No.19
2006.9.21
熊本大学教職員組合
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「学長候補者アンケートの回答」に問われる
使用者としての自覚と責任

 9月15日開催の学長選考会議においてア元現学長の再選が正式に決定されました。公示によると、14日の意向聴取における現学長の得票率は有効投票総数の約55%です。直接投票に当たったか否かを問わず、すべての教職員が、あるいは再選された学長自身もこの結果を複雑な思いで受け止めていることでしょう。9月16日付けの朝日新聞では現学長の再選が全員一致により決定されたと報じられています。たとえ僅差であっても、得票数が過半数を超えていれば選考会議がこれを覆すことができないのは、本学の学長選考規則上自明のことです。一般の読者にはおそらく読み取りがたいことでしょうが、むしろ重要なのは、投票者の半数近い365名が、現学長の大学運営に否定的な評価を下したという事実です。
 意向聴取対象者の皆さんは、投票に当たって、9月4日に公示された「学長候補適任者所信表明」(以下「所信表明」)と、組合配布の「学長選挙候補者アンケートの回答」(以下「回答」)を併せてご参考頂いたと思います。組合は公正中立の立場から、あえて一切の批判を加えず「回答」の原文のみをお届けしました。しかしながら、現学長が再選を果たし、熊本大学の使用者としての責任を新体制下で引き続き遂行する以上、「回答」に記された意図的な誤謬を指摘し、労使関係の現状を再確認する必要があるでしょう。

「良好とは言えない関係」 
 「学長候補者アンケート」(以下「アンケート」)の第4項目では、候補者の教職員組合との関係についての考え方が問われています。この質問項目の冒頭には、組合としての現状認識が以下のように示されています。
「現在、熊本大学における労使関係は決して良好とは言えない状況です。賃金という最も基本的な労働条件について、団交は決裂し使用者側は一方的な賃金切り下げを強行しました。組合が教職員に賃金切り下げ措置に対する異議申し立てを呼びかけたところ、420名以上の職員がそれに応じています。これはまさに労働関係調整法の言う「労働争議」状態にあります。」
2002年11月の就任以降、現学長は組合との「良好な関係」を構築する必要性を折に触れ強調してきましたが、その意に反し、熊本大学における労使の関係が決して良好とは言えない状況にあることを、7月に行われた「学長挨拶」の場でも、現学長自ら認めています。しかしながら、学長が示した「回答」からは、自ら「良好な関係」の芽を踏みにじった使用者としての自覚を一切くみ取ることはできません。それどころか、組合に対して「誠実な対応をしてきております」と、事実無根の発言さえ行っているのです。
 使用者との賃金交渉において、労働者側の要求が全て受け入れられることは極めてまれなことです。会社の経営状況によっては、労働者側が賃下げもやむなしとの判断を下し、使用者側との間に合意が成立することも十分にありえます。このような場合でさえ、労使の合意が成立しているのであれば、相互の関係は「良好である」と見なすことができるでしょう。良好な関係が成立するか否かは、必ずしも結果の善しあしのみが決定する訳ではないのです。
 2005年度中に決定・実施された二度にわたる賃金大幅切り下げについて、「回答」には「全国87国立大学法人のうちで最低の給与は、本学を含めて人事院勧告でいう地域手当を措置しない37大学に存在」するという深刻な事実が、あたかも、当然であるかのように綴られています。「人事院勧告でいう地域手当」が地域ごとの民間賃金の格差に基づいて全国を区分するものです。このような性格を持つ人勧に準拠するということは、国立大学法人をも二極化に導くことを是認するということにほかなりません。熊本大学において労使の「良好な関係」が成立しない一つの要因は、使用者側がこのような重要な決断を、一方的に、かつ、無批判に行ったことにあります。
 確かに、基本給の大幅切り下げは他大学においても実施されました、しかしながら、『赤煉瓦』No.17(2006.9.12)でも報告されているように、使用者側が国立大学職員と公務員との賃金格差の存在を認め、格差をなくす努力を約束した大学もあるのです。熊本大学においてはどうでしょうか。2005年度の年度途中不利益変更を巡る労使の交渉では、まさに熊本大学教職員の対国家公務員給与格差の存在を認めるか否かが論点となりました。「回答」に言う「再度交渉」とは、「熊本大学教職員の給与水準が国家公務員の給与水準に比べて低い」という大学の公開情報にさえ示されている自明の事実の確認を使用者側が頑なに拒否し続けた結果、いたずらに繰り返された不毛な交渉を指すのです。そもそも、事実の確認は交渉の前提であり、論点となること自体が異常なのです。事実を事実として認めず、黒を白と言って譲らない使用者と合意を形成し、「良好な関係」を結ぶことがどうしてできるのでしょうか。

