2007.4.4 |
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「助教」問題・任期制問題の現状と課題 ——「助教」問題でも不誠実な体質を露呈した熊大使用者 新たに11の「助教」ポストで任期制を導入—— |
ここでは,「基本方針」,「説明会」,団体交渉等を通じて明らかになった「助教」問題と任期制問題の現状と課題についてお伝えします。 まず,これまで組合が問題点を指摘して要望を出していた主な事項ごとに整理して現状を確認しましょう。 (1)「助教」の職務内容 「基本方針」は,「助教」の職務内容について「大学全体としての統一基準は設けないが,基準を定めるに当たって部局は現在の職務負担との均衡に十分留意する。すなわち,教養教育の担当,入試問題の作成,委員会への参加については,現状維持を原則とし,授業担当時間数も含めて全体として助教の負担増とならないよう十分配慮する」と記しています。 組合は,現助手から「助教」への移行に際して負担増とならないよう,大学全体としての最低限の基準を設定したうえで各部局の多様性を認めることを要望していましたが,それは受け入れられませんでした。2月20日の「説明会」で森人事・労務担当理事は,その理由を"全学共通の負担の上限を設けると,逆に負担が増える恐れがあると判断したため"と説明するとともに,今回の見直しの趣旨は若手研究者の養成にあり,職務全体として「助教」の負担増とならないようにすることを強調しました。とはいえ,各部局が設定する「助教」の職務内容に不安を拭えないようで,「基本方針」の趣旨に則った運用が各部局でなされているかどうか,企画会議企画運営委員会教員人事委員会において検証することも強調しました。 (2)「助教」の処遇 「基本方針」は,「助教」の処遇を「現在の助手の処遇をそのまま適用するものとする。なお,新たに大学院の指導を担当することによる手当てについては,本学の給与規定の定めに基づき支給するものとする」と記しています。つまりは,従来の助手と同じく教育職(一)2級を基本給にするとしています。組合は,従来の「助手」よりも職務と責任が増す以上,教育職(一)3級を適用すること,それが無理であれば大学院教育負担の有無にかかわらず何らかの手当を支給することを求めていましたが,熊大使用者はこの要求をまったく受け入れませんでした。 2月20日の「説明会」で森理事は,「助教」を従来の助手と同等の給与で処遇することについて,"心苦しい","一時は3級での処遇,もしくは2.5級での処遇も検討したが,従来通りとするのが全国的趨勢であるので,このようにした"と説明しました。 (3)「助教」・新「助手」の任期制 「基本方針」は,「助教」ポストの任期制に関して,「平成19年4月1日以降新たに採用する助教ポストについては,優秀な若手研究者を養成・確保する観点から,各教育研究分野の特色を考慮した任期制ポストとして活用することを原則とするが,その判断については部局に委ねるものとする」(下線は引用者)と記しています。この記述の意味について,森理事は"2007年4月1日以降採用の「助教」ポストに任期制を導入するか否かは,学問研究の特性に応じて部局で判断するという意味であり,「その判断については部局に委ねるものとする」の記述にこそ意味がある"と公言してきました(12月19日の団体交渉)。そうであるならば,下線部の記述を「任期制ポストとして活用することが望ましい」ぐらいに改めるべきというのが組合の主張です。しかし,文言の修正は行なわれませんでした。 2月20日の「説明会」で森理事は,文言を修正しなかった理由を"文系・理系で様々な意見がある中で最大公約数を表現するとこのようになる"と説明するとともに,上の記述の意味は"各部局が任期制によって教育研究の活性化が図られると判断したならば任期制を活用するということ"と改めて説明しました。 また「基本方針」は,新「助手」の任期制について,「新助手については,その職務内容に鑑み,任期制を導入しないものとする」と記しています。これまで組合は,職務内容に照らして新「助手」の任期制は不適切であり,新「助手」は任期制の対象外とすることを求めてきました。この点については,組合の要求を受け入れたようです。 (4)「助教」の研究条件 上述のように,熊大使用者は,現助手から「助教」の移行に際して,「助教」の負担増とならないように職務内容を設定することを強調しました。そのほか,2月20日の「説明会」では「助教」の研究条件に関連するものして,若手研究者養成の観点から「助教」の研究費として年間10万円を支給すること(新「助手」には研究費は配分されません),任期付の「助教」にはさらに年間40万円の研究費を支給すること(新たに任期付で採用される「助教」は,通常の研究費10万円+40万円の計50万円が年間の研究費となります)が説明されました。任期付「助教」への特別の研究費40万円は,2007年度については10ポスト分(400万円)準備されていますが,何年間に亙って支給されるかは未定とのことです(2月20日の「説明会」での森理事の説明)。 組合は,2007年4月1日以降採用の「助教」ポストに任期制を導入する場合には,「助教」が自らの研究に従事できる研究条件(従来の研究専念型助手と同等の研究条件が理想)を整備することを求めていました。