2008.4.1 |
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団体交渉報告と 任期制問題の課題 |
さる2月29日に五高記念館准教授の任期制問題について団体交渉を行ないました。2006年6月28日に団体交渉を申し入れて以来,熊本県労働委員会のあっせん,労使協議を経て,計1年7ヶ月もかかって実現した交渉です(これまでの経緯については,2006年度『赤煉瓦』№7,№18,№28,№35をご覧ください)。ここでは,その団体交渉の概要と他の任期制問題の現状についてお伝えします。 2月29日,団体交渉の概要 交渉に先立ち,今回の団体交渉の使用者側の出席者には「学内共同教育研究施設等の人事等に関する委員会(五高記念館)」(以下,「人事委員会」と略す)の構成員が五高記念館館長1人しかいないことを確認し,組合はこの問題に関する次回以降の交渉には「人事委員会」の長である学長も出席することを要望しました。 さて,団体交渉の事項は「『五高記念館』准教授の労働条件について」ですが,その論点は3つに大別できます。主要な論点ごとに区分して概要をお伝えします。 【論点① 再任審査の基準について】 まず使用者と組合双方から,五高記念館准教授の具体的な業務は五高記念館の企画・運営(本学の歴史的遺産・資料整備と研究を含む),博物館相当施設化への準備,学芸員教育課程の教育(授業3コマ,実習2つ)と企画・運営,組織評価関係などであり,2008年度以降はこれに大学院の授業2コマが加わることを確認しました。これをふまえて組合は"実質的な任期である3年半(再任審査のための業績評価資料の提出期限は任期5年満了の1年6ヶ月前)の間,五高記念館准教授の業務のほとんどは五高記念館の企画・運営,博物館相当施設化の準備,学芸員教育課程と大学院の教育となり,自分の専門研究は自制せざるを得ない状態であるため,業績評価の評価項目のうち,業務実態に合うように企画・運営,教育活動を優先し,両者に問題がなれば再任を認めるようにすること"を要望しました。 これに対して使用者は,"業績評価の項目に優先順位はないが,研究成果だけでなくトータルに評価する"と回答しました。つづいて組合は"五高記念館准教授の業務実態に合った評価をしてほしい。「人事委員会」において五高記念館館長と同じ共通理解を確立してほしい。館長が任期を終える場合も,申し送りして共通理解を得てほしい"と要望し,使用者は"業務実態を「人事委員会」に伝えるのは館長の仕事と認識している。企画・運営業務を正当に評価してもらわないといけないので力説する。きちんと申し送りもする"と回答しました。 さらに組合は"業績評価委員会の「その他学長が認めた者 若干人」には,五高記念館准教授と同じ専門分野の教員と学芸員教育課程の教員を必ず入れること"を要望し,使用者は"業績評価を行なうためには然るべき対応をするので,期待していいと思う"と答えました。 【論点② 研究条件について】 組合から"五高記念館は専任教員が1人の職場であるため,准教授の研究費は基準額の312,700円しかない。2008年度は30万円を切ってしまう。これでは准教授の専門研究を行なうのは非常に難しい。科学研究費を申請すればよいと言われても,先に確認した業務実態であるから,企画・運営や教育業務に支障をきたす恐れさえある。また,学芸員教育課程の予算が全学的に十分に措置されていない問題点もある。これらを改善してほしい"と要望し,使用者は准教授の研究費の額を「すずめの涙くらい」と称し,"全学的に貧しい予算でやっているが,学芸員教育課程の予算については,もう少しスムースになる形で行なっていくようにしたい"と回答しました。 また組合は"五高記念館准教授は研究成果を発表する場(雑誌)がない状態にある。きわめて少人数の組織であるから紀要を設けるかどうかは検討を要するが,准教授の専門研究の分野がある部局の雑誌に発表できるようにすることなども検討し,准教授の意向を踏まえて研究成果の発表の場を確保してほしい"と要望し,使用者は"紀要や年報の形,他部局の雑誌への掲載などを検討して準備する"と答えました。 さらに組合は"五高記念館には特定事業研究員が2名いるが,准教授の研究条件を整えるためには,学芸員資格をもったスタッフを置く必要がある"と要望し,使用者は"現時点ではスタッフの増員はとても望めない。将来的には学芸員資格をもつスタッフなど,准教授の意向も聞きながら体制を整えていきたい"と回答しました。 