熊本大学教職員組合が4月2日に設置した立看板及び抗議声明ビラについて、使用者側が就業規則と労働協約の条文を口実にして撤去を要求し、組合がそれを拒否したこと、使用者側の撤去要求には正当な理由が認められないことについては、『赤煉瓦』№41(2007年4月9日)でお伝えしました。
森人事・労務担当理事は、4月3日付で各部局長に「熊本大学教職員組合設置の立看板等について(連絡)」なる文書を送付し、「平成19年度給与改定に関し、組合と4回に亘って団体交渉を行ってきました。この団体交渉は、関係法令及び労使協約(ママ)に基づき誠実に行われたものであり、不当労働行為に当たる行為は一切存在しません」と主張し、詳細を4月12日の部局長等連絡調整会議にて説明すると連絡しました。
そして12日の当該会議においては、「熊本大学教職員組合設置の立看板等について(説明要旨)」(平成19年4月12日 部局長等連絡調整会議 資料5)なる文書を出席者に示して、組合の主張3点について、考えを表明しました。すでに3月以来、組合が『赤煉瓦』№36、37、39、41の各号及び3月26日付の抗議声明文で示してきた主張に対する反論としては、いずれも極めて不充分なものです。以下、1点ごとに批判点を確認しましょう(以下、枠内が人事・労務担当理事の文書)。
1) |
「給与構造の見直しによる賃金引下げで生じる余剰金を財源とする勤勉手当の総枠の拡大」について |
国立大学法人も国家公務員の給与水準を踏まえた適正な給与水準とするよう要請があることから、国家公務員の基準を上回る勤勉手当の総枠の拡大は困難であると考えております。
また、教職員組合が主張する余剰金については、平成18年度に新たに導入した入試手当や特定有期雇用職員への支給実績、さらには超過勤務手当や入試業務等に伴う休日給の支給実績等を調査分析する必要があります。 |
この文章の前段に「国立大学法人も国家公務員の給与水準を踏まえた適正な給与水準とするよう要請がある」とあるのは、給与交渉で使用者側が事あるごとに持ち出す「公務員の給与改定に関する取り扱いについて」の閣議決定を指します。しかし、この文章にもあるように、閣議決定の要請は「国家公務員の給与水準を踏まえた適正な給与水準」ですから、法人化後は国家公務員と完全に同一でなければならないという訳ではなく、組合が昨年5月に基本給切り下げで生じる余剰金を数的根拠として要求した勤勉手当0.025月アップ、それに準じた勤勉手当総枠の拡大などを排除する理由にはなりません。
勤勉手当拡大による不利益緩和は、賃金引下げによって生じた余剰金の額を基礎資料としてしか交渉できません。後段の文章にあげられている諸手当の支給実績は、交渉のために組合が求めた余剰金額とは関係なく、余剰金額を開示しない理由にはなりません。
教員、職員とも、優秀な人材確保のため広域での人事交流は必要であり、円滑な人事交流のための条件整備として、他の国立大学と同様に広域異動手当を導入する必要があると判断しています。
なお、教職員組合は、広域異動手当が「一部の役職員のみを対象」としていると主張していますが、全支給対象者のうち役員及び文部科学省出身の管理職が占める割合は約8%と少数であります。 |
優秀な人材をひろく確保することが法人化された本学の生命線なのは明らかです。しかし広域異動手当は、国家公務員制度の焼き移しであるために支給対象者がごく一部に限られ、そのうえ、単に異動距離によって手当額を決めるもので、法人となってひろく人材を求めることが可能となった本学にとっては、まったく不合理な制度であり、より良い制度を策定すべきだというのが組合の主張です。この文章でも、60kmの異動がどういう理由で手当3%に相当し、300kmの異動が6%に相当するのか合理的根拠を示せていません。しかも、組合は広域異動手当の支給対象者が「人事交流職員」、すなわち国立大学法人や国の機関からの異動者に限定されるという差別性を問題にしているのに、この文章は、「支給対象者のうち役員及び文部科学省出身の管理職が占める割合」に問題をすり替えています。そうではなくて、そもそもの「支給対象者」がごく一部の「人事交流職員」に限られ、私立大学・公立大学・民間から来た人材が支給対象者から完全に排除されることが問題なのです。使用者側の意図的な論点ズラシか、この制度の重大な欠陥に無自覚であるかのどちらかでしょう。
学長から権限の委任を受けた私(人事・労務担当理事)が、使用者側の代表として、4回に亘って教職員組合との団体交渉に当たっており、そこでは、提示可能な資料・データは開示し、誠実に交渉を行いました。
また、教職員組合の要望に対して、学長から文書による回答を行っております。
従って、組合が主張する「不当労働行為」はなかったと考えております。 |
この文章は、「学長から権限の委任を受けた」森人事・労務担当理事が、団体交渉に4回臨んだことなどをもって、不当労働行為には当たらないと主張しています。しかし、すでに『赤煉瓦』№39(2007年3月26日)でもお伝えしたように、3月20日の団体交渉において、組合が森理事に「学長からの権限委任」の具体的内容について質した際、理事は団体交渉事項に関する決定権を委任されているわけではないことを、みずから認めていました。
つまり使用者側は、団体交渉事項に関する決定権を持たない理事が団体交渉を担当し、賃金交渉の基礎資料の提示も拒絶し続け、組合の根拠ある勤勉手当アップ要求を10ヶ月間も放置した挙句に一片の文書でもって交渉を打ち切ろうとし、結果として2006年4月から一般教職員が被っている労働条件上の甚大な不利益を放置したまま、役員やごく一部の役職員=人事交流職員だけをますます厚遇する異動保障制度を導入する役員会決定を行いました。
実際上交渉権限のない者が「社長に伝えておく」などとして交渉を進展させない、形ばかりの交渉態度や、賃上げ交渉に際して決定権限のない者を交渉担当者としゼロ回答することは不誠実な団体交渉とされています(1980年12月大阪特殊精密工業事件での大阪地裁判決など)。熊本大学使用者の交渉態度は明らかに誠実交渉義務違反=不当労働行為にあたります。
部局長等に配布されたこの文書からは、法人化後も国家公務員の制度の枠内にみずから居直り、寸分たりとも独自性を追究する姿勢を見せず、一般教職員の処遇をどう改善するかについては思考停止した使用者の姿が浮かんできます。
組合は熊大使用者に対して、誠実な——つまり事実と論理に基づいた——発言を行うことを、強く求めます。
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