2006.7.7 |
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--「教員の個人活動評価」と給与の問題点-- |
『赤煉瓦』No.52(2006.5.8)では,熊本大学教職員組合が部局長・教育研究評議会評議員にたいして実施した,「熊本大学における教員の個人活動評価の見直しの考え方」・「熊本大学における教員の個人活動評価指針」に関するアンケートの結果をご報告しました.このアンケートによって,(1)評価結果を給与に反映させることを支持する意見がある一方で,不安に感じる意見も多いということ,(2)新たな評価制度の大枠そのものについても意見が分かれているということ,(3)各部局等が策定する「実施要領」の重要性を指摘する声が多いということ,(4)評価結果を給与に反映させるかどうかの是非を含めて全学の共通理解が形成されていないということ,が明らかになりました. その後,6月6日,組合は,この問題について使用者側と団体交渉を行いました.この『赤煉瓦』では,交渉の中であらためて浮き彫りになった問題点を整理し,現在検討が進められている「教員の個人活動評価実施要項(改正案)」(以下,「要項(改正案)」)の問題点を指摘するとともに,「教員の個人活動評価」に関するこれまでの動きが看過できない問題を孕んだものであることを明らかにします. 「ギラギラするので給与という言葉は使わなかった」!? 交渉において,森人事労務担当理事は,2006年2月に改定された「熊本大学における教員の個人活動評価指針」(以下,「指針」)を「評価の憲法」にあたるものだと表現した上で,「指針」第8「評価結果の利用」の第3項「学長及び学部長等は,教員による自己評価と学部長等による評価の結果を本学及び学部等の教育及び研究の改善並びに運営に活用する.」の「運営」には給与が含まれると言明しました.これにたいして組合が,「なぜ給与という言葉を使わなかったのか.」と質問したところ,森理事は,「給与とした方が良いという意見もあったが,ギラギラするので運営とした.」と返答しました.もしこれが事実とするなら,使用者側は,給与に反映させるかどうかという最も重要な事項を定めるところで,意図的に「運営」という曖昧な文言を使ったということになります. そして,「給与に反映させるかどうかは非常に重要なことであり,その点を明確にして各部局で議論するべきではなかったか.」という組合の追及にたいする森理事の発言は,「きわめて重要なことなので,全学に伝えられているという前提で指針の改正を行った.」というものでした.では,はたして,各部局での検討は,評価結果を給与に反映させるべきか否かについて,本当に議論を尽くしたものだったのでしょうか.そして,全学の構成員が納得した上で,給与への反映が指針に盛り込まれることになったのでしょうか. 森理事は,交渉の席で,「ある学部では給与ということも書いて報告してある」とも発言しています.しかし,3月28日開催のA学部教授会における「平成17年度第10回教育研究評議会」(2006年3月23日開催)報告においてなされた説明は,「学長は,人事評価制度を整備し,勤勉手当,特別昇給に反映させたいと考えている.」というもの,つまり,勤勉手当や特別昇給という形で給与に反映させるというのは,あくまでも学長個人の希望であるというものでした.「指針」が改定されたのが3月23日,そして,その内容が説明された同日の教育研究評議会報告がこの内容です.もしかりに,「指針」がまだ案の段階で,給与に反映させることの是非を含めて各部局での意見集約と検討が十分になされ,その結果を受けて「指針」が改定されていたのであれば,それは「学長の考え」という説明にはならなかったはずですし,わざわざそういった説明を補足する必要もなかったはずです. これは,きわめて異常なことです.ところが,使用者側は,これを今後検討する人事評価制度の問題にすり替え,そして,先送りしながら,新しい評価システムを稼働させ既成事実化しようとしています.少し長くなりますが,団体交渉での森理事の関連発言を引用します. 「運用に活用するために評価の憲法にあたる指針作りに着手した.教員による自己評価,3年に一度行う学部長による評価を学部長・学長が活用するが,運営にも活用するとなっているところが新しいところ.システム作りをやっている.具体的には,要項を作っている.個人活動評価指針,これが憲法にあたる.枠組みを決める,これが要項.部局が特性を反映させて要領を作る.現在,要項を作っている.システムが出来上がった後どのように活用するかだが,人事評価制度を作っていくときに個人活動評価をどのように活用するか,結果を人事評価にどのように反映させるか,人事評価を給与等にどのように活用するか,この3つを検討していく.」一見論理的に思えるこの流れが,いかに巧妙な迷彩の上に成り立っているか,はっきりと読み取れます.評価結果を給与に反映できるように,まずは「憲法」にあたる「指針」に「運営」(給与を含む)という文言を滑り込ませ,その具体化については,これから人事評価制度を作っていく中で検討するという形で先送りするという,いかにも姑息な手法です.しかし,このようなやり方が,問題を解決するどころか,これからの「要領」検討・作成を含めて,各部局の運営に深刻な影響を与えるということは,誰の目にも明らかなはずです. 曖昧,いい加減,そして,拙速な手続き! ここで,この問題のこれまでの経緯をもう一度簡単に整理してみましょう.この問題が,法人化後の熊本大学の意志決定の杜撰さを象徴的に表している「事件」であるということが見えてきます.(詳細は,『赤煉瓦』No.21,2005.11.18をご参照下さい.)
