2001.4.24 |
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熊大当局は、看護補助者(病棟婦)の大幅削減を強行するに際して、「医療事故への対応」という最も重要な視点をまったく欠落させています。そのため、熊大当局は病院長交渉において、「医療事故の事実関係を調査する必要はある」、「調査して今後どうするか提案、指摘して頂きたい」などと回答しました(『赤煉瓦』46号、47号参照)。しかし、すでに各種の医療事故調査は、医療事故の現状と背景・要因を分析し、医療事故防止策を提言しています。熊大当局はこのことを肝に銘じるべきです(『赤煉瓦』36号をあわせてご覧下さい)。 医療事故のリスクの高い看護業務 各種の医療事故調査は、看護業務において医療事故のリスクが最も高いことを明らかにしています。熊大病院のインシデントレポートにおいても、報告者の大半が看護婦です。日本病院会調査では、病院全体のアクシデントの82.6%に看護職員が関係し、これは「看護業務の複雑さと高度医療に伴う多岐に亘る業務内容を反映している」と分析しています(「医療事故対策に関する活動状況調査集計結果」00年11月公表)。日本看護協会もまた「高度化、複雑化する医療現場における、看護婦が行う業務量の多さと繁雑さ、能力に応じた教育機会の不足、疲労などが〔医療事故〕の背景にある」と分析しています(「看護婦が行う与薬業務の実情と事故発生の背景」00年11月公表)。 看護業務が複雑・繁雑であるのは、医療の高度化にともなう業務内容の変化・患者の質の変化、在院日数の短縮にともなう患者の回転率の上昇を別にすれば、また看護婦不足を別にすれば、看護婦がありとあらゆる業務をこなさざるをえないからです。熊大病院の看護婦は、病室の清掃から、ベッドメーキング、薬剤の管理・ミキシング、医療機器や物品の管理・保全、保険点数の請求、メッセンジャー業務、来客・電話への応対など、ありとあらゆる業務をこなしています。
いまひとつの理由は、医療技術者(薬剤師、検査技師、臨床工学技師など)も不足しているからです。熊大病院の医療技術者数(入院患者100人あたり)は、国立大学病院のワースト2位であり、国立大学病院の平均値に対して21.4人の不足となっています(第2表)。
とりわけリスクの高い与薬業務 看護業務のなかで、とりわけ与薬業務における医療事故のリスクが高くなっています。日本病院会の調査では、病院全体の「アクシデント」の28.4%が「注射」で、14.4%が「内服投薬」で発生しています。川村治子の調査では、看護の「ヒヤリ・ハット事例」の31.4%が「与薬(注射・点滴・IVHなど)」で発生しています。与薬のヒヤリ・ハット事例のうち、「実施(施注)」に関する事例が33.3%、「準備過程」における事例が23.9%、「患者誤認」が8.3%を占めています(「看護のインシデント事例の分析」、99年9〜10月調査)。 熊大病院のインシデントレポートにおいても、インシデント事例の多くが「与薬業務」に関連しています。実際熊大病院では、注射の準備・施行の際に複数人チェックができていません(第4表)、また注射準備作業がナースコールなどによって、頻繁に中断させられています(第5表)。
最もリスクの高いのは食事の時間帯 川村は、与薬の準備・実施において事故が発生している要因として、「注射準備・実施業務の途中中断」、「時間切迫」、「薬剤知識の不足」などを指摘し、対応策として「注射準備など危険業務中の隔絶」、「事務業務と医療業務の分担」、人手不足を「補完できる労働体制」、「薬剤師の病棟与薬業務における役割分担の強化」などを提言しています。また日本看護協会調査は、「看護職が与薬に関する一連の業務を行う過程では、ほとんどの場合、他の看護業務や看護業務以外のことが発生〔し〕、与薬業務だけを単独で行うことや、業務を中断せずに終了することが困難な状況がある」と分析しています。 もとより与薬業務は、複数の人間が関与しているだけでなく、多種のハードウェア、情報伝達というソフトウェア、注射準備環境などの諸要素がからむ複雑なシステムであると同時に、対象患者、薬剤の内容・量、投与の方法・日時・速度、安全性など確認すべき点が多いため、リスクの高い業務です。にもかかわらず、多くの場合にその最終行為者である看護婦は、多種多様な複雑で繁雑な業務をこなさざるをえないため、与薬業務に専念できる環境になく、また与薬業務の途中中断が発生しています。 日本看護協会調査は、誤薬事故が発生している最も多い時間帯が「18:00〜20:59」(19.8%)であり、次いで「9:00〜11:59」(16.3%)、「12:00〜14:59」(16.0%)であることを明らかにしています。誤薬事故の52.1%がこれら計9時間の間に発生しています。1病院平日1日あたりの誤薬事故発生件数では、「18:00〜20:59」が2件を越え、次いで「9:00〜11:59」と「12:00〜14:59」がそれぞれ約1.5件となっています(「誤薬事故に関する調査結果」00年11月公表)。この最も危険な計9時間の時間帯は、食事の時間帯(熊大病院では朝食8:00、昼食12:00、夕食18:00から配膳)に他なりません。 要するに、看護業務は病院の中で最も医療事故のリスクが高く、とりわけ与薬業務のリスクが高く、わけても食事の時間帯の与薬業務のリスクが最も高いのです。にもかかわらず、実は熊大当局が強行した看護補助者の大幅削減によって、これまで病棟婦が担当していた配膳業務が看護婦の業務とされました。熊大当局はこともあろうに、そもそもリスクの高い看護業務の、それも最もリスクの高い誤薬事故の発生時間帯に、看護婦の業務をさらに増やしたのです。 本当に必要な「看護業務の整理」とは 熊大当局は看護補助者の大幅削減に際して、「業務の見直し」あるいは「業務整理」を口にしています。しかし実際には、深刻な看護補助者不足・医療技術職員不足を不問に付したまま、看護補助者の大幅削減によって、医療事故のリスクの高い看護業務をさらに複雑化・煩雑化させています。 私たちは、熊大病院に本当に必要な「業務の見直し」「業務整理」とは、看護業務の複雑・繁雑性を解消し、看護の現場にゆとりを回復することだと考えています。そこで、改めて熊大当局に問います。看護補助者の大幅削減は、医療事故の危機に瀕している看護業務の改善に資するのでしょうか。 |