2009.1.26 |
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--菅原理事から配信された 投票依頼メールの是非を巡って-- |
2008年12月18日の意向聴取投票、翌19日の学長選考会議を経て、元工学部長・谷口功氏が次期熊本大学学長に選出されてから、早ひと月が経ちました。そこで、本ニュースでは、今回の学長選考を総括し、よりよい学長選考制度構築へ向けて今後何が求められているかを考えます。 学長候補者アンケートについて まず、4名の候補者の方々には、今回、不在者投票期間に間に合わせるために、ご多忙な中極めて短い時間で組合作成のアンケートに答えていただくことになってしまいましたが、全員の方が期日までにきっちりと御回答下さり、有権者への貴重な投票参考資料を配布できたことに対しまして、組合としてお礼申し上げます。 アンケート項目の内容に関しては、今後より一層改善を重ね、時宜にかなう適切な内容にするべく努力していきたいと思っています。 国会議員や地方公共団体の首長選挙等では、労働組合を含めた様々な団体が特定候補者の支持母体となって選挙を戦うわけですが、熊大教職員組合はこれまで特定候補者を支持したことはなく、全ての候補者を公平中立に扱い、有権者である教職員の方がたにアンケートを通じてその情報を発信していくことが学長選考における大きな使命と考えています。 新しい学長選考方法による、初めての意向聴取 今回の意向聴取は、2008年1月に学長選考会議で決定された新しい学長選考方法(それまでの学長選考会議の議論では、一時期一部の学外委員から意向聴取そのものを「廃止」しようとする動きがあったのですが、結局存続することに落ち着きました。詳しくは、『赤煉瓦』No.14 [2007.10.30], No. 18 [2007.12.4], No.22 [2008.2.4]を参照してください)に則って行われましたが、従来の選考方法とは大きく変わった点がいくつかあります。 まず、投票は一回のみとなり、これまでのような、過半数得票者がいなかった場合の決戦投票は廃止されました。 さらに、意向聴取対象者(有権者)が助教にまで拡大されたことも特筆すべき点でしょう。ただ、ここで、有権者の幅が広がったこと自体は歓迎すべきことなのですが、2008年2月4日付『赤煉瓦』No.22で指摘したように、所属する助教の人数が極端に多い部局とそうでない部局があるために有権者分布のアンバランスを招来するという事実は、これまで教員数の多い部局が学長を輩出してきたという歴史を考えるとき、新たな問題として残されていました。 そこでこの問題の解消も含めて、学長選考過程の透明性を高めるという大きな意味合いを持って今回初めて導入されたのが、人文社会科学系(今回の有権者数256人)・自然科学系(282 人)・生命科学系(492人)・[事務]管理部門(221人)4系列における候補者ごとの得票数並びに得票率を公開するというものでした。これは、学長たるもの、ごく一部の突出した部局の支持のみで選出されることなど決してあってはならず、逆に、全学から幅広く支持を得て初めて、その職務を遂行できるという考え方に基づくものです。ちなみに、最多得票者である谷口氏の得票内訳は、文系75票[17.8%]、自然系211票[50.0%]、生命系32票[7.6%]、事務系104票[24.6%]でした。 そして、このような意向聴取結果を参考にして、投票日の翌日、学長選考会議が有効投票数(1097票)の10%(109票)以上の得票者(今回は4人中3人)を面接し、最終的に次期学長を決定したのです。 他大学の悪しき事例に比べれば・・・ 2009年1月12日に「富山大学発日本の大学の危機(学長選考の異常さ)を全国に訴える会」から出されたアピール文には、「….昨年12月4日の富山大学学長選考において、富山大学学長選考会議(国立大学法人法の定める組織)は、その半数を占める学外委員を中心とする多数の力で、2回の教職員の学内意向調査(教職員による投票)でいずれも2割の支持しか得られなかった、第3位の現学長を再任しました。8割近くの教職員が不信任を突きつけた候補を、学長選考会議が、意向調査の結果を無視して学長に選出するようなことは、これまで国立大学では一度もなかったことです。(中略)国立大学法人化後の学長選考では、滋賀医科大学、岡山大学、新潟大学、山形大学、大阪教育大学、高知大学、九州大学の7大学で、意向投票の第2位の候補を学長選考会議が学長に選ぶという事態が起こっています。しかし、これらの大学の場合は、せいぜい数十票の差で、富山大学のように、意向投票をまったく無視して、2割しか得票しなかった第3位の候補を選ぶという事例は、これまでありません。・・・」と述べられています。同大学では、現在複数の学部が声明・要望書・要求書を提出し、この決定に異議を申し立てています。 このように、富山大学を含めたいくつかの大学では、学長選考会議が意向聴取の結果をないがしろにし、学内民意を踏みにじる行為がまかり通っているケースと比較すれば、意向聴取の結果通り最多得票者が学長に選ばれた点に関しては、今回の本学の学長選考はひとまず穏当に終わったと言えるでしょう。 しかし、問題がないわけではない とは言え、今回の学長選考に全く問題がなかったのかと言えば、そうとは言えません。以下にいくつか指摘しましょう。 まず、筋論を言えば、候補者の出身系列から著しく突出した支持を受けるのは、本質的には問題があるということです。今回、谷口氏は自然科学系列からの支持だけで得票数の丁度半数の票を獲得しています。