この要求が「基本方針」に明記されることはありませんでしたが,任期付「助教」への特別の研究費支給が示すように,熊大使用者も任期付「助教」の研究条件整備に配慮する姿勢を見せています。ただし,任期付「助教」の特別の研究費支給は研究条件整備として手放しで評価できるものではありません。大学内部における任期制導入の予算誘導策と化してしまう危険性があるからです。奇しくも,任期付「助教」に支給する特別の研究費の40万円という額は,「大学の教員等の任期に関する法律」の成立当初(1997年度),"任期制導入を財政誘導しないと明言したにもかかわらず,まさに財政誘導策ではないか"と政府・文部省が批判を浴びた「若手研究者支援経費」(任期付で任用された40歳未満の助手に対して2年間に亙って配分する年間40万円の研究費)の額とまったく同額です。2月20日の「説明会」でこの点について指摘を受けると,森理事は"「任期制法」を研究してきたが,「若手研究者支援経費」のことは知らなかった。悔しい想いである"と答えるしかありませんでした。 各部局長は組合に対する説明の機会を設けてください そのほか,組合は「助教」の資格基準,各部局における任期制導入の可否の検討について次のことを要望してきました。
熊大使用者は「助教」問題でも不誠実な体質を露呈!! 組合は,「助教」の処遇問題を2007年度給与改定の重要課題の一つとして位置づけ,一貫してこの間の団体交渉で取り上げてきました。大学院教育の担当の有無にかかわらず「助教」には何らかの手当を支給すべきという組合の要求を受けて,12月19日の団体交渉で森理事は"結論はどうなるか不明であるが,「助教」が学部の授業を担当する場合の手当の支給が可能かどうか,年度内にシミュレーションを行ない検討する"と明言しました。しかし,その後「助教」の学部授業担当への手当支給のシミュレーションは行なっていないそうです。その理由は,2007年度の授業計画が未定であり,「助教」の学部授業担当の全容がつかめないためと言います(2月20日の「説明会」,2月23日の団体交渉での森理事の発言)。組合は,2月23日の団体交渉で"来年度のシラバス入力がすでに済んでいるのであるから,各部局に問い合わせれば来年度の授業担当予定を知ることは可能である"と指摘しましたが,3月8日の団体交渉で熊大使用者は"組合が言うように,各部局に問い合わせたが,授業計画がまだ決まっていない部局があるため,シミュレーションはできない"と部局に責任を転嫁する形でシミュレーションを行なわないことの正当化を図りました。 また,12月6日の団体交渉での"「助教」の処遇は単独の大学だけでは難しい問題であるが,独自の努力をする大学の一つになっていきたい。他大学の工夫の情報があれば,組合からも情報を提供してほしい"という森理事の発言を受けて,12月19日の団体交渉で組合は「助教」の処遇を模索している幾つかの大学の情報を提供しました。2月23日の団体交渉では,岩手大学は学部教育の授業のみを担当する「助教」にも授業担当の手当を支給することを決定したという情報を提供しました。しかし,『赤煉瓦』№39(2007.3.26)でお伝えしたように,森理事は岩手大学の事例を失念しており,岩手大学に関する調査も行なわず,さらには学長に伝えることすらしないまま,全国的趨勢であることを理由に「助教」の処遇は従来の助手と同等のままにすると言います(3月20日の団体交渉での発言)。 このように,自ら発言したことをまったく実践していないのですから,熊大使用者の体質は「二枚舌」も甚だしいと言われても仕方ないのではないでしょうか。 熊大使用者の不誠実ぶりは,これだけに止まりません。2月23日 の団体交渉で,組合は"2004年4月1日以降採用の「助教」に任期制導入を決めた部局はどこか"を尋ねたところ,熊大使用者側は"まだ最終的な決定を行なっていない部局があるため現時点では公表できない"と回答しました。組合は"全容が分かり次第,組合に教えてほしい"と要望しました。しかし,熊大使用者から組合への情報提供が行なわれたのは,「国立大学法人熊本大学教員の任期に関する規則」が改正されたという情報を組合が得て,組合が人事課に資料提供を依頼してからのこと(3月28日)でした。「良好な労使関係の構築」を口にしながらも,熊大使用者に本気でその気があるのかどうかは,非常に疑わしいと言わざるを得ません。 新たに11の「助教」ポストで任期制導入を決定 ともあれ,3月22日の教育研究評議会の審議を経て,3月26日の役員会で改正された「国立大学法人熊本大学教員の任期に関する規則」によって,2007年4月1日以降に任期制が導入されることになった「助教」ポストの概要が窺えます。 2007年4月1日以降に任期制が導入されることになった「助教」ポストは,大学院自然科学研究科の次に示す8ポスト,薬学部の1ポストと総合情報基盤センターの2ポストのようです。 上に「……ようです」と記したのは,薬学部と総合情報基盤センターについては「規則」に専攻・講座や部門が明記されておらず,現在の助手ポストの数から類推するしかないためです。念のため確認すれば,上の大学院自然科学研究科の8ポスト,薬学部の1ポスト,総合情報基盤センターの2ポスト,計11の「助教」ポストすべてが2007年4月1日から任期制となるのではありません。