No.19
2009.11.5
熊本大学教職員組合
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6 月期のボーナスには
「不利益遡及する」!?と学長が発言
凍結額(0.2 月)をめぐって使用者側は大混乱に
--10 月30 日団体交渉報告--

  
10 月30 日、一時金削減及び賃金切り下げに関する3 回目の団体交渉を行いました。今回は谷口学長が出席し、組合の要求に対する使用者側の考えを自ら述べました。しかし、不利益変更の合理性についての説明は、またも組合の反論に答えられず、合理性の無さはますます明らかになっています。一方で、「基本給の切り下げは1 月1 日からとする」など組合の主張に若干の譲歩もみせています。また、仮りに賃金切り下げを行った場合の不利益緩和措置の組合要求(『赤煉瓦』No.16.2009.10.27)についても多くは検討中という不十分なものでしたが、前向きな回答もありました。
  次回の団体交渉の日程については、学長の都合にも配慮しながら今後つめていくことになります。また、この問題についての組合の対応を協議するための組合臨時大会を11 月5 日に開催します。組合は決して実現不可能な要求をしているわけではありません。多くの代議員の皆さんの臨時大会への出席をお願いするとともに、組合員の意見・要望をお寄せください。
  さて、団交はまず、これまでの組合側の主張について学長が回答することから始まりました。しかし、このニュースでは、個々の項目について学長の説明と組合の主張をまとめてお知らせすることにします。

労働条件不利益変更の合理性について
  労働契約法では、第9 条において労働者との合意の無い労働条件の不利益変更は行えないこと、第10 条で変更の内容に合理性がある場合には不利益変更ができることを述べています(『赤煉瓦』No.15.2009.10.19 に条文を掲載しています)。学長はまずこの点を確認したうえで、労働契約法第10 条の合理性要件に照らしながら、この不利益変更に合理性があるとする使用者側の考えの根拠を述べました。
(1) 不利益の程度は一時金0.35 月、基本給0.2%であり年間で総額約3 億円であること。
(2) 不利益変更の必要性の根拠には、従来の通則法第63 条、勧告を受けた閣議決定(新政権も前政権の閣議決定の考えを基本的に踏襲している)、判例(福岡双葉学園事件、『赤煉瓦』No.16 で紹介)、(人勧に準じた切り下げを行わないことは)国民の理解が得られないなど従来の主張のほかに、新たに県内の賃金状況が良くないことをあげました。
(3) 変更内容の相当性については、期末・勤勉手当について不利益遡及を行わないという重大な発言をしました。
(4) 就業規則の変更については学内説明会を行い周知を図るとしています。
  多くの点は従来からの使用者側の主張であり、『赤煉瓦』No.15 及びNo.16 で反論済みの事項です。団交では新たに出された県内の賃金水準が低いという説明に、「どの程度低いのか、そして熊大の賃金水準と比べてどうなのか具体的に示せ」と追及しました。学長は明確な根拠がないことを認め発言を撤回しました。このほかで、今回組合が主に主張した点は以下の3点です。
(a) 「増額勧告には上げるのだから、減額勧告の場合に下げる」ことには合理性があると主張するなら、労働協約(2009 年5 月締結)の文言を「(増額勧告が出された場合には)速やかに完全実施する」という形に改定すべきである。
(b) 使用者側はラスパイレス指数の低さを無視し、独自の比較ができないので人事院勧告に従わざるを得ないと主張するが、総務省は独立行政法人の給与水準を公表し国家公務員の給与水準に適合させるために各法人のとっている方策を公表している。そこではラスパイレス指数が比較の基準として扱われており、ラスパイレス指数では判断できないとする使用者側の主張は他の独立行政法人における扱いと矛盾する。
(c) 通則法では公務員型の特定独立行政法人には「一般職の職員の給与に関する法律の適用を受ける国家公務員の給与」を参考にするように求めているが、非公務員型の独法についてはこの文言を外している。通則法が人事院勧告の準用を求めていないことは明らかである。
いずれの点についても使用者側はまともな反論を行えませんでした。結局、不利益変更の根拠は「地域社会に訴えても理解してもらえない」という主観的なものしか残らず、それも「他の省庁の人は大学職員の賃金の低さを理解している」「まず、ラスパイレスの低さなどを地域社会に訴えて地域社会の理解を求めるのが学長の責務」などの反論を受けざるを得ないものでした。