【論点③ 任期制の適否について】 組合は"准教授のポストには5年の任期が付いているが,任期を付けた理由は何か"尋ねましたが,それに対する使用者の回答は"「人事委員会」で決めたことなので,任期については交渉の場で個人では発言できない"というものでした。組合は"そうした回答にならざるを得ないと予測したから,冒頭で「人事委員会」の長である学長が団体交渉に出席することを要望した。それならば,組合からの要望を出すので,「人事委員会」に持ち帰り検討すること"を求めました。 組合の要望は,"そもそも五高記念館准教授の任期制は,導入の際,任期制の適否が一切審議されておらず,導入手続きに重大な問題があるものであった。また,その主要な業務は研究以外の企画・運営や学芸員教育課程・大学院教育であり,任期制に適合するポスト(「多様な人材が特に求められる職」)ではないと考える。さらに総合情報基盤センターから社会文化科学研究科への配置換えや,留学生センターの改組(「国際化推進センター」化)から窺える教育業務や学生支援を担う場合には任期制としないという本学の流れにも反している。それゆえ,准教授の再任審査の際に検討して任期を外してほしい"というものです。これに対して使用者は"学長にお伝えする。任期を外した方が良いという意見を理事と館長が聞いているので,然るべき時に伝える"と回答しました。 不見識・不誠実な人事・労務担当理事の発言 交渉の概要は以上ですが,任期制の適否についてのやり取りのなかで,人事・労務担当理事はいい加減な発言を繰り返しました。看過できないものですので,お伝えしておきます。 人事・労務担当理事は,重要な教育業務を担うポストは継続性が求められるため任期制には適合しないという組合の主張に対し,"基本的な教育を担うから任期制に合わないというが,任期制を導入した全国の大学のなかには,私の眼から見ても任期制に合わないかなと思うような場合もある。しかし、結構基本的なところであっても、多様な人材を得て、流動化したいという動きがある。基本的だから任期制にあわないというのは、一つの考え方です"と発言しました。これは,他の大学でも問題があるのだから,本学でも多少問題があっても構わないと受けとれる発言です。 また,導入に際して任期制の適否が審議されなかった問題については,"同席していないので分かりませんが,当然,何もなくてポッと出たわけではない","組合を満足させるような議論はなかったかもしれないが,意見交換して皆さん一致して決まった"などと発言しました。「人事委員会」のメンバーは審議していなかったと公式に報告しているのですから,「人事委員会」のメンバーでもなかった人事・労務担当理事の発言は,憶測によるものか,虚偽を吐いたものと言わざるを得ません。しかも,任期制導入の正式な審議の場である教育研究評議会の存在を蔑ろにしたままのものです(2006年度『赤煉瓦』№7でお伝えしたように,五高記念館准教授の任期制は,教育研究評議会の審議に基づく規則改正を経ることもなく,「人事委員会」で決定したと見なされ,公募が行なわれたからです。人事・労務担当理事の発言は,この重大な瑕疵を棚上げにしているものにほかなりません)。 さらに,五高記念館准教授の任期制について,人事・労務担当理事は"今は学長をはじめ,任期制をとってそれなりに良かったと思っている","決定について今はそんなに反省する材料はないと思う"と発言しました。准教授が着任してからわずか1年余りしか経っていません。"任期制をとってそれなりに良かったと思っている"という根拠はいったい何でしょうか。学長は本当にそのように思っているのでしょうか。組合は"学芸員教育課程の担当教員は任期無しを強く要望していたにもかかわらず,「人事委員会」がその要望を黙殺して任期制とした。関係者のなかに「良かった」と思っている人間は誰もいない"と理事の見解を正しました。 医学薬学研究部全教授への任期制導入は継続審議に 『赤煉瓦』№17(2007.11.20)でお伝えしたように,9月12日の医学薬学研究部教授会が決定した全教授への任期10年の任期制導入は,幾重にも法律に抵触するものでした。その後,2008年1月24日の教育研究評議会の審議を経た学長裁定で本学の教員の任期は上限が5年とされたこと(その理由は労働基準法との整合性が求められること)を受け,継続審議となりました(2008年2月13日開催の医学薬学研究部教授会)。継続審議になったとはいえ,医学薬学研究部では教授だけでなく准教授以下の教員についても任期制の導入が企てられています。組合は『赤煉瓦』№17で主張したように,全教授に対する任期制導入にせよ,全教員への任期制導入にせよ,それぞれの教育研究部門の専門性が任期制に適しているのかどうかを十分に検討すること,将来の組織を担う准教授以下の教員の意向を踏まえて検討することを,医学薬学研究部教授会に対して強く要望します。 