ねじ曲げられた事実――労働条件変更のプロセス――
 組合は、上述の学長アンケート第4項目に、労使関係が決して良好とは言えない状況にある一因を以下のように指摘しています。
「組合は、このような状態に至った原因の一つに、労働条件に関して役員会で方針を決定してから組合と団交を持つというプロセスがあると考えています。役員会の方針が決まっていて団交に臨むため、団交において組合の要求に耳を傾ける対応は無く、要求を持ち帰って検討するという対応もほとんどありません。このこと自体、労働組合法の定める誠実交渉義務に違反していると考えます。」
この指摘に対する学長の以下の回答には、失望せざるを得ません。
「組合との交渉に臨む為には、法人としての考え方を整理し、方針案を作る必要があります。このことを役員会で行って交渉に臨んでおり、方針を決定してから交渉を行うプロセスをとっている訳ではありません。従って、交渉の結果、方針案を修正したり変更したりする余地は充分にある訳で、これまでの交渉においても組合の要求にも耳を傾け、要求を持ち帰って検討し、受け入れるべき要求は受け入れ、案件によっては、再度交渉するという誠実な対応をしてきております。」
この回答は、@方針案は役員会で作成したこと、A組合との交渉に応じ、要求を持ち帰り検討したこと、およびB事実、受け入れた要求があることを明言しています。@については事実に相違ないでしょう。2005-2006給与改定の原案は2005年10月6日の役員会の了承を得ています。このことは、教職員に向けて公表されている役員会の議事要録にも明らかです。さて、Aの「持ち帰り検討」はどうでしょうか。まず、組合の要求をどこに持ち帰り、どこで検討したというのでしょうか。役員会でしょうか。10月6日以降の役員会議事要録には、2006年4月の大幅賃下げの提案についても、組合からの意見についても、給与改定に関わる案件は一切記録されていません。役員会で検討していないとしたら、誰がどこで検討したというのでしょうか。また、使用者側は組合のどの要求を検討し、Bどの要求を受け入れてきたと言うのでしょうか。組合は、2005年度の年度途中不利益変更、2006年度の賃金大幅切り下げ提案に対し、その都度数々の譲歩提案を行い、合意を目指しました。3月15日の交渉でも10項目の譲歩要求を提示し、交渉の継続を要求しましたが、学長はその提案の一つでも持ち帰り、役員会に諮ったでしょうか。要求書を受け取ったその場で要求を拒否し、再交渉を拒否したのはア元現学長に他なりません。この虚偽に満ちた「回答」は、いったいどのような読み手を想定しているのでしょうか。また、学長は労使関係の「良好な関係」をどのようなものであると考えているのでしょうか。問われているのは、まさに熊本大学使用者の誠実さなのです。

「異議通知書への対応」
 学長は、アンケート提出時点で420名にのぼり、その後も徐々に数を増している「異議通知書」の提出者への対応について、「異議通知書を提出された方々に対しては、回答書を送付したところであり、それ以上の対応は、現時点で考えていません。」と回答しています。学長の「回答書」が賃金不利益変更の合理性判断に照らしていかに貧弱で見識を欠くものであるかについては、すでに『赤煉瓦』No.2(2006.6.7)で指摘していますが、そもそも、学長はなぜ異議通知者に対して「回答書」を送付したのでしょうか。人事課の担当者によると、これは学長の「誠意に基づく行為」であるとのことです。ここでも問われるのは学長の思う教職員に向けた「誠意」とは何かです。異議通知書は学長に対する抗議文ではありません。使用者による合理性を欠く賃金不利益変更が不当労働行為に当たり、熊本大学が違法状態におかれている事実を冷静に陳述しているに過ぎないのです。
 さて、ここで求められる誠実な対応とは、はたして「回答書」を通知者に送りつけることなのでしょうか。「異議通知書」の意味を理解できるのであれば、求められる対応は、熊本大学において現に成立している違法状態を一日も早く脱却すべく努力することではないでしょうか。「回答書」を送付する以上の対応は「現時点で考えていません」という回答は、すなわち、今後も違法行為を犯し続けるという宣言に他ならないのです。

「学費を値上げすることにより高等教育の機会均等を保証する」
 熊本大学は2005年4月に授業料の値上げを実施しています。学費高騰の問題を学長はどのようにとらえているのでしょうか。政府がほぼ1年おきに授業料標準額を引き上げ続けている事実をふまえれば、少なくとも以下の回答からは、学長の問題意識を感じ取ることはできません。
「国立大学が地方に展開している理由のひとつに日本の高等教育水準や学術の均衡ある発展があげられます。また、高等教育の機会均等を保障することも国立大学の存在意義であります。したがって、授業料等については、従来どおり標準額を守る方向で努力したいと考えます。」
熊本大学の学費値上げの要因は文部科学省による標準額の引き上げにあることは偽らざる事実です。運営費交付金の算定ルールにより、標準額の値上げに追従しなければ大学が財政的な損失を被ることは避けられません。しかし、問題は、このように不当な制度に対して国立大学運営上の最高責任者が、どのような姿勢をとるかにあります。国立大学に厳しい財政状況をもたらしている現在の教育政策を批判的に説明した上で、広く国民の理解をえようと努力している大学も見受けられます。これに対し、現学長は、一度たりとも国の方針に批判的な姿勢を示したことがありません。それどころか、今後予想される標準額の引き上げにも忠実に追従し、経済的なハードルをより高くすることにより、今後とも「高等教育の機会均等を保障する」ことをあらかじめ予告しているのです。この「回答」を矛盾なく理解できる国民が存在するとはとても思えません。教職員の賃金大幅切り下げに際しては地域の低い賃金水準を基準とし、その低い賃金から身を切る思いで支出される学費については給与水準の高い地域と足並みをそろえて引き上げるというのですから。

 このように、学長候補者アンケートに寄せられた学長の「回答」は欺瞞に満ち溢れています。その「回答」が賛同を得ようとしている対象は、いったい誰なのでしょうか。熊本大学の教職員や学生、およびその保護者でないことは明らかです。「所信表明」にいかに高い理想を掲げようと、このような不誠実な「回答」を繰り返している限り、教職員と地域の求心力を得ることは不可能であり、熊本大学の将来を危うくするものであると言わざるをえません。新体制を迎えるに当たり、熊本大学の使用者としての姿勢を改めるよう強く希望します。

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