改正の意思を通告しなければ自動的に1年間延長する。
 裁量労働制はその濫用が社会的問題になった制度ですから、運用状況のチェックは不可欠です。自動更新規定は置くべきではありません。

 使用者案の特徴は、「裁量はできる限り少なく」「適用範囲はできる限り広く」「時間外労働は発生させない」というものです。これほど「裁量労働制を時間外割増賃金を支払わないですむ制度にする」という思惑を露骨に表した案はありません。これでは今後の労使協議のためのたたき台にすらなりません。教員人事専門委員会で案を検討したとのことですが、検討に費やした時間は事実上無駄になりました。赤煉瓦19号で「労働条件の決定を各種委員会に委ねるべきではない」と述べましたが、この主張の根拠となる具体例がまた一つ増えてしまいました。

【3】教員にとって働きやすい労働時間制度のために
 教員の労働には、自らの裁量の拡大が不可欠です。しかし、裁量の拡大に労使協定が必要なのではありません。就業規則・労働協約として裁量の範囲を定めればよいのです。労使協定が必要になるのは「みなし労働時間」を適用する場合です。現在の就業規則では教員の労働実態にふさわしい裁量権は殆ど規定されていませんので、裁量権の大幅な拡大の代償に「みなし労働時間」を適用してくれというのなら考慮に値するでしょう。

 以下、教員にとって働きやすい労働時間制度のために必要な権利を二つ提案します。なお、この権利を裁量労働制の導入なしに労働協約によって実現した大学もあります。

(1) 事業場外労働についての裁量権
 大学教員の労働は、大学内でのみ行われるわけではありません。自宅において、図書館において、野外調査において、あるいは出張先で、目的と条件によって様々な場所で行われます。講義・会議などの拘束的な業務を行い、学生指導(質問対応を含む)のための十分な時間を確保すれば、労働する場所については最大限の裁量が認められるべきです。ただし、使用者との連絡手段は確保する、全日を事業場外で労働する場合には事前に届け出るなどの配慮は必要です。

(2) 勤務時間外の施設利用権
 裁量労働みなし労働時間は休日労働については適用されません。また、深夜労働についても、割増賃金が必要です。ですから、時間配分の裁量を持つといっても、休日労働や深夜労働を裁量で行えるわけではありません。使用者案でも「原則として深夜勤務及び休日勤務に従事しない」とあるのもそのためです。 しかし、それが深夜・休日の施設利用の制限になってしまったら、特に実験系の教員には深刻な問題です。これについて、教員の自主的な判断で行っている業務であれば、勤務時間外の施設利用という考えで処理するのが現実的だと思います。

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