6 月期ボーナスの凍結額の扱いについて
  学長は「ボーナスを年間0.35 月分下げる。夏のボーナスの凍結額0.2 月分については支給せず、12 月期のボーナスを0.15 月分削減する」という従来の主張を述べました。組合は労働協約と現行就業規則における6 月期のボーナス月数を確認し、さらに合理性の説明の中で「期末勤勉手当についての不利益遡及を行わない」と述べたことを確認したうえで
(a) 12 月期のボーナス削減が0.15 月分であり、かつ期末勤勉手当について不利益遡及をしないのであれば年間0.35 月分下げるという主張と明らかに矛盾する。0.35 月分下げるという主張を撤回し凍結額の0.2 月分を支給せよ。
と主張しました。この指摘に使用者側は大混乱に陥り「不利益遡及をしないのは基本給のみ。6月期のボーナスには遡及することになる」と言い換えようとしましたが、組合は不利益遡及は基本的に許されないと主張し、凍結分の支給を強く求めました。森理事は「凍結分を支給したら12 月期のボーナスを0.35 月分減らさなくてはならなくなる」と述べましたが、
(b) 第1 回の団交での12 月期のボーナス削減提案は期末手当0.1 月、勤勉手当0.05 月であり、人事院勧告も同じ内容である。従来の提案を改悪し公務員より大きな削減をすることなど許されない。
という組合の反論に答えることはできませんでした。

賃金切り下げ時期について
  前回の交渉で、組合は2005 年人事院勧告への対応を参考に、基本給の切り下げを1 月1 日にすることを求めました。12 月期ボーナスへの賃金切り下げの影響がなくなるので、1 人あたり2000 円程度の効果があります。これについて学長は従来の回答内容を変更し「賃金引下げで合意されるのなら基本給切り下げの実施日は1 月1 日にする」と述べました。
  これに関連して「賃金引下げで合意されるのなら」の条件について議論になりましたが、交渉中の事項なので現段階ではこのような発言にならざるを得ないとの説明を受けました。使用者側提案にすべて合意しなければ「1 月1 日」にしないという意味ではないことを確認しています。ささやかですが一歩前進です。

賃金切り下げによる余剰をすべて人件費に使えとの組合要求について
  この問題について学長は「増額勧告が出された場合の原資を確保するためにも、将来に向けた先行投資を行いたい」とし、省エネ型の蛍光灯への交換を再度提案しました。組合は次の2 点を主張しました。
(a) 昨年度の総利益が12 億円(財務諸表による)あることを考えれば、人件費を削らずともそのような先行投資は可能なはずだ。もしあえて人件費を削って行うと主張するのであれば、今年度の財務状況について明確な説明を求める。
(b) 国立大学法人の利益について、民主党内には「埋蔵金」とする見方がある。人件費を削って利益を増やせば、利益が国に吸い上げられたり、次期中期計画期間の運営費交付金の査定に影響する可能性がある。
学長は「埋蔵金」の見方をされないように努力していることを述べた上で「12 億円は実体の無いお金で、浮いた金ではない」と述べるのみで、具体的な説明は行いませんでした。