選挙には支持団体がいて当然ではないか、という意見もあるかと思いますが、先ほども指摘したように、学長たるもの、大学全体ではなく、一部の偏った支持によって選出されてよいのかという議論は残ると考えられます。 次に、今回はたまたま医学部から3人の候補者が乱立し、票を奪い合う結果となりましたが、どのようなパターンで立候補があるにしろ、教員票に関しては、候補者の出身系列からの得票が主なものとなり、その他の系列からいかに票を上積みするかが勝敗の分かれ目になると言えます。しかし、実は、他の系列の教員票というよりもむしろ実質的キャスティング・ボートを握っていたのは、「前回同様」、今回も管理部門(事務系)の票だったのです。実際、得票数1位の谷口氏と2位の倉津氏を比較してみても、教員票では、318票対298票で、20票差ですが、管理部門系列の票では、104票対68票であり、教員票の二倍近い36票の差が付いています。もし、今後もこの傾向が続くとしたら、そしてそれが一部の思惑によってつき動かされ、特に事務系有権者の投票行動を陰に陽に縛ることに繋がるのだとしたら、これは問題ではないでしょうか。 そして、何と言っても今回一番の問題と思われる点が、本ニュースのタイトルにもある「菅原理事から配信された投票依頼メール」なのです。 教授会決議が採択される部局も この菅原理事からのメールのタイトルは「最後のお願い」でした。それが候補者谷口氏の推薦人の一人として、理事の「個人名のみで」配信されたものなら、推薦人から投票依頼の電話がかかってくること自体はよくあることなので、特段の違和感はなかったと思いますが(実際、同じく谷口氏の推薦人に名を連ねている別の理事は、個人名のみで同様の投票依頼メールを送ってきました)、その発信者名の前には、何と「理事室」という肩書きがわざわざ付けられていたのです。これは明らかに、「地位利用」に当たると考えられます。 げんに、ある部局では、一理事から特定候補者に対して投票を依頼する文書のメールが送付されたことは、「権力的な行為・公正な選挙を妨げる行為・きわめて不適切な行為」であるとの問題点が指摘され、学長選考意向聴取管理委員会においてこの件を早急に検討することを要請する「教授会決議」がなされました。 また、別の部局でも、教授会でこの件が取り上げられ、地位利用・パワーハラスメントの可能性があるなどの指摘を含めた意見交換がなされました。その結果、学長選考会議のメンバーでもある学部長に選考会議の場でこの件を議論するよう要請があり、その学部長はこれを受け入れました。 メールの是非を巡って 教授会決議に基づく申し入れにより急遽招集された学長選考意向聴取管理員会では、このメール問題が検討され、同委員会は検討依頼の申し入れをした部局に対して回答を寄せました。それは「ご承知のとおり、意向聴取管理委員会の位置付けは、意向聴取等の事務を行うため、学長選考会議により設置された委員会であり(国立大学法人熊本大学学長選考規則第9条第1項)、その組織、委員の選出方法、運営等を含め、具体的な役割は国立大学法人熊本大学学長選考規則実施細則で定められているところです。当該実施細則によると、貴職から検討依頼のあったことについては、意向聴取管理委員会の権限外の事項であります。したがって、本件につきましては、貴職のご希望に添いかねますことを、ご回答申し上げます」というものでした。全くの門前払いというわけです。 さらに、19日の選考会議でも、学内委員である複数の学部長からこのメールを問題視する発言がなされましたが、学外委員を含めた他の多くの委員は全くこれに取り合わず(このあたりの展開は、富山大学での異常な出来事を彷彿とさせます)、結果この問題に対して、選考会議によって選挙違反等の判断が下されることはありませんでした。その議論中、ある学外委員が、“こういったメールは諸刃の剣であり、かえってメールを受け取ったことでその候補者には投票しない可能性もあるのだから、効果は相殺されるので、別に問題はない”という主旨の発言をし、またある委員は、“組織選挙では上からの締め付けで投票行動を統一することはよくあることで、組合などその最たるものではないか”という内容の発言をしたと聞いています。特に、前者の発言内容は、このメールには実際に投票を促す効果=投票の動向に影響を与える可能性があることを自ら認めるものです。にもかかわらず、結果がプラスマイナスゼロならいいではないかという不見識きわまりない発言であると言えます。 選考会議での上記学外委員の発言によってはからずも明らかになったように、組合が問題にしているのは、今回の投票では、このような行為によって、本人の真の意向ではなく、「他人の意向」で、投票するつもりのない候補者に無理やり投票しなくてはならない状況に追い込まれた有権者がいたのではないか、つまり、依頼どおりに投票しなければ、今後菅原理事から受けるであろう、現在の職務上の、及び将来的な所属組織へのマイナス影響などを考慮した投票行動をとった有権者が本当にいなかったと断言できるのか、ということなのです。 菅原理事のこの投票依頼メールを巡って、教授会決議が出されたり、選考会議でも問題視する発言が出たことは、明らかに今回の学長選考に生じた決して小さくない混乱を示しており、その結果、公正な意向聴取が阻害された可能性が十分にあると考えられます。その原因を作り出した張本人である菅原理事は理事として全く不適任であると言わざるを得ません。 そして、最後にひとつ間違いなく言えることは、新しい学長選考方法は今回のような事態には対応できない体制であることが判明したのだから、意向聴取投票での選挙違反や妨害行為などを適切に判断できる規則や組織を前もってきっちりと整備しておくということでしょう。6年後の学長選考では、この点が是非改善されていることを望みます。 |