No.25
2006.11.28
熊本大学教職員組合
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熊大使用者は不利益緩和と
賃金の自主的検討に努力せよ
—団体交渉報告・その1—
 11月15日(水)16時から約2時間にわたって、今年度2回目の団体交渉を行いました。出席者は組合側が四役・執行委員・書記局員・書記あわせて14名、使用者側が森人事・労務担当理事、本田総務部長ら13名。議題は以下の通りです。
  1. 2006年人事院勧告への対応について(8月9日交渉申し入れ)
  2. 2006年度勤勉手当の0.025月アップについて(5月18日交渉申し入れ)
  3. ゴールデンウィーク期間中の取扱いについて(同上)
  4. 労使協議について(同上)
 今回の交渉は、今年度はじめての給与交渉であるとともに、4月に新たに着任した人事・労務担当理事と10月に着任した総務部長が、昨年度以来の給与問題の本質をどのように捉えているかを知る機会としても、重要な意味をもっています。以下、議題1・2を中心に要点を報告します。

06人勧の構造的矛盾
 国立大学の法人化後、人事院勧告に従って教職員の給与を決定する法的必然性が消滅したことは、昨年度の団体交渉で学長自身が認めた事実です。にもかかわらず、2006年4月1日からの労働条件不利益変更は、組合の同意なきまま、2005年人勧通りに強行されました。こうした状況のもと、2006年8月8日に出された人勧は、官民比較対象企業規模を従来の100人以上から50人以上に改めて月例給の改定を見送り(従来方式なら1.12%改善のはず)、広域異動手当(最大6%)を新設し、あわせて地域手当を1〜3%引き上げることを主な内容としています
『赤煉瓦』№13、8月9日、参照)
 しかし、この勧告は「社会一般の情勢に適合したもの」(独立行政法人通則法第63条3項)と言えるでしょうか。官民比較の対象を企業規模50人まで引き下げておきながら、そうした企業にありえない広域異動手当を新設しようというこの勧告は、内容に整合性がありません。公務員一般の給与抑制と一部の異動組官僚の優遇とを狙う政府の意図が透けて見える内容といえます。ことに広域異動手当は、単に遠距離を異動した者(地方国立大の場合、多くは文部科学省からの出向官僚)を優遇する手当で、優秀な人材確保という点では極めて不合理であり、しかも財源は運営費交付金からの支出(つまり大学の手出し!)となるなど、本学の就業規則に規定するには問題が多すぎます
(詳細は『赤煉瓦』№26を参照してください)
 このように矛盾と不合理に満ちた勧告に安易に従うのは独立行政法人通則法の趣旨に合わず、したがって、給与は勧告内容を批判的に検討しながら団体交渉を通じて決定すべきだというのが組合の主張です。交渉ではまず熊大使用者がこの勧告をどのように捉えるのかを問いました。

人事・労務担当理事も06勧告の構造的矛盾を認める!
 担当理事は次のように回答しました。
給与を国立大学法人が決定するには、通則法で社会一般の情勢への適合、17年9月28日の閣議決定で国家公務員の給与を考慮し適正な給与水準とすることが求められている。国の財政で運営している国立大学法人としては説明責任を果たす上で大事なことであり、06人勧についても給与水準を決定するにあたり重要な参考資料として検討している。広域異動手当新設を含む特別都市手当についても、新手当の導入や引き上げを行わなくては人材確保・円滑な人事交流の障害になるので、適切な対応を考えている。
 昨年の給与交渉と同様に、勧告の内容を検討しないまま丸呑みにしようという回答であり、許容することはできません。これに対して組合は、上記の問題点を指摘し、担当理事の理解を糺しました。すると、比較対象企業規模の引き下げと広域異動手当の新設という勧告の2本の柱は両立しない、という組合の主張に対して、担当理事は「個人的見解」と前置きしながらも、
ご指摘の要素については同じように感じている。
と答えました。
 さらに、広域異動手当について組合が、「東京から来たというだけで手当を支給すると就業規則に規定してしまったら、その人材の質に関わらず一律の手当を支給せざるをえないことになる。そうしたことが優秀な人材の確保に役立つのか」と糺すと、
異動する前に、その人材が有能なことが明確な場合もあるし、そうでない場合もある。
と発言し、この制度の不合理さを担当理事みずからが露呈しました。
 このように06人勧の重大な問題点が明らかになり、人事・労務担当理事もそれを認識した以上、それらを役員会に持ち帰って充分検討して法人としての対応を考え、それをもって次回の団体交渉で議論するよう求めると、担当理事はこれを了承しました。
 また、査定昇給制度の導入については、組合との交渉を通じて検討してゆくことが確認されました。