不利益緩和措置の組合要求について
  組合の要求項目(『赤煉瓦』No.16)の一つ一つに学長の見解が示されました。
  1. 休日勤務に対する休日給の支給(休日振替ではなく休日給を支給)
      休日の業務には休みを確保するという観点から、原則的に休日振替を行うことにしている。休みが取れなければ休日給を支給する。
  2. 入試手当の増額
      入試手当てについては検討すべきことが多々あり、他大学の様子も見ながら実施の内容を精査していく。今年度は新型インフルエンザに伴う業務増加があり、その分の手当は支給する。
  3. 教員のサバティカル制度の確立
      工学部ではサバティカル制度を導入しており定着しつつあると思っている。全学的制度にはなっていないので、人事制度検討WG で検討したい。
  4. 特定有期雇用職員の正職員化に備えた退職金の積み立て
      特定有期雇用職員については5 年を超えて延長できるように制度を変更する。正職員化も一つの行きつく先として検討しているが、退職手当の検討が必要であり経営的な面も含めて長期的展望の中でやらせていただく。
  5. 夜間看護手当の増額
      夜間看護手当については、国立大学のときから今まで増やすことは無かった。夜勤等について昔と状況が変わってきている側面もあり考えさせていただく。
  6. 主任・師長・副師長に対する職務手当の創設
      名前がついてしかるべき職責が伴っているものについては級を上げることでそれなりの処遇をしている。名前はついているが実態は無いという場合はなかなか対応できない。
  7. 危険手当の創設(中央手術室勤務、放射線業務に対して)
      危険手当については昔と状況が変わってきたところもあり、危険度が増している側面もある。業務の実態を把握してどういう形で支給するのか検討したい。
  8. 技術職員の初任者格付けの適正化
      技術職員の初任給格付けの問題については工学部出身なので事情は分かっている。特に民間から来た人について国家公務員の扱いが現実とそぐわない側面がある。そんなに遠くないところ(今年度中)で正当に取り扱えるようにしたい。
  9. 技術職員の研修制度の確立
      工学部ではかなりサポートし、自由に行っていただくよう推奨してきた。自ら技術を磨いて教育研究に反映させていくことが大事。技術職員に限らず、状況を把握しながら検討したい。
  10. パートに対するボーナス支給
      パートタイム職員のボーナスについて仕事の中身が同じであれば検討させていただくが、今すぐ対応することは考えていない。基本的には職務が違う。
  11. 有期雇用職員(フルタイム職員)の月給化
      優秀な人材を確保する必要があるので日給制が不安定要素になっているのなら考えなくてはならない。すべての人ではなく雇用の際にうまく条件設定して月給化に近いものが取れるのであれば考えたい。
  これに対し組合は特に1.2.4.8の4 項目を重点においていることを述べた上で、残された時間が少ないこともあり、いくつかの項目に限って主張を述べました。組合の主張に対する使用者側の反論はこの日の団交ではありませんでした。
(a) 休日の労働に対しては原則的に休日給の支給を行うべきである。休みを取らせたいという趣旨であれば、年次休暇をとらせればよく、年次休暇の足りない人には振替を行わずに代休を与えればよいi
(b) 休日振替は所定休日と所定労働日を入れ替えることであるが、現行の個人的に振り替える方式では、振替日も職場の業務が進行するので休めないことが多い。賃金不払い残業に結びつくこともあり、半ば違法な制度運用である。
(c) 入試手当の中でも採点業務(一日8000 円)は予備校での模試の採点などと比べてもあまりに安い。早急な改善が必要である。
(d) 6については看護師長等のことで、特定有期雇用職員の増加に伴い職員の入れ代わりが激しく負担が増えている実情がある。5と7については民間や私立大学のほうが高いので人材確保の観点からも独自に努力する必要がある。

今後の予定について
  財務状況の説明や不利益緩和措置に対する議論など、まだ団体交渉で十分な議論が行われていない事項があります。次回の団交については日程調整することで合意しており、団体交渉は今後も継続します。賃金引下げは決して避けられない事項ではありませんし、仮に引き下げが行われたとしても、様々な手当を通じて不利益を解消していくことは可能です。賃金引下げを提案するならば、組合はそうした対応をとることを使用者に強く求めていきます。
  組合員の皆さんには組合活動に対するご理解とご支援をお願いするとともに、まだ組合に加入していない方の組合への加入をお願いします。

i 休日振替と代休はまったく異なる制度です.近いうちに解説のニュースを配布します.
 

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