それは,この「規則」の附則の3が「改正後の別表中、薬学部、大学院自然科学研究科及び総合情報基盤センターに係る規定は、この施行前に選考を終了した者及び選考手続きが進行中の者については、適用しない」と規定しているからです。つまりは,上記の「助教」ポストで2007年4月1日以降に欠員が出て新たな採用が行なわれる時点で任期制が導入されることになります(したがって,上記のポストの現職の方に任期制は適用されません)。 熊大における任期制の問題点——無際限に再任を可能とする任期制—— 新たに任期制が導入されることになった11の「助教」ポストの任期制は,大学院自然科研究科の産業創造工学専攻先端機械システム講座・機械知能システム講座と情報電気電子工学専攻先端情報通信工学講座・機能創成エネルギー講座・人間環境情報講座の5つのポストの任期制(任期5年,再採用は2回までとするもの)を除いて,大きな問題をかかえています。それは,エイズ学研究センター,発生医学研究センター,政策創造研究教育センター,環境安全センター,五高記念館,eラーニング推進機構における従来からの任期制についても同様です。 その大きな問題とは,再任に関する規定が「再採用可」とのみ記されており,再任の上限が設定されていない点です。この「再採用可」という規定は,"再任は1回限りとする"という意味のものでは決してありません。これは"定年まで無際限に再任を可能とするものである"と熊大使用者は再三説明してきました(2月20日の「説明会」でも,森理事はこれを「果てしなく続く任期制」と称しました)。このことは意外と学内において周知されていないようです。それもそのはずです。この規定に基づいて任期付で採用された本人に対しても,「再採用可」とは"定年まで無際限に再任を可能とするものである"と明確に説明されていない場合さえあるのですから。 再任回数に上限を設けず"定年まで無際限に再任を可能とする"というのは,任期制のデメリットを回避しようとする意図からなのかもしれません。しかし,無際限に再任を重ねれば,何を目的とした任期制なのか,任期制導入の意味が分からなくなってしまい(「任期制法」制定の趣旨である教員の流動化はまったく果たされなくなります),いたずらに任期付の教育研究者を解雇の不安(再任審査に合格しなければ解雇される不安)状態に置きつづけることになります。したがって,文部省も「大学の教員等の任期に関する法律」の国会審議において,「再任を余り繰り返すことによって結果的に何のための任期制かわからなくなるというような事態は、やはり適切ではない……、おのずと限度があろうかなというように考えておるわけでございます」(1997年5月16日,衆議院文教委員会)と答えており,文部省高等教育局「大学の教員等の任期に関する法律Q&A」(『大学資料』№134,1997年10月)では,無際限に再任を繰り返すことは不適切であると次のように明確に記しています。
(下線は引用者) 問題点を自覚しながらも放置して拡大した熊大使用者"定年まで無際限に再任を可能とする"任期制について,組合は「大学の教員等の任期に関する法律」の趣旨,文部科学省の公式見解にも反し,何のための任期制か分からなくなっているのであるから,任期を外すべきことを要求しています。 熊大使用者も組合からの指摘によって問題があることを理解しているようです。2月20日の「説明会」で森理事は,従来からの任期制を「果てしなく続く任期制」と称し,これは「任期制の趣旨に反する」と公言しました。しかし,「全国的にはそうした任期制が多い」(「説明会」での森理事の発言)ことを理由に放置し,今回の規則改正によって大学院自然科学研究科の3つの「助教」ポスト,薬学部の1つの「助教」ポスト,総合情報基盤センターの2つの「助教」ポストに問題のある制度を拡大しました。 給与問題に限らず,問題点を認識しながらも,全国横並びだけを判断基準として,教職員を冷遇する熊大使用者の姿勢には,ホトホト呆れるばかりです。 熊大使用者に自らの体質の反省と改善を求める!! 「大学の教員等の任期に関する法律」の趣旨,また本学の制度設計にも反する内容であった2006年9月15日の企画会議教員組織検討ワーキンググループ「学校教育法等の改正に伴う検討(中間まとめ)」と比べれば,「助教」問題・任期制問題は大きく改善されました。それは,学内意見聴取に際しての学内構成員の知恵と力や組合の運動の成果にほかならないはずです。学内構成員の知恵と力がなかったならば,どのような事態に至ったと熊大使用者は考えているのでしょうか。2008年度からの教育研究評議会の縮小の企てが象徴するように,熊大使用者は学内審議をこれまで以上に軽視する傾向にあるかに見えます。熊大使用者は,今回の事態を真摯に受け止め,自らの体質を反省して改めるべきです。卒業式で学生に対して「誠実な努力」の重要性を説いたという﨑元学長であれば,当然理解できるはずです。 ともあれ,以上のように,当初の構想よりも随分改善されたとはいえ,「助教」問題・任期制問題についても,課題は山積みしています。熊大教職員組合は課題解決に向けてひきつづき粘り強く運動していきます。「基本方針」から乖離した「助教」の実態があれば,直ちに団体交渉等を通じて問題を解決したいと考えています。「基本方針」に反した「助教」の実態を目にした場合は,是非とも組合へご一報ください。 |