不利益緩和の要求を6ヵ月間も放置!
 議題2の勤勉手当0.025月アップは、2006年4月からの一方的な就業規則の不利益変更(基本給切り下げ)の緩和措置の一環として、5月18日に要求し、交渉申し入れしたものです。
周知のように熊大使用者は、組合の要求を役員会で検討もせず、合理性・必要性を提示しないまま団体交渉を決裂させ、不利益変更を強行しました。これは明確な違法行為です
(ルーテル学院裁判の地裁判決、『赤煉瓦』№21、10月17日、参照)。組合が就業規則の変更に合意しない限り、違法状態が永久に続くことになります。使用者側が違法状態の解消を求めるのなら、合意の条件としての代償措置(不利益緩和の措置)をとる必要があります。勤勉手当0.025月アップは、本年4月からの基本給切り下げによって生じる余剰金1億6,000万円のうち使途の決定していない4,000万円の余剰金を教職員に還元し、ささやかながらも不利益の緩和を図れ、という真摯かつ合理的な要求でした。
 ところが驚くべきことに、担当理事や総務部長は交渉当日まで、この要求の根拠・意味を全く理解していませんでした。交渉申し入れからじつに6ヵ月間、組合のこの真摯な要求は使用者集団のあいだで放置され、総務部長の交代、人事課長の転出という相次ぐ人事異動の過程で的確な引き継ぎさえ行われず、たな晒しにされ、要求の意味・根拠を正しく理解したうえで真剣に検討した管理者は誰一人いなかったのです。にもかかわらず、担当理事は学長と「相談」して手当アップ要求を退ける回答だけは準備して交渉にのぞみ、交渉の席で組合側の説明を受けて、やっと要求の意味・根拠を理解するという状態でした。
 労働組合の合理性ある要求を使用者側が然るべき機関で検討もせず、半年間も放置するのは極めて異常なことです。そして、放置した挙句に、担当理事と学長との「相談」によって組合の要求を拒否しているのです。拒否を前提に放置していたのかと疑いたくなります。誠実交渉義務違反と言われても仕方ないでしょう。熊大使用者は、423名もの教職員が不利益変更への異議通知書を提出し、違法状態が継続している事実の深刻さを、一体どれほど認識しているのでしょうか?

不利益緩和のために総合的対応を提案
 組合は、基本給を切り下げ前の水準に戻せと要求しているのではありません。基本給切り下げがやむを得ない場合、一時金や手当でもって不利益緩和を図るのは民間企業ではごく一般的な方法です。もとより、勤勉手当0.025月アップはそのための最低条件であり、使用者側はさらに総合的な賃金問題への対応の中で、2006年4月の就業規則改定によって生じた不利益の緩和・是正を行うべきです。交渉では以下のような具体的方法を使用者側に提案しました。
勤勉手当の枠の拡大/入試手当の増額/教員の裁量労働みなし時間の拡大/昇給枠の拡大/不払い残業の廃止と休日振替手続きの厳格化/教員以外の職員の兼業規制の見直し
 以上の方法を総合的に検討し、法人として何ができるのかを次回の交渉で示せ、という組合の要求に対して、担当理事は、
改善という方向で考えていくのが基本姿勢だ。
と明確に述べ、交渉継続が確認されました。

 なお、議題3については2007年のGW期間の平日を休業とすることはできないものの、休日規定を柔軟に運用して年間の勤務日を設定してゆくことの重要性が確認され、議題4については、定期的な労使協議の開催にむけて枠組みと位置づけを検討することで合意しました。

不利益緩和と06人勧の批判的検討を強く求める
 本年4月の基本給切り下げによる不利益は、このままでは07年、08年、09年と年を追うごとに拡大してゆきます。法人としての創意工夫によって、一刻も早く緩和措置がとられる必要があります。そうなれば、組合が就業規則改定に合意して違法状態が解消される条件も生じる可能性が出てきます。また、法人でありながら国家公務員の給与制度を採用して問題を生じさせている現状を改め、教職員が納得できる賃金体系と合理的な人材確保制度が策定されねばなりません。
熊大使用者は、人勧に従うのは「説明責任を果たすため」だと折にふれて強調します。しかし「説明責任」と言うなら、労働条件について「労働者への説明責任」を果たすのが使用者の第一の義務であることを、昨年度以来の給与交渉の経緯から学び取るべきです。
 組合は、熊大使用者が今までの態度を根本から改めて、これらの課題に真摯に対応することを強く求めながら、交渉を継続してゆきます。

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