No.34
2003.2.28
熊本大学教職員組合
Tel.:096-342-3529 FAX:096-346-1247
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「国立大学法人法案」が閣議決定!!
熊本大学教職員組合は反対声明を発表

  2月28日、政府は「国立大学法人法案」を閣議決定、国会に提出しました。しかし、法案の内容、提出の手続きとも到底認められないものです。私たちは、同日ただちに反対声明を発表し、県政記者会見室で記者会見を行いました。

恐ろしいまでの「管理」強化
  これまで私たちが指摘してきた問題点(『赤煉瓦』(No.25,28,29,33))が、まさに現実のものになろうとしています。今回提出された「国立大学法人法案」では、国立大学法人法案の概要(骨子素案)」(2003年1月)ですでに明らかになっていた多くの問題点(裏面参照)がそのまま残っているだけでなく、「教育研究評議会」の審議事項から教員研究組織に関する事項が削除されるなど、学長、理事などからなる「役員会」への権限集中が企図されているのです。例えば、「概要(骨子素案)」では文部科学省令で定めるとしていた学部及び研究科に関する項目自体が、法案では完全に消滅し、「当該国立大学、学部、学科その他の重要な組織の設置または廃止に関する事項」を審議するのは「役員会」の権限であると明記されています。これでは、学部や学科のみならず、大学自体の「廃止」までも一部の人間によって決定されることになります。

許されない文部科学省の隠蔽主義
  文科省は、文部科学省調査検討委員会「新しい『国立大学法人』像について(最終報告)」(2002年3月)をもとに法案準備作業を行うと公言しながら、国立大学協会法人化特別委員会法制化対応グループと秘密裏に作業を進めてきました。全国の国立大学の学長ですら、2003年1月31日付けで送付された文書(「法制化対応グループ」のレポートなど)を見るまで法案策定の状況、法案の概要を知らされないままでした。文科省は、2月10日の国立大学長会議で「概要」を説明し、その後政党には「国大協では賛成で意見の統一がはかられた」という趣旨の説明をしたと言われています。しかし、その時点では法案の内容に関して国大協では議論すら行われていなかったのです。
  文科省の隠蔽主義は、これにとどまりません。閣議決定以前に文科省が野党に法案を明らかにしたのは、2月27日の事務次官会議になってからのことです。つまり文科省は、与党にのみ説明を行い法案を閣議に提出したのです。

国大協は臨時総会開催を決定
  国大協執行部は、「法制化対応グループ」のレポートを2月20日の法人化特別委員会、24日の理事会で了承し、国大協としての見解をまとめた会長談話を発表するという方針をたてていました。しかし、15日までに提出された36大学からの意見書のうち24が批判的であり、24日の理事会でも異議が続出しため、執行部は、当初の方針変更を余儀なくされ、国大協臨時総会を後日開催し(開催日時は未定)国大協としての意思を決定せざるを得なくなりました。
  今まさに、大学を代表するすべての学長と私たち大学構成員の見識が問われているのです。

広がる反対運動とこれからの取り組み
  法案提出をめぐる動きが非公開で進められる中、『独立行政法人化反対首都圏ネットワーク』、『大学改革を考えるアピールの会』(呼びかけ人代表、池内了名古屋大学教授)、『「国立大学法人法案」に反対する大学教職員交流連絡会』(東大職組、千葉大教職組、東京外語大職組等が事務局を担当)などを中心にした情報の収集、法案への新たな反対運動が急速に動き出しています。「交流連絡会」は、2月24日「学長への訴え」連名要請文を提出するなど国大協理事会に要請行動を行い、2月27日には小泉首相、遠山文科大臣に対し「国立大学法人法案」関係6法案の閣議決定を行わないことを訴える要請文を36の組合・団体名の連名で提出しました。熊本大学教職員組合も「交流連絡会」に参加し、独自に制作した「国立大学法人法案」反対のポスターを、全国の教職員組合・団体に配布しています。
  閣議決定が行われた今、私たちは、法案の撤回・廃案を求める取り組みを強力に展開せねばなりません。
 


声明:「国立大学法人法案」に反対する

2003年2月28日
熊本大学教職員組合

  本日2月28日,2004年4月から国立大学を「国立大学法人」に移行するための法案——「国立大学法人法案」が閣議決定され,国会に提出された。今後,政府は4月に法案審議に入り,5月連休明け頃の可決を目指す予定であるという。熊本大学教職員組合は,国立大学の独立行政法人化の問題が顕在化して以来,3度にわたって反対声明を発表し,それが大学の教育研究の発展を阻害し,国民の高等教育に対する要求にも反するものとなる危険性を指摘してきた(1999年10月18日,2001年10月29日,2002年3月26日)。「国立大学法人法案」はこれまでの指摘が的確なものであったことを示す内容であり,われわれは「国立大学法人法案」に断固として反対し,法案の撤回を要求する。