いったい評価結果をどう給与に反映させるというのか!? 「要項(改正案)」の「第3活動目標」(要約)には,(1)学部長等は,あらかじめ学部等の目標を教員に提示する,(2)各教員は,その目標と自らの過去の実績を踏まえて3年間の活動目標,努力配分,及び,年度計画を設定する,(3)活動目標,努力配分,及び,年度計画は前年度の自己評価の結果を踏まえて各教員が修正できる,とあります.「教員の活動状況を点検・評価し,その活動の一層の活性化を促す.」という,教員の個人活動評価試行時の目的に照らし合わせれば,ポイント制から教員個人が設定した活動目標を基本として達成状況を評価するという変更は,前進と言えるかもしれません.また,「要項(改正案)」の「第4評価方法」(要約)では,(1)各教員による年度ごとの自己評価,(2)3年目終了時の学部長等による評価,により評価を行うとなっています.(なお,学部長等による「3年に一度」の評価というのは「指針」にも明記してあります.)法人化後に一層多忙になっている教職員の現状や,中長期的視座に基づいた教育研究活動の重要性を考えれば,この程度のタイムスパンで評価を行うということ自体は,検討に値する提案だと言えるでしょう.しかしそれは,評価結果と給与を連動させないという前提に立った場合にのみ言えることです.(ワーキンググループは,実際,給与への反省ではなく,報奨金制度の導入を提案しています.) なぜなら,かりに勤勉手当や特別昇給という形で給与に反映させようというのであれば,相対評価としての個人評価の妥当性が担保され,かつ,評価への本人からの異議申し立てへの対応を含めて,単年度での評価が確定できる制度でなければならないはずだからです.そして,評価の実質的な鍵を握る各部局長の評価について,この「要項(改正案)」に一切記されていないのも問題です. 目を覆う混乱ぶり! 事の発端は、「教員の個人活動評価」結果を給与に反映させたいという学長の個人的な発言でした。しかし、こうした方針は、いずれの委員会においても組織決定されていません。 人事院勧告への対応を理由に,評価結果を給与等に反映させることを学長が求めたのに対して,ワーキンググループは、教員個人活動評価の当初の目的を変更するからには学長の責任で行うことを要求し,大学評価会議が「見直しの考え方」を策定することになり,その一方で,学長自らは,人事院勧告に準拠することに法的根拠はないと言明するという混乱ぶりです. こうした杜撰な手続きの延長線上に作成・改定されたのが「指針」なのです.そして、教員の個人活動評価の結果が,具体的にどう給与に反映されるのか,誰にも分からないという状況で「要項(改正案)」の検討が進められています.事実,現在検討が進んでいる「要項(改正案)」には,評価結果をどう利用するかに関する項目がありません.ワーキンググループは、評価結果を給与に反映させないことを前提に「要項(改正案)」を検討しているとも聞きます。 使用者側は、「給与への反映については人事評価制度を作るときに検討する」と言っています.とするならば,給与への反映を前提としない「要項(改正案)」とそれをもとに各部局が検討・策定する「要領」によって昇給等を決定することは絶対にできないはずです. 抜本的な議論のやり直しと学内合意の確立を求める! そもそも,「憲法」にあたる「指針」に盛り込んだと言いながら,評価結果を給与に反映させることに関して,「法律」にあたるであろう「要項」に明示できない評価制度をごり押ししようということ自体に無理があるのです.なんらかの勤務査定を行い,それを給与に反映させる場合,労働者に対して査定基準を明示した上でなければ,違法行為になります.非公務員となった教職員の給与に人事院勧告を適用する合理性もなく,学長自らもその法的根拠はないと認めている今,教員の個人活動評価の結果を給与に反映させなければならない理由はどこにもないはずです.このままでは,近い将来,取り返しのつかない混乱が生じるのは必至です. 「指針」が改定されたということを論拠として,これだけ様々な問題を孕んだ事柄を,なし崩し的に押し進めることを見過ごすことは断じてできません.我われ熊本大学教職員組合は,教員の個人活動を本当の意味で活性化する評価制度を確立するためにも,教員の個人活動評価を給与に反映させることの是非について,抜本的に議論をやり直すことを強く要求します. |