No.6
2004.8.10
熊本大学教職員組合
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一変した!! 労基法第14条適用による任期制導入の根拠
——外国人教師処遇問題をめぐって(5)——

7月1日,学長から回答文書届く
 『赤煉瓦』№2(2004.6.25)では,現職外国人教師の退職後のポストを労働基準法第14条・「国立大学法人熊本大学雇用規則」第7条適用の任期付き教員とする根拠として熊本大学当局が挙げる「大学の教員等の任期に関する法律」(以下,「大学教員任期制法」と略す)の解釈——“「大学教員任期制法」第4条第1項1号に基づく任期制導入は,多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織を単位に行なうものであり,特定の職=ポストごとに行なうことはできない。「大学教員任期制法」・「雇用規則」第8条が適用できないために,労基法第14条・「雇用規則」第7条を適用する。これは文部科学省・厚生労働省にも確認済みである”という見解——を2003年度の学長交渉(2004年3月29日)で追及したところ熊大当局は回答不能に陥ったこと,また文部科学省に問い合わせをした者・文部科学省の回答者・文部科学省の回答内容を文書で回答すると確約したにもかかわらず,交渉後3ヶ月近く経っても約束した内容の回答は届いていないことなどをお伝えしました。
 我われ熊本大学教職員組合は,『赤煉瓦』№2の主張に基づき,①「3月29日の学長交渉において,大学当局が確約した事項について,一刻も早く文書による回答を行うこと」,②「前項の要望を受け入れないのであれば,誤った法解釈に基づいて評議会決定を行った責任を明確にした上で,2月26日の評議会決定を早急に見直すこと」を求める要望書を6月28日に学長へ提出しました。すると,7月1日に学長から回答文書が届きました。要望書に迅速に対応された学長,ならびに人事課の方々に感謝します。
 とはいえ,7月1日の回答文書の内容は非常に問題があるものです。ここでは,7月1日の回答の問題点をお伝えします。

回答の内容
 学長から届いた回答文書は,「平成16年6月30日 総務部人事課作成」と奥付があり,我われの要望①・②ごとに回答が記されています。その全文は次の通りです。
一 3月29日の学長交渉において、大学当局が確約した事項について、一刻も早く文書による回答を行うこと。
(答)
 3月29日に行われた交渉の場で、組合から質問のあったことについて、当時の担当者は、任期制について文部科学省に照会した内容について、文書で回答するものと理解していたため、4月12日付け、文部科学省に照会した内容を文書で回答したもので、その要点は以下のとおりです。
ア 任期法を適用するためには、①多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職、②自ら研究目標を定めて行う助手、③大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職のいずれかに該当する必要がある。
イ 大学教員に任期を付す場合、任期法によるか労基法によるかは大学の判断である。
 そもそも任期制の導入に当たって、当該職が、上記の3条件に照らして、3条件のいずれかに該当するかどうかを検討し、該当するのであれば、その教育研究組織(全部又は一部)の職に任期制を適用することができるものです。外国人教師については、上記の3条件のいずれにも該当しないと判断されたことから、外国人教師のポストを指定して任期法を適用することはできないと回答したものです。結果として、論点が、組織かポストかに終始してしまったことについては、残念に思います。
一 前項の要望を受け入れないのであれば、誤った法解釈に基づいて評議会決定を行った責任を明確にした上で、2月26日の評議会決定を早急に見直すこと。
(答)
 法解釈を誤ったわけではないので、2月26日の評議会決定を見直す考えはありません。
(下線は引用者)
 要望の①については,学長交渉の際に確約した内容とは異なる回答を4月12日に届けたのは当時の担当者=前人事課長の誤解によるものとしたうえで,現職外国人教師の退職後のポストに「大学教員任期制法」を適用しない根拠を示しています(それゆえ,学長交渉の際に回答を確約した質問には今回も答えていません。また約束を履行できないことに対する謝罪もありません)。根拠とは,「大学教員任期制法」に基づく任期制は3条件に適合するかどうかを検討して教育研究組織の特定の職=ポストごとに導入できるものであるが,現職外国人教師の退職後のポストは3条件に該当しないと判断したために,「大学教員任期制法」を適用しないというものです。
 要望の②については,「大学教員任期制法」を誤って解釈したのではないため,2月26日の評議会決定=現職外国人教師の退職後のポストを労基法第14条・「雇用規則」第7条適用の任期制とする決定を見直す考えはないと言います。