テニュア・トラック制の「特任助教」10名が着任 大学院先導機構に所属するテニュア・トラック制の「特任助教」(1年以内の任期更新で計4〜5年の任期が付された特定事業教員)が,12月1日に2名,1月1日に1名,2月1日に7名(計10名)着任しました。上記の通り,医学薬学研究部全教授への任期制導入が継続審議になったために,医学・薬学系の研究領域に任期のない教授ポストが存在しないという問題点は当面回避されました。しかし,『赤煉瓦』№19(2007.12.18)で指摘した"専門を異にする分野の研究成果にどのようにして甲・乙つけるのか"=テニュア審査のあり方や基準が決まっていないことなどの問題点は,従前のままのようです。 外国人教師の後任ポストの任期制を労基法第14条適用としている問題はいまだに検討中 外国人教師の後任ポストの任期制を労働基準法第14条適用としている問題については,3月17日の団体交渉において使用者は,"2006年12月26日の政策調整会議で,現時点で「大学教員任期制法」の適用に変更することは難しいという一定の結論を得たが,現在も人事・労務担当理事のもとで検討中である"と答えました。学長が教育研究評議会で陳謝し"見直しを含めて検討する"と明言したのは2004年11月25日のことです。また自らその期限と設定した2006年10月から1年5ヶ月以上経過したにもかかわらず,依然として検討していると言います。学長の陳謝から数えて3年3ヶ月,問題の発生から4年2ヶ月も経ち,当事者の再任審査も行なわれているにもかかわらず検討中としている熊大使用者の感覚にはやはり外国人差別があると言われても仕方がないでしょう。 交渉の過程で,使用者が組合からの要求を正確に理解していないことも明らかになりました。一貫して組合の要求は,"外国人教師の後任ポストを任期制にする場合には,労基法第14条適用ではなく,「大学教員任期制法」の適用にしてほしい"というものです。問題の発生から4年2ヶ月も経過し,その間に人事・労務担当理事が替わり,総務部長・人事課長とも2名ずつ替わっているのですから,やむを得ない面があるのかもしれません。しかし,人間の処遇を扱う重大な職務なのですから,やむを得ないではけっして済まされません。本学使用者はこうした基本的業務すらキチンと行なっていないことを露呈したのです。 ともあれ,組合は"現学長の任期中に起きた問題なのであるから,学長の任期中に見直しの結論を出すこと"を要望し,使用者も了承しました。 「国際化推進センター」では任期制を導入せず 留学生センターの「国際化推進センター」への改組に際しては,任期制導入の可能性が示唆されていましたが,次のように導入しないことになりました。
熊大使用者が任期制にこだわる理由!? それにしても,なぜ熊大使用者はかくも教員の任期制の導入に固執するのでしょうか。その背景には,ひょっとすると2007年度第1回経営協議会(2007年6月21日)における評価担当理事の発言から垣間見られる使用者の姿勢があるのかもしれません。2007年度第1回経営協議会において,評価担当理事は「大学における教員の任期制の導入状況が,今後の法人評価の際の判断材料とされるのか否かについて」意見を求めたと伝えられています。この理事の姿勢は,大学人としての見識を疑わざるを得ないものです。 「大学教員任期制法」に基づく任期制は,あくまで大学の自主的判断に基づく選択的任期制であり,その法律の審議にあたって政府は"任期制導入を誘導・強制しない"ことを繰り返し強調し,それは衆議院・参議院の附帯決議にも明記されています。この性格は法人化後も何ら変わっていません。したがって,経営協議会の委員が何と言おうとも,万が一,国立大学法人評価委員会が評価にあたって任期制を導入しないことをマイナスに評価する事態があるとすれば,それは明確な法律違反にあたります。その時は,国立大学法人評価委員会と政府に断固として抗議すればよいことです。これこそが,法律の趣旨と大学としての見識を示す途であり,評価委員会や政府の眼を恐れて任期制を云々するというのは,大学自らが「大学教員任期制法」の趣旨を放棄するものと言わざるを得ません。 現学長の任期終了までに問題の解決を!! 外国人教師の後任ポストを労基法第14条適用の任期制としている問題,五高記念館准教授の任期制問題は,いずれも,現学長の体制のもとで生じた「不祥事」ともいえる事態です。組合は,学長が任期を終えるまでに問題の解決を図り,自らの職責を果たすことを強く要望します。 |