「大学の自治」の崩壊
  文部科学省は,国立大学の独立行政法人化の準備作業にあたって,大学の特殊性を考慮した特例措置を盛り込み,「大学の自主性・自律性」を拡大した制度設計にすると繰り返し主張してきた。しかし,「国立大学法人法案」が示す制度設計には,大学の特殊性を考慮した規定がほとんど存在せず,全体の構成は独立行政法人通則法と何ら変わらないものとなっている。教職員の身分を「非公務員型」とすることを突如として盛り込んだ文部科学省調査検討会議「新しい『国立大学法人』像について(最終報告)」(2002年3月)が構想した制度設計も,教学と経営の分離,学外者の参画,学長権限の強大化などを打ち出し,「大学の自主性・自律性」を確保したものとは言えない内容であった。今回の「国立大学法人法案」はそれよりも大きく後退している。
  その主要な点を挙げれば,①設置主体を「国」から「国立大学法人」に変更したこと,②教学と経営を分離し,評議会の名称を「教育研究評議会」に変更して教学分野のみの審議機関として権限を縮小したこと,③経営分野の審議機関である経営協議会のメンバーを学外者が2分の1以上占めるものとし,経営協議会からの学長選考会議メンバーを学外者に限定するなど,学外者の権限を強化したこと,④学長が役員会・経営協議会・教育研究評議会の主宰者となり,学長の権限を過度に強化したこと,⑤学長解任の事由に「業績の悪化」が加えられ,政府・文部科学省・学外者が学長をコントロールする仕組みを強化したことなどである。こうした制度設計では,「大学の自主性が拡大する」ことはけっしてあり得ず,大学の運営が政府・文部科学省・財界の統制下に置かれることになるのは確実である。

国民負担の増大
  最も深刻なのは,「法人化」後も国を設置者とすることは国立大学協会が強く要望し,文部科学省自身も主張していたにもかかわらず,設置者を「国」から「国立大学法人」に変更した点である。これは,国立大学の経費負担の直接的責任を「国立大学法人」に転嫁し,国が経費負担を回避することを可能にしたものであり,その結果,授業料の急激な高騰,ひいては「民営化」への途をひらくものになりかねない。事実,授業料は2004年度から上限を設定したうえで大学・学部ごとに決める方向で議論が進んでおり,複数の大学の試算では現行約52万円の授業料が一挙に平均約70万円(医歯学系は140万円近く)になるとも言われている。
  また,全体の構成が独立行政法人通則法と変わらない「国立大学法人法案」では,大学の再編統合・改廃も各大学の「中期計画」に記載することで容易に行なうことが可能であり,国立大学が消失する地方自治体が生じてしまう危険性がある。授業料の急激な高騰やある地域からの国立大学の消失が現実化すれば,明らかに低所得者層や地方居住者から高等教育を受ける権利を奪うことになる。

非民主的な法案提出
  いま,国立大学の「法人化」を含む「大学の構造改革の方針」(2001年6月11日)の見直しを求める世論は全国で拡大している。全国大学高専教職員組合が取り組んだ「大学の構造改革の方針」の見直しを求める国会請願署名の賛同者は23万名を越え,教員養成系大学・学部の大幅な再編統合計画には全国各地で反対の声があがり,北海道釧路市・高知県では約10万名,山形県・群馬県では約20万名もの反対署名が集まっている。「国立大学法人法案」の国会提出は,こうした世論に耳を傾けることなく,政府が強行したものである(全国大学高専教職員組合が取り組んだ国会請願署名は,昨年12月の臨時国会に21万筆分提出されたが,与党が保留したため,不採択となった)。
  また,文部科学省は「国立大学法人法案」の国会提出にあたって“国立大学協会では長い間,法人化について真っ二つに意見が分かれていたが,賛成で意見の統一が図られたために法案を提出する”といった趣旨で政党に説明したという。しかし,それはまったくの虚言である。国立大学協会では,「国立大学法人法案」の全容をあくまで法人化特別委員会と理事会内に止め,総会での検討により総意を問う手続きを欠いたまま(36大学から意見書が提出され,2月24日の理事会で臨時総会を開催することになったが,開催日は未定),法案の国会提出に至っている。「国立大学法人法案」は,社会への公開どころか,大学関係者による十分な検討さえ欠いたまま,いわば世論と大学関係者による批判をかわすべく秘密裏に国会に提出された代物にほかならない。

  そもそも「国立大学法人法案」は,文部科学大臣自らも“不安な点,不明な点も多々ございます”と述べざるを得なかった(2003年2月10日「国立大学長・大学共同利用機関長等会議における文部科学大臣挨拶」)ほどに問題点が多いものである。熊本大学教職員組合は,こうした「国立大学法人法案」を大学構成員の責任として断じて認めることはできない。われわれは,日本国民・人類の福利に貢献できる大学の創造にひきつづき鋭意努めるとともに,「国立大学法人法案」の危険性を広く国民に示し,全国の大学・教育・学術・文化・医療関係者等と共同して「国立大学法人法案」の撤回・廃案を求めて運動していくことを表明する。


 

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