一変した熊大当局の「大学教員任期制法」解釈
 7月1日の回答文書で示された「大学教員任期制法」の解釈は,確かに誤ったものではありません。我われの解釈と同様です。しかし,回答文書の記述は,さも熊大当局が一貫して同じ法解釈をしていたかのような印象を与えますが,それは以前の法解釈を一変させたものに他なりません。7月1日の回答文書は「結果として、論点が、組織かポストかに終始してしまったことについては、残念に思います」と述べますが,その原因は,「大学教員任期制法」に基づく任期制導入は特定の職=ポストを指定して行なうことができないという解釈を熊大当局が労基法第14条適用の任期制とする根拠として挙げ続けてきたことにあります。事実を確認しましょう。
 『赤煉瓦』№42(2004.3.4)でお伝えした通り,“「大学教員任期制法」に基づく任期制導入は教育研究組織を単位に行なうものであり,特定の職=ポストごとに行なうことはできない,それゆえ,現職外国人教師の退職後のポストは労基法第14条適用の任期制とする”という見解は,2003年度限りで外国人教師2名が退職し,後任人事を進める必要のある学部(以下,A学部と記す)からの問い合わせに対して,前人事課長が示したものです。また,この見解は2月26日の評議会の場でも学長から示されました。
 このことは,2004年3月20日のA学部教授会報告資料「外国人教師の取り扱いに関する組織委員会報告」の一節に明記されています。
  1.平成16年度2月26日第13回評議会決定について
(中 略)
  A学部評議員の質問は次の通り。
  • 事務当局は,A学部からの問い合わせに対して,任期法が適用できるかどうかは,当該教員が組織化されているかどうかの一点にかかっている,本学の外国人教師は各学部に分属しており,こうした個別ポストには任期法は適用できない,と回答している。しかし,逆に,任期法は個別の教員ポストを対象にしているとの見方もあるし,当時の文部省もそうした旨の公式回答を示している。改めてお聞きするが,任期法は組織(教育研究組織)を対象にしたもので,個別ポストを対象としたものではないのか。
学長の見解は次の通り。
  • 外国人教師には大学教員任期法は適用しない。
  • 事務としても,文部科学省・厚生労働省とも打ち合わせたうえで,いま大学がとっている,任期法はポストではなく,組織を対象としている,との考えは,国の基本的な考え方である(との認識に立っている)。
    (学部名については引用者が「A学部」と改めた)
 7月1日の回答文書の立場からすれば,A学部の評議員は学部に誤って報告したか,虚偽の報告をしたかのいずれかになります。しかし,それは断じてあり得ないことです。なぜなら,「大学教員任期制法」に基づく任期制は教育研究組織を単位に導入するものという解釈は,3月5日開催の黒髪事業場の「就業規則に関する説明会」でも前人事課長から示されたからです(『赤煉瓦』№44,2004.3.8,参照)。そして何よりも,熊大当局がそうした解釈をしていなかったならば,3月29日の学長交渉の場で追及を受けて回答不能の状態に陥ることはなかったはずだからです。

一体いつ・どこで・誰が「判断」したのか?——「判断」の事実はない!?
 7月1日の回答文書によって,現職外国人教師の退職後のポストを労基法第14条・「雇用規則」第7条適用の任期制とする根拠を熊大当局は,①外国人教師という特殊な職務を継承するため(2004年1月28日A学部教授会からの問い合わせに対する人事課の回答),②「大学教員任期制法」に基づく任期制導入は特定の職=ポストごとにはできない(A学部からの問い合わせに対する人事課長の回答,2月26日評議会における学長の発言),③「大学教員任期制法」に基づく任期制の条件には該当しないと判断したため(7月1日の回答文書),と三転させたことになります。
 ともあれ,熊大当局はやっと我われと同じ土俵の上に立つ(「大学教員任期制法」を我われと同じく解釈した)ことができました。では,7月1日の回答文書は現職外国人教師の退職後のポストは「大学教員任期制法」の3条件に該当しないと判断したと言いますが,一体いつ・どこで・誰が判断したのでしょうか。
 この問題が浮上した2003年12月26日の評議会の場では,適用する法律などは一切説明されていませんでした(『赤煉瓦』№36,2004.2.16,参照)。また,2004年2月26日の評議会では,先に引用したA学部の教授会報告資料にあるやりとりがなされたのですから,「大学教員任期制法」の3条件に該当するかどうかの検討は一切行なわれていません。もちろん,後任人事を進める必要のあるA学部の教授会でも,そうした検討はなされていません。7月1日の回答文書がいう「判断」をいつ・どこで・誰が行なったのか,まったく不明です。少なくとも,現職外国人教師の退職後のポストを労基法第14条・「雇用規則」第7条適用の任期制とすることを決定した2月26日の評議会で回答文書がいう「判断」を行なっていないことだけは間違いありません。
 熊大当局は,嘘を重ねることはもう止めるべきです。労基法第14条・「雇用規則」第7条適用の根拠を三転させたこと,2月26日の評議会では「大学教員任期制法」に基づく任期制の条件に適合するかどうかの判断がなされていないことからすれば,前人事課長が「大学教員任期制法」を誤って解釈したために,「大学教員任期制法」に基づく任期制に該当するかどうかの検討を行なうことなく,労基法第14条・「雇用規則」第7条適用の任期制とすることを恣意的に決定したというのが,事の真相ではないでしょうか。熊大当局は,誤りは誤りと認め,学問の府にふさわしく事実と論理に基づいて問題を解決すべきです。

あらためて2月26日の評議会決定の見直しを要求する!!
 以上のように,7月1日の回答文書がいう「判断」をしたことを根拠とするならば,2月26日の評議会の決定には審議に重大な瑕疵があった(評議会の審議過程で「判断」は行なわれていない)ことになります。このような決定は無効とされて当然です。
 審議の不備はこれだけに止まりません。外国人教師のポストは,学長の全学的な管理に置かれているとはいえ,運用は配置される部局に任せられており,業務内容の細部も部局と本人との協議に任せられています。そうしたポストを任期制とするかどうかは,配置される部局の意志が踏まえられるべきです。また,労基法第14条・「雇用規則」第7条適用とするか,「大学教員任期制法」・「雇用規則」第8条適用とするかは部局で判断することが,学長交渉でも確認されています。現職外国人教師の退職後のポストを労基法第14条・「雇用規則」第7条適用の任期制とする問題にあたっては,これらの本来必要な審議手続きをすべて欠いたまま決定に至っているのです。
 審議に重大な不備がある以上,我われ熊大教職員組合は,早急に2月26日の評議会決定を見直し,本来のあるべき手続きで審議し直すことを,あらためて学長